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第四章 曇天をさらう暴風雨 (ヒメ/阿久津交互)
01 猛獣使い
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私はそれからというもの、また毎朝改札前に立つようになった。
出勤するまでの30分、毎日毎日立ちつづけて、結果、阿久津さんだけでなく、マサトさんやアヤノさんにも挨拶するようになった。
そうする内にその知り合いらしい人とも挨拶するようになって、そんでもって時には知り合いでも何でもなさそうな人にも挨拶されるようになって、何だか私改札前のアイドルと化しつつある感じ? 正直ちょっと気分がいい。
とはいえそれが目的ではない。アヤノさんからは阿久津さんの連絡先を教えると言われたけど、それでは意味がないのだ。
変なところで根性あるよねと、友達にもよく言われる私。
阿久津さんのアヤノさんへの想いがどうあれ、本人から直接連絡先を教えてもらえるようがんばらなきゃと思っている。
偉いぞヒメ! がんばれヒメ! 心のチアリーダーがボンボンを振る。
「阿久津さんっ、おはようございまーす!」
あえて離れた改札を使う阿久津さんに大声で挨拶していたら、諦めたのか近くに来てくれるようになった。
それが最初の一週間目の成果。
翌週には、嘆息して呆れ顔を返すようになった。こっちを見てくれるだけありがたいと甘んじていると、その翌週には、小さく挨拶を返してくれるようになる。
この頃には、ほとんど野生動物を懐かせるような感じで、結構楽しくなって来ている。
今日はどうかなぁなんてウキウキしながら待っていると、声をかけられて振り向いた。
私とさして歳が変わらない感じの好青年が、照れ臭そうに立っている。
「いつもここに立ってるよね。誰かと待ち合わせてるの?」
「待ち合わせてる訳じゃないけど……」
私は困った顔で、その人と改札の人混みを交互に見ている。
阿久津さんが向こうから私に話しかけてくれることはない。こちらが見逃したら最後なのだ。
毎朝交わす阿久津さんとの一言が、私の一日のエネルギー。ここでチャンスを逃しては痛い。
「待ち合わせてるんじゃないなら、この近くに通勤してるの?」
「ええと……」
困惑しながら目をさ迷わせていると、
「ヒーメちゃん」
現れたのは長身短髪に丸い目の童顔な男性だった。
にこり、と人好きのする笑顔で私を見てくる。
このお兄さんは、マサトさんたちと挨拶するようになってから挨拶してくれるようになった人の一人だ。
童顔なところにちょっとシンパシー。
いつもはすごく大人っぽくて色っぽい女の人と一緒に歩いている。妻や彼女というには少し年上な感じなのだけど、姉というには親密過ぎる距離感に、どんな関係なのかなぁと気になっていた人でもある。
「お、おはようございます」
私は戸惑いながら答えた。
「でも、どうして私の名前……」
「マーシーに聞いたよ」
言いながら、その人は私の横に立つ。見上げるとにこりと笑顔が返ってきた。
「今ハニーがお手洗い行ってるから」
あ、やっぱり、彼女なんだ。その人の左手に指輪がないことを見て取る。
マーシーって、誰だろう。マサトさんのことかな。それにしてもこの人はどういうつもりなんだろう。
考えていると、最初に声をかけてきた男性は戸惑った顔で、じゃあまた、と去って行った。私は一応、会釈を返す。
「なんや。いつものとこにおらんから探したで」
「あ、ヨーコさん」
あれ。長身短髪のお兄さんにありもしないしっぽが見えた。犬系だなこの人。
そう思えば阿久津さんはどっちかというと猫系な気がする。
猫って言っても、ライオンとか虎とかそんな感じ。
思っている間に、じゃあねと手を振り去っていくお兄さん。え? 結局何だったの? よくわからない。
と思っていたら、あ、と言って振り返った。
「今日、アーク出張だから、待ってても来ないよ」
アークって、阿久津さんのこと?
