110 / 114
第十三章 マイスイートホーム(ヒメ視点)
06 仲直り
しおりを挟む
「どうだ? 足」
「大丈夫。もう寝るね」
私は目を合わせずに言って、一人でひょこひょこと寝室に向かった。
光彦さんは私の姿を目で追いながら、何も言わずに立ち上がる。
「……俺も風呂入ってくる」
「うん、おやすみ」
言って、ドアをぱたんと閉じると、暗闇が広がった。途端に孤独が押し寄せる。
ベッドは一つしかない。一人で寝るには広めのベッドは、二人で寝るには狭すぎる。心が寄り添っているときならまだしも、かすかにでも関係に溝を感じたときには、隣り合って眠ることがこんなに苦痛なのだと初めて気づいた。
毎日、光彦さんの隣で眠り、隣で目覚め、頬にキスをし、肩に頭を置き、そっと名を呼ぶ……そんな時間が幸せに思えることは、それこそ幸せなことなんだ。
私は息を吐き出して、もぞもぞとベッドにもぐりこんだ。
風呂場で泣き腫らした目が厚ぼったい。
しまった……明日、腫れるかも。
少し冷やしておけばよかった。
思いながら、目を閉じる。けれどなかなか眠れそうにない。
じっと目を閉じていると、光彦さんがお風呂に入っている水音がかすかに聞こえた。それと同じくらいの大きさで、置き時計がカチカチと時を刻む。
光彦さんが上がって来る前に寝よう。
そう思っていたのに、光彦さんが戻って来るのは思った以上に早かった。
「ヒメ。ーー寝てるか?」
私は寝たふりをして答えない。光彦さんが嘆息した。
ベッドがたわみ、光彦さんが入ってくる気配がする。
身体が強張る。嫌だ。近づかないで。
拒否する一方で、切に願っている。
抱きしめて、愛していると言って。お前だけだと言って。
馬鹿みたい。ーーほんと、馬鹿みたい。
涙があふれるより先に、嗚咽が漏れた。
光彦さんが、私の頬を撫でる。
「……ヒメ?」
声はずるいくらいに優しかった。
私は悔しくなって、光彦さんに背を向けるように転がる。
光彦さんはその背中を包み込むように抱きしめた。
「……どうした」
どうもこうもない。
ただの、みっともない、馬鹿みたいな、嫉妬だ。
私より長く彼と過ごしている彼の友への。
私より間違いない信頼を得ている彼の友への。
醜い、嫉妬だ。
私の口からまた嗚咽が漏れ、ぼろぼろと涙が枕に落ちる。
情けない。結局こうして、泣けば済むとでもいうように、涙に甘んじる自分が情けない。
言えばいいのに。私の前であの人と話さないで、って言えばいい。もしくは、結婚式に呼ぶのはやめて、って言えばいい。
でも、言えないのだ。言えないのが私なのだ。これだけ彼の愛を疑ってかかりながら、それでも、疑ってなどいないと笑っている女を演出しようとしている、下劣な女なんだ。
「……あいつの言ってたことは、気にするな。口は悪いが性格は悪くな……いや性格も悪いかもしれないが根はいいやつなんだ、多分」
全くフォローしきれていない言いぶりに、思わず私は噴き出した。くつくつと笑いながら、切なさと安堵が入り混じった想いが心中を満たす。
「いい人なの? 悪い人なの?」
「……男は邪険に扱う奴だが、女には優しいはずだ」
全然解説にならないコメントに、私はまた笑う。
「そうなんだ」
「多分、ヒメのことも気に入る」
私の胸がちくりと痛んだ。光彦さんは、私の好きなものよりも、彼女の好きなものの方が良く知っていそうな気がした。
「……どうかな。私、わがままだし、ガキだし、おっちょこちょいだし……」
「ヒメ。どうしたんだ?」
苛立ったような光彦さんの声がして、くるりと身体を反転させられた。咎めるような視線が私を射抜く。
今まで与えられた光彦さんからの快感を思い出し、つい身体が期待に震える。そんな自分が浅ましくて恥ずかしくて、やっぱり眠ってしまおうと目を閉じた。
光彦さんが私を抱きしめる。
ああ、駄目。抱きしめられたら。
きっとすぐ、ほだされてしまう。
