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第三章 天の川は暴れ川(ヒメ/阿久津交互)
04 不要な橋渡し
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「阿久津、すまん」
ある日の朝、マーシーは社内で会うや否や気まずそうに謝った。
キョトンとする俺を余所に、それ以上の説明もせず、気まずそうな顔のまま立ち去ろうとする。
「いやいやおいおい」
その手首を掴み、慌てて引き止める。
「何のこっちゃ」
謝られる覚えがない。俺は首を捻るが、マーシーは何とも言えない顔をしていた。
目を反らすマーシー。その顔を見つつ考える俺。
しばしの沈黙の後、ふと思い当たる。
「……もしかして」
「いや、まだどうなるかはわかんないけど。彩乃が先走ったことをしたのは確か」
俺が顔を引きつらせると、マーシーがやや早口で取り繕った。
橘女史の先走りとは怖いことを言う。あの女は頭がいい癖に何をするか分かったもんじゃない。
「……経緯を話せ」
ついつい声が低くなった。多分表情も相当に強張っているだろう。マーシーは苦笑しながら話し始めた。
電車の中で痴漢にあっていた女をそれとなく庇ったらあの女だったこと。何も言わず去ろうとしたらお礼を言いについて来たこと。
そしてそこに、保育園の送迎の関係でたまたま違う車両に乗っていた橘女史が合流したこと。
「しっかり確認されたよ」
言いながらマーシーは左手をひらりと振る。薬指に輝くプラチナリング。
「ついでに、謝らされた」
「はあ?」
「彩乃にな。さらについでに、あいつはお前を諦める必要がないことをしっかりと申立てた上で、応援してるとのたまった」
言いながら、マーシーが遠い目をするのも分かる。俺は最大限不機嫌な顔になっていることを自覚しつつ、深々と嘆息した。
ぽん、とマーシーの手が肩に置かれる。
「悪いことはできないもんだなぁ」
しみじみとした声に、
嘘も方便、て言うじゃないか。
心中で答えた。
正直、あのロリ女が一体何を考えているのか、俺には全然わからない。
俺は女に好かれる容姿でも態度でもないと自認している。だからこそ、この女を落としたいと思ったときにはある程度の演技をもって、気遣いができるところを見せる。
つまり、女は俺がハンターになってようやく落ちるのだ。何もせずに引っ掛かって来る女など、今までいたことがない。
そりゃ、昔はモテてみたいと思ったこともあった。しかし、マーシーを見ているとそれもそれで大変そうだ。となれば、自分である程度コントロールできるのも悪くないという結論に達した。
分相応な女、というのがわかれば、攻め方も分かるし、苦労することもない。
最近は大概が一夜限りの女、または身体だけの付き合いの女だが、さすがに三十後半にさしかかると、女の必要性自体を感じる機会があまりなくなってはきた。
とはいえ、今でも一晩楽しむ相手を見つけるのはそんなに難しいことではない。
ある後輩に言わせれば「ろくでなし」、橘女史に言わせれば「女の敵」だそうだが、それで互いにいい思いをするなら悪いことではないと俺は思っている。
女が好むような「純愛」や「誠実」に、俺は程遠い男だ。
そしてそんな自分が悪いとも思っていない。こんな男にイチイチひっかかるような女が単純すぎるのだ。
が、まあ必要であれば女との別れの際には、相手が満足できるような演技もしてやる。
それで自分を悲劇のヒロインにしたてて、必要以上に俺に付き纏うことがなければ、それでいい。
とはいえ、そんな面倒な別れが必要になるような、「カノジョ」という名前のものも、ここ最近とんとご無沙汰である。
改札口で何度も見かけた童顔を思い出す。
ふんわりと風を孕んだ色素の薄い髪。同じく色素の薄い大きな目。丸みのある頬に柔らかそうな唇。
妹、と言うにも無理がある。
ーー俺があんなのと歩いてたら、完全に物笑いの種だろ。
何がどう、という話の前に、そう思えて渋面になる俺だった。
ある日の朝、マーシーは社内で会うや否や気まずそうに謝った。
キョトンとする俺を余所に、それ以上の説明もせず、気まずそうな顔のまま立ち去ろうとする。
「いやいやおいおい」
その手首を掴み、慌てて引き止める。
「何のこっちゃ」
謝られる覚えがない。俺は首を捻るが、マーシーは何とも言えない顔をしていた。
目を反らすマーシー。その顔を見つつ考える俺。
しばしの沈黙の後、ふと思い当たる。
「……もしかして」
「いや、まだどうなるかはわかんないけど。彩乃が先走ったことをしたのは確か」
俺が顔を引きつらせると、マーシーがやや早口で取り繕った。
橘女史の先走りとは怖いことを言う。あの女は頭がいい癖に何をするか分かったもんじゃない。
「……経緯を話せ」
ついつい声が低くなった。多分表情も相当に強張っているだろう。マーシーは苦笑しながら話し始めた。
電車の中で痴漢にあっていた女をそれとなく庇ったらあの女だったこと。何も言わず去ろうとしたらお礼を言いについて来たこと。
そしてそこに、保育園の送迎の関係でたまたま違う車両に乗っていた橘女史が合流したこと。
「しっかり確認されたよ」
言いながらマーシーは左手をひらりと振る。薬指に輝くプラチナリング。
「ついでに、謝らされた」
「はあ?」
「彩乃にな。さらについでに、あいつはお前を諦める必要がないことをしっかりと申立てた上で、応援してるとのたまった」
言いながら、マーシーが遠い目をするのも分かる。俺は最大限不機嫌な顔になっていることを自覚しつつ、深々と嘆息した。
ぽん、とマーシーの手が肩に置かれる。
「悪いことはできないもんだなぁ」
しみじみとした声に、
嘘も方便、て言うじゃないか。
心中で答えた。
正直、あのロリ女が一体何を考えているのか、俺には全然わからない。
俺は女に好かれる容姿でも態度でもないと自認している。だからこそ、この女を落としたいと思ったときにはある程度の演技をもって、気遣いができるところを見せる。
つまり、女は俺がハンターになってようやく落ちるのだ。何もせずに引っ掛かって来る女など、今までいたことがない。
そりゃ、昔はモテてみたいと思ったこともあった。しかし、マーシーを見ているとそれもそれで大変そうだ。となれば、自分である程度コントロールできるのも悪くないという結論に達した。
分相応な女、というのがわかれば、攻め方も分かるし、苦労することもない。
最近は大概が一夜限りの女、または身体だけの付き合いの女だが、さすがに三十後半にさしかかると、女の必要性自体を感じる機会があまりなくなってはきた。
とはいえ、今でも一晩楽しむ相手を見つけるのはそんなに難しいことではない。
ある後輩に言わせれば「ろくでなし」、橘女史に言わせれば「女の敵」だそうだが、それで互いにいい思いをするなら悪いことではないと俺は思っている。
女が好むような「純愛」や「誠実」に、俺は程遠い男だ。
そしてそんな自分が悪いとも思っていない。こんな男にイチイチひっかかるような女が単純すぎるのだ。
が、まあ必要であれば女との別れの際には、相手が満足できるような演技もしてやる。
それで自分を悲劇のヒロインにしたてて、必要以上に俺に付き纏うことがなければ、それでいい。
とはいえ、そんな面倒な別れが必要になるような、「カノジョ」という名前のものも、ここ最近とんとご無沙汰である。
改札口で何度も見かけた童顔を思い出す。
ふんわりと風を孕んだ色素の薄い髪。同じく色素の薄い大きな目。丸みのある頬に柔らかそうな唇。
妹、と言うにも無理がある。
ーー俺があんなのと歩いてたら、完全に物笑いの種だろ。
何がどう、という話の前に、そう思えて渋面になる俺だった。
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