艶色談話

松丹子

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第一夜 課長とAV談義で盛り上がった結果。

(閑話)今井課長のひとり言

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 彼女ーー作田美奈子と会ったのは、課長に昇任して、数年前まで在籍していた所属に戻ったときだ。

 もともと色素が薄いらしい、くるりとしたくせっ毛に、好奇心旺盛な目。決して面差しが童顔なわけではないのに、自然と笑顔を浮かべるその表情はどことなく幼く見えて、庇護欲をくすぐった。
 俺自身、女遊びはそこそこにしてきた方だ。身長も平均より高いし、勉強もスポーツも比較的できた。放っておいても寄って来るーーというほどではないが、でもまあ、放っておいても「誘ってくれ」というアピールをする女は絶えずいた、ように思う。

 我が社に制服はなく、女性は特に服装規定が緩いのだが、彼女は比較的キチンとした格好で出社して来ていた。
 ただし、夏の暑さには弱いらしい。春先から徐々に服装が緩みはじめ、真夏には袖のないワンピースで来るときもある。
 とはいえミニスカートなわけでもないし、目のやり場に困る露出ではない。ないのだが、出勤した後、汗ばむ首もとを拭うときに、髪を横によけてハンカチを当てるしぐさや、ほぅっと息を吐き出して手で顔をあおぐしぐさにーーつい目が行っているのは俺だけではなく、そのことが気になって仕方がなかった。

(もう少し……自覚を)

 思うのは男の勝手な都合だ。いや、正確に言えば、俺の勝手な都合。彼女持ちや既婚者にとっては、一瞬垣間見るオアシスみたいなもんなのだろう。が、ちらりちらりと視線をやる男どもに苛立つ。
 そんな奴らと同格なのも悔しいので、いっそ自分から近寄ることにした。

「今日も暑いね」
「あ、はい」

 残業時には空調が切れるので、デスクに常備してあるうちわであおぐと、彼女は気持ち良さそうに目を細める。

「ふふ、ありがとうございます。お礼に私もあおぎます」

 俺の手元に手を伸ばしたが、いいよと断った。微笑む俺を見てわずかに染める頬は、暑さのせいじゃないだろう。……と、思いたい。
 だいたい彼女は、俺と話すときだけ半音高い声を出す。俺が微笑むとこうして頬を染める。俺が褒めると心底嬉しそうに笑う。
 ーーのに、俺の気持ちには全然気づいていないらしい。

 いつだったか、俺がある男性社員にぼやいた「作田さん気になってるんだよね」という呟きは、今や「課長が作田さんを落とそうとしている」という噂となって社内に知れ渡っているらしい。それから既に一年ほど経つために、「あの今井課長も落とすのに苦慮しているらしい」「難攻不落な女」「実はブサメン好き? なら俺たちにもチャンスが!」等々、彼女が知らないうちにたっている噂はいくつかある。
 どうやったら彼女と近づけるのかと、その機会を伺っていたらーーあっという間に、出会ってから二年が経っていた。



 ある日、彼女が入社間もない金田に声をかけた。

「そういえば、金田くんもう二年目だね。あと一年したら異動かな」

 最初の二、三ヶ所は三年スパンでいくつかの部署を回るのが会社の慣例だ。彼女は課の中では二番目に経験が浅いので、何かと金田の世話をやき、気にかけている。

「そうですね。作田さんも僕と一緒に来たから、そろそろ異動かも知れないですよね」

 何となしに言う金田を無言で睨みつけそうになり、周りが慌ててフォローする。

「いや、でもほら、あと半年ありますし!」
「だ、大丈夫ですよ!」

 口々に言う男たちのうち数人が、「もし異動まで何もなかったらそのときは」と影で言っているのも知っている。俺は舌打ちを噛み殺してため息をついた。
 彼女はきょとんとした顔で首を傾げる。

「どうかしました? あ、一気にいなくなると引き継ぎが心配ですか? 大丈夫ですよ、私ちゃんと引き継ぎ資料つくっておきますから」

 にこり、と笑う彼女を見て、俺は微笑みを返しつつ心中気が気ではなかった。



 ーーそんな日を過ごして悶々としていたのに、まさかAVの話で盛り上がり、果ては家にまで上げることになるとは。
 動揺を沈めるために浴びたシャワーは逆効果で、ヘッドホンをつけて大画面の艶画に見入るその横顔の赤い頬に欲情した。
 声をかけると漫画のように飛び上がった彼女は、乱れたスカートの裾を慌てて整え直したが、一瞬とはいえ彼女の下着はしっかり見えてしまった。
 向日葵柄のショーツ。
 白地に黄色と橙色のステッチに見える色気と健康的な明るさのバランスが、彼女らしさを感じさせた。
 触れた唇は思っていた以上に柔らかく、気付けば貪るように彼女を愛撫していた。
 約二年の想いのたがが外れ、抑え続けていた気持ちがあふれて、じっくり彼女を味わいつくしーー



 高揚感に浸りきっていた俺は、自分の想いをきちんと告げていないことに気づかなかったのだった。

(次話、ヒロイン視点に戻ります)
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