こんなに怒ったのに。傷ついたのに。
悔しい。
また涙が込み上げる。
光彦さんが困りきったように嘆息した。
「……ごめん」
私は黙って、その胸の鼓動を聞いている。
「お前が何でそんなに傷ついてるのかも、どうすりゃいいのかも分かんねぇ」
ぐらっ、と自分の気持ちが傾ぐ。
光彦さんが、私の頭に頬を寄せ、さらに強く抱き寄せる。
「お前……いっつも笑ってるから……こういうとき、困る」
いつも笑ってるのは。
あなたの隣にいるのが嬉しいからで。
今、傷ついたのは。
私以上に長く、あなたの隣にいた人の存在を知ったからだ。
私は思わず、笑う。
揺れた肩にそれを見て取り、光彦さんがきょとんとした。
顔を上げ、首へと腕を伸ばす。
光彦さんは本当に困ったような顔をしていた。
いつもの余裕なんて、どこか行ってしまったように。
「驚かせてごめんなさい」
微笑んで、その頬に口づける。
頬を頬に寄せ、抱き着いた。
「……光彦さんと彼女が、楽しそうだったから、ヤキモチ妬いた、だけ」
光彦さんが私を抱きしめる。
しばらく背中をさすってくれて、はぁ、とまた息を吐き出した。
私の肩に額を寄せる。
「……ヤキモチなんて、妬くなよ……」
疲れたような声音に、私はくつくつ笑った。
「だって。なんだか、本当に信頼してるような感じだったし」
「まあ、会って十年近くになるからな」
やれやれといった様子で、枕に頭を戻した光彦さんが答える。
「酒が好きな奴だから、しょっちゅう飲みにつき合わされてただけだ。あいつもあいつで……あんなはっちゃけてるけど……想い人がいてさ。今、転勤でドイツ行ってるけど、直前は相当落ち込んでた」
「……失恋しちゃったの?」
私が見上げると、光彦さんは笑った。
穏やかな優しい笑顔に、きゅんとする。
「失恋、て言っていいかわかんねぇけどな。相手が急にいなくなったんだよ。……つっても、理由はあってのことらしいけど」
私の頬を撫でる手が、ときどき首筋に触れる。
……今日は、しないのかなぁ。
つい、思ってしまう自分がいて、恥ずかしくなる。
「ま、でも電話じゃ元気そうだったから安心はした」
光彦さんが言って、私に微笑む。
私も微笑みを返した。
一瞬目を反らし、そっと唇を寄せる。
ちゅ、と、軽く触れて離した。
「仲直りのキス」
光彦さんは笑う。
そして、私の頭に手を添え、キスをくれた。
さっきよりも濃厚な。前戲の、前触れのような。
「はぁ……」
糸引く唾液がきらりと輝く。
思わず漏れた満足げな自分の吐息が恥ずかしい。
光彦さんが嬉しそうに笑った。
「足、痛くないか?」
「わかんない……」
光彦さんはふとんをはいで、私の足首に触れた。
「こっち?」
「うん……」
手が足に触れるのが、私の快感を呼ぶ。
いちいち感じる自分が恥ずかしくて、顔を反らす。
「……熱は持ってないみたいだけど、湿布でも貼っとくか?」
「いい」
私は首を振って、光彦さんを見た。
「……そ、それより……」
恥ずかしくてまた、目をそらす。
「……愛情確認、したいです」
真っ赤になっていると気づきながら、どうにか言葉を紡ぐと、光彦さんが笑った。
「お前も好きだなぁ」
小馬鹿にしたように言いながら、光彦さんは私の足にキスをする。
「ひぇ!」
「何だよ」
「だ、だって足にするなんて思わなかったから!」
「早く治りますようにって、おまじないだよ」
あたふたする私に笑って、光彦さんは足指の先を口に含んだ。
「ひゃぁ」
思わずあがる声が恥ずかしくて、口を押さえる。
光彦さんは目で笑いながら、私の足指を一本一本口にくわえ、舐め、その隙間を吸い、そしてまた次の指へと舌を這わせる。
丁寧に足を舐める姿が、官能的に見えてドキドキする。
「ぇぅ……ぁあ……」
「初めて?」
「ひぇ?」
「足、こういう風にされるの」
私がこくこくと頷くと、光彦さんが嬉しそうに笑う。
「あ、そ」
親指を深く口に含み、ちゅ、と音をたてて吸い上げた。
