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3章
112:強くなるために
しおりを挟む英雄と勇者は、似て非なる者
英雄は、自ら進む者
勇者は、請われ進む者
両者に違いはあれど、共に偉大であり、皆の尊敬や畏怖を集める
そして、その2者の根底にあるものは
強い意志、信念である
~~~~~~
その街は巨大な湖の真ん中に存在する
街の名をサーミア
3代前の領主が金を惜しげもなく投資して作った白亜の城が湖の中心にあることで、とても幻想的だと有名だった
しかし、その街は今や破壊と死が溢れた地獄と化していた
それは、人間の浅ましい業が招いたもの
そして、これを成したのは少女だった化け物
「ああああああぁぁぁぁ」
壊れたように声を上げ、暴れまわる
誰も居なくなったその街で、疲れ、眠るまで
その声に滲む感情は悲しみ、憤怒、孤独
この惨劇は起こるべくして起こった必然
ならば、クウガ達がこの惨劇に遭遇したのも必然だったのかもしれない
~~~~~~
「強くなってこい、か」
「どうした? 急に」
空の星を見上げながらポツリと溢れた独り言にソウマが反応した
「師匠が言ってた言葉だよ」
「あぁ、あれか。勝つために、だっけか」
「うん」
師匠との模擬戦を行なった日から、4日が経過している
現在の場所はアルメキア王国と隣のウラストフ国との国境近く。明日、検問を通過してウラストフ国へと入国する予定だ
メンバーは俺、ソウマ、フレッド、リンガ。それと召喚獣たち
森のひらけた場所で俺とソウマは組手を終え、地面に寝転んで夜風に当たっていた。リンガとフレッドはリンガ印のマジックハウスの中だ
「そんで、第1の目的地が聖国なんだよな。行きたくね~」
「ソウマが宗教嫌いなのは知ってるけど、衝突とか勘弁してよ?」
「……善処する」
その間はなんだよ。はぁ、不安だなー
「てか、聖国の名前聞いて、嫌すぎて何しに行くか聞いてなかったんだけど」
「そんなバカみたいな話が……バカだったね、ごめん」
ガバッ
「謝んじゃねぇよ! 悲しくなるだろうが!」
勢いよく上体を起こして、怒っているんだかそうじゃないんだか分からんソウマ
「目的は」
「無視かい!」
なにも聞こえなーい
「《未来視》に会いに行くんだよ。可能性を確かめる為に」
「未来を視る、ね。そんなことより、《未来視》って確か女の人だよな。その人が美人かどうかのが、俺には重要だぞ」
はぁー
「色ボケ頭」
「頑固者」
「ワームの餌」
「おーし、立て。殴り合いをしようじゃねぇか」
「はははっ、いいよ。敗北の感想を聞かせてもらうから」
「はっ! 言ってろ」
両者、同時に飛び出し
ドンッッ!
拳を突き合わせた
衝撃波が荒れ狂い、衝突音が辺りに響く
割と本気のど突き合い、ここに勃発
~~~~~~
ドンッッ!
あれ、今物凄い音がしたけど、また始めたのかな? 兄さんに新作の魔道具試して貰おうと思ってたんだけどな。まあ、急ぎじゃないからいいんだけど
それにしてもうるさい。遮音機能有効にしとこ……うん、うるさくなくなった
「はい。異常無し、動いてもいいですよフレッドさん」
「ありがとう」
それよりも、今はこっち
自分の創造を、想定を遥かに超えた。完成された作品が目の前にあるんだ。いや、作品と言ってしまうのはフレッドさんに失礼か
彼は紛れもなく人なのだから
「気にしないでください。フレッドさんの体の整備や点検をするだけでも、僕にとっては大幅なプラスなんですから」
「それなら、いいんだけど」
フレッドさんとは知り合ってからまだ4日だけど、兄さんの友達だけあって、良い人だ。心根の優しい人、それが僕のフレッドさんにたいする印象だ
でも、アイトさんが言うには、彼は優しすぎるのだという
その為、2日という短い期間で鬼のような指導を彼に行った。見てるだけでトラウマになりそうだった
彼の体を知る為に見学していたが、怖かった。お前もやるか? とか誘われたけど丁重にお断りした。断れた自分を褒めてあげたい
兄さんとソウマくんの時も少し見たことあるけど、2人とも楽しそうだったから気にしてなかったんだよね。気付かないようにしてたんだな~
「ねぇ、リンガ君」
「どうかしました?」
目を瞑るのが思考する時の癖になってしまっているんだよね。まあ、直す必要ない上に集中できるから直さないけど
目を開き、視界に映ったのは真剣な眼差しでこちらを見るフレッドさん。その眼には僕に対する敬意と少しの負の感情が見て取れる
その眼をされるのなら、誠意を持って接しないとね
「僕よりも年下の君に聞くのは少し情けないんだけど、君は僕よりもうんと凄い人だ。僕は強くなりたい。できるだけ、速く。だから教えて欲しい、僕はどうしたら強くなれる?」
まだ、整理が出来ていないんだろうね
当然と言えば当然の事だ。彼は今までの人生を否定されたも同然なのだから
それでも、自分が今成すべき事のために動こうとしてる。成すべき事を思いつけてないってのは少し残念だけど、彼は僕や兄さんや、ソウマさんではないいんだから。けれど、彼は数少ない僕達の隣を歩める人のはずだ
ならば、ここで少しばかりの助言をした所で変わらない……よね?
