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第四夜 学生に宿泊場所を提供した結果。
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大輝は翌日日曜の夕方、ようやく帰って行った。「ああ……もう一泊してくることにしとけばよかった……もっといっちゃんといたかったのに……」とぶつぶつ呟く声を聞きつつ、私はベッドの上で身動きもできずにうなだれていた。
……若いって……こんななんだっけ……
若さだけの話ではないのかもしれない。こういうのなんて言うんだっけ。ゼツリンてやつ? でもそんな、私に発揮しなくてもよくない?
「ねえねえいっちゃん、俺と婚約したことにして、一緒に住むっていうのはどうだろう」
真剣な顔で言う大輝は、さっぱりした顔をしている。
ねえあんた何でそんな平気な顔してるの……何回したと思ってるの……私はこんなにぐったりしててそんなぴんぴんしてるのってどういうこと?
悔しさに歯がみしながら息を吐き出した。
「馬鹿言わないで……」
言ってから、顔を伏せる。
「ああ……どうしよう……こんなのおばさんにバレたら……」
学生をたらしこんだ従姉だなんて、信頼も何もあったもんじゃない。涙すら浮かべる私の髪を、大輝は気遣わしげに撫でる。
「いっちゃん、いっちゃんのせいじゃないよ」
そりゃそうでしょうよ!
……と思いきれない自分がいる。
確かに最初に私を押し倒したのは大輝だけど、そして挑発したのも大輝だけど、最終的に……アレをソレしたのは私であって……
ちょうど、彼氏(だと思っていた人)を失った傷から立ち直る前後だったからか、つい温もりを求めてしまったのかもしれない。
おおいに落ち込む私の横に、大輝が頬杖をつく。
「いっちゃん。嫌だった?」
私は枕から少し顔を動かし、大輝を横目で見やった。
大輝の目はあくまで真剣そのものだ。
「……俺、六歳下だし、まだ大学生で仕事もしてないけど」
私の目を見る大輝の目は、子どもの頃から変わらない。
まっすぐで、揺らぎない。
私の心に突き刺さるほど、強い眼差し。
「でも、いっちゃんへの想いは、誰にも負けないよ。大事にする。絶対絶対、大切にする。……こういうこと、しちゃったのは……いっちゃんを傷つけちゃうかもって思ったけど、でも、そうでもしないと、いっちゃん俺のこと男として見てくれないでしょ?」
まっすぐ私を見つめるその瞳の奥に、疑いもない情熱の色を見て取る。私は目を反らすこともできず、ただ黙ってそれを見返していた。
「いっちゃん……好きだよ」
大輝は私の髪を撫でる。そっと、気遣うような優しい手つきが私の心を締め付けた。
「好きだ……大人になって、どんどん会う機会が減って、いっちゃんもいつ結婚するかも分からなくて……こういう方法しか、浮かばなかった」
大輝の目が潤んでくる。
「ごめんね、いっちゃん。怒ってる? 怒ってるよね。でも、いい加減な気持ちじゃないんだ。本当に大事にしたいんだよ。俺、留年しないで大学卒業して、いい会社に入るから。いっちゃんが男に求める条件、できる限り全部叶えるから。だから、俺と一緒にいて。お願い、いっちゃん。お願い……」
私は大輝の泣き顔を見たくなくて、思わずその頬に手を添えた。大輝が困りきった目で私を見る。
「……怒ってないよ」
言ってから、苦笑した。
「怒ってないから、泣かないの。もう子どもじゃないんだから」
そう、彼も立派に一人の男だと、散々私の身体に刻み付けたばかりだ。
不器用な愛撫はこの一晩にも上達して、私のいいところをいくつか学び取った。
果てても果ててもまた再び私を求める体力には、さすがに辟易してしまったけれど、今まで我慢していたという彼の気持ちは伝わった。
大輝はほっとした顔で私の手を握り、頬を擦り寄せる。
「よかった……」
そして、ちらりと目を上げる。
何かを期待するようなその目に、私はまたびくりとする。
「いっちゃん、年末の予定ある?」
「ね、年末? まだ何もないけど……」
「そっかぁ」
大輝は先ほど浮かべていた涙が嘘のようににっこりと笑った。
「俺、また都内の会社にインターン申し込もうと思ってるんだ」
大輝はにこにこしている。
「また泊めて……もらえるよね?」
有無を言わさぬその笑顔に、私の顔が引き攣った。
「いや、ちょっと、それは、そのーー」
「大丈夫、そのときは一日一回にしとくから。今回は貯まりに貯まった気持ちが爆発しちゃったけど、今度はちゃんと分散させるよ。一日一回……か二回……か、せいぜい三回……」
「こらこらこら!」
「ああ、分かった! 分かったよ、じゃあ二回まで! 二回までにする!」
つっこみたいのはそこじゃない!
