Heroic〜龍の力を宿す者〜

Ruto

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2章

111:2つ名

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着地を決め、いつの間にか止めていた呼吸を再開する

見下ろした拳には未だ殴った感触が残っていた

初めて、模擬戦で師匠に一撃を与えた

その事実を頭が少しの思考時間を要して理解した時

「そこまで!」

キルトさんにより、模擬戦の終わりが告げられ

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」

観ていた人たちの怒号のような歓声が辺りに轟いた

「すげー!」

「マジかよ! なんなんだよ!」 

「何やってんのか全然見えなかったぞ!」

「強すぎだろ……」

「あれが、子供? 冗談だろ?」

師匠との戦いにのみ集中していて全然気付か無かったが、人が物凄く増えている

兵士さんや騎士さん達だけで無く、冒険者の人までいる。絶対にキルトさんの仕業だよね、これ

トンッ

軽い着地音を立てながらソウマが跳んできた

そして、グッと右拳を突き出してきたので、それに俺の右拳を打ち合わせる

「やったな!」

「ああ」

相好を崩して、我が事のように喜んでくれるソウマ

「ま、先を越されたのは悔しいけどな。けど、すぐに俺も父さんに1発決めてやるぜ!」

「そう簡単にはやらせねぇよ」

「父さん!」 「師匠!」

結構な力を込めた一撃だったんだけど、何事もなかったかのように此方に師匠は歩いてきた

「ったく、ちょっと見なかった間にアホみてぇに強くなりやがって。驚き7割、喜び3割だぞ」

「なんだよ、その微妙な割合」

「あ? そこは適当だ、気にすんじゃねぇよ」

そう言って笑いながら、ソウマの頭をわしゃわしゃする

「それよりも、まだやる事が残ってる」

師匠はキルトさんの方を向く

それは、認められたことの証でもあった

「はい!」 「おう!」

2人でキルトさん、いや、王の元へ

それまで、歓声を上げ、騒いでいた人々は俺達が動き出したのを見て、注目し

俺達の真剣な表情を見て、静かになる

王から少し離れた場所で止まり、跪く

今から行われるのは儀式とも言えるもの

物語の転換点と言えるかもしれない

王が静かに口を開く

「面を上げよ」

素のキルトさんではない、玉座に座す時のキルトさん。その圧は師匠にも引けを取らない

「皆の者よ、汝らはその目で見た筈だ、銀の少年の強さを、英雄に成り得る可能性を、頂に手を掛ける、その才を! ここ王都に暮らすものならば、覚えている筈だ、金の少年の勇姿を! 彼等は、かの最強に鍛えられた、まごう事無き強者だ! 」

力強い、ここにいる全てのものへと届く声

合わせて行われる身振り手振り

これが、世に謳われる《最優の王》キルトディア・アルメキアの王としての姿

「我はこの者達の強さを認め、対等の者として、彼等に2つ名を贈ろう。クウガ、ソウマ、立つがいい」

言われ、立ち上がる

ここで重要なのは対等であるという事。それこそがこの儀式じみたものの目的

「お主達が征く道は修羅道が如く。けれども、その中でさえ、お前達は一際光り輝く、銀の閃光、金の雷光だ。そして、その輝きは皆の希望となるだろう! 名を《銀閃の修羅》《金雷の修羅》」

王は、高らかにその名を告げた

「《銀閃の修羅》……」

その名を反芻する

すると王は振り返り、更に言葉を発する

「そして、先の戦いをその目で見た人々よ。語れ、広めるのだ。強さと名を。2人の英傑の話を!」

「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」

これは俺達が世界に名を轟かせる、その始まりにすぎない




~~~~~~




こいつらは、いつも俺の期待や思いを上回ってくる

その度に俺は驚愕し、誇らしい気持ちが湧いてくる

俺の息子は、弟子は、こんなにもすげぇ奴らなんだって、自慢したい衝動に駆られる

あの時に本当に良かったと今なら心から思える

それに、俺の親としての師としての役目は果たした。こいつらはもう、俺が守ってやんなきゃいけないほど弱くは無くなったんだ

あとほんの少しで俺と肩を並べる場所に来てる。そしてこいつらはあっという間に俺を追い抜いていくんだろうな

寂しさとかよりも驚愕で胸の内はいっぱいだよ


背中は押した

あとはこいつらが自分達自身で果たすこと

俺に残されたのは、こいつらの為に時間を出来るだけ多く作ること。ま、時間に関して俺の右に出る奴は存在しねぇんだ。やれるさ

お前達はこの星に納まっているような器じゃねぇ

星を飛び出し、世界を飛び回るくらいの器だ

こんな一個の星の危機なんてとっとと救っちまえ

お前らは、この俺の自慢の弟子なんだからな




~~~~~~




その名は瞬く間に広まった

国に、島に、敵に、大陸中に知られることとなったのだ

《最優の王》が治める国にとんでもない2人が現れたと

ある酒場では

「おい、聞いたか? 《最優の王》のとこの話」

「またあの人が凄い事を始めたのか? 俺の情報網には引っかかってないが」

「いや、あの王様本人の事じゃねえんだよ」

「ん? じゃあ、なんなんだよ」

「あの王様が2つ名を与えたらしいんだよ」

「は!? それマジかよ!?」

「マジだマジ、大マジだよ。それなりに信頼できる情報筋からのだしな」

「その2人ってのはどこの誰なんだよ。《最優の王》、いや、《龍騎士王》キルトディア・アルメキアに2つ名を与えられたってのは!」

「お、落ち着けって。お前が《龍騎士王》に憧れてんのは分かってるから、周りが見てるって」

「す、すまん。で、誰なんだよ」

「実はな、あの《魔闘士》の息子と弟子らしいんだよ」

「はあ!? あの《最強》の!? てか、弟子いたのか!? 」

「気持ちは分かるが落ち着いてくれ。あの《最強》で間違いないし、弟子だっていうのも本当なんだと」

「それはまた、とんでもねぇことだな」

「そうだな。《最強》と言われるほどの男が育てたんだ、恐ろしい程の才覚を持っているんだろうな」

「そんで、そいつらの名前は?」

「《銀閃の修羅》クウガ、《金雷の修羅》ソウマ・コウヅキ」


ある一室では

「報告します。例の少年達が大々的に名を広め始めました」

「そうか、遂に動くか」

「いかがされますか?」

「静観する。十中八九あの頭の悪いお仲間が仕掛けるだろう。我等は準備の方に専念する」

「了解しました」


ある玉座では

「そうか。舐めているのだな、この俺を。この屈辱殺すだけでは晴れんぞ!」


ある島では

「銀髪の竜人?」

「しかも3本の角持ちだそうだ」

「そうか。それは、是非一度会っておかねばな」


ある教会では

「闇の中を照らす光が、強さを増してきています」

「ついに!」

「ええ、闇を払い、全てを照らす希望の光。英雄の誕生は直ぐそこです」


世界という名の海はその新たに生まれた波に感化され、少しずつ、揺れを拡げていく

そして

とある森から1人の男が

「久方ぶりに街へ行くかね」


とある研究所から1人の女が

「絶対に許しはしない」



決戦の時は近づいている


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