まあ、僕も兄さん達同様にこの人の事を気に入ってしまったから考えるまでもなかったんだけど
「まずは、アイトさんに言われた事をしっかりとやって下さい。あの人ほど丁寧に、かつ優しい師匠なんていませんから」
優しすぎる、過保護すぎると僕は思うんだけどね。まあ、実力に合わせてるって言わたら納得できるんだけどさ
フレッドさんが頷いたのを確認して続ける
「技を、技術を理解し、納めることが出来れば、強くなれていると思って良いと思う」
瞬きの瞬間に呼吸を合わせて瞬時に死角へ移動
「え!」
「僕にもこれくらいできるんだ」
気配は掴めていたとしても視界から逃れることが出来るというのは、気配を感じれない人からしたら、それだけで強者と言えるんじゃないかな
「それとあの武器、あれを使いこなせるようになること」
あの武器はアイトさんから聞いていた銃というものに酷似していたが、全くの別物。その真価を発揮することが出来たなら、兄さん達と並び立つのは夢じゃなくなる。十分現実で実現できる範疇になる
そして最後
「最後は、兄さんと契約を結ぶこと」
「契約?」
「そう、契約。今回の場合は誓約にもなりうるけど、有り体に言うなら契約。召喚獣が契約した主人の影響を受けて姿や属性適性に変化が起きることは知ってるよね。それと似たようなものだと考えてくれて大丈夫」
「人間同士の契約なんて聞いたことないけど」
「一般的ではないですからね。それに、人同士が契約するメリットなんて殆どないんだ。契約といっても名前だけみたいなものなんだ。普通であればね。普通の人ならステータスに表示される適性属性以外使えない。けど、フレッドさんの体は使えるように造られてる。しかも、フレッドさんは確かに人間ではあるけど、人間でもない」
「つまり?」
「兄さんと契約することで使える属性が増える」
「属性が増えるってことは、単純に使える手札が増える。使える手札が増えれば、やれることも増える」
「そういうこと。後はフレッドさんの行動と頑張りしだいだね」
「ありがとう」
僕から視線を外し、握り締めた拳を見つめるフレッドさん
兄さんが連れてきたあなたは、どこか兄さんに似てる。けど、兄さんと違ってあなたの心は、紛れもなく弱い人間だ。そんな人があの人達の横に立つなら並大抵の覚悟じゃ足りないよ
「僕は、恵まれすぎてる」
「!」
「僕には不釣り合いなくらい優秀な友人、降って湧いたように得てしまった強大な力、最高峰からの教え、自分で考えなくちゃならないようなことまで教えてもらってる。少し不安になるんだ。力を得て、期待されて、任されて。僕に本当に出来るのかって……。でもさ、クウガが言ってたんだ。力ある者には義務と責任が付き纏うんだって。それは、力を得た者も同じなんじゃないか、そう思うんだ。それに、何よりも僕には守りたいものがあるから。だから頑張るよ」
力を得てもなお変わらない、その心は弱くなんてなかった。この人は弱くても強い人だった。それに、応援したくなる
武器はある。防具と魔道具を、この人のために創ろう
それが僕にできる最大限の応援の形だから
「うん、頑張ってね。そろそろ寝よっか、フレッドさんの部屋は階段を上がった後、左に曲がって1つ目の部屋です」
「分かった」
『リンガ寝るのかー? 一緒に寝よ~』
丸まってたルルが駆け寄ってきた
「ルルと寝るのも久しぶりだね。じゃあ、行こっか。フレッドさんお休みなさい」
「うん、お休み」
翌朝
「それで? 今までずっとやってたの? 夜通し?」
「うん」「おう」
「はぁ~。たまに思うんだけど、兄さん達って時々物凄い馬鹿なことやるよね」
「「いや~、返す言葉もないね」」
僕の目の前には、土やら何やらで汚れた2人がいい笑顔で、堂々と立っていた。尊敬できる人達なんだけど、よく分かんないときがあるんだよね
これが、馬鹿と天才は紙一重ってやつなんだろうか
「取り敢えずお風呂入ってきなよ。ラギアさんの朝食準備終わるまでに」
「ははは、ぱぱっと入ってくるよ。あ、今日は何処まで行けそう?」
後で話そうと思ってたけど今言っちゃおうか
「それなんだけど、ちょっと目的地に向かう道から逸れて、ある都市に寄ってほしいんだ」
「なんか珍しい素材でもあるのか?」
「ソウマくんの言う通り。フレッドさんの装備を創るのに必要な素材が採れるんだ」
「分かった、そこに行こうか。その都市の名前は?」
「湖の都、サーミア」
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