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11.紡ぐ時
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「お疲れ様で──」
「っだぁ! ちょっと待っ──」
ドアを開け放つと部屋は間接照明の明かりだけが照らされていた。ドアが開かれるのを止めようと駆け寄った牧田とガラス越しに目が合う。目の前の牧田の姿に結衣は釘付けだ。
「「…………」」
牧田はシャワーを浴びていたようで、体中が濡れていて下半身に白いバスタオルを巻いただけの姿だった。上半身の筋肉と無駄な肉のない体が目の前に現れたら誰だってこんな反応になるだろう。
「すみません! 宅急便と勘違いして返事しちゃって……こんな格好──」
「いえいえ、ご馳走様です」
フォローの言葉もおかしくなるぐらい内心焦りまくる結衣に牧田は慌てて服を着ようと立ち上がる。
「う、わっ!」
いつもピカピカなフローリングが仇となった。滴る水が床に溜まっていた。慌てて脱衣所に戻ろうとした牧田が見事なまでに滑った。それはもうコントみたいに。ものすごい衝撃とともに牧田の体が床に叩きつけられ……そして──白いタオルがパサッと床に落ちるのを結衣はじっと見ていた。
「…………」
「……あ」
長い沈黙だった。同時にどちらが叫び声をあげたのかもわからないほど二人の声が響く。
「待って! 見えてる! 色々見えてる!」
「うわ、わ、ちょっ! 先輩!」
牧田はそばの本棚から隠せるものを手当たり次第引っ張り出すが流石に文庫本サイズでは心許ない。床にちらばった書籍たちにはご丁寧にモザイクが入るが、今一番入って欲しい牧田のある部分にはモザイクが入らない。神さまもそこは臨機応変に対処してほしい。嫁入り前の娘の目の前に部位が惜しげもなく曝け出されているのだ。粗くていいからモザイクをかけてくれよと訴えたい。
牧田は顔を真っ赤にさせながら必死に手で押さえるがこういう時に部屋に物が少ないのが仇となった。結局必死でバスルームまで走っていって、しばらく帰ってこなかった。相当焦っていたのだろう初めからそうしてくれていれば二人ともここまで血圧が上がらなくて済んだが……既に後の祭りだ。
「大変、失礼、致しました……」
「あの、こちらこそ、あとで思ったんですけど目を瞑ればよかったですね……すみません」
すっかり恐縮して戻ってきた牧田のTシャツにはたまたま✖️のマークが描かれていて下に小さくダメと書かれている。まぁこの状況だと自然とこれを選んでも不思議じゃないかと思う。
風呂に入る前に食べたのだろうか、牧田はコンビ二のざる蕎麦弁当を食べていたらしい。ガラスのテーブルに食べたゴミがそのまま置かれている。結衣がいる世界ではちょうど美味しい季節だが寒い季節の牧田にとってはつらい食事だろう。
今なお顔を伏せて赤らめる牧田は可愛らしい。
空気を変えるために結衣が話を振る。
「ざる蕎麦すする音って、なんか夏だなぁって感じしませんか? アレルギーで食べられないけど、なんか涼しげで毎年羨ましいです」
「そうですね、先輩は食べれなかったですもんね」
何かを思い出したようにふっと微笑むと頷く。今まで牧田とはランチを一緒に食べたことはないがこれからきっと機会があるのだろう。楽しみで嬉しくなる。
ふと牧田の横顔を見ると顎のラインに沿って五センチほど切り傷があることに気付く。風呂上がりで傷の肉芽部分だけが白いままだ。前回は気がつかなかった……。顎の周りにあるヒゲで上手く隠されていたようだ。
「その傷どうしたんですか? 五年前には無かったと思うけど……」
結衣の言葉に牧田は視線をサッとそらすと傷を隠すように掌で覆った。すぐに牧田に謝り話を逸らすが牧田はその日顎から手を離すことはなかった。
男性とはいえ残る傷のことを容易に聞いてはいけなかったと反省していた。自分の不謹慎な言葉で傷ついたかもしれない。あの時の牧田の瞳は悲しみを通り越して苦悶の色を含んでいた。
