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初恋旅行に出かけます 関連
兄妹 3(本編読了後にどうぞ)
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「Hello?」
隼人くんのスマホが鳴ったと思ったら、急に英語で話しはじめた。
ということは、多分義兄からの電話だろう。
「お父さん英語?」
「うん、そうね」
「政人おじちゃんかなー」
「多分ね」
それにしても電話なんて珍しい。近々何かあったっけ、と思いながら、隼人くんの様子を見る。
「え? ああ……うん? そう、よかったね。うん……」
あ、今日は日本語で話してるみたい。
しばらく相づちを打っていた隼人くんは、困惑したような顔で私を見ている。
「……兄さん。香子ちゃんと変わろうか?」
私はびっくりして目をまたたかせた。政人さんと電話で話すなんて、結婚前ぶりじゃないかしら。
「だって、そういうことでしょ。……俺じゃわかんないよ。ちょっと待って」
隼人くんはあきれたようなため息をつきながら、スマホを私に差し出す。私がそれを受け取りながら説明を求める視線を送ると、隼人くんが苦笑した。
「とりあえず、話聞いてあげて」
「はあ……」
頷きながら耳にスマホを当てると、
『……ええと……もしもし? 香子ちゃん?』
政人さんが大変話しづらそうに口を開いた。
兄弟揃っていい声だこと。
つい、今日もイケメンですねとでも言いそうになり、口を閉ざす。
「どうかしました?」
子どもたちに問いかけるように穏やかに聞いてみた。
政人さんは戸惑いながら、話しはじめる。
『いや、あの……九州で知り合った子が……今度結婚するらしくて』
「ああ! あの妹みたいに可愛がってた子ですね?」
『う、うん、まあそうなんだけど……』
「それはそれは、おめでとうございます」
『……うん……』
政人さんはくぐもった声で頷く。
その声はどこか寂しそうな響きを帯びていて、私は噴き出すのをかろうじて堪えた。
「それで、どうかしたんですか?」
口元は完全ににやついているが、声音は平静を装う。
政人さんは静かにため息をついた。
『……結婚式の招待状、が届いて』
「日程が合わない?」
『いや、そうではないんだけど……行く気で……返事したんだけど……』
なんとなく、気弱なトーンだ。いつも物腰柔らかく安定して穏やかなのに、珍しい。
『なんかこう……どういう感じで出席したらいいのかなと……』
「はあ……なるほど」
言われて私は首を傾げる。
確かに、親戚でもないし、恩師でも、会社の先輩でも、友達でもなくて、言うならば知人? 座席表の肩書って何になるんだろう。でも、彼女のご家族とは知り合いみたいだし、その辺と同じ座席になるのかな。
『親族みたいな顔するのも変だし、友人、ていうにもちょっと……それに彼と会ったこともないし』
あ、もしかして。
ふと、思い当たって微笑む。
政人さんはオシャレな人だから、冠婚葬祭だからと言って服を同じにしたりしない。親戚の挙式は親戚らしいスタンダードな格好をするし、友達の挙式はその友達の好みや結婚式場の格で服を決める。
隼人くんはその話を聞いたとき『面倒くさいことするね』なんてあきれてたけど、女性なら当然のようにする配慮だし、私は素直に感心したものだ。
「そうですね、立場として考えると難しいですけど」
私は言葉を選び選び、口を開いた。
「でも、彼女にとって政人さんは、きっと憧れのお兄さんだから……」
優しいけれど不器用なところもある義兄を思いやりながら、言葉を紡ぐ。
隼人くんと結婚してから十年。義兄との付き合いも同じくらいだ。
その間に知れた人となりを思うと自然と微笑みが浮かんだ。
「政人さんらしく、式場と彼女のイメージに合わせて、精一杯お洒落して行ったらいいと思います」
政人さんは少し困惑したようだった。私は笑う。
「彼女が友達に自慢できるくらい、『素敵なお兄さん』でいてあげたらいいと思いますよ」
政人さんは笑ったようだった。
『もう四十も過ぎて、素敵なお兄さんはないだろ』
言って、一息つく。
『うん……まあでも、俺らしく、か。そうかもね。ありがとう、香子ちゃん』
「どういたしまして」
言って、私は思わず笑った。
『どうかした?』
聞く政人さんに、
「いえ……感極まって泣いちゃっても、いいと思いますよ」
私が言うと、政人さんは喉の奥でぐっと呻いた。
『さすがにそこは耐える』
「泣きそうな気はしてるんですね」
『ぐっ……』
政人さんのうめき声を聞いて、私は少しだけ声をあげて笑うと、
「素敵な結婚式になりますように」
義兄のためにも、彼女のためにも。
『うん……ありがとう』
いつもどおりの穏やかな声が返ってきた。
「どうだった、兄さん?」
「うん、多分大丈夫」
通話を切った私は、スマホを隼人くんに返しながら笑った。
「珍しいね、お義兄さんがあんな風になるの」
「うん……」
隼人くんは苦笑した。
「意外と、情が移りやすい人だからね。基本的には距離を置くんだけど、一回内側に入れちゃうと底なしというか」
「あー、分かる気がする。優しいよね」
私は頷き、笑った。
「そういうところも、隼人くんと逆よね」
隼人くんがきょとんとする。
「どういうこと? 俺って冷たい?」
「冷たいっていうか……」
「お母さーん、買い物行くんじゃないの?」
「あ、そうだったそうだった。行こう」
私は言ってかばんを手にする。
「隼人くんも行こう。冷蔵庫からっぽなの」
「はぁい」
隼人くんがどことなく不服げに首を傾げる。
「……後でちゃんと聞かせてね」
「何が?」