言葉を口にするより先に、大輝の唇が私の唇を塞ぐ。
触れるだけのキスを交わしてから、大輝は微笑んだ。
「いっちゃん……一週間、ありがと」
その顔は、昔よく見た少年の笑顔そのものだ。
私は思わず、何も言えなくなってしまった。
* * *
帰りぎわ、荷物を手にした大輝は振り返った。
その背中(の筋肉)に見惚れていた私は顔を見上げる。
「あ、そうだ」
「なに?」
「あのね、俺の母さんも、おばさんも、知ってるから」
「は?」
「俺の気持ち」
私は思わず、動きを止めた。
大輝はにこりとする。
「だから、心配しないでね」
……いや。
……え?
……どういう……
「無理強いはしちゃ駄目って言われたけど、俺、本気だから。おばさんにはここに来る前にちゃんと電話したし、あとはいっちゃんの気持ち次第だよ」
外堀……
外堀が……
完全に埋められている……
予想外に用意周到な従弟に恐れおののく。
それでも、大輝は邪気のない笑顔を私に向けた。
一度玄関先に荷物を下ろし、腕を広げる。
すっかり少年ではなくなった広い肩。たくましい胸板。しなやかな筋肉。
この一晩で、その魅力を私に刻み付けた。
おずおずと、その腕の中におさまる。
大輝に包み込まれて、心までぎゅっと締め付けられた。
「大学卒業したら、一緒に暮らそう」
耳元で囁く声は、知らない間に声変わりを済ませている。
数年前、そう気づいたときの何とも言えない寂しさを思い出す。
可愛い従弟が、知らない間に男になって。
知らない間に、私から、離れていくんだと。
「幸せにするよ。……いっちゃん」
優しく私の髪を撫でる手。
この一晩で、すっかりぎこちなさはなくなった。
私は大輝の背中に手を回す。
胸元に顔をうずめる。
「……待ってる」
ほろりと出た言葉は、身体と心の本音。
親のこととか、叔父叔母のこととか、何も考えずに口をついた言葉。
それが私の本音だと、自分に知らしめる。
大輝は嬉しそうに笑って、もう一度私を強く抱きしめた。
その抱擁に応えながら、その温もりに泣きそうになった。
(第四夜 完)
----------------
全四夜、これにて完結です。
いつもとは一味違う作品だったと思いますが、少しでもお楽しみいただたなら幸いです。
おつきあい下さり、ありがとうございました!
また別の作品でもお会いできることを祈りつつ…
松丹子 拝
……若いって……こんななんだっけ……
若さだけの話ではないのかもしれない。こういうのなんて言うんだっけ。ゼツリンてやつ? でもそんな、私に発揮しなくてもよくない?
「ねえねえいっちゃん、俺と婚約したことにして、一緒に住むっていうのはどうだろう」
真剣な顔で言う大輝は、さっぱりした顔をしている。
ねえあんた何でそんな平気な顔してるの……何回したと思ってるの……私はこんなにぐったりしててそんなぴんぴんしてるのってどういうこと?
悔しさに歯がみしながら息を吐き出した。
「馬鹿言わないで……」
言ってから、顔を伏せる。
「ああ……どうしよう……こんなのおばさんにバレたら……」
学生をたらしこんだ従姉だなんて、信頼も何もあったもんじゃない。涙すら浮かべる私の髪を、大輝は気遣わしげに撫でる。
「いっちゃん、いっちゃんのせいじゃないよ」
そりゃそうでしょうよ!
……と思いきれない自分がいる。
確かに最初に私を押し倒したのは大輝だけど、そして挑発したのも大輝だけど、最終的に……アレをソレしたのは私であって……
ちょうど、彼氏(だと思っていた人)を失った傷から立ち直る前後だったからか、つい温もりを求めてしまったのかもしれない。
おおいに落ち込む私の横に、大輝が頬杖をつく。
「いっちゃん。嫌だった?」
私は枕から少し顔を動かし、大輝を横目で見やった。
大輝の目はあくまで真剣そのものだ。
「……俺、六歳下だし、まだ大学生で仕事もしてないけど」
私の目を見る大輝の目は、子どもの頃から変わらない。
まっすぐで、揺らぎない。
私の心に突き刺さるほど、強い眼差し。
「でも、いっちゃんへの想いは、誰にも負けないよ。大事にする。絶対絶対、大切にする。……こういうこと、しちゃったのは……いっちゃんを傷つけちゃうかもって思ったけど、でも、そうでもしないと、いっちゃん俺のこと男として見てくれないでしょ?」
まっすぐ私を見つめるその瞳の奥に、疑いもない情熱の色を見て取る。私は目を反らすこともできず、ただ黙ってそれを見返していた。
「いっちゃん……好きだよ」
大輝は私の髪を撫でる。そっと、気遣うような優しい手つきが私の心を締め付けた。
「好きだ……大人になって、どんどん会う機会が減って、いっちゃんもいつ結婚するかも分からなくて……こういう方法しか、浮かばなかった」
大輝の目が潤んでくる。
「ごめんね、いっちゃん。怒ってる? 怒ってるよね。でも、いい加減な気持ちじゃないんだ。本当に大事にしたいんだよ。俺、留年しないで大学卒業して、いい会社に入るから。いっちゃんが男に求める条件、できる限り全部叶えるから。だから、俺と一緒にいて。お願い、いっちゃん。お願い……」
