「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 彼女は僕を見て笑顔になったものの、アイツラの姿を見てすぐに表情を曇らせた。この表情の変わり方は、ついさっき見たような気がした。

 彼女は一度崩した表情を元に戻し、僕に笑顔を見せる。

 「涼、おはよ!」

 まるで何もなかったかのように挨拶をされた。僕は戸惑いながらも「おはよう」と挨拶を返す。

 「あ、百瀬くんもおはよ」

 「俺の事おまけみたいな感じで言うなよ…」

 悠ががっくりしたように肩を下げる。彼女はうははっと笑った。そんな僕たちの、まるっきりアイツラを無視したやり取りが癪に触ったのか、長田がイライラしたように口を開こうとした瞬間。

 「おお、涼に桜木に百瀬じゃないか!」

 大きな声がし、そちらに顔を向けると清水がいた。にこにこと笑いながらこちらに歩いてくる。

 「おはよ」

 清水はいつものようにニカッと歯を見せて笑った。アイツラには見向きもしない。

 「じゃ、こんなところで止まってないで行こうぜ」

 清水が僕たちに声をかけると、長田が声を上げた。

 「おい!話は終わってねぇんだよ!」

 「俺たち、学校あるんです。俺たちは暇じゃないから。それに話す事なんてありません」

 清水は驚きの言葉を放った後、さっさと学校の方に向かうと思えば––––

 「ちょっと、葵。そっちは学校と反対方向だよ」

 ついさっき清水が来た方に戻っていたのだ。僕はなぜか安心する。あの清水がアイツラにあんな事を言うとは思ってもいなかった。急に清水が変わってしまったのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。

 「おお、すまんすまん」

 清水は慌てて先に歩いていた彼女と悠の後を追った。そんな僕たちの姿を、アイツラは呆然としたように見つめていた。



 「え、清水。お前、本当に清水?」

 アイツラが見えなくなってから悠が真っ先に清水に訊いた。

 「本物の葵だよ。だって最後のあれは完全にいつも通りの葵じゃなかったじゃん。あんな変な事、普段はしてないじゃん。それは多分緊張してたからなんだよ」

 「そう!私思わず笑いそうになっちゃったよー!」

 清水は顔を赤くしながら「いいだろ!こっちだって頑張ったんだよ!」と叫んだ。

 「まぁ、確かにいつもの葵からは想像できなかったね。僕すごくびっくりしたもん」

 「葵くん、過去一かっこよかったよー!」

 「そ、そうか?」

 清水はもともと少し赤くなっていた顔をさらに赤くして恥ずかしそうに頭をかいた。それを見て悠がバシバシと清水の背中を叩く。

 「それにしても、怖かった…」

 清水のボソッと呟いた声は、僕以外には聞こえていなかったようだ。ある意味良かったかもしれない。他の人に聞かれていたら馬鹿にされていただろう。

 「清水、今なんか言わなかったか?」

 「え、なんも言ってなかったよ」

 「いや、なんで涼が答えるんだよ」

 「…馬鹿にされそうだから?」

 「なんか言ってたんじゃないか」

 「いいんだよ」僕は答えて清水を見た。清水は楽しそうに笑っていた。僕と目が合うと、彼はニカッといつものように笑いかけた。
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