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2章
69:龍人と異形
しおりを挟む森の中、とんでもない威力の所為で小さい広場のようになってしまったその場所に
1つの影が降り立った
それは龍人。煌めく長い銀髪を後ろで結んで垂らし。額から1本、頭の左右から2本の角が伸びている。背中からは翼。身に纏うは黒の上下に青色のロングコート。防具は全て銀色で、胸当て、籠手、グリーヴのみという軽装。周りには数多の宙に浮かぶ剣。その青い瞳は目の前の存在に向けられている
その存在は人間の姿に限りなく近いが、違う。4本ある腕、1対の翼、1対の羽、危険な尻尾、明らかに人の物ではない脚、そして頭にはそれぞれ色や形の異なる角。そんな異形な存在はその金の瞳でこの場に降り立った者を捉えていた
両者の瞳に映り合う互いの姿
そして、戦えと頭に響く何らかの意思
それは言葉ではない
されどしっかりと、その意思を伝えてくる
異形の存在はその意思のままに戦う事を
龍人は何かの意思を聞きながら、自分の意思で目の前の異形と戦う事を
選択した
今ここに龍人と異形の戦いが幕を開けた
~~~~~~
心が踊っている
いまの俺の心境を表現するならば、そう言うのが正しいと思う
人に似ていながら決定的に違うその姿。感じられる圧倒的な力強さ
その瞳から知性は確かに感じられるも弱い。その雰囲気からいつかのゴブリンキングのように長い年月をかけて技術を磨いてきたとはとても思えない
されど、感じられる強さは相当なモノだ。さっきまで戦っていたドラゴンなど、古竜など相手にならない強さだ
敵の金の瞳から向けられる視線と俺の視線がぶつかり合う
先程から胸の奥底から感じていた意思は、ここに来て更に明確なモノになっている
戦え、戦えと煩いほどに感じる何かわからない意思。けれども何故か従わなければならいけないという気持ちになるその意思を俺は捩じ伏せる
確かに今から俺は目の前の異形の存在と戦う
しかしだ、それは何かの命令や意思で行うものではない。俺が、自分の意思で戦うのだ
こちらを見たまま動かない相手を訝しみながら、頭に響く意思を無視して戦う準備を瞬時に整える
100の幻剣に思考を割いていて良い状況ではないので消す。残ったのは2本の連結剣、6本の剣、4つのチャクラム。そこへ両手に持つふた振りも飛剣で操る
そして、右手を前に突き出しアギスを顕現する
突き出した手の前に大気中の魔素が渦巻き、アギスがその姿を現わす
俺はその柄を握る。魔素の渦が消えて現れたのはギュル爺から継いだ時とは色を銀と青に変え、装飾も変化したアギス。宝具は使い手の魔力を喰らいその姿と色を変化させる。更に使い手の力量に応じて成長する
ソウマのギルティアスも白と赤だった色を金と赤へと変えている
アギスを顕現したことでその秘めたる力を感じ取った異形は発する魔力と圧力を上げるが仕掛けてこない。対話を望んでいるのか?
まあ、異形が何者で何の目的か知りたいから丁度良いが。アギスを下げ
「お前は何者だ。何の目的でこの場に現れた」
と問いを投げかけると異形はそれに片言ながら応えた
「オレハオレガワカラナイ。アタマニヒビクコエノママニココマデキテ、オマエヲミツケタ」
自分が分からない?記憶喪失か何かか?
声ってのは俺にも聞こえるあれか
俺を見つけたってことは、俺が目的ってことで良いのだろう。それをさせたいのは声だということも確定だ
それと、あのドラゴンとかとは別口だな。古竜の1体をブレスで殺していたし
「じゃあ、もう1つ。今声は何て?」
「オマエトタタカエト」
この意思の意図するところは何だ?
わからん
が、折角強いのと戦えるんだ。細かい事は後回しだ。今はこの目の前にいる異形との戦闘を楽しもうか
「問答は終わりにして戦おうか。お前も考えるより動きたいだろう?」
【碧雷】を発動させながらその内にある闘争本能を刺激するように問う
「オレノナカニアルナニカガ、コエトハベツニタタカイヲノゾンデイル」
「それはお前の闘争心だよ。お前自身が目の前にいる俺との戦いを望んでいるんだ」
「トウソウシン……」
「そうだ。お前が何者なのかは俺にも分からん。だけど今はそんな事気にするな。ただその闘争心に身を任せて俺と戦え」
そう言いながらアギスを構えて【碧雷】の出力と魔力の循環率を一気に上げる。【碧雷】の影響で暴れまわる闘争心が理性と冷静という名の皮を被る
俺の変化を感じ取り、向こうの雰囲気も変わる。その瞳にあった僅かな知性の光は弱まり、獣が姿を現した。金の瞳に黒い縦に裂けた瞳孔が開く
緊張が高まった
そこで俺はこのままではここら一帯が大変なことになると今更気づき、指を鳴らしてここら一帯の位相をズラした
転移だと相手にも触れてなきゃ出来ないからね。それに周りに配慮するならこれだけでいい
そして、俺が指を鳴らしたことで何かをしたと思ったのだろう。異形が飛びかかってきた
変な形で戦闘が始まってしまったがこればっかりは失念していた俺が悪い
飛びかかる異形の様はまさに獣。顔はいつの間にか狼のモノに変化しており、4本の腕のうち2本が蟷螂の鎌のように変化していた
技術など無い唯の突撃。しかし、それは絶対的な力と速度を持ってして技術の無さを帳消しにしていた
そんな強烈な突撃に対して、俺は飛剣で操る剣で腕が変化した鎌を受け止め異形の突撃を食い止めた
剣は俺の魔力で強化され耐久が上昇している。受け止める力は、俺は勝手に事象干渉力と呼んでいる力
である。これは魔術などを発現した時の奇跡の度合いを決めるものだと俺は推測している。これが高ければ同じ魔力量でも効果が違う。火の球を作るのを例にすれば同じ魔力で作っても大きさが違うといった具合だ
俺が受け止めた事に驚いている様子の異形。恐らくだがここまで来る間に魔物と遭遇し戦闘をしたのだろう。その時は全てが一撃で終わり、今も一撃で終わると思っていたのだろう
甘い甘い。そして、敵を前にしての硬直は隙となる
静止した異形へ向けて羽毛のように軽くなったアギスを振り下ろす
とても反応できるような速さでは無かった筈だが異形は恐ろしいほどの反応を見せてアギスを回避。だが、俺の攻撃は終わっていない
続けてアギスを振り上げ追い討ちを掛ける。体を傾けて躱した異形に左右からチャクラム、斜め右下から剣の突きが迫る
それにも異形は反応してのけ、後宙で全て躱された
異形は避けると同時に棘の生えた尻尾で攻撃してきたので体捌きで避けながら尻尾をアギスで斬り飛ばした
しかし、痛みを感じないのか、はたまた我慢しているのか苦悶の声すら漏らさず羽の弾丸と翼による鎌鼬を放ってきた
離れられると何をしてくるのか予想がつかない為距離は開けたくない。一瞬にして飛んでくる軌道を見極め、俺に当たるものだけ飛剣によるチャクラムで羽の弾丸を弾き鎌鼬を剣で斬り払う
弾幕を抜けて逆袈裟を放とうとした時、背後から斬られた尻尾がその鋭い先端を俺に突き刺さんと迫るのを、風の動き、微かな音から認識し、回転する連結剣で対処して逆袈裟を放った
これには僅かばかりの驚きを、その狼の表情に浮かべた異形。そこにアギスが迫り、回避を行うものの切っ先が体表を斬り裂いた。追撃の剣に纏わりついていた【碧雷】による電撃も加わる
反撃とばかりに4本の腕を鎌に変え、更に腕を伸ばして斬り刻まんとその鎌を振るってきた
その4方向からの攻撃に対して俺はアギスを2度振る事で防ぐ。上に上げていたアギスを左右に2本ずつある腕の左にある腕を、その下から俺に迫る腕へと弾いて当てる事で迎撃する。似たような感じで、右の下側から迫る腕を上側から迫る腕へとぶち当てて対処した。【碧雷】もしっかり当たっているが効果がある様には見えない
だがそれは時間稼ぎだったらしく、異形が口を閉じて大きく膨らませた胸部。それはブレス発射の準備
まあ、そんな易々と撃たせてやるつもりは毛頭ない。それに俺の対処が功を奏した様でまだブレスを放ってこない
なので俺は異形の後ろ側へ、異形の上半身と下半身をお別れさせながら通り抜けた。通り抜ける時に回転しながら抜ける事で、同時に反転も行う
捉えた光景はとんでもない再生力によってくっ付く上半身と下半身。そして、ギラつく金眼の眼光
ガァァァァァァァァ!
