爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

文字の大きさ
85 / 114
第十一章 織姫は彦星にどうしても抱かれたい(ヒメ視点)

04 ドライブデート

しおりを挟む
 行く場所は、千葉の南房総にした。牧場に行って動物とたわむれたい、と思ったからだ。ついでに、動物とたわむれる光彦さんが見たかったからでもある。
 バスツアーも考えて調べてみていたのだけれど、それを聞いたとたん、光彦さんは嫌そうに言った。
「時間制限ありで行動するくらいなら俺が運転する」
 車を持っているだなんて知らなかった、と言ったら、「レンタカーか実家の車借りる」と言って、多摩の方にあるという実家の車を借りてくれることになった。
 ゴールデンウイークを狙ったけれど、ホテルは一ヶ月前にしていっぱいだった。5月下旬ならまだ空いていると分かり、どうにかシフトを調整して土日の休みを確保した。

 私はまさかのドライブデートにテンションが上がってしまって、前日はほとんど眠れなかった。でもドライブ中に眠ってはいけない。カフェイン入りのガムやブラックコーヒーやら、いろいろ買って待ち合わせ場所の駅へと降り立った。
 都内とはいえ、23区を離れると、だいぶ雰囲気が変わる。どこかのんびりした駅前をほてほてと歩いていると、車が寄ってきてクラクションを鳴らした。
 綺麗に磨かれたライトブルーの車が止まり、窓が開く。
「何だその大荷物」
「え、そうですか?」
 私は首を傾げた。せっかくドライブするならと、おにぎりやら何やら、いろいろ持ってきたのだ。
「ふらついてんじゃねぇか。自分の持てるだけの荷物にしろよ」
 ぶつぶつ言いながら、光彦さんは運転席から下りて私の荷物を持ち上げる。
「……何入ってんだこれ」
「お昼ご飯とか、ドライブ中のおやつとか」
「おやつねぇ」
 光彦さんは笑った。
「もう遠足だな、こりゃ」
 言いながら、後部座席に荷物を放り込み、助手席を開ける。
「ほら、とっとと乗れよ」
 なんて自然なエスコート。
 思わず見惚れてしまったら、光彦さんははっと我に返って、気まずそうに目を反らした。
 何度も、してきたんだろうなぁ。 
 私の知らない女の人に。
 もしかしたらーーこの前会った、ミサトさんにも。
 自分が知らない光彦さんが、ちょっとだけ寂しいけれど、せっかく浮き立っていた気持ちを消沈させてはもったいない。私は笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
 言って、ふわりと車に乗る。光彦さんはドアを閉めて、運転席に回った。
 閉めるとき小さく舌打ちが聞こえた気がして、笑いそうになる。
 運転席に乗り込んだ光彦さんは、シートベルトを締めた。
「お前も締めろよ」
「あ、はい」
 慌てて引っ張り出して締めると、光彦さんの腰元に目が行く。紺色のベルトは私がクリスマスにプレゼントしたものだ。
 そう気づいてぱっと顔を上げたが、光彦さんはもう右にウィンカーを出しながら後方を確認していた。邪魔してはいけないからと、しばらく黙っている。
 車が滑り出し、走っていく。
 私はシートに身体を預けながら、ちらりちらりと光彦さんの横顔を見ていた。
「何だよ」
 視線が一瞬だけ私に向く。
 私はぶんぶんと首を振った。
「何でも……あの」
「うん?」
「ベルト、つけてくれてるんですね」
 平日会うときには、ビジネス用の黒いベルトしかつけていない。会うのはほとんど平日なので、休日の服を見る機会があまりないのだ。
 嬉しくてついつい緩む口元をそのままに、光彦さんの顔を見つめる。
「まあ、たまにはな」
 光彦さんは言って、少し眉を寄せた。
 最近、ときどき見せる仕種だ。
 素直にお礼が言えなかったときとか、無愛想な反応をしてしまったときとか。私は気にしていないのだけど、本人なりに反省しているのだろう。そう見て取るとその優しさに、私はいつも笑いそうになる。
「嬉しいなぁ」
「ベルトが?」
「それもだけど……」
 私は微笑んで、前を向く。
 今日は幸い、爽やかな青空だ。
「初めてだから。二日連続で会うの」
 光彦さんは笑った。
「まあ、泊まりだからな」
 呟くように言って、ポロシャツの胸元にかけていたサングラスをかける。
 確かに陽射しは眩しいけど、きっとそれも照れ隠しだろうと、私はまた笑うのを堪えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

ズボラ上司の甘い罠

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

貴方の子を産み育ててますが、ホッといて下さい

鳴宮鶉子
恋愛
貴方の子を産み育ててますが、ホッといて下さい

処理中です...