「なんだ、意外といろいろ試してないのな」
「だ、だ、だって、足なんて、汚いじゃないですか」
「でも、結構イイんだろ?」
にやり、と悪い笑いが返ってきて、また指をちゅっと吸われる。
「はん、もぉーー」
「はい、じゃ今度逆の足」
言って足の甲にキスをする。
王子様みたい、と思ったけど、言ったら嫌がられそうだから心の中に留めた。
「やっぱり後で湿布貼っとこうな。明日痛みが残ったらどこも行けないし」
呟くように言って、光彦さんがもう片方の足を手にする。
私の口から期待するような吐息が漏れた。
「明日ーーどっか、行くの?」
そんな話はしていなかったので聞くと、光彦さんが微笑んだ。
「たまにはな。どこ行きたい?」
言いながら、ちゅ、ちゅ、と足先に口づけ、愛撫する。
なんだか愛を感じて、まだ触られてもいない奥が潤って来るのを感じる。
「……光彦さんと行けるなら、どこでも……」
吐息のような声で言うと、光彦さんは動きを止めた。
目を丸くして私を見ている。
そしてその頬が、赤く染まった。
「……そういうこと、言うしなぁ」
恨めしげに私を見て、足指から始めたキスをだんだんと上げていく。パジャマの裾を膝上までまくりあげ、膝の内側までたどり着いたとき、片膝を自分の肩に乗せた。
「な、なに?」
「はい、腰上げて」
言ってズボンと下着を引き下げる。片足を抜き、その膝も肩にかける。
「や、やだ」
「何が」
「恥ずかしい」
「いまさらだろ」
光彦さんはにやりと笑って、私股へと顔を埋めた。
蕾を舌でこねくりまわすような刺激に、身体中に痺れが走る。
「ひ、ゃあ」
つい、足に力が入った。ぴり、と足首に痛みを感じて息を止める。
光彦さんがはっとして顔を上げた。
「足?」
「だ、いじょうぶ……」
「馬鹿、こんなんで明日に響いたら馬鹿らしいだろ。冷やすもの持ってくるから」
私の膝の間から抜け出た光彦さんが、ベッドから降りようとするのを引き止める。
「や、やだぁ」
泣きそうな私に気づいて、光彦さんが動きを止めた。
「何泣いてんだよ」
「だってぇ」
ふにゃ、と顔が崩れるのを感じるけど、抑えられない。
「……やめないで」
うつむきがちに言うと、光彦さんはあきれたようにため息をついた。
私を抱き寄せ、耳元に口づける。
「お前、そういうの……煽ってるって、自覚ある?」
私は光彦さんの顔を見ようとしたけど、それより先に手をつかまれて、彼の股へと導かれた。
熱を持った硬い存在にどきりとする。
「……分かった?」
「ええと……あの」
私はむしろ、違うことに動揺していた。
「……いっつも、これ、が入ってるの?」
考えてみれば、私は今まで、まともに光彦さんに触れたことがないのだ。
光彦さんはまた、はあぁ、とため息をついた。
「どういう意味?」
「だ、だって……おっきぃ」
言葉の最後は唇で塞がれた。私の手が光彦さん自身に触れたまま、深いキスが交わされる。私の息が鼻から漏れる度、光彦さんがぴくんぴくんと反応するのが分かって、喜びに私自身も濡れて行くのを感じた。
深くて性急なキスに頭がくらくらしてきたとき、光彦さんはようやく唇を離した。鋭い目で私を睨みつけるようにするけど、その目が発情しているのが分かってぞくりとする。
「無防備すぎる」
「だって……旦那さんの前だったら、いいでしょう?」
「孕ませるぞ」
ぎり、と奥歯を噛み締めて睨んで来るので、私は笑った。
「……いいよ」
その首に腕を巻きつける。
「光彦さんがそうしたいなら……いいよ」
耳元で囁いた。
「中、出して」
ごくり、と、唾を飲む音がする。
私に欲情している彼を見るのが、嬉しくて仕方なかった。
しばらくの沈黙の後、光彦さんが息を吐き出す。
「じゃあ、そうする」
私の口に触れ、キスをする。
「ここに出す。いいな?」
私の身体が震えた。
「大丈夫。もう寝るね」
私は目を合わせずに言って、一人でひょこひょこと寝室に向かった。
