「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 今までにない、雰囲気の悪い学校での朝が始まった。清水はまだ怒っているようで素っ気ないし、桜木さんは暗くて、おしゃべりでなくなった。僕一人だけが通常運転だから、僕はいつも通りになるように気遣って話題をふった。

 「二人とも、昨日買った本は読んだ?」

 「読んだ」

 「読んだよ」

 「どこらへんまで読んだ?」

 「「最初の方」」

 いつもならここで彼女が話を広げてくれるのだが、今日は返事をするだけで済ましてしまった。僕は普段から誰かと話すという習慣が身についていなかったため、何を話せばいいのか全く分からなかった。休み時間の時には悠が心配をしてくれて、何か自分にできる事はないだろうかと訊ねてきた。気持ちはありがたかったが、第三者がつっこんできても逆にことを悪化させるような気がして断った。
 昼食をいつものようにとっている時も、僕たちは無言だった。今までの僕なら、こんな事は喜んで受け入れただろう。しかし、今はそうではない。楽しそうに笑ってしゃべる彼女と清水を見るのが好きだったし、自分もしゃべるのを楽しいと感じていたのだ。そこで無理矢理話をせずに、今目の前にある問題を解決すれば元通りに戻ると僕は考えた。

 「ねぇ、今日涼花と葵、雰囲気悪いけど、まだ昨日の事引きずってるの?お互いに気まずいだろうし、話で解決すれば?」

 すると二人は、僕に鋭い視線を投げてきた。まるで、そんな事は無理だ、というように。
 僕ははぁっと大きな溜め息をつき、白い米を口に運んだ。もちろん、諦めたわけではない。ただ、今は無理そうだから一旦保留にする事にしたのだ。
 あっという間に帰る時間になってしまった。僕は全く進歩のない二人に嫌気が差し、僕自身もイライラとしてしまっていた。それが結果的にはよい方向に転んだのだが。

 「あのさ。二人とも全く話してないけど、春休みになったら別れるんだよ?いつまでそうしてるつもり?自分で自分の首を絞めている事になるよ、それじゃ」

 僕が声を上げると、二人ははっと驚いたような顔をして僕を見た。当たり前だろう。僕がこんな風に声に苛立ちを含ませてしゃべるなんて事、滅多にないのだ。それに、今の僕の言った事は事実でもあると思う。

 「そんなんでずっといて、いざ会えなくなったら後悔するのは自分。そりゃ、会おうと思えば会えるだろう。でも、そういう雰囲気のまま会おうとか、そんなの思えるか?少なくとも僕は思えない」

 一気にまくし立てた僕を二人は間抜けな顔でぽかんと見ていた。二人の顔があまりにも間抜けで、僕は思わず盛大にふき出してしまった。爆笑する僕を、彼女と清水はしらけた顔で見る。

 「何か正論吐かれたなーとか思ってたけど・・・最後の最後で雰囲気ぶち壊すんだね」

 「確かにそうだな・・・って自分の中で考えが出てきてたのに・・・」

 「だっ、だって涼花と葵の顔が間抜けで、おもしろくて・・・!」

 僕が笑いながら言えば、彼女と清水は声をぴったりに揃えて「「はぁ~!」」と叫ぶ。それがおもしろくて僕はまた笑う。それにつられて二人も笑う。今朝との雰囲気とは全く異なり、それは本当に居心地の良いものだった。
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