「だって……兄さんは優しくて、俺は逆って」
私は噴き出した。
「はいはい。また後で」
冷たくはないけど。
マイペースだよね、ひたすら。
思いながら笑って、子どもたちと玄関に向かった。
隼人くんのスマホが鳴ったと思ったら、急に英語で話しはじめた。
ということは、多分義兄からの電話だろう。
「お父さん英語?」
「うん、そうね」
「政人おじちゃんかなー」
「多分ね」
それにしても電話なんて珍しい。近々何かあったっけ、と思いながら、隼人くんの様子を見る。
「え? ああ……うん? そう、よかったね。うん……」
あ、今日は日本語で話してるみたい。
しばらく相づちを打っていた隼人くんは、困惑したような顔で私を見ている。
「……兄さん。香子ちゃんと変わろうか?」
私はびっくりして目をまたたかせた。政人さんと電話で話すなんて、結婚前ぶりじゃないかしら。
「だって、そういうことでしょ。……俺じゃわかんないよ。ちょっと待って」
隼人くんはあきれたようなため息をつきながら、スマホを私に差し出す。私がそれを受け取りながら説明を求める視線を送ると、隼人くんが苦笑した。
「とりあえず、話聞いてあげて」
「はあ……」
頷きながら耳にスマホを当てると、
『……ええと……もしもし? 香子ちゃん?』
政人さんが大変話しづらそうに口を開いた。
兄弟揃っていい声だこと。
つい、今日もイケメンですねとでも言いそうになり、口を閉ざす。
「どうかしました?」
子どもたちに問いかけるように穏やかに聞いてみた。
政人さんは戸惑いながら、話しはじめる。
『いや、あの……九州で知り合った子が……今度結婚するらしくて』
「ああ! あの妹みたいに可愛がってた子ですね?」
『う、うん、まあそうなんだけど……』
「それはそれは、おめでとうございます」
『……うん……』
政人さんはくぐもった声で頷く。
その声はどこか寂しそうな響きを帯びていて、私は噴き出すのをかろうじて堪えた。
「それで、どうかしたんですか?」
口元は完全ににやついているが、声音は平静を装う。
政人さんは静かにため息をついた。
『……結婚式の招待状、が届いて』
「日程が合わない?」
『いや、そうではないんだけど……行く気で……返事したんだけど……』
なんとなく、気弱なトーンだ。いつも物腰柔らかく安定して穏やかなのに、珍しい。
『なんかこう……どういう感じで出席したらいいのかなと……』
「はあ……なるほど」
言われて私は首を傾げる。
確かに、親戚でもないし、恩師でも、会社の先輩でも、友達でもなくて、言うならば知人? 座席表の肩書って何になるんだろう。でも、彼女のご家族とは知り合いみたいだし、その辺と同じ座席になるのかな。
『親族みたいな顔するのも変だし、友人、ていうにもちょっと……それに彼と会ったこともないし』
あ、もしかして。
ふと、思い当たって微笑む。
政人さんはオシャレな人だから、冠婚葬祭だからと言って服を同じにしたりしない。親戚の挙式は親戚らしいスタンダードな格好をするし、友達の挙式はその友達の好みや結婚式場の格で服を決める。
隼人くんはその話を聞いたとき『面倒くさいことするね』なんてあきれてたけど、女性なら当然のようにする配慮だし、私は素直に感心したものだ。
「そうですね、立場として考えると難しいですけど」
私は言葉を選び選び、口を開いた。
「でも、彼女にとって政人さんは、きっと憧れのお兄さんだから……」
優しいけれど不器用なところもある義兄を思いやりながら、言葉を紡ぐ。
隼人くんと結婚してから十年。義兄との付き合いも同じくらいだ。
その間に知れた人となりを思うと自然と微笑みが浮かんだ。
「政人さんらしく、式場と彼女のイメージに合わせて、精一杯お洒落して行ったらいいと思います」
政人さんは少し困惑したようだった。私は笑う。
「彼女が友達に自慢できるくらい、『素敵なお兄さん』でいてあげたらいいと思いますよ」
政人さんは笑ったようだった。
『もう四十も過ぎて、素敵なお兄さんはないだろ』
言って、一息つく。
『うん……まあでも、俺らしく、か。そうかもね。ありがとう、香子ちゃん』
「どういたしまして」
言って、私は思わず笑った。
『どうかした?』
聞く政人さんに、
「いえ……感極まって泣いちゃっても、いいと思いますよ」
私が言うと、政人さんは喉の奥でぐっと呻いた。
『さすがにそこは耐える』
「泣きそうな気はしてるんですね」
『ぐっ……』
政人さんのうめき声を聞いて、私は少しだけ声をあげて笑うと、
「素敵な結婚式になりますように」
義兄のためにも、彼女のためにも。
『うん……ありがとう』
いつもどおりの穏やかな声が返ってきた。
「どうだった、兄さん?」
「うん、多分大丈夫」
通話を切った私は、スマホを隼人くんに返しながら笑った。
「珍しいね、お義兄さんがあんな風になるの」
「うん……」
隼人くんは苦笑した。
「意外と、情が移りやすい人だからね。基本的には距離を置くんだけど、一回内側に入れちゃうと底なしというか」
「あー、分かる気がする。優しいよね」
私は頷き、笑った。
「そういうところも、隼人くんと逆よね」
隼人くんがきょとんとする。
「どういうこと? 俺って冷たい?」
「冷たいっていうか……」
「お母さーん、買い物行くんじゃないの?」
「あ、そうだったそうだった。行こう」
私は言ってかばんを手にする。
「隼人くんも行こう。冷蔵庫からっぽなの」
「はぁい」
隼人くんがどことなく不服げに首を傾げる。
「……後でちゃんと聞かせてね」
「何が?」
「だって……兄さんは優しくて、俺は逆って」
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