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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

37 アイスクリームの美味しさは罪作りかもしれないけどアイスクリームに罪はない。

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 おにぎりをあっという間に食べ終わり、さてさてアイスである。私は知らず知らずウキウキしてくる気持ちを鼻歌に乗せて外蓋を外した。
 先日の件があるので、少しケースを押して一応硬さを確認する。いざとなれば内蓋を開かなければ持ち帰って固め直せば食べられるだろう。
 指先に跳ね返ってくる感触に安堵する。うん、若干溶けてはいそうだけど、トロトロにはなっていない。よかった、まだ大丈夫そう。
 内蓋をそろそろと開けながらーーこれも、いきおいよく剥がして飛び散らせたらデスク周りを掃除するのが大変だと学んだ為だーー私の心はウキウキワクワクしている。まだ食べていないのに、口内にアイスの甘さが広がっているような錯覚すら覚え、よだれが分泌されるのを感じる。
 そういえば、別腹って本当にあるんだって聞いたことがある。あるっていうか、他のところにできるわけじゃなくて、満腹状態であっても好物を見るとそれを胃に入れようと一生懸命場所を開けるんだって。人間の身体ってすごいよね。よくできてるよね。
 人体の不思議に思いを馳せてしまうほどの、この感動の瞬間である。
 チョコレートアイスの中に、ラズベリーの深い赤が散っているのが見える。ついつい緩む口元をそのままに、スプーンを取り出して手を合わせる。
「いっただっきまーす」
 でへ。何も食べずに終えるつもりだったお昼休みが、おにぎりとアイスという私的にはフルコースを楽しめることになったこの望外の喜びよ。
 スプーンでアイスをひと掬いすると、口に運ぶ。ラズベリーの酸味とチョコレートが口の中に広がり、溶けていく。
 うーん、やっぱりジャスティスっ。
「前田くんって、ツンデレなのね」
 差し入れられたアイスクリームをつついている私に、なっちゃんが不意に言った。先ほどの前田の態度を思い出し、私は思い切り顔をしかめる。
「ツンデレ?」
 あいつのどこがツンデレだというのか。ツンデレはデレがあってこそだろう。
 だいたい、海苔の端っこが破れたくらいで呆れるなんて、どんだけ潔癖症だ。あれか、SE的に言う「美しくない」ってやつか。大してファッションセンスがあるわけでもないのに何だその美しくない、って。そういえば受験勉強していたとき、数学が得意な友人が3125分の256という数字を見て喜んでいた。五の五乗と四の四乗だから美しいんだって。ほんと訳わかんない。全然わかんない。つーか一所懸命因数分解できるか考えた私が馬鹿みたいじゃんよ。と言ったら「センターはマーキングだから、四角の数で桁分かるでしょ。それ見れば合ってるって分かるじゃん」とか抜かしやがって、何だその裏技!そんな裏技は数学的に許されるのか!?と思いながらも参考にさせてもらったあの頃よ。
 まあそんな思い出はさておき、前田の話である。
「あいつはツンデレじゃなくて、ただのツンツンよ、ツンツン。デレ要素があるならお目にかかってみたいもんだわ」
 わずかに唇を尖らせ、文句を垂れつつアイスを口に放り込む。差し入れた前田がどうあれ、差し入れられた美味しいそれに罪はない。甘くて冷たい甘美な舌触りを堪能していると、なっちゃんは笑った。
「ミスして落ち込んでるところに、好物のアイス差し入れてくれるところがデレでしょ。優しいじゃない」
 ーーはっ!?
 私はものすごい顔をしてなっちゃんを見てしまった気がする。なっちゃんは笑いを堪えるような顔で肩をすくめた。
「だったら最初からそう言えばいいのに!そんな分かりにくすぎるデレはデレとして認めません!」
「そうかなぁ。分かりやすいと思うけど」
 なっちゃんの呟きはガン無視することに決めて、大好きなアイスクリームに集中することにした私だった。何度も言うけどアイスに罪はないもんね!
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