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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
10 冷凍庫的な意味で労働環境の改善を要求したい。
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「サリーちゃん、ご機嫌じゃない。どうしたの?」
職場の冷蔵庫にお昼ご飯のサンドイッチを、冷凍庫にアイスを突っ込んでデスクに着いた私に、なっちゃんから鋭い指摘が飛んできた。
いや、るんるん鼻歌混じりに登場した私が分かりやすすぎるのかもしれないが。問われてはっと我に返り、ぶるんぶるんと首を振った。
「なんれもないれす!」
それにしても、最近会う回数が減っていたとはいえ、数年つき合った男とーーしかも年齢的には結婚もあるのかなぁなんて考えていた男と別れたばかりだというのに。私は割と薄情だったのかと我ながらちょっとショックを受ける。いや違う、切り替えがうまいのだと思っておこう。短所は長所、ポジティブシンキングの方が何事もうまく行く気がする。 というのがサリーちゃんスタイル。文句ある?(強気)
「大好きなアイスの期間限定フレバー、ようやく見つけたから嬉しくて。お昼休み楽しみだなぁ」
ウキウキ言うと、なっちゃんは笑った。
「ああ、そういうこと」
「アイス?そういえばオフィスの冷凍庫ーー」
佐々マネが何か言いかけたとき、デスクの電話が鳴った。佐々マネが電話を取り、話しはじめる。何を言おうとしたのか分からないまま、私は昼休みのアイスを楽しみに仕事に精を出した。
さて、待ちに待ったランチタイム。サンドイッチを平らげて、自分にプチご褒美なアイスへ取り掛かろうとほとんど拝むように手を合わせた私に、なっちゃんが横から声をかけた。
「それが期間限定フレバー?ラズベリーチョコか、おいしそう」
「そうでしょそうでしょ。先週から出はじめたんだけど、なかなかないのよー。ようやくゲットしたの」
爽やかリーマンから奪取して。とは心の内で付け足しながら、内蓋をめくったときだった。
ぶしゃ、べとべとべと。
ぼと。
「……え」
飛び散ったアイスで手や机どころか膝上までべっとべとである。溶けていたらしいと気づいたのは停止した思考回路が再起動した後のこと。
「あああ」
べったべたの状態で身動きも取れないまま、ただただ声を出す。
「あああああ」
「あ、ごめん」
佐々マネがそれを見て言った。
「さっき言おうとして言いそびれちゃった。今、オフィスの冷凍庫壊れてるんだって。冷蔵庫の方が効きがいいくらいだって言ってたよ」
それもっと早く教えてくださいせめて一分前なら間に合ったのに。
「お詫びに一分前にタイムワープする方法を教えてください」
「そんなことできたら僕は今頃一株当ててこんなところで仕事してないよ」
「佐々木マネージャー、なかなか上手い返しですね」
なっちゃんが言いながらぞうきんを持ってきてくれた。
「でも服をぞうきんで拭くのもね」
「杉田さん、それギャグ?」
「佐々マネ、なっちゃんの思いやりを大無しにしないでください」
私は言いながらなっちゃんからぞうきんを受けとった。机の上を拭いながらぼやく。
「うわー、ショック」
「だよね。誰か着替えとか持ってるかな……」
「せっかくの期間限定フレバーが……」
「え?そっち?ショックなのそっち?」
あまりの落胆に涙すら浮かびそうだ。この一週間探して探して、ようやく(爽やかリーマンから奪取して)ゲットした品だったというのに。
そのままゴミにするのは悔しいので、わずかに器に残ったとろっとろのそれをスプーンで掬い上げ、口に運ぶ。アイスの形状はしていないが、美味であることに変わりない。品薄になるのは分かる味だ。
「くぅううう……いつか……いつかリベンジを……」
「……何これ。どうしたの?」
いきなり現れたのは眼鏡男子・前田氏だ。私が振り返ると、かなり怪訝そうな彼の顔が見える。
「私は今君のブリザード攻撃に耐えられるメンタルじゃないから察してくれたまえ」
「何それ」
前田氏は呆れたように言うと、私の手にしたアイスのカップと散々なデスク周りをしげしげと見つめた。
「あーあ、キーボードが」
ーーそこかよ。
ちくしょー。なっちゃんは服の心配してくれたのに。お前はあれか、SEだけにパソコンが恋人です、みたいなあれか。何人でも愛人作ってろ。人じゃないけど。けっ。
「備品損害すると始末書書いて庶務課に提出するんだよ。俺も前一回やったから」
ほほう、何だよ仲間か。ついついにやりとして見やると、呆れたような半眼を返された。
「クリップ留めしてた書類を挟んだままノートパソコン閉じたんだ。残業続きでほぼ72時間寝ずにいたときにね」
お前とは状況が違うんだよと言外にーーいや明確に示している。まあ確かにアイス零して備品破損とか普通ないよね。せいぜい飲み物零してとかだよね。どう書けばいいんだろう。冷凍庫が壊れているのを知らずアイスを入れて溶けたのに気づかず開封しましたって?冷凍庫が壊れてるところが悪かったんだって思えるような書きぶりにすればみんな憐れんでくれるかな。そうだよだって私悪くなくない?冷凍庫壊れてますってあとで張り紙しとこう。アイスの絵描いて上に赤バッテン書いてね。入れるなキケン。
「でも、相変わらず、好きなんだね。それ」
