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最終章 太極天命編

33 明かされる真実

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 「兄さんがいる場所はわかるわ」
と八咫烏に乗った姫華が言う。

「貴船神社に間違いないわ。京には土御門家の結界が貼られていて、基本的に絶縁された兄さんは入ることができない。ただし、貴船神社は別よ」

「なるほど、龍神か」
と賀茂が頷く。

「どういうことニャ?」
と美乃梨が首を傾げて尋ねた。

「貴船神社は古くから、龍神が御神体として祀られている。水の神である龍神は、最高位であり、かつ善悪の区別がない。水ってのは、時には人の喉の渇きを癒すが、時には災害の脅威にもなるだろ?いわゆる、善にも悪にも利用できる圧倒的な霊力が眠る場所なんだ」
と賀茂が解説する。

「兄さんは、当代最強の陰陽師よ。土御門家の結界により基本的には京の霊力は行使できないけど、貴船神社の龍神は誰にでも力を分け与える特性があるから、そこから力を得ているなら貴船神社だけは立ち入れるはず。きっと龍神も圧倒的な力を持つ兄さんを気に入って、力を貸すでしょうね」

「なるほど、龍神の力を行使できる貴船神社を決戦の地に選ぶのは必然だね」
とメルも頷いた。

「見えて来た!鞍馬山だ!」
と賀茂が指を刺す。

「案の定。貴船神社全体に結界が貼られてるわ。この霊力、まさに兄さんのものよ」
と姫華が言う。

「既に貴船神社自体が彼岸に繋がってる状態だな。妖力がない人たちには普通に見えてるんだろうが、俺たちは階層が違う世界を見てる」
と賀茂が言った。

「お兄ちゃん、大丈夫ニャ?」
と美乃梨は心配そうに言う。琥太郎は目を瞑り集中力を高めた状態のまま、静かに頷いた。

「さあ、ついたわ!」
 一行が降り立ったのは、灯籠が立ち並ぶ参道石段の前だった。すると、本堂の方から七鬼衆の大天狗が降りて来た。

「これより先は、坂田琥太郎一人で来てもらおう。そうせぬばあいは佐倉柚の命はないと思え」
と威丈高に言う。

「仕方ないわね」
と姫華はため息をついた。

「琥太郎、お願い。どうか自分の命だけは大事にして」

「信じてるぜ、相棒」
と姫華と賀茂が声をかける。

「ああ。必ず戻る」
とだけ静かに言うと、琥太郎は大天狗に案内され石段を登って行った。噛み締めるように一段一段石段を登った先には、気を失った状態の柚を抱えた土御門翠流が待っていた。長髪の着物姿は、まるで時代劇から抜け出して来たかのような出立ちだ。

「佐倉柚は無事だ。まずは人質を返そう」
と翠流は言う。

「そ、そんな!人質がいた方が何かと便利ですぞ、翠流様!」
と大天狗が慌てた様子で言う。

「うるさい、俺に指図するな」
と翠流が大天狗を睨みつけた瞬間、日月護身の剣が一閃し、気づけば大天狗の首は地に転がっていた。すぐに翠流は刀を鞘に戻す。

「邪魔が入ったな。」
と言うと、翠流はそのまま本堂に柚をそっと寝かせた。

「坂田琥太郎、この闘いで俺かお前、もしくは両者が死ぬことになる。その前に、一つ話しておきたいことがあるのだ」
と翠流は言った。

「お前と話すことなどない」
とすぐに刀を抜こうと手をかける琥太郎を翠流は制する。

「そんなに慌てるな。お前がもし俺の話を聞かずに刀を抜けば、佐倉柚の首は飛ぶことになるぞ」

 その言葉を聞き、琥太郎は翠流を睨みつけたまま刀の柄から手を離した。

「力や権力を失った土御門家は、かつての力を取り戻そうと最強の後継者を求めた。しかし、生まれたのは女。そこで、姫華の兄として必要とされたのが俺だ」
と翠流は話し始めた。
「姫華にはもともと兄がいなかった。そこで、これ以上の没落を恐れ再起を狙う土御門家は、最新科学と陰陽道を組み合わせて生き残る芦屋家を頼った。芦屋家は最新技術を用いて、ある人間のクローンを作り出し、薬剤により無理やり成長させた。俺は、本来土御門家にいるはずのなかった跡取りなんだよ。そして、土御門家による洗脳教育の結果、俺は怒りと憎しみ以外の感情を忘れ、望まれた通り最強の陰陽師となることに成功した。土御門の術をすべて会得し、その霊力はかつてないレベルに到達した。そんな俺がまずやったことはなんだと思う?俺を産んだやつらの抹殺だよ」
と苦々しげに翠流は言う。

「俺は、土御門家と賀茂家のやつらを抹殺した。奴らは俺のことをコントロールできると思ったようだが、俺の力はその時既に暴走を始めていた。破壊衝動に駆られた俺は、身近な陰陽師から殺し始めた。そんな俺の力の元に集まったのが、七鬼衆だ。俺の霊力に呼応し、やつらは俺の式神になった」

「そして父さんと母さんを殺したわけだな」

「俺がどんなに脅し、殺しても、命乞いする奴らから俺が誰のクローンなのかという情報が出てこなかった。俺は、坂田家の長、坂田将太郎、お前の父親が俺のオリジナルではないのかと疑ったわけだ」

「だが、違ったのか」

「俺はお前の両親を殺した。だが、結局証拠となるものは出てこなかった。その頃、俺の人生の目的はただ一つになっていた。オリジナルを探し出し、殺すことだ。そして、遂に見つけた。坂田家の父と土御門家の母を持つ最強の血統者。俺のオリジナルはお前、坂田琥太郎だ」











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