Heroic〜龍の力を宿す者〜

Ruto

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3章

115:2人の少女

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早く、彼女の下に行かないと

俺の意思に反して体は思うように動かないし、意識が鮮明にならない

ああ、この感じは夢だ。何処かで見たことのあるような景色。サーミアだ、それも防壁の上からの景色

「暇だ~。カント小遣いくれなかったし」

これは……彼女達、メイアとメイサと初めて会った時の……

彼女達との出会いは1年前

あの日はカントの用事が済むまでの間、暇を持て余し、街の中を散策していた

とある事情でこの街にやってきたのは7年くらい前。普段は街の中にいないものの、それなりの頻度でそれなりの時間をこの街で過ごしてきた俺は知らない場所なんてなかった。面白味はないけど、この綺麗な街を散策することが俺は好きだった

その日は、防壁の上から街と湖を視界に収めながら歩いていた。街の喧騒と湖の静けさの対比がなんとも言えない感じだった

「~~♪~♪~~~♪」

そんな時、微かに歌が聞こえてきたんだ。言葉のない旋律だけのもの。その旋律はどこか懐かしくて、気になった

歌は湖の方から聞こえてきていた。けれど、下を見ても誰もいなかった。でも確かに歌は湖の方から聞こえてくる。元々、暇していた俺は暇潰しを兼ねて確かめに行くことにした

本当は上っちゃいけない防壁の上に来る為の出入り口。俺が見つけたのは非常用かなんかの奴で今までバレたことはない。防壁上の通路の一部を開くと細い大人1人が通れるような大きさの空洞があり、そこは梯子で行ったり来たりが出来るようになっている。入口の部分を閉じるのを忘れずに素早く降りていく

下に着いた俺は門に向かった。防壁の外に出るには門に行くしかないからだ。門の兵士さんに軽く挨拶して外へ。門の外は直ぐに橋なのだが、防壁と湖の間には1mくらいの地面がある。地面といっても正確には土ではない。鉄みたいな鉱石みたいなものだ

俺は橋からそこに移動し、そこを進んでさっき歌が聞こえた辺りに向かった

すると

「~~~♪~~~~♪~~♪」

やっぱり聞こえてきた。それもさっきよりもより聞こえるようになっていた。というか、2人で歌ってたのか。目を瞑り、耳をすます

その歌は自分よりも下から聞こえていた。つまり……

俺は目を開けて、もっとよく歌が聞こえてきたところまで移動し、地面に四つん這いになって湖の方を覗き込む。地面と湖面の距離は2mくらいある。覗き込むようにして見つけたのは鉄格子だった

鉄格子の隙間から見えたのは、光の届かぬ暗い部屋で2人寄り添い歌う女の子。2人とも同じ白の髪色で姉妹なのかと思った

その消えてしまいそうな気配に、声を掛けなくちゃいけないと思った。深く考えるよりも先に言葉を発していた

「綺麗だ……」

いや、確かにその雰囲気やら容姿やらなんやらいろんな要素が合わさって綺麗だと思ったのは確かなんだが、口に出すなよ、あの時の俺

「誰?」

元気のない弱々しい声だった

初っ端から変な事を口走ってしまった俺は少し落ち着かない感じで答える

「えっと、カミナ。お、お前達は?」

俺の返しに片方は怯えた様子で顔を逸らし、もう片方の子が答えてくれた

「私は、メイア。こっちは妹のメイサ」

これが彼女達との出会いだった

女の子となんて喋った事なくて、少し気恥ずかしかった。けれどどうしても気になって話をした

彼女達は危ない病気を治すためにここにいるのだと、両親とは暫く会えていない、いつ治るかも分からない、治るまでここを出る事を出来ないと

そんな事を聞いた

彼女達は外の事を殆ど知らなかった。美味しい食べ物も、美しい景色も、怖い魔物も、かっこいい英雄も、何もかも知らなかった

怯えた様子だったメイサは目が見えなかった

俺の事も話した

すると、怯えた様子だったメイサは一転して話をせがむようになった

俺は請われるがままに話し、2人はお礼に歌を歌ってくれた。聞いたことがあるように感じた歌は、昔母さんが歌ってくれていたものだった

その日だけじゃ話しきれなくて、度々俺はそこに行くようになった。いつからか2人と話をするのが楽しみになっていった

いつか、病気が治ったら一緒に遊ぼうと何度も約束した。彼女達の病気を治そうとしている先生とやらの話を信じて

でも、それはまやかしだったんだ。彼女達を騙し、閉じ込めておくための





~~~~~~





「なあ、フレッド。魔物いなくね?」

「うん。僕のスキルの方にも魔物の反応はないよ」

場所は湖の近くの林

ソウマとフレッドはそこから魔物を探していた

「もう移動したのか?」

「でも、街の外、周囲3kmにはいないよ」

「ああ、来る途中もそれらしい気配はなかったしな」

ソウマが難しい顔をして考え出す

すると、フレッドのスキルに反応があった

「ソウマ」

「いたか?」

「魔物じゃないんだけど、人の反応が4つ」

「逃げ遅れたのか? 取り敢えず向かうぞ」

「分かった」

迅速に行動を開始する

「逃げ遅れが1人に3人組は冒険者か?」

街に近づいたことにより、気配をより正確に把握したソウマが考えを口に出す

フレッドはそれに頷きを返し

「多分。3人は街の外からで、それなりの速さで移動してるから一般人ではないと思う。逃げ遅れの人に一直線で向かってる」

情報を得るという点においてフレッドはソウマやクウガよりも適任だ。なぜなら、フレッドの持つスキル【探知】と【地図】によるところが大きい。これらはそこそこ珍しいスキルで、単体でもそれなりの効果を望める。さらに2つ合わさると絶大な効果を発揮するようになるものだ

2人は橋を渡りきり、門を抜け街へと入る

サーミアの街は円形をしており、門は2つ。門と門が街の中心を通る大きな道で繋がっている

街は酷く荒れていた。建物は崩れ、通路には破壊の跡が刻まれている

ソウマ達の反対側から3人が。逃げ遅れだと思われる1人がそちらの近くに

ここにきて、ソウマはいやな気配を感じとる。同時に己の感性に何かが引っかかった。うなじ辺りがチリッとざわめいたのだ。そして、その気付きは1人の少女をその目に捉えた瞬間、確信へと変わった

見えたのは憎悪の炎

ソウマはをする白髪の少女の背後に黒く燃ゆる炎を幻視した

「罠だ! 急ぐぞ!」

「ソウマ!?」

ソウマはスピードを上げフレッドを置き去りにする

だが、間に合わない

既に3人組は少女の目の前に

3人組は身形から冒険者であると判断できた。恐らく、何らかの依頼で街におらず、たった今帰還してきたのだろう。全員20代前半くらいで、若い

このままでは間に合わないと判断したソウマは先手を打つことにした

漏れ出る殺気によって、少女が攻撃するのは確信していたソウマだが、その攻撃方法の判断がつかなかった

そのため、ソウマが取った行動は

冒険者3人の前に魔力障壁を展開するのではなく

少女を魔法で攻撃するのでもなく

冒険者3人を風魔法で吹き飛ばすという選択をした

「ははっ、あっぶねぇ。障壁ならあの人達死んでたな」

ソウマの口から乾いた笑いが溢れる

それは、少女の異様を目にしたから。普通の少女の腕が黒く禍々しい巨腕に変化していた。黒い霧のようなものが纏わり付いており、禍々しさをよりいっそう引き立たせている。さらには、その腕は人のものというよりも、その凶悪な爪から獣のものに近い

その腕が放つ威圧感は咄嗟の障壁で防ぐことが厳しかったであろうと思わせるのに十分だった

冒険者達はソウマの思惑通り、吹き飛ばされて攻撃を食らうことはなかった。しかし、流石は冒険者。突然吹き飛ばされはしたもののしっかりと着地し、直ぐにでも動ける状態だ

少女はほんの数秒動きを止めた。それは事象の整理。そして、少女は化物へ。変化は先程の腕と同じ様に少女の身に纏うものが少女を蝕み覆うように

その容貌に少女の面影は一切なく、その表情は憎悪に染まっていた

化物は振り向き、邪魔者を視界に捉え

先程、攻撃を仕掛けた冒険者には目もくれず、地面を蹴り砕く程のパワーを持ってソウマに肉薄し、巨腕に備わる凶悪な爪で連続の斬撃を繰り出した

その威力は街の荒れようから分かる通り凶悪なものだった。腕が振るわれれば爪の数と同じだけの斬撃が飛び、突風を生む

そんな攻撃をソウマは避ける。掠ることなく全てを躱す

「人化か? いや、それにしては不自然すぎる。そういうスキルか? それとも魔法? にしては変化の仕方が特徴的だったような。魔道具の暴走か?」

独り言を言えるほどの余裕まであるようだ

対する化物からしたら面白くない。不愉快ですらあるだろう。憎悪が募る

一方で、冒険者達はその様子を見て呆然としていた

化物が変化しながら振り向いたところで自分達が助けられたことに気づいた。化物が飛び出したことで助けてくれた人が危険に陥ってしまったと罪悪感が押し寄せ。だが、実際は危なげなく立ち回っている余裕すら感じられる。しかも自分達を助けてくれたのは年下に見える

頭の中がこんがらがって何をしたらいいのか分からなくなっていた

「こっちです!」

そんな彼等を助ける横道からの声が

ソウマに置いてかれたフレッドである

「早く!」

その強い声に引っ張られるようにして冒険者達はフレッドの元へ

「この街の冒険者の人ですよね?」

「ああ」

1人が代表してフレッドの問いに答える

「街の人は既に避難しているので今からそこに案内するので付いてきてください」

「彼は大丈夫なのか?」

良い人なのだろう。ソウマを置いて行くことに不安を覚えているようだ

「ええ、強いんでだい」

そんな男性冒険者に安心させる為に話し始めたフレッドを遮るようにして、建物の壁を突き破って何かが飛んできた

「速くなりやがった。わりぃけどフレッド、さっさとクウガ連れてきてくれ」

「分かったけど、大丈夫なんだよね?」

ソウマの強さを知っているフレッドも少し心配になってしまったようだ

「はっ! 俺を誰だと思ってやがる。ちょっっとばかし想定を超えられただけだ。やられてねぇし、油断もしてねぇ」

そう言って槍を取り出し化物の方へと行ってしまった

「行きましょう」

「お、おう」

ソウマを直接見て説明はいらなくなったようだ。冒険者達は大人しくフレッドに続いて移動を開始した





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