放たれるは、尋常ではない程の大きさの咆哮
音の波が衝撃となって俺へと叩きつけられる。こればかりは剣などで防御が面倒臭いので障壁を張ることで対処する
障壁の数は5枚。少ない分強度を高めたそれは見事に1枚も破壊されることなく役目を果たす
障壁を解除した先には先程とは異なる異形の姿
腕は2本に減ったが、尻尾のあった場所には10体の蛇。羽が無くなり翼だけとなっている
そして、いつの間に準備をしたのか。ブレスが10体の蛇からも合わせて放たれた
それを見た俺は瞬時に判断を下す
アギスを両手で右下に構え、アギスの重さを自身が振れる最重量にする。そして、雷を集め。左足で踏み込んだ
ブレスが発射され、迫るのをしかと目で捉えながらドンッという強烈な踏み込み音をその場に響かせて碧色の雷を纏いしアギスを気合の声と共に全力で振り上げた
「おぉおおっ!」ゴウッ!
そうして、放出された衝撃に乗った【碧雷】とブレスが激突した
目前まで迫ったブレスと斬撃波は斬撃波がみるみるブレスを引き裂いていきブレスの終わりと同時に消えてしまった
すると、異形は突っ込んでくるのではなく喋りかけてきた
「フハハハ。タタカイトハ、タノシイモノダナ!」
その顔と声音から伺えるのは戦闘狂の気質持ちだということだ
そうだ。俺は今決めた
「お前、俺に負けたら一緒に来い」
確固たる意思を見せつけて告げる
「ドウイウイミダ」
「んなもん簡単だ。俺の仲間になれってことだよ。そしたらもっと戦える。そして、お前は強くなれる」
その怪しく光る金の瞳でこちらを見据える異形
「何も知らなくてもいい。それはこれから知ればいい。だから俺とこい」
それに対する異形の答えは
「イイゾ。ダガ、ソレナラバオマエノゼンリョクヲミセロ。オレニオマエノチカラヲシメセ」
いいね。なら見せてやろうか。俺の全力を籠めた一撃を!
「なら構えろ、そして全力で防御しろ。でないと……死ぬぞ」
構えは大上段
アギスを両手で持ち
セラス・スパーダを虚無、豪炎、豪水、豪風、大地、極雷、極氷、暗黒、聖光の9つの属性で発動する
9つの属性がアギスの周囲で反発し合い、途轍もないエネルギーを生む
そこに、【碧雷】も追加する
【感雷】は感情によって効果が変わる効果だった。【碧雷】はそこから変化し、ある効果が加わった。
雷に感情という名の力を宿す
感情を宿した雷は俺の意思で姿を象っていく。その姿はジアラの様な師匠の世界での東洋の龍
龍はセラス・スパーダをも取り込み、肥大しその色を純粋な白へ。いや、白銀へと変えた
「死ぬなよ」
そう異形に言葉をかけ、俺の神をも殺す全力の一撃が放たれた
「メテオーロ・ラスタバン」
アギスが振り下ろされるのに合わせて白銀の龍が解き放たれた
グアァァァァァァァァ!
どこから声が出ているか分からないが咆哮を上げて異形に迫った
異形は俺の障壁を見ただけで真似たのか障壁を魔力に物を言わせて20枚展開し、自身は手をクロスし顔の前に掲げる。手は鱗で覆われていた
そんな防御姿勢を取った異形に白銀の龍は迫り
そして、呆気なく異形のその下半身を吹き飛ばした
白銀の龍は異形の下半身を吹き飛ばし俺のズラした位相の境界面を突き破り、天へと昇っていった
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