107 / 114
第十三章 マイスイートホーム(ヒメ視点)
03 ゲストの選び方
しおりを挟む
予定通り、いい夫婦の日に入籍を済ませた私と光彦さんは、晴れて同棲を始めた。
毎日いちゃラブ! とうきうきしていた私だけど、生活を始めてみたら当然そうも行かず。
いつも会う日は、仕事を早めに切り上げてくれていたんだと今さら気づいた。
一緒になってみると、会う約束がないから残業もし放題だ。光彦さんが帰宅するのはだいたい午後九時くらい。残業しすぎると仕事ができない奴だと思われると言っていたのは外資ならではかもしれないけれど、それでもそんな時間になるんだな、なんて、基本的に定時上がりの私は少しギャップを感じる。
でも、家族になるって、ウキウキしてばかりじゃいられないし、まあこんなもんだよね。
空いた時間を前向きに考えることにして、思いついたのが料理教室だった。ずっと実家暮らしだったから、自炊以前に献立すら、あんまり自信がない。
新しい料理のレパートリーが増えると、土日に作るのが定番になった。まだ慣れない私は作るのに時間がかかるけど、光彦さんは何も言わずに待っていてくれて、ときどき手伝うと言ってくれて、できあがれば嬉しそうに食べてくれる。
ただ美味しい、と言うだけでなくて、こうするともっと旨そうだなとか、味が濃いとつまみによさそうとか、お店の開拓が趣味だと言うだけあって一言くれるのが結構ありがたかった。
一方、結婚式の準備は、私が着々と進めた。日にちはやっぱり七夕にしよう、と言うと、光彦さんはあきれた顔をしながらも否定しなかった。
幸い次の七夕は土曜だ。また曇りかもしれないけれど、もう織姫と彦星の逢瀬に想いを馳せて切なくなることはないだろう。
だって、きっと二人は、雲の上でこっそり会っているのだろうから。それも頻繁に。光彦さんが何の気無しに口にしたそんな話が、今はとっても気に入っている。
結婚式場も会場セットも演出も、光彦さんは「任せる」と言った。
「ただし七夕のコスプレはしないぞ」
と半眼で釘をさされ、ち、とわざとらしく言うと、額を小突かれる。
「似合うと思うんだけどなぁ。牽牛コス」
「お前の織姫コスだけにしろ」
こんなことで言い合ってもと思い、とりあえず承ったけれど、私はあきらめていない。結婚式が駄目でもどうにか一度は。いい方法を考えよう。
一人、拳を握って誓うのだった。
* * *
ゲストで誰を呼ぶかを決めるとき、まず互いの血縁者からリストアップしていた私はふと手を止めた。
「どうした?」
光彦さんがそれに気づいて首を傾げる。
私は大学のときの友達の名前を書きながら、うん……と頷いた。
「……こういうのって、呼ぶの、マナー違反かなぁ」
「誰を?」
言いながら私の手元を見た光彦さんは、ああ、と苦笑した。
「津田ちゃんだっけ?」
「うん……」
大学では、基本的に四人でつるんでいた。一人だけ呼ばない、というのはおかしいと思うけど、津田ちゃんの思いを知っている今となっては呼ぶのはためらわれる。
どうしようと頭を悩ませていると、
「あんまり気にしないでいいじゃないの」
さらりと言った。
「元カレ元カノでも呼ぶ人はいるし、行く人もいるし。結婚式に呼びたいくらい大切な友達なんだってことだろ。来るかどうかは相手次第だけど、嫌な気持ちにはならないんじゃないか」
光彦さんの言葉に、私はちらりと目線を上げる。
「手紙とかメールだと相手の様子が分かりにくいなら、電話してみるとか、会ってみるとか、してもいいし」
言いながらお茶を飲むと、私の視線に気づいて目を上げた。
「何だ?」
「ううん。ヤキモチとか妬かないの?」
「何でだよ」
光彦さんは笑って私の頭に手を伸ばした。
「お前はここに戻って来るんだろ。だったら妬く必要ないじゃないか」
私は微笑んで頷いた。
「光彦さんは? 誰を呼ぶの?」
「あー。そうだなぁ」
首を傾げつつ、考える。
「高校大学の友達と……まあ、マーシーんとことジョーんとこかな」
「上司は?」
「呼んでもいいけど呼ばなくてもいい。演出どうしたいかで考えるよ」
「そっか」
言って私はリストに書いていく。
「アヤノさんとヨーコさんもってことだよね?」
「うん」
光彦さんは頷いて笑った。
「お前は妬かないの?」
「え? 何に?」
「橘。呼んでもいいの?」
私は目をまたたかせて首を傾げた。
「……何で?」
光彦さんは噴き出した。
「だって、アヤノさんを好きだったの、昔の話でしょ」
「まあな」
「告白したわけでもないんでしょ」
「そうだけど」
「これからも、家族ぐるみでつき合って行きたいんでしょ」
「うん」
「なら、いいじゃない」
私は言いながら名前をリストアップした。
「私も、アヤノさんのこと好きだし」
光彦さんは笑う。
「あ、そう。ならよかった」
光彦さんは言った後、ふと思い出すように遠い目をした。
「……もう一人、いるんだけど……未婚女性だと唯一になるから、嫌ならやめる」
「そんな、気にしなくても。誰?」
「江原っていう奴。会社の後輩」
少し気遣わしげな光彦さんの表情がおかしくて、私は笑った。
「呼んで。光彦さんの大事な友達なら、私も会いたい」
光彦さんはほっとしたように微笑んだ。