光彦さんは私の姿を目で追いながら、何も言わずに立ち上がる。
「……俺も風呂入ってくる」
「うん、おやすみ」
言って、ドアをぱたんと閉じると、暗闇が広がった。途端に孤独が押し寄せる。
ベッドは一つしかない。一人で寝るには広めのベッドは、二人で寝るには狭すぎる。心が寄り添っているときならまだしも、かすかにでも関係に溝を感じたときには、隣り合って眠ることがこんなに苦痛なのだと初めて気づいた。
毎日、光彦さんの隣で眠り、隣で目覚め、頬にキスをし、肩に頭を置き、そっと名を呼ぶ……そんな時間が幸せに思えることは、それこそ幸せなことなんだ。
私は息を吐き出して、もぞもぞとベッドにもぐりこんだ。
風呂場で泣き腫らした目が厚ぼったい。
しまった……明日、腫れるかも。
少し冷やしておけばよかった。
思いながら、目を閉じる。けれどなかなか眠れそうにない。
じっと目を閉じていると、光彦さんがお風呂に入っている水音がかすかに聞こえた。それと同じくらいの大きさで、置き時計がカチカチと時を刻む。
光彦さんが上がって来る前に寝よう。
そう思っていたのに、光彦さんが戻って来るのは思った以上に早かった。
「ヒメ。ーー寝てるか?」
私は寝たふりをして答えない。光彦さんが嘆息した。
ベッドがたわみ、光彦さんが入ってくる気配がする。
身体が強張る。嫌だ。近づかないで。
拒否する一方で、切に願っている。
抱きしめて、愛していると言って。お前だけだと言って。
馬鹿みたい。ーーほんと、馬鹿みたい。
涙があふれるより先に、嗚咽が漏れた。
光彦さんが、私の頬を撫でる。
「……ヒメ?」
声はずるいくらいに優しかった。
私は悔しくなって、光彦さんに背を向けるように転がる。
光彦さんはその背中を包み込むように抱きしめた。
「……どうした」
どうもこうもない。
ただの、みっともない、馬鹿みたいな、嫉妬だ。
私より長く彼と過ごしている彼の友への。
私より間違いない信頼を得ている彼の友への。
醜い、嫉妬だ。
私の口からまた嗚咽が漏れ、ぼろぼろと涙が枕に落ちる。
情けない。結局こうして、泣けば済むとでもいうように、涙に甘んじる自分が情けない。
言えばいいのに。私の前であの人と話さないで、って言えばいい。もしくは、結婚式に呼ぶのはやめて、って言えばいい。
でも、言えないのだ。言えないのが私なのだ。これだけ彼の愛を疑ってかかりながら、それでも、疑ってなどいないと笑っている女を演出しようとしている、下劣な女なんだ。
「……あいつの言ってたことは、気にするな。口は悪いが性格は悪くな……いや性格も悪いかもしれないが根はいいやつなんだ、多分」
全くフォローしきれていない言いぶりに、思わず私は噴き出した。くつくつと笑いながら、切なさと安堵が入り混じった想いが心中を満たす。
「いい人なの? 悪い人なの?」
「……男は邪険に扱う奴だが、女には優しいはずだ」
全然解説にならないコメントに、私はまた笑う。
「そうなんだ」
「多分、ヒメのことも気に入る」
私の胸がちくりと痛んだ。光彦さんは、私の好きなものよりも、彼女の好きなものの方が良く知っていそうな気がした。
「……どうかな。私、わがままだし、ガキだし、おっちょこちょいだし……」
「ヒメ。どうしたんだ?」
苛立ったような光彦さんの声がして、くるりと身体を反転させられた。咎めるような視線が私を射抜く。
今まで与えられた光彦さんからの快感を思い出し、つい身体が期待に震える。そんな自分が浅ましくて恥ずかしくて、やっぱり眠ってしまおうと目を閉じた。
光彦さんが私を抱きしめる。
ああ、駄目。抱きしめられたら。
きっとすぐ、ほだされてしまう。
こんなに怒ったのに。傷ついたのに。
悔しい。
また涙が込み上げる。
光彦さんが困りきったように嘆息した。
「……ごめん」
私は黙って、その胸の鼓動を聞いている。
「お前が何でそんなに傷ついてるのかも、どうすりゃいいのかも分かんねぇ」
