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2章
86:セルフィアト
しおりを挟む砕けた大天使だったものが落下していくのを見て、これで終わりだと思った。だが、落ちていく途中で光り始めたのを見て警戒を続ける
光は砕けた破片から離れ、宙に留まり形を成していく。その形は先程倒した大天使の姿。表情まで分かるくらい精巧だ
「まだだ! まだ終わっていないぞ!」
精緻に象られた端整な顔から一転してその表情を怒りに歪めて此方に向かって叫ぶ大天使
往生際の悪い奴だな。力の差は歴然だと思うんだけど、それすら分からないのだろうか。そもそもこの大天使は何の為に来たんだよ。あれで試練だったのだろうか
光でできた大天使の輝きが増し、頭上と背中に光輪が出現する。出現と共に大天使の魔力が増大したのでまた封印でも解いたのだろうか。どんだけ封印してんだか
さてまた戦闘かと思ったその瞬間俺達と大天使の間に突如として人が現れる。いや、人ではなく天使か。新たに現れた奴は俺達に背を向けているのだが
、その背中には6対の羽で髪は長めで赤色
そして何よりも重要なのが、その天使から感じ取れる雰囲気と圧力がとんでもない。師匠と同等かそれ以上の物を感じる
幸いな事に天使であり、俺達に背を向けていることから敵ではなさそうだ
「お前は何をしている」
感情の起伏が感じられない声で赤髪の天使が告げる
「セ、セルフィアト様!? 何故ここに」
「な!?」
大天使の言葉が思い掛けないものであった上に、新たに現れた天使の正体がとんでもない方だと分かり、思わず驚きの声が出てしまった
セルフィアト。その名を持つ天使は過去の文献に登場する
「俺は何をしているのか聞いたのだ」
大天使が絶句しているとセルフィアトはもう一度大天使に問いを発する
「わ、私は主の命によりこの者共に試練を……」
「そんな事は分かっている。だが、お前は私情を挟みすぎだ。あんなものは試練などとは言わん。即刻帰還しろ」
大天使の言葉をばっさりと切り捨てて、帰還とやらを命じるセルフィアト
「……、了解致しました」
納得のいかないような表情をしながらも、大天使はその場から消えた
大天使が消えたのを見届けるとセルフィアトが此方を向く。セルフィアトの顔は前髪で半分隠れているがとても整っていて、男性とも女性とも見える中性的な顔立ちだ
「急な事で驚かせてしまったかもしれないが、君達の今の実力を知っておきたかったのだ。しかし、送った使いが適任ではなかったようだ。謝罪する」
そう言って頭を下げる
「まあ、一応こういう事があるというのは聞いていたので別に大丈夫ですよ」
「俺もそんなに気にしてねぇよ。それなりに楽しかったからな」
「そうか、ありがとう」
俺とソウマの返事で顔を上げるセルフィアト。だが、なぜこの方が俺達の前に現れたのかが読めない。力を見ると言ってもここに来る必要は無いはずだ。先程の大天使への口振りから大天使との戦闘は見られていたようだし
考えても仕方ないか
「それよりも、俺は貴方の事が気になる。貴方はあの最高位天使セルフィアトなんですか?」
「ほう、よく知ってるね。それがどうしたんだい?」
「何故、貴方程の高位の方が来たんですか?」
只の気まぐれか、それとも何かあるのか
「ああ、何かあるんじゃ無いかと疑ってる訳だね」
「そういうことです」
その返答は意外だったのか少し驚いたような顔をした後にセルフィアトは話し始めた
「なに、簡単な事だよ。私は君と君の仲間達に興味があって来たんだよ」
視線を俺やソウマ、そしてフレッドやラキアへと動かしながら言う
「興味ですか?」
「そう、興味だ。君はあいつと同じ道を走ってるんだろ?」
「あいつとは誰ですか?」
「私の戦友だよ。君ならこれだけで分かるだろう?」
「ッ! 何でそれを」
彼が戦友と呼ぶ人物は唯1人。邪神を1度封印した英雄
俺の目指す場所は誰にも話していない。師匠にも、父さんにも、ソウマにも、ラキアにすら話していないのに
「分かるんだよ。私は多くの時間、彼奴の隣で共に戦った。背を預けあった。だから彼奴と同じ道を行く者だと、君を見て感じたんだよ。まあ、言ってしまえば勘だよ」