思考を巡らせていたところ降って来た前田氏の言葉に、おや?と首を傾げる。相変わらず、とはーー
「前田さん……やっぱり、以前会ったことあります?」
私の言葉に、前田氏は盛大なため息をついた。
職場の冷蔵庫にお昼ご飯のサンドイッチを、冷凍庫にアイスを突っ込んでデスクに着いた私に、なっちゃんから鋭い指摘が飛んできた。
いや、るんるん鼻歌混じりに登場した私が分かりやすすぎるのかもしれないが。問われてはっと我に返り、ぶるんぶるんと首を振った。
「なんれもないれす!」
それにしても、最近会う回数が減っていたとはいえ、数年つき合った男とーーしかも年齢的には結婚もあるのかなぁなんて考えていた男と別れたばかりだというのに。私は割と薄情だったのかと我ながらちょっとショックを受ける。いや違う、切り替えがうまいのだと思っておこう。短所は長所、ポジティブシンキングの方が何事もうまく行く気がする。 というのがサリーちゃんスタイル。文句ある?(強気)
「大好きなアイスの期間限定フレバー、ようやく見つけたから嬉しくて。お昼休み楽しみだなぁ」
ウキウキ言うと、なっちゃんは笑った。
「ああ、そういうこと」
「アイス?そういえばオフィスの冷凍庫ーー」
佐々マネが何か言いかけたとき、デスクの電話が鳴った。佐々マネが電話を取り、話しはじめる。何を言おうとしたのか分からないまま、私は昼休みのアイスを楽しみに仕事に精を出した。
さて、待ちに待ったランチタイム。サンドイッチを平らげて、自分にプチご褒美なアイスへ取り掛かろうとほとんど拝むように手を合わせた私に、なっちゃんが横から声をかけた。
「それが期間限定フレバー?ラズベリーチョコか、おいしそう」
「そうでしょそうでしょ。先週から出はじめたんだけど、なかなかないのよー。ようやくゲットしたの」
爽やかリーマンから奪取して。とは心の内で付け足しながら、内蓋をめくったときだった。
ぶしゃ、べとべとべと。
ぼと。
「……え」
飛び散ったアイスで手や机どころか膝上までべっとべとである。溶けていたらしいと気づいたのは停止した思考回路が再起動した後のこと。
「あああ」
べったべたの状態で身動きも取れないまま、ただただ声を出す。
「あああああ」
「あ、ごめん」
佐々マネがそれを見て言った。
「さっき言おうとして言いそびれちゃった。今、オフィスの冷凍庫壊れてるんだって。冷蔵庫の方が効きがいいくらいだって言ってたよ」
それもっと早く教えてくださいせめて一分前なら間に合ったのに。
「お詫びに一分前にタイムワープする方法を教えてください」
「そんなことできたら僕は今頃一株当ててこんなところで仕事してないよ」
「佐々木マネージャー、なかなか上手い返しですね」
なっちゃんが言いながらぞうきんを持ってきてくれた。
「でも服をぞうきんで拭くのもね」
「杉田さん、それギャグ?」
「佐々マネ、なっちゃんの思いやりを大無しにしないでください」
私は言いながらなっちゃんからぞうきんを受けとった。机の上を拭いながらぼやく。
「うわー、ショック」
「だよね。誰か着替えとか持ってるかな……」
「せっかくの期間限定フレバーが……」
「え?そっち?ショックなのそっち?」
あまりの落胆に涙すら浮かびそうだ。この一週間探して探して、ようやく(爽やかリーマンから奪取して)ゲットした品だったというのに。
そのままゴミにするのは悔しいので、わずかに器に残ったとろっとろのそれをスプーンで掬い上げ、口に運ぶ。アイスの形状はしていないが、美味であることに変わりない。品薄になるのは分かる味だ。
「くぅううう……いつか……いつかリベンジを……」
「……何これ。どうしたの?」
いきなり現れたのは眼鏡男子・前田氏だ。私が振り返ると、かなり怪訝そうな彼の顔が見える。
「私は今君のブリザード攻撃に耐えられるメンタルじゃないから察してくれたまえ」
「何それ」
前田氏は呆れたように言うと、私の手にしたアイスのカップと散々なデスク周りをしげしげと見つめた。
「あーあ、キーボードが」
ーーそこかよ。
ちくしょー。なっちゃんは服の心配してくれたのに。お前はあれか、SEだけにパソコンが恋人です、みたいなあれか。何人でも愛人作ってろ。人じゃないけど。けっ。
「備品損害すると始末書書いて庶務課に提出するんだよ。俺も前一回やったから」
ほほう、何だよ仲間か。ついついにやりとして見やると、呆れたような半眼を返された。
「クリップ留めしてた書類を挟んだままノートパソコン閉じたんだ。残業続きでほぼ72時間寝ずにいたときにね」
お前とは状況が違うんだよと言外にーーいや明確に示している。まあ確かにアイス零して備品破損とか普通ないよね。せいぜい飲み物零してとかだよね。どう書けばいいんだろう。冷凍庫が壊れているのを知らずアイスを入れて溶けたのに気づかず開封しましたって?冷凍庫が壊れてるところが悪かったんだって思えるような書きぶりにすればみんな憐れんでくれるかな。そうだよだって私悪くなくない?冷凍庫壊れてますってあとで張り紙しとこう。アイスの絵描いて上に赤バッテン書いてね。入れるなキケン。
「でも、相変わらず、好きなんだね。それ」
思考を巡らせていたところ降って来た前田氏の言葉に、おや?と首を傾げる。相変わらず、とはーー
「前田さん……やっぱり、以前会ったことあります?」
私の言葉に、前田氏は盛大なため息をついた。
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