爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松丹子

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第十一章 織姫は彦星にどうしても抱かれたい(ヒメ視点)

02 お見通し

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 そんなクリスマスを過ごしてからというもの。
 私たちは、ちょっと恋人らしい距離感に近づいたものの、すっかり清く正しく美しい関係を保つようになっていた。
 傍から見れば「デート」と呼べるようなものを繰り返しながらも、光彦さん(そう、今や、光彦さんと呼ばせてもらえるようになったのだ!)はホテルのように部屋で二人きりになるのを徹底して避けるのだ。
 キスだけは会う度に交わしたけれど、それすら私からおねだりしないとしてくれない。
 そしていつだって、光彦さんとのキスはあまりに気持ち良すぎて、その夜は大概うまく眠れないのだ。
 だからもういい加減、先に進みたかった。
 私は決意した。
 光彦さんに抱かれたい。男として満たしてあげたいし、女として満たしてほしい。
 ていうか、あの身体に触りたい。直接触りたい。
 もう生殺しはごめんだ。がんばれヒメ! 負けるなヒメ! 難攻不落な城壁も、きっと崩れるときがくる!
 欲求は果てしなく悶々と膨れ上がっていくのだった。

「光彦さん。旅行、行きません?」
 切り出したのは、バレンタインデーのお返しにと、ちょっとおしゃれなディナーをご馳走してくれたときだった。
「旅行?」
「はい。一泊旅行」
 私はできるだけ邪気のない笑顔を浮かべ、光彦さんを見つめる。
「どこがいいですかね。温泉とか? あんまり遠出も大変だし……熱海とか、手近なとこで箱根とか?」
「……まだ行くって言ってねぇぞ」
「え、行かないんですか?」
 私が首を傾げると、光彦さんがあきれ顔で絶句する。こういうときは押しきれる時、と半年の付き合いで分かっている。
「ねぇねぇ、行きたいです。旅費私持ちでもいいですから。プランニングも私がしますから。ね? いいでしょう?」
 光彦さんは微妙な顔で、私から目を反らした。
「お前に任せてると、計画もあってないようなもんになりそうな気がするな」
 光彦さんとて、半年間のつき合いで私のことがよくわかっているらしい。
 私はふん、と胸を張った。
「光彦さんのご要望は忘れず押さえます!」
「じゃあ別部屋」
 光彦さんの即答に、今度は私が言葉を失う。光彦さんはにやりとして私を見上げた。
「お前の考えてることなんかお見通しだよ」
 私はぐぬぬ、と拳を握る。じゃあ、だったら、そんな私の努力を踏みにじろうとなんてしないでよー!
 光彦さんはほとんど泣きそうな私の顔を見て、ふ、と笑った。
「冗談だよ。わかった。お前に任せる」
 微笑みと共に、温かい手が頭を撫でる。
 子ども扱いされているみたいだとふて腐れてみるけど、本当は、嫌いじゃない。
 っていうか、光彦さんに触ってもらえるなら、いつでもどこでも何でもウェルカムなんですけどね!
 でも、私がすねて見せた方が、光彦さんも触りやすいみたい。
 シャイだからなぁ、とまたにやにやする。
「何にやついてんだよ、気持ち悪い奴」
 光彦さんはあきれ顔で、私の額を小突いた。
「痛いです」
 額を押さえると、光彦さんが笑う。
「日にち、決まったら早めに教えろよ。俺の予定は先着順だからな」
「はぁい」
 私は真顔で敬礼してみたけど、「そんなにゆるい敬礼じゃ意味ねぇ」とまた光彦さんに笑われた。
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