毎日いちゃラブ! とうきうきしていた私だけど、生活を始めてみたら当然そうも行かず。
いつも会う日は、仕事を早めに切り上げてくれていたんだと今さら気づいた。
一緒になってみると、会う約束がないから残業もし放題だ。光彦さんが帰宅するのはだいたい午後九時くらい。残業しすぎると仕事ができない奴だと思われると言っていたのは外資ならではかもしれないけれど、それでもそんな時間になるんだな、なんて、基本的に定時上がりの私は少しギャップを感じる。
でも、家族になるって、ウキウキしてばかりじゃいられないし、まあこんなもんだよね。
空いた時間を前向きに考えることにして、思いついたのが料理教室だった。ずっと実家暮らしだったから、自炊以前に献立すら、あんまり自信がない。
新しい料理のレパートリーが増えると、土日に作るのが定番になった。まだ慣れない私は作るのに時間がかかるけど、光彦さんは何も言わずに待っていてくれて、ときどき手伝うと言ってくれて、できあがれば嬉しそうに食べてくれる。
ただ美味しい、と言うだけでなくて、こうするともっと旨そうだなとか、味が濃いとつまみによさそうとか、お店の開拓が趣味だと言うだけあって一言くれるのが結構ありがたかった。
一方、結婚式の準備は、私が着々と進めた。日にちはやっぱり七夕にしよう、と言うと、光彦さんはあきれた顔をしながらも否定しなかった。
幸い次の七夕は土曜だ。また曇りかもしれないけれど、もう織姫と彦星の逢瀬に想いを馳せて切なくなることはないだろう。
だって、きっと二人は、雲の上でこっそり会っているのだろうから。それも頻繁に。光彦さんが何の気無しに口にしたそんな話が、今はとっても気に入っている。
結婚式場も会場セットも演出も、光彦さんは「任せる」と言った。
「ただし七夕のコスプレはしないぞ」
と半眼で釘をさされ、ち、とわざとらしく言うと、額を小突かれる。
「似合うと思うんだけどなぁ。牽牛コス」
「お前の織姫コスだけにしろ」
こんなことで言い合ってもと思い、とりあえず承ったけれど、私はあきらめていない。結婚式が駄目でもどうにか一度は。いい方法を考えよう。
一人、拳を握って誓うのだった。
* * *
ゲストで誰を呼ぶかを決めるとき、まず互いの血縁者からリストアップしていた私はふと手を止めた。
「どうした?」
光彦さんがそれに気づいて首を傾げる。
私は大学のときの友達の名前を書きながら、うん……と頷いた。
「……こういうのって、呼ぶの、マナー違反かなぁ」
「誰を?」
言いながら私の手元を見た光彦さんは、ああ、と苦笑した。
「津田ちゃんだっけ?」
「うん……」
大学では、基本的に四人でつるんでいた。一人だけ呼ばない、というのはおかしいと思うけど、津田ちゃんの思いを知っている今となっては呼ぶのはためらわれる。
どうしようと頭を悩ませていると、
「あんまり気にしないでいいじゃないの」
さらりと言った。
「元カレ元カノでも呼ぶ人はいるし、行く人もいるし。結婚式に呼びたいくらい大切な友達なんだってことだろ。来るかどうかは相手次第だけど、嫌な気持ちにはならないんじゃないか」
光彦さんの言葉に、私はちらりと目線を上げる。
「手紙とかメールだと相手の様子が分かりにくいなら、電話してみるとか、会ってみるとか、してもいいし」
言いながらお茶を飲むと、私の視線に気づいて目を上げた。
「何だ?」
「ううん。ヤキモチとか妬かないの?」
「何でだよ」
光彦さんは笑って私の頭に手を伸ばした。
「お前はここに戻って来るんだろ。だったら妬く必要ないじゃないか」
私は微笑んで頷いた。
「光彦さんは? 誰を呼ぶの?」
「あー。そうだなぁ」
首を傾げつつ、考える。
「高校大学の友達と……まあ、マーシーんとことジョーんとこかな」
「上司は?」
「呼んでもいいけど呼ばなくてもいい。演出どうしたいかで考えるよ」
「そっか」
言って私はリストに書いていく。
「アヤノさんとヨーコさんもってことだよね?」
「うん」
光彦さんは頷いて笑った。
「お前は妬かないの?」
「え? 何に?」
「橘。呼んでもいいの?」
私は目をまたたかせて首を傾げた。
「……何で?」
光彦さんは噴き出した。
「だって、アヤノさんを好きだったの、昔の話でしょ」
「まあな」
「告白したわけでもないんでしょ」
「そうだけど」
「これからも、家族ぐるみでつき合って行きたいんでしょ」
「うん」
「なら、いいじゃない」
私は言いながら名前をリストアップした。
「私も、アヤノさんのこと好きだし」
光彦さんは笑う。
「あ、そう。ならよかった」
光彦さんは言った後、ふと思い出すように遠い目をした。
「……もう一人、いるんだけど……未婚女性だと唯一になるから、嫌ならやめる」
「そんな、気にしなくても。誰?」
「江原っていう奴。会社の後輩」
少し気遣わしげな光彦さんの表情がおかしくて、私は笑った。
「呼んで。光彦さんの大事な友達なら、私も会いたい」
光彦さんはほっとしたように微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
ズボラ上司の甘い罠
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる