「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 「…げっ」

 僕は朝から変な声を出してしまった。当たり前だろう。普通に歩いて学校に向かっていたら、アイツラと遭遇してしまったのだ。いつもは朝に会うなんて事はなかったのになぜだ。向こうは気づいていなさそうだったので、僕はそのままアイツラの横を通り過ぎようとした。ここで変に絡まれたら遅刻にだってなりうる。危険な道はできる限り避けたいものだ。
 しかし。
 ばっと長田に腕を掴まれた。僕は驚きで硬直し、そろそろと長田を見る。長田はいつものようにこちらを睨んでいた。

 「おい、お前、前に本屋で会った時にいたあいつ、どこの誰だよ」

 「え?」

 長田が、普通にしゃべった。今まではまともな会話を長田とした記憶はない。僕は今度は驚きで硬直していた。そんな僕を見て長田は、ちっと舌打ちをしてまた僕に訊ねてきた。

 「本屋で俺の拳を避けた奴だよ。どっかで見た気ぃするんだよな」

 そう言われて分かった。きっと長田の言っている人物は悠の事だろう。どこかで見た気がするというのは当たり前だろう。同じ地域に住んでいるのだから。すれ違ったりする事は稀ではないだろうから見た事がある、という事は事実だろう。しかし、見た事があるというだけで僕に悠の事を訊いてくるというのはおかしいだろう。

 「関係ないと思う、人違いじゃないですか?」

 僕がそう答えた時。

 「おーい!涼、おはようー」

 悠が走りながら僕に駆け寄ってきた。ついさっきまでニコニコ笑顔だったのに、僕のそばで立っている人物を見た瞬間に目の色を変えて長田を睨む。睨まれた張本人は悠を見ながら何やら考えているようで黙って見ていた。目つきが悪いのは変わらないが。

 「涼に何か用でも?」
 
 「こいつじゃねぇ、本当に用があるのはお前だな」

 長田の言葉に悠が眉をひそめる。普段、なかなか見ない表情だ。

 「用って何」

 「お前、昔にだいぶ荒れてた百瀬 悠だろ」

 「!?」

 僕が驚くのに対して悠は余裕の表情を見せていた。悠の名前を知らないはずの長田がなぜ知っているのか。悠は薄く笑みを浮かべていた。

 「あぁ、そうだよ。俺は百瀬 悠だ。しかし、昔の俺と今の俺は違う」

 すると長田はニヤッと笑う。僕はその場の状況についていけず、おろおろと悠と長田を見ていた。

 「それでもお前がここらで有名なくらい荒れてた事は消せねぇんだよ」

 「消さなくてもいい。俺は決めたんだ。もうあぁは絶対にならないって。それは他人からの承認なんて必要ない。大切なのは俺が今の俺に満足しているかどうかだ」

 この二人の会話を聞いている限り、どうやら悠は昔荒れていたらしい。今の悠を見ていれば、そんな事は信じ難い。しかし、悠も認めているから事実なのだろう。また、本屋で長田の素早い拳を避けるのには、相当な運動神経を持っているか、慣れた動作なのかの二択な気がする。

 そして僕ははっと気がついた。よく考えれば普段から僕と仲良くしてくれるあの三人のうち、二人は元ヤンキーではないか。そんなに身近にあるようなものなのだろうか。少なくとも、僕はそうは思わない。

 「あれ、涼こんな時間に珍しいねって…あんたらか」

 彼女は僕を見て笑顔になったものの、アイツラの姿を見てすぐに表情を曇らせた。この表情の変わり方は、ついさっき見たような気がした。
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