「っだぁ! ちょっと待っ──」
ドアを開け放つと部屋は間接照明の明かりだけが照らされていた。ドアが開かれるのを止めようと駆け寄った牧田とガラス越しに目が合う。目の前の牧田の姿に結衣は釘付けだ。
「「…………」」
牧田はシャワーを浴びていたようで、体中が濡れていて下半身に白いバスタオルを巻いただけの姿だった。上半身の筋肉と無駄な肉のない体が目の前に現れたら誰だってこんな反応になるだろう。
「すみません! 宅急便と勘違いして返事しちゃって……こんな格好──」
「いえいえ、ご馳走様です」
フォローの言葉もおかしくなるぐらい内心焦りまくる結衣に牧田は慌てて服を着ようと立ち上がる。
「う、わっ!」
いつもピカピカなフローリングが仇となった。滴る水が床に溜まっていた。慌てて脱衣所に戻ろうとした牧田が見事なまでに滑った。それはもうコントみたいに。ものすごい衝撃とともに牧田の体が床に叩きつけられ……そして──白いタオルがパサッと床に落ちるのを結衣はじっと見ていた。
「…………」
「……あ」
長い沈黙だった。同時にどちらが叫び声をあげたのかもわからないほど二人の声が響く。
「待って! 見えてる! 色々見えてる!」
「うわ、わ、ちょっ! 先輩!」
牧田はそばの本棚から隠せるものを手当たり次第引っ張り出すが流石に文庫本サイズでは心許ない。床にちらばった書籍たちにはご丁寧にモザイクが入るが、今一番入って欲しい牧田のある部分にはモザイクが入らない。神さまもそこは臨機応変に対処してほしい。嫁入り前の娘の目の前に部位が惜しげもなく曝け出されているのだ。粗くていいからモザイクをかけてくれよと訴えたい。
牧田は顔を真っ赤にさせながら必死に手で押さえるがこういう時に部屋に物が少ないのが仇となった。結局必死でバスルームまで走っていって、しばらく帰ってこなかった。相当焦っていたのだろう初めからそうしてくれていれば二人ともここまで血圧が上がらなくて済んだが……既に後の祭りだ。
「大変、失礼、致しました……」
「あの、こちらこそ、あとで思ったんですけど目を瞑ればよかったですね……すみません」
すっかり恐縮して戻ってきた牧田のTシャツにはたまたま✖️のマークが描かれていて下に小さくダメと書かれている。まぁこの状況だと自然とこれを選んでも不思議じゃないかと思う。
風呂に入る前に食べたのだろうか、牧田はコンビ二のざる蕎麦弁当を食べていたらしい。ガラスのテーブルに食べたゴミがそのまま置かれている。結衣がいる世界ではちょうど美味しい季節だが寒い季節の牧田にとってはつらい食事だろう。
今なお顔を伏せて赤らめる牧田は可愛らしい。
空気を変えるために結衣が話を振る。
「ざる蕎麦すする音って、なんか夏だなぁって感じしませんか? アレルギーで食べられないけど、なんか涼しげで毎年羨ましいです」
「そうですね、先輩は食べれなかったですもんね」
何かを思い出したようにふっと微笑むと頷く。今まで牧田とはランチを一緒に食べたことはないがこれからきっと機会があるのだろう。楽しみで嬉しくなる。
ふと牧田の横顔を見ると顎のラインに沿って五センチほど切り傷があることに気付く。風呂上がりで傷の肉芽部分だけが白いままだ。前回は気がつかなかった……。顎の周りにあるヒゲで上手く隠されていたようだ。
「その傷どうしたんですか? 五年前には無かったと思うけど……」
結衣の言葉に牧田は視線をサッとそらすと傷を隠すように掌で覆った。すぐに牧田に謝り話を逸らすが牧田はその日顎から手を離すことはなかった。
男性とはいえ残る傷のことを容易に聞いてはいけなかったと反省していた。自分の不謹慎な言葉で傷ついたかもしれない。あの時の牧田の瞳は悲しみを通り越して苦悶の色を含んでいた。
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