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2章 陰陽騒乱編

16 新婚生活⁈

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「ひ、姫華様。今何と……」

 思わず聞き返す神職に、姫華は強気で返す。

「聞こえなかったの?婚約者よ。ね、ダーリン♡」

「お、おい」

 姫華が腕を絡めて急に密着してくる。腕に柔らかい感触が当たっているが、琥太郎は必死で平常心を自らに言い聞かせる。

「ささ、ダーリン、早くお部屋に行きましょう」
と言うと、姫華は琥太郎を半ば引きずるようにしてエレベーターに乗り込んだ。

「あ、今日はダーリンはお泊まりしてくから、みんなよろしく~」

 絶句する神職達を置いて、二人はエレベーターに乗り込む。

「良いのか?あんなこと言って」

「色々説明するの面倒でしょ。あいつら過保護だし。こうしておけばあんたも土御門家のVIP待遇よ」

 最上階である44階に到着すると、そこには全面ガラス張りの絶景が広がっていた。新宿全体を見渡せるようになっている。白やグレーを基調とした、おしゃれな家具が揃っていた。

「すげえ。土御門家ってのは随分信者から搾り取ってるのか?」

「そんな言い方やめなさいよ。お布施よ、あくまでもお気持ち」

「もっと和室って感じなのかと思ったが、畳とかないんだな」

「当たり前でしょ、ビルの一室なんだから」

「で、護衛って何してれば良いんだ?」

「とりあえずまったりしていてくれて良いわよ。その辺のソファにでも座ってくつろいでて」

「了解」

 ソファに腰掛けると、とても柔らかく座り心地が良い。フワッと花のような良い香りがする。よく考えたら、女子の部屋に入るのは初めてなことに琥太郎は気づき、気まずく感じてしまう。とりあえず愛刀の安綱を取り出し、手入れをすることにした。

「凄いわね、どこから刀と手入れ道具を取り出したの?」

 懐紙を咥えようとした琥太郎は、準備の手を一旦止めて答える。

「安綱はこう見えて生き物だからな。お前の式神と同じような原理さ。来て欲しいと言えば来てくれるし、ちゃんと道具だって持ってくるぜ」

「護符とか使わないでも、空間からいきなり出てくるみたいなことができるのね」

「妖刀だからな。一種の呪いみたいなところはあるよ。いきなり背後霊とかが現れるのと感覚は近いかな」

「普通の人がそんな刀使ったら、呑み込まれてしまうんでしょうね」

「俺と安綱は仲良しだからな」

「ごめんごめん、邪魔したわね。私は料理の支度をするわ」

「ありがとうな」

 制服の上からエプロンを着た姫華はとても可愛らしい。ちょっと恥ずかしくなり琥太郎は目を逸らすと、刀の手入れに集中した。手入れ中は口を開くことすら許されない。唾液が刀の錆になるのを防ぐため、懐紙を咥える。その辺りのことは姫華も心得ていて、料理に集中し始めた。心地よい静寂が部屋を満たす。部屋には刀を手入れする音と料理の音のみが響いていた。
「なんだか新婚生活みたいね」
と姫華は琥太郎に聞こえない程度の声で呟いた。

「それで、できた料理がこれってわけか」

「見た目はこんなだけど、きっと美味しいわよ!」

「作ってくれたことはとてもありがたいんだが……」

「ちょっと焦げちゃっただけよ!」

「ちょっとと言うか、こりゃ炭だな」

「おかしい、レシピ通りに作ったはずなのに」

 テーブルには真っ黒になった炭の塊が皿に乗っている。どうやら柚と違って姫華は料理が苦手らしい。

「これ、元々何だったんだ?」

「パエリアだったはず」

「そんな店で食うようなもん、無理して作ろうとするからだろー」

「だって、料理できるところも見せたかったし」

 涙目でそう言われると、少しかわいそうになってくる。

「仕方ねえなあ、ちょっと台所見せてみろよ」

 台所には、一通り調理器具や食料は揃っているようだ。

「神職が色々揃えてくれてるから」

「言っとくけど俺もそんなに料理できる方ではないからな」

 琥太郎はとりあえず鍋にお湯を沸かし、味噌を溶いて余っていたパエリアの具材の海鮮達を入れていく。

「なかなか手際が良いわね」

「山で修行してる時に師匠といつも食べてたからな。そろそろできるぞ。パエリアの具材が余ってたお陰で、無駄に豪華な海鮮味噌汁だな」

「味噌汁というか、もはや鍋料理ね」

「ご飯も余ってるか?」

「ええ、多少」

 琥太郎はご飯と海鮮味噌汁を盛り付けてテーブルに並べる。

「とりあえず、これで姫華の分は出来上がりだ」

「琥太郎はどうするの?」

「せっかく姫華が作ってくれたんだろ。それを食べるよ」

 一緒にテーブルを囲み、二人は食事を始めた。

「おいしいわ。この味噌汁」

「良い具材のおかげで、出汁が出てるだろ」

「ええ。温かくて、なんだか懐かしい味」

「俺にとっては、師匠と過ごした思い出の味だからな。姫華もいきなりパエリアなんて作らずに、まずは簡単なものから作ってみろよ」

「私は土御門家宗家の天才よ。基本からなんて、そんなまどろっこしいことやってられないわ」

「だからこんなに焦げるんだよ」

「それは余計よ」

「でも確かに、意外と味は悪くないぜ」

 二人は顔を見合わせて笑った。なんだかんだ言って失敗した料理を食べてくれる琥太郎の優しさと、懐かしい味噌汁の味が心に染みる。姫華は、誰かと食卓を囲むのが久しぶりであることをふと思い出した。













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