私は大輝の泣き顔を見たくなくて、思わずその頬に手を添えた。大輝が困りきった目で私を見る。
「……怒ってないよ」
言ってから、苦笑した。
「怒ってないから、泣かないの。もう子どもじゃないんだから」
そう、彼も立派に一人の男だと、散々私の身体に刻み付けたばかりだ。
不器用な愛撫はこの一晩にも上達して、私のいいところをいくつか学び取った。
果てても果ててもまた再び私を求める体力には、さすがに辟易してしまったけれど、今まで我慢していたという彼の気持ちは伝わった。
大輝はほっとした顔で私の手を握り、頬を擦り寄せる。
「よかった……」
そして、ちらりと目を上げる。
何かを期待するようなその目に、私はまたびくりとする。
「いっちゃん、年末の予定ある?」
「ね、年末? まだ何もないけど……」
「そっかぁ」
大輝は先ほど浮かべていた涙が嘘のようににっこりと笑った。
「俺、また都内の会社にインターン申し込もうと思ってるんだ」
大輝はにこにこしている。
「また泊めて……もらえるよね?」
有無を言わさぬその笑顔に、私の顔が引き攣った。
「いや、ちょっと、それは、そのーー」
「大丈夫、そのときは一日一回にしとくから。今回は貯まりに貯まった気持ちが爆発しちゃったけど、今度はちゃんと分散させるよ。一日一回……か二回……か、せいぜい三回……」
「こらこらこら!」
「ああ、分かった! 分かったよ、じゃあ二回まで! 二回までにする!」
つっこみたいのはそこじゃない!
言葉を口にするより先に、大輝の唇が私の唇を塞ぐ。
触れるだけのキスを交わしてから、大輝は微笑んだ。
「いっちゃん……一週間、ありがと」
その顔は、昔よく見た少年の笑顔そのものだ。
私は思わず、何も言えなくなってしまった。
* * *
帰りぎわ、荷物を手にした大輝は振り返った。
その背中(の筋肉)に見惚れていた私は顔を見上げる。
「あ、そうだ」
「なに?」
「あのね、俺の母さんも、おばさんも、知ってるから」
「は?」
「俺の気持ち」
私は思わず、動きを止めた。
大輝はにこりとする。
「だから、心配しないでね」
……いや。
……え?
……どういう……
「無理強いはしちゃ駄目って言われたけど、俺、本気だから。おばさんにはここに来る前にちゃんと電話したし、あとはいっちゃんの気持ち次第だよ」
外堀……
外堀が……
完全に埋められている……
予想外に用意周到な従弟に恐れおののく。
それでも、大輝は邪気のない笑顔を私に向けた。
一度玄関先に荷物を下ろし、腕を広げる。
すっかり少年ではなくなった広い肩。たくましい胸板。しなやかな筋肉。
この一晩で、その魅力を私に刻み付けた。
おずおずと、その腕の中におさまる。
大輝に包み込まれて、心までぎゅっと締め付けられた。
「大学卒業したら、一緒に暮らそう」
耳元で囁く声は、知らない間に声変わりを済ませている。
数年前、そう気づいたときの何とも言えない寂しさを思い出す。
可愛い従弟が、知らない間に男になって。
知らない間に、私から、離れていくんだと。
「幸せにするよ。……いっちゃん」
優しく私の髪を撫でる手。
この一晩で、すっかりぎこちなさはなくなった。
私は大輝の背中に手を回す。
胸元に顔をうずめる。
「……待ってる」
ほろりと出た言葉は、身体と心の本音。
親のこととか、叔父叔母のこととか、何も考えずに口をついた言葉。
それが私の本音だと、自分に知らしめる。
大輝は嬉しそうに笑って、もう一度私を強く抱きしめた。
その抱擁に応えながら、その温もりに泣きそうになった。
(第四夜 完)
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全四夜、これにて完結です。
いつもとは一味違う作品だったと思いますが、少しでもお楽しみいただたなら幸いです。
おつきあい下さり、ありがとうございました!
また別の作品でもお会いできることを祈りつつ…
松丹子 拝
応援ありがとうございます!
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松丹子様
4人の男前堪能いたしました。
もう全員に向かって「馬鹿なの!?」と叫んでました(口が悪くてすみません。最上級の誉め言葉なんです。)
R18短編集ならではこその展開が最強。エンタテインメントで楽しかったです。
強いて私めの好みを挙げるならば、、、今井課長です(ボソ
るーま様
感想ありがとうございます!
よかった!お楽しみいただけたようでほっとしました。
ノリと勢いの短編集でしたので、エンターテイメント性は高かったと思います。
これを中~長編にして私の色が乗るとどうなるか…やってみたい気もします…(笑)
おや、今井課長ですか。ちょっと意外ですが…一番馬鹿だから…?(すみません笑)
お言葉、他作の原動力にしますー!ありがとうございました(^_^)