キョトンとしている私を見て、ヨーコさんと呼ばれた女性がくすりと笑った。
うわぁ。口元に手を当てる様子もすごく色っぽい。
同性なのにドキドキしていると、ヨーコさんは私ににこりと微笑んで去って行った。
その日は確かに、阿久津さんは現れなかった。
出勤するまでの30分、毎日毎日立ちつづけて、結果、阿久津さんだけでなく、マサトさんやアヤノさんにも挨拶するようになった。
そうする内にその知り合いらしい人とも挨拶するようになって、そんでもって時には知り合いでも何でもなさそうな人にも挨拶されるようになって、何だか私改札前のアイドルと化しつつある感じ? 正直ちょっと気分がいい。
とはいえそれが目的ではない。アヤノさんからは阿久津さんの連絡先を教えると言われたけど、それでは意味がないのだ。
変なところで根性あるよねと、友達にもよく言われる私。
阿久津さんのアヤノさんへの想いがどうあれ、本人から直接連絡先を教えてもらえるようがんばらなきゃと思っている。
偉いぞヒメ! がんばれヒメ! 心のチアリーダーがボンボンを振る。
「阿久津さんっ、おはようございまーす!」
あえて離れた改札を使う阿久津さんに大声で挨拶していたら、諦めたのか近くに来てくれるようになった。
それが最初の一週間目の成果。
翌週には、嘆息して呆れ顔を返すようになった。こっちを見てくれるだけありがたいと甘んじていると、その翌週には、小さく挨拶を返してくれるようになる。
この頃には、ほとんど野生動物を懐かせるような感じで、結構楽しくなって来ている。
今日はどうかなぁなんてウキウキしながら待っていると、声をかけられて振り向いた。
私とさして歳が変わらない感じの好青年が、照れ臭そうに立っている。
「いつもここに立ってるよね。誰かと待ち合わせてるの?」
「待ち合わせてる訳じゃないけど……」
私は困った顔で、その人と改札の人混みを交互に見ている。
阿久津さんが向こうから私に話しかけてくれることはない。こちらが見逃したら最後なのだ。
毎朝交わす阿久津さんとの一言が、私の一日のエネルギー。ここでチャンスを逃しては痛い。
「待ち合わせてるんじゃないなら、この近くに通勤してるの?」
「ええと……」
困惑しながら目をさ迷わせていると、
「ヒーメちゃん」
現れたのは長身短髪に丸い目の童顔な男性だった。
にこり、と人好きのする笑顔で私を見てくる。
このお兄さんは、マサトさんたちと挨拶するようになってから挨拶してくれるようになった人の一人だ。
童顔なところにちょっとシンパシー。
いつもはすごく大人っぽくて色っぽい女の人と一緒に歩いている。妻や彼女というには少し年上な感じなのだけど、姉というには親密過ぎる距離感に、どんな関係なのかなぁと気になっていた人でもある。
「お、おはようございます」
私は戸惑いながら答えた。
「でも、どうして私の名前……」
「マーシーに聞いたよ」
言いながら、その人は私の横に立つ。見上げるとにこりと笑顔が返ってきた。
「今ハニーがお手洗い行ってるから」
あ、やっぱり、彼女なんだ。その人の左手に指輪がないことを見て取る。
マーシーって、誰だろう。マサトさんのことかな。それにしてもこの人はどういうつもりなんだろう。
考えていると、最初に声をかけてきた男性は戸惑った顔で、じゃあまた、と去って行った。私は一応、会釈を返す。
「なんや。いつものとこにおらんから探したで」
「あ、ヨーコさん」
あれ。長身短髪のお兄さんにありもしないしっぽが見えた。犬系だなこの人。
そう思えば阿久津さんはどっちかというと猫系な気がする。
猫って言っても、ライオンとか虎とかそんな感じ。
思っている間に、じゃあねと手を振り去っていくお兄さん。え? 結局何だったの? よくわからない。
と思っていたら、あ、と言って振り返った。
「今日、アーク出張だから、待ってても来ないよ」
アークって、阿久津さんのこと?
キョトンとしている私を見て、ヨーコさんと呼ばれた女性がくすりと笑った。
うわぁ。口元に手を当てる様子もすごく色っぽい。
同性なのにドキドキしていると、ヨーコさんは私ににこりと微笑んで去って行った。
その日は確かに、阿久津さんは現れなかった。
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