ぐらっ、と自分の気持ちが傾ぐ。
光彦さんが、私の頭に頬を寄せ、さらに強く抱き寄せる。
「お前……いっつも笑ってるから……こういうとき、困る」
いつも笑ってるのは。
あなたの隣にいるのが嬉しいからで。
今、傷ついたのは。
私以上に長く、あなたの隣にいた人の存在を知ったからだ。
私は思わず、笑う。
揺れた肩にそれを見て取り、光彦さんがきょとんとした。
顔を上げ、首へと腕を伸ばす。
光彦さんは本当に困ったような顔をしていた。
いつもの余裕なんて、どこか行ってしまったように。
「驚かせてごめんなさい」
微笑んで、その頬に口づける。
頬を頬に寄せ、抱き着いた。
「……光彦さんと彼女が、楽しそうだったから、ヤキモチ妬いた、だけ」
光彦さんが私を抱きしめる。
しばらく背中をさすってくれて、はぁ、とまた息を吐き出した。
私の肩に額を寄せる。
「……ヤキモチなんて、妬くなよ……」
疲れたような声音に、私はくつくつ笑った。
「だって。なんだか、本当に信頼してるような感じだったし」
「まあ、会って十年近くになるからな」
やれやれといった様子で、枕に頭を戻した光彦さんが答える。
「酒が好きな奴だから、しょっちゅう飲みにつき合わされてただけだ。あいつもあいつで……あんなはっちゃけてるけど……想い人がいてさ。今、転勤でドイツ行ってるけど、直前は相当落ち込んでた」
「……失恋しちゃったの?」
私が見上げると、光彦さんは笑った。
穏やかな優しい笑顔に、きゅんとする。
「失恋、て言っていいかわかんねぇけどな。相手が急にいなくなったんだよ。……つっても、理由はあってのことらしいけど」
私の頬を撫でる手が、ときどき首筋に触れる。
……今日は、しないのかなぁ。
つい、思ってしまう自分がいて、恥ずかしくなる。
「ま、でも電話じゃ元気そうだったから安心はした」
光彦さんが言って、私に微笑む。
私も微笑みを返した。
一瞬目を反らし、そっと唇を寄せる。
ちゅ、と、軽く触れて離した。
「仲直りのキス」
光彦さんは笑う。
そして、私の頭に手を添え、キスをくれた。
さっきよりも濃厚な。前戲の、前触れのような。
「はぁ……」
糸引く唾液がきらりと輝く。
思わず漏れた満足げな自分の吐息が恥ずかしい。
光彦さんが嬉しそうに笑った。
「足、痛くないか?」
「わかんない……」
光彦さんはふとんをはいで、私の足首に触れた。
「こっち?」
「うん……」
手が足に触れるのが、私の快感を呼ぶ。
いちいち感じる自分が恥ずかしくて、顔を反らす。
「……熱は持ってないみたいだけど、湿布でも貼っとくか?」
「いい」
私は首を振って、光彦さんを見た。
「……そ、それより……」
恥ずかしくてまた、目をそらす。
「……愛情確認、したいです」
真っ赤になっていると気づきながら、どうにか言葉を紡ぐと、光彦さんが笑った。
「お前も好きだなぁ」
小馬鹿にしたように言いながら、光彦さんは私の足にキスをする。
「ひぇ!」
「何だよ」
「だ、だって足にするなんて思わなかったから!」
「早く治りますようにって、おまじないだよ」
あたふたする私に笑って、光彦さんは足指の先を口に含んだ。
「ひゃぁ」
思わずあがる声が恥ずかしくて、口を押さえる。
光彦さんは目で笑いながら、私の足指を一本一本口にくわえ、舐め、その隙間を吸い、そしてまた次の指へと舌を這わせる。
丁寧に足を舐める姿が、官能的に見えてドキドキする。
「ぇぅ……ぁあ……」
「初めて?」
「ひぇ?」
「足、こういう風にされるの」
私がこくこくと頷くと、光彦さんが嬉しそうに笑う。
「あ、そ」
親指を深く口に含み、ちゅ、と音をたてて吸い上げた。
「なんだ、意外といろいろ試してないのな」
「だ、だ、だって、足なんて、汚いじゃないですか」
「でも、結構イイんだろ?」
にやり、と悪い笑いが返ってきて、また指をちゅっと吸われる。
