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3章
113:噂
しおりを挟む朝食を食べ終え、出発したクウガ達は検問所に到着した
すると、見張りの兵士の1人がクウガ達に気づき駆け寄ってきた
「あ、クウガ君にソウマ君じゃないか! それにリンガ君も! 久しぶりだね、また修行かい? 」
クウガとソウマはアイトに連れられて何度か国外には出ており、その際に顔見知りとなった兵士だった
「お久しぶりです。今回は修行ではないんですけど聖国へ」
「そうか、聖国か。じゃあ、このままウラストフ国を抜けてくのかい?」
「そうですね。鍛錬を兼ねて自分達の足で。そうだ、サーミアに寄りたいんですけど、方角を教えてもらえますか?」
「君達のその思考には毎度驚きすぎて普通になってしまったよ。自分達の足でってことは森を抜けてくんだろう? ならサーミアはあっちだね」
そう言うと、親しげな笑顔から一転して真剣な表情に変え、クウガの耳元に顔を寄せ小さな声で情報を伝える
「最近ウラストフでは革命やら反乱が頻発していて情勢はそんなに良くないと聞いたから気をつけて」
「毎度思うんですけど何処からそんな情報仕入れてくるんです? こっちとしては有り難いんですけど」
「はははっ、会話ってのは大事なんだぜ?」
答えになっていない返答をして、腰に下げていた革の鞄から板を取り出してクウガ達に向ける
「顔見知りとはいえ、仕事だから頼むね」
「分かってますよ」
クウガから順に板に手を触れていく
この板は悪意の有無、擬態や擬装を行なっていないかを調べることのできる魔道具だ
「はい、ありがとう。問題ないから行っても大丈夫だよ。気をつけてね」
「はい、行ってきます」
兵士に見送られ、クウガ達は検問所を出発した
~~~~~~
「兵長、先程の方々はお知り合いの方だったんですか?」
先程までクウガ達の相手をしていた兵士がそう聞かれる。兵士ではなく兵長だったようだが
「あー、そうかお前は知らんのか。1人は初めて見たが後の3人は大物だぞ。《魔闘士》の弟子、それと稀代の職人」
「え!? あの《魔闘士》の!? つい先日、キルトディア王より二つ名を授かったと言う?」
「そうそう。今や世界中から注目されている人物だな。まあそれよりも、俺達が直接恩恵を受けてんのは職人の方」
「と言いますと?」
分からないといった表情で兵士が聞くと、兵長と呼ばれた男は先程クウガ達が手を触れた板の魔道具を指差す
「この魔道具や国境上を感知する魔道具なんかはあの子が創ったもんだ」
「え! じゃあ、あのエルフの彼が噂の《創造者》なんですか!?」
「ん? なんだ、噂って」
「え、噂が大好物の兵長が知らないなんて珍しいでね。素性は知れずとも次々と革新的な魔道具や魔道兵器を創り出し、国に納める天才がこの国にいるっていう噂ですよ」
「……」
やっちまったという顔になる兵長
その表情を見て察した兵士は
「あー、自分お酒でも飲んでしまったら饒舌になってしまうんですよね~。兵長どうします?」
「3回でどうだ」
「んー、もうひと声」
「4回で」
「それで! 安心して下さい、自分口は堅いんで!」
「まじで頼むぞ……」
「了解ですって! んじゃ、戻りますね~」
機嫌良さげに兵士は持ち場へ戻り
残された兵長は溜息をつくのだった
因みに4回というのは飯を奢る回数の事であり、後日とても高い料理を奢らされて更に凹む兵長であった
~~~~~~
ヒィーーーーン
大きくはなくとも、高く、響く音
その音はリンガの乗る乗り物から聞こえていた
リンガを乗せた乗り物は宙に浮き、表面が日の光を反射している。1人乗りのようで、その形状はバイクに近い。浮いて空を走るのでタイヤはないが
これはキルトの依頼によってリンガが作った魔道兵器、名をエアード。そして、リンガが乗っているのは自分専用に色々と盛り込んだものだ
「やっぱ、カッケェよなそれ~。俺にも作ってくれよ、リンガ!」
「いいけど、これより速く走れるのに使うの?」
「それとこれとは話が違うだろ~、乗ることに意味があるんだよ!」
「わ、分かったよ。じゃあ、いっそのこと兄さんとフレッドさんのも作ろうか」
「お! いいね~。それぞれ個性があるとなお良しだぞ!」
「そこら辺は任してよ。いいアイデアが浮かんでる」
「おお~」
移動中、2人がそんな会話をしている、やや後ろでクウガは難しい顔をしていた
「どうかした?」
「いや、何でもないよ。それより、フレッドはなんか嬉しそうだね」
クウガの言う通りで、フレッドの顔には柔らかい笑みが浮かんでいた
「ははは、そうだね。僕は今、嬉しいんだ」
クウガの言うことが合っていると告げる。その視線の先はワーキャー騒ぐソウマとリンガ
「こんな何気ない会話で、仲間がいるんだって、そう思えるから」
家族を殺され、天涯孤独となったフレッドが求め続け、無意識に遠ざけてきた温かさ
「あの時の学園への誘いを断らなくて良かったって、そう思うんだ」
大切な物をそっと見せるようにフレッドは語る
「そっか。でもフレッドは災難じゃないかな」
「?」
「俺達の目指す場所は遠く、道のりは険しい。当然、辛い思いや悲しい思いをする。それでもフレッドは」
「良かったって」
クウガの言葉に被せるようにして、力強く言う
「そう心から言えるよ。皆んなといると寂しくないから」
その言葉に呆気にとられたクウガは直ぐにその表情を笑みに変え
「なら、もっと強くなんなきゃな。二度と寂しくなんてならないように」
「うん!……あ、でももうちょっと速度落としてくれると嬉しいな~。なんて」
現在、物凄い速さで木々の間を疾走しているのである。フレッドの訓練と称して
「訓練を簡単にするのと優しさは別だよ」
「くっ、感情に訴えかける作戦は失敗か」
「おい、こらフレッド。心の声が漏れて……」
「しまった! って、どうかした?」
突然立ち止まったクウガ。前を見ればソウマも立ち止まり、リンガはそれを見て空中で静止していた
止まった2人の視線の先は同じ方向に向いていた
「サーミアって所はまだ着かないよね?」
「検問のお兄さんの言う通りだったらね」
「それがどうかしたの?」
クウガの疑問にリンガが答え、フレッドが聞く
「この先にかなり大勢の人の気配がある」
クウガは己の感じた事を伝える
「盗賊じゃないの?」
とリンガが推測を口にするが
「それにしちゃ数が多すぎるな」
ソウマが否定し
「じゃあ、また魔王軍?」
リンガが再度推測を口にする
「その可能性もなくはないけど、気配だけだと分かんないな。しっかり探るか」
とクウガが精密に気配を探ろうとした時、ソウマの嗅覚がある匂いを捉えた
「っ! 血の匂いだ!」
そう言うと同時にソウマとクウガが駆け出し、それを見て遅れまいとリンガとフレッドが後を追う
木々の間を駆け抜けること3分、街道を行くこと2分
見えたのは、小さめの砦。その砦を中心として、まるで避難所の様な光景が形成されていた。空気が淀み、命からがらどうにか戦場から逃げ出してきたとしか言えない姿の人も見られる
何かがあったのは明らかだった
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