勘。それは言う者によって、価値や信頼度などがまるで違う。第六感とも言われる勘は才能によるところが大きい。しかし、才能とは別で鍛える事も出来る。その方法が多くを知り、学ぶこと。勘と言っても人は無意識に思考し、思い出して答えを導いている。その点に関しては目の前の天使ほどその能力が高い者は少ないだろう。何せ彼は何百年も前の時から今日まで生きているのだから
「だからかな」
勘だと言われ言葉を返せないでいれば、セルフィアトが言葉を続ける
「君と話がしてみたくなった。あいつと同じ道を、周りに頼れるものはなにも無い大海原を1人で行くような道を進む君とね」
悲しむような憐れむような感情と後悔をその瞳に宿しながらセルフィアトが俺を見て告げる
「君は何の為にその道を行く? 君は誰が為にその目的を果たす? 君は本当にそれを成すことができる? 君の考えを私に教えておくれ」
「それを聞いてどうするんですか?」
「君が英雄に成り得るかどうかを知りたいのだよ。君が進む道は過酷で険しくて、時に残酷な選択肢を君に突きつけて来るだろう。その時に君がそれを乗り越えられるかどうか知っておきたい」
その言い方だと
「もし、乗り越えられないと分かったら?」
「その目的は諦めてもらう」
やっぱり。あの瞳に宿る感情からそう来るんじゃないかと思ったけど
「そんな事は貴方にどうこう言われる事じゃない」
「そんな事は言われなくても分かっているよ。だけど、これはあの日、あの時に、あいつを止められなかった後悔と言う私の私情で、独りよがりなものだからね。それが嫌なら乗り越えられる事を示してくれればいい」
「示す?」
「ああ。これから君に試練を課す。私の魔法である事を体験してもらい、そこでの選択を私が見て、その選択の結果、君が目的を達する事が出来ると私が思えたなら止めはしない。むしろ応援するし、手助けもする。だが、そう思えなかったなら君はその道を進めないと思ってくれ」
「つまり練習をさせてくれるって訳ですか?」
「まあ、そう言う事だね。挑戦するかい?」
実際の所、ここで断ったら問答無用で実力行使に出て来るだろう。そうなったら恐らく俺には何も出来ない。それに、死にはしない上で何かを得られる筈だ
「俺は」
ならば
己の心を
己の強さを
この偉大な天使に示そう
「挑戦します」
「君ならそう言ってくれると思っていた」
セルフィアトは微笑を浮かべ
右手を横に振る
すると、大量の魔力がセルフィアトの右手から放出され、空間が渦を巻き始めた。渦はぐるぐると空間を歪めて広がっていき、拳大の大きさから最終的に3m程の大きさになって広がらなくなった
そして、セルフィアトが静かに告げる
「この渦の中に入れば、試練が始まる。これから君が体験するのはある男に突きつけられた選択と似たものが君に突きつけられる。私に君の選択を見せてくれ」
正直なところ、本当に自分が乗り越えられるかなど分からないし、英雄に成ろうという気持ちもない。だけど、この目的を果たす事は譲れない。まだ長く生きてきたわけではないけれど、苦しむ人々を見た、誰かが成さねば成らないと思った、自分には力があると感じた。だったら、自分がやるのだと決意した。1度決めたのだ、ならば最後までやり遂げたい
「何の話してんのかサッパリだけどよ」
今まで俺とセルフィアトのやり取りを黙って見ていたソウマが俺に声をかけてきた
「これだけは言っとく」
右手を拳にし、俺に突き出して
「負けんなよ」
きっと、何の説明も無しに話が進んでいき、思うところもあるだろう。けれども聞かず、ある程度の事を察しながらも、ただ俺のことを信じて負けるなと、そう言ってくれる
「ああ、勝ってくるよ」
同じように右手で拳を作り、ソウマの拳とぶつけ、言葉を交わす
その信頼には応えなければならない
渦に向かう
フレッドとラキア、ルルのいる場所に視線を移す。恐らくセルフィアトの事を知っていたのだろう。驚愕の表情でこちらを見るフレッド。頑張れと、そう訴えるような表情のルル。そして、信じていると、貴方なら出来ると、そう言葉は無くとも分かるラキアのいつも通りの表情
フレッド含め、皆んなには色々と話をしないとな。ルルの応援にラキアの信頼、ソウマの信頼。それらが背中を押してくれる、また1歩俺を前に踏み出させてくれる。信頼が俺の力となる
そして俺は渦は渦の中に踏み込んだ
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