「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 「お粥作ったよー」

 彼女は清水の部屋の前で立ち止まり、コンコンとドアをノックした。返事はない。「あれ?」と彼女は言い、ドアを開けた。清水はベッドで寝ていた。表情は安らかで、気持ちよさそうだ。

 「寝てるからメモでも書いて、僕たちは帰ろう」

 僕がそう提案すると、彼女はこくりと頷き、清水の勉強机に近寄った。勝手にメモ帳を出して一枚破く。ペンも拝借した。

 『寝ているようなので帰るね!お粥はキッチンの鍋の中にあるよー。明日、学校来いよな!』
 と彼女はメモに書いて僕にペンを渡した。書け、という事だろう。

 『お粥美味しかったよ。明日学校来れたら来てね、待ってる』

 僕はメモを勉強机の上の目立つところに置いて、部屋を出た。彼女もついてくる。僕たちは極力音を立てないように清水の家を出た。

 
 「ただいま」

 僕は家に入っていつも通りに挨拶をした。手洗いうがいをしてダイニングに入る。そこには母、姉の凛花、珍しく――父がいた。

 「「「おかえり」」」

 僕は頷いて、父に尋ねた。今日はなぜこんなに早いのかと。

 「今日は現場みるだけだったからね」

 父は建築士だ。父は頑張って頑張って、ようやく一昨年に一級建築士になる事ができた。

 「そうだったんだ。よかったね」

 僕は二階に上がり、自分の部屋に向かおうとした。すると、父が僕を呼び止めた。

 「何?」

 「友達、できたらしいな。よかったな」

 とだけいうと、父は母と凛花の話に加わった。父にはこういう事が多々ある。自分の言いたい事だけ言ってその話を終了させてしまうのだ。僕は別にそれでもいいと思っているが、凛花はそうではないらしい。よくそれで父と凛花が言い合いをする事がある。
 僕は二階にある自室に向かった。少し本を読んでから勉強に取りかかる。少し疲れたなと思い、僕は着替えを済ましてベットに倒れ込んだ。あっという間に、眠りに落ちていってしまった。


 「おっはよー!涼!」

 彼女は朝から物凄く大きな声で挨拶をした。後ろには――清水がいた。昨日の様子とは程遠く、いつも通り元気そうな顔だ。

 「おはよう、二人とも。清水、体調良くなって本当に良かったね」

 「おう!」

 清水はいつも通りにニカッと笑い、それにつられて僕も少し微笑む。そこへ、別の声が入ってきた。

 「おはよ。涼」

 「あ、悠、おはよう」

 悠だった。清水が、ひどく驚いた顔をした。

 「今、百瀬の事、下の名前で・・・てか、いつの間に仲良くなって・・・!」

 「ふふん、清水、俺が先を越したよ」

 「うう~!滝沢、俺の事葵って呼んで!」

 突然清水が言い出すから、僕は当然驚いた。

 「な、なんで・・・?」

 「百瀬に先越されたのが悔しいんだよっ!」

 「葵・・・」

 とりあえず清水の名前を口にする。

 「やったぜ!涼、ありがとな」

 清水がニカッと笑い、ガッツポーズをした。僕はなにがなんだかよく分からなかったが、みんなが楽しそうなので気にしない事にした。

 「ずるい!私の事も涼花って呼んでよ!」

 彼女も僕にお願いした。

 「だから、なんで・・・?」

 「当たり前でしょ!涼に友だち認定されたも同然だし!」

 彼女は大きな声で言い、僕は彼女の望む通り、これからは彼女を涼花と呼ぶ事した。そこで担任の花坂が入ってきて、僕たちはそれぞれの席に着いた。
 今日最後の授業の時、僕はノートを全てとらずに終わってしまった。黒板を先生がさっさと消してしまったからだ。僕は彼女にノートを見せてもらおうと思い、彼女に話しかけた。

 「ちょっと涼花。ノート見せてくれない?全部はとれなかった」

 「え!?」

 突然彼女が大きな声を出したので、僕は驚いた。

 「何」

 「だって今、涼私の事涼花って呼んだでしょ!」

 彼女は少し頬を赤らめて言った。なんだ、それ。頼んだのは君じゃないか。なぜか僕も顔が赤くなるのが自分でも分かった。恥をかかされた気分。

 「いや、涼花が呼べって言ったんでしょ」

 「いや、まさか本当に呼んでくれるなんて思ってなかったからさ・・・」

 「いいから、ノート見せて」

 僕は強引に彼女のノートを奪い取った。
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