「はん、もぉーー」
「はい、じゃ今度逆の足」
言って足の甲にキスをする。
王子様みたい、と思ったけど、言ったら嫌がられそうだから心の中に留めた。
「やっぱり後で湿布貼っとこうな。明日痛みが残ったらどこも行けないし」
呟くように言って、光彦さんがもう片方の足を手にする。
私の口から期待するような吐息が漏れた。
「明日ーーどっか、行くの?」
そんな話はしていなかったので聞くと、光彦さんが微笑んだ。
「たまにはな。どこ行きたい?」
言いながら、ちゅ、ちゅ、と足先に口づけ、愛撫する。
なんだか愛を感じて、まだ触られてもいない奥が潤って来るのを感じる。
「……光彦さんと行けるなら、どこでも……」
吐息のような声で言うと、光彦さんは動きを止めた。
目を丸くして私を見ている。
そしてその頬が、赤く染まった。
「……そういうこと、言うしなぁ」
恨めしげに私を見て、足指から始めたキスをだんだんと上げていく。パジャマの裾を膝上までまくりあげ、膝の内側までたどり着いたとき、片膝を自分の肩に乗せた。
「な、なに?」
「はい、腰上げて」
言ってズボンと下着を引き下げる。片足を抜き、その膝も肩にかける。
「や、やだ」
「何が」
「恥ずかしい」
「いまさらだろ」
光彦さんはにやりと笑って、私股へと顔を埋めた。
蕾を舌でこねくりまわすような刺激に、身体中に痺れが走る。
「ひ、ゃあ」
つい、足に力が入った。ぴり、と足首に痛みを感じて息を止める。
光彦さんがはっとして顔を上げた。
「足?」
「だ、いじょうぶ……」
「馬鹿、こんなんで明日に響いたら馬鹿らしいだろ。冷やすもの持ってくるから」
私の膝の間から抜け出た光彦さんが、ベッドから降りようとするのを引き止める。
「や、やだぁ」
泣きそうな私に気づいて、光彦さんが動きを止めた。
「何泣いてんだよ」
「だってぇ」
ふにゃ、と顔が崩れるのを感じるけど、抑えられない。
「……やめないで」
うつむきがちに言うと、光彦さんはあきれたようにため息をついた。
私を抱き寄せ、耳元に口づける。
「お前、そういうの……煽ってるって、自覚ある?」
私は光彦さんの顔を見ようとしたけど、それより先に手をつかまれて、彼の股へと導かれた。
熱を持った硬い存在にどきりとする。
「……分かった?」
「ええと……あの」
私はむしろ、違うことに動揺していた。
「……いっつも、これ、が入ってるの?」
考えてみれば、私は今まで、まともに光彦さんに触れたことがないのだ。
光彦さんはまた、はあぁ、とため息をついた。
「どういう意味?」
「だ、だって……おっきぃ」
言葉の最後は唇で塞がれた。私の手が光彦さん自身に触れたまま、深いキスが交わされる。私の息が鼻から漏れる度、光彦さんがぴくんぴくんと反応するのが分かって、喜びに私自身も濡れて行くのを感じた。
深くて性急なキスに頭がくらくらしてきたとき、光彦さんはようやく唇を離した。鋭い目で私を睨みつけるようにするけど、その目が発情しているのが分かってぞくりとする。
「無防備すぎる」
「だって……旦那さんの前だったら、いいでしょう?」
「孕ませるぞ」
ぎり、と奥歯を噛み締めて睨んで来るので、私は笑った。
「……いいよ」
その首に腕を巻きつける。
「光彦さんがそうしたいなら……いいよ」
耳元で囁いた。
「中、出して」
ごくり、と、唾を飲む音がする。
私に欲情している彼を見るのが、嬉しくて仕方なかった。
しばらくの沈黙の後、光彦さんが息を吐き出す。
「じゃあ、そうする」
私の口に触れ、キスをする。
「ここに出す。いいな?」
私の身体が震えた。
0
あなたにおすすめの小説
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
ズボラ上司の甘い罠
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる