10 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
10 冷凍庫的な意味で労働環境の改善を要求したい。
しおりを挟む
「サリーちゃん、ご機嫌じゃない。どうしたの?」
職場の冷蔵庫にお昼ご飯のサンドイッチを、冷凍庫にアイスを突っ込んでデスクに着いた私に、なっちゃんから鋭い指摘が飛んできた。
いや、るんるん鼻歌混じりに登場した私が分かりやすすぎるのかもしれないが。問われてはっと我に返り、ぶるんぶるんと首を振った。
「なんれもないれす!」
それにしても、最近会う回数が減っていたとはいえ、数年つき合った男とーーしかも年齢的には結婚もあるのかなぁなんて考えていた男と別れたばかりだというのに。私は割と薄情だったのかと我ながらちょっとショックを受ける。いや違う、切り替えがうまいのだと思っておこう。短所は長所、ポジティブシンキングの方が何事もうまく行く気がする。 というのがサリーちゃんスタイル。文句ある?(強気)
「大好きなアイスの期間限定フレバー、ようやく見つけたから嬉しくて。お昼休み楽しみだなぁ」
ウキウキ言うと、なっちゃんは笑った。
「ああ、そういうこと」
「アイス?そういえばオフィスの冷凍庫ーー」
佐々マネが何か言いかけたとき、デスクの電話が鳴った。佐々マネが電話を取り、話しはじめる。何を言おうとしたのか分からないまま、私は昼休みのアイスを楽しみに仕事に精を出した。
さて、待ちに待ったランチタイム。サンドイッチを平らげて、自分にプチご褒美なアイスへ取り掛かろうとほとんど拝むように手を合わせた私に、なっちゃんが横から声をかけた。
「それが期間限定フレバー?ラズベリーチョコか、おいしそう」
「そうでしょそうでしょ。先週から出はじめたんだけど、なかなかないのよー。ようやくゲットしたの」
爽やかリーマンから奪取して。とは心の内で付け足しながら、内蓋をめくったときだった。
ぶしゃ、べとべとべと。
ぼと。
「……え」
飛び散ったアイスで手や机どころか膝上までべっとべとである。溶けていたらしいと気づいたのは停止した思考回路が再起動した後のこと。
「あああ」
べったべたの状態で身動きも取れないまま、ただただ声を出す。
「あああああ」
「あ、ごめん」
佐々マネがそれを見て言った。
「さっき言おうとして言いそびれちゃった。今、オフィスの冷凍庫壊れてるんだって。冷蔵庫の方が効きがいいくらいだって言ってたよ」
それもっと早く教えてくださいせめて一分前なら間に合ったのに。
「お詫びに一分前にタイムワープする方法を教えてください」
「そんなことできたら僕は今頃一株当ててこんなところで仕事してないよ」
「佐々木マネージャー、なかなか上手い返しですね」
なっちゃんが言いながらぞうきんを持ってきてくれた。
「でも服をぞうきんで拭くのもね」
「杉田さん、それギャグ?」
「佐々マネ、なっちゃんの思いやりを大無しにしないでください」
私は言いながらなっちゃんからぞうきんを受けとった。机の上を拭いながらぼやく。
「うわー、ショック」
「だよね。誰か着替えとか持ってるかな……」
「せっかくの期間限定フレバーが……」
「え?そっち?ショックなのそっち?」
あまりの落胆に涙すら浮かびそうだ。この一週間探して探して、ようやく(爽やかリーマンから奪取して)ゲットした品だったというのに。
そのままゴミにするのは悔しいので、わずかに器に残ったとろっとろのそれをスプーンで掬い上げ、口に運ぶ。アイスの形状はしていないが、美味であることに変わりない。品薄になるのは分かる味だ。
「くぅううう……いつか……いつかリベンジを……」
「……何これ。どうしたの?」
いきなり現れたのは眼鏡男子・前田氏だ。私が振り返ると、かなり怪訝そうな彼の顔が見える。
「私は今君のブリザード攻撃に耐えられるメンタルじゃないから察してくれたまえ」
「何それ」
前田氏は呆れたように言うと、私の手にしたアイスのカップと散々なデスク周りをしげしげと見つめた。
「あーあ、キーボードが」
ーーそこかよ。
ちくしょー。なっちゃんは服の心配してくれたのに。お前はあれか、SEだけにパソコンが恋人です、みたいなあれか。何人でも愛人作ってろ。人じゃないけど。けっ。
「備品損害すると始末書書いて庶務課に提出するんだよ。俺も前一回やったから」
ほほう、何だよ仲間か。ついついにやりとして見やると、呆れたような半眼を返された。
「クリップ留めしてた書類を挟んだままノートパソコン閉じたんだ。残業続きでほぼ72時間寝ずにいたときにね」
お前とは状況が違うんだよと言外にーーいや明確に示している。まあ確かにアイス零して備品破損とか普通ないよね。せいぜい飲み物零してとかだよね。どう書けばいいんだろう。冷凍庫が壊れているのを知らずアイスを入れて溶けたのに気づかず開封しましたって?冷凍庫が壊れてるところが悪かったんだって思えるような書きぶりにすればみんな憐れんでくれるかな。そうだよだって私悪くなくない?冷凍庫壊れてますってあとで張り紙しとこう。アイスの絵描いて上に赤バッテン書いてね。入れるなキケン。
「でも、相変わらず、好きなんだね。それ」
思考を巡らせていたところ降って来た前田氏の言葉に、おや?と首を傾げる。相変わらず、とはーー
「前田さん……やっぱり、以前会ったことあります?」
私の言葉に、前田氏は盛大なため息をついた。
職場の冷蔵庫にお昼ご飯のサンドイッチを、冷凍庫にアイスを突っ込んでデスクに着いた私に、なっちゃんから鋭い指摘が飛んできた。
いや、るんるん鼻歌混じりに登場した私が分かりやすすぎるのかもしれないが。問われてはっと我に返り、ぶるんぶるんと首を振った。
「なんれもないれす!」
それにしても、最近会う回数が減っていたとはいえ、数年つき合った男とーーしかも年齢的には結婚もあるのかなぁなんて考えていた男と別れたばかりだというのに。私は割と薄情だったのかと我ながらちょっとショックを受ける。いや違う、切り替えがうまいのだと思っておこう。短所は長所、ポジティブシンキングの方が何事もうまく行く気がする。 というのがサリーちゃんスタイル。文句ある?(強気)
「大好きなアイスの期間限定フレバー、ようやく見つけたから嬉しくて。お昼休み楽しみだなぁ」
ウキウキ言うと、なっちゃんは笑った。
「ああ、そういうこと」
「アイス?そういえばオフィスの冷凍庫ーー」
佐々マネが何か言いかけたとき、デスクの電話が鳴った。佐々マネが電話を取り、話しはじめる。何を言おうとしたのか分からないまま、私は昼休みのアイスを楽しみに仕事に精を出した。
さて、待ちに待ったランチタイム。サンドイッチを平らげて、自分にプチご褒美なアイスへ取り掛かろうとほとんど拝むように手を合わせた私に、なっちゃんが横から声をかけた。
「それが期間限定フレバー?ラズベリーチョコか、おいしそう」
「そうでしょそうでしょ。先週から出はじめたんだけど、なかなかないのよー。ようやくゲットしたの」
爽やかリーマンから奪取して。とは心の内で付け足しながら、内蓋をめくったときだった。
ぶしゃ、べとべとべと。
ぼと。
「……え」
飛び散ったアイスで手や机どころか膝上までべっとべとである。溶けていたらしいと気づいたのは停止した思考回路が再起動した後のこと。
「あああ」
べったべたの状態で身動きも取れないまま、ただただ声を出す。
「あああああ」
「あ、ごめん」
佐々マネがそれを見て言った。
「さっき言おうとして言いそびれちゃった。今、オフィスの冷凍庫壊れてるんだって。冷蔵庫の方が効きがいいくらいだって言ってたよ」
それもっと早く教えてくださいせめて一分前なら間に合ったのに。
「お詫びに一分前にタイムワープする方法を教えてください」
「そんなことできたら僕は今頃一株当ててこんなところで仕事してないよ」
「佐々木マネージャー、なかなか上手い返しですね」
なっちゃんが言いながらぞうきんを持ってきてくれた。
「でも服をぞうきんで拭くのもね」
「杉田さん、それギャグ?」
「佐々マネ、なっちゃんの思いやりを大無しにしないでください」
私は言いながらなっちゃんからぞうきんを受けとった。机の上を拭いながらぼやく。
「うわー、ショック」
「だよね。誰か着替えとか持ってるかな……」
「せっかくの期間限定フレバーが……」
「え?そっち?ショックなのそっち?」
あまりの落胆に涙すら浮かびそうだ。この一週間探して探して、ようやく(爽やかリーマンから奪取して)ゲットした品だったというのに。
そのままゴミにするのは悔しいので、わずかに器に残ったとろっとろのそれをスプーンで掬い上げ、口に運ぶ。アイスの形状はしていないが、美味であることに変わりない。品薄になるのは分かる味だ。
「くぅううう……いつか……いつかリベンジを……」
「……何これ。どうしたの?」
いきなり現れたのは眼鏡男子・前田氏だ。私が振り返ると、かなり怪訝そうな彼の顔が見える。
「私は今君のブリザード攻撃に耐えられるメンタルじゃないから察してくれたまえ」
「何それ」
前田氏は呆れたように言うと、私の手にしたアイスのカップと散々なデスク周りをしげしげと見つめた。
「あーあ、キーボードが」
ーーそこかよ。
ちくしょー。なっちゃんは服の心配してくれたのに。お前はあれか、SEだけにパソコンが恋人です、みたいなあれか。何人でも愛人作ってろ。人じゃないけど。けっ。
「備品損害すると始末書書いて庶務課に提出するんだよ。俺も前一回やったから」
ほほう、何だよ仲間か。ついついにやりとして見やると、呆れたような半眼を返された。
「クリップ留めしてた書類を挟んだままノートパソコン閉じたんだ。残業続きでほぼ72時間寝ずにいたときにね」
お前とは状況が違うんだよと言外にーーいや明確に示している。まあ確かにアイス零して備品破損とか普通ないよね。せいぜい飲み物零してとかだよね。どう書けばいいんだろう。冷凍庫が壊れているのを知らずアイスを入れて溶けたのに気づかず開封しましたって?冷凍庫が壊れてるところが悪かったんだって思えるような書きぶりにすればみんな憐れんでくれるかな。そうだよだって私悪くなくない?冷凍庫壊れてますってあとで張り紙しとこう。アイスの絵描いて上に赤バッテン書いてね。入れるなキケン。
「でも、相変わらず、好きなんだね。それ」
思考を巡らせていたところ降って来た前田氏の言葉に、おや?と首を傾げる。相変わらず、とはーー
「前田さん……やっぱり、以前会ったことあります?」
私の言葉に、前田氏は盛大なため息をついた。
1
あなたにおすすめの小説
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!
有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!?
「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。
でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした!
「君がいたから、この国は守られていたんだよ」
えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!?
竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート!
そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる