KNOCK

菅井群青

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15.想い 牧田side

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「……いいから黙っててください」

 謝り続ける先輩が痛々しくてそのまま背中に背負うと鍵を開けた。台所を超えてリビングに寝かせると部屋をぐるりと見渡す。五年前と大して変わらない部屋だった。とりあえず濡れた服を脱がしてやらないと熱がまた上がる。スーツに手を掛けかけて牧田の動きが止まる。

(……まてよ、これって……)

 一人暮らしの女の部屋に、意識のない女……ここで脱がしたとなるとコレはまずい……非常にまずい。
 牧田は脱がすのを早々に諦めてバスタオルを探し始めた。服が置かれているところはさすがに開けてはいけない事は察しがついた。牧田は台所と逆側にある部屋の引き戸に手を掛けてそっと開けた。

「まじか……」

 牧田は信じられないものを見た──そこには部屋一面に多くの家具が置かれていた。十畳ほどの場所に古民具のタンスや一脚十万円を越す椅子……牧田が欲しい限定の物も置かれていた。この家の中で一番広いスペースを結衣は物置として使っていた。

「ここまでだと、感動するな」

 牧田は眠る結衣を見てほくそ笑む。
 毎晩質素なご飯を食べ続けるほど切り詰めて……使いもしない家具を買うなんて余程じゃないと出来ない。部屋の一角に白い布で覆われた部分があった。

(なんだ、これ?)

 どんな貴重な物なのか興味が湧き申し訳ないが布をめくってみた。
 ボロボロの台にデニム生地に包まれた彫刻刀があった。小学校時代によく見たものから、本格的なものまで揃えてある。今は使われていないが、手入れだけはしてあるようだ。台の角には一枚の写真が貼られている。それは【影花】の写真だった。一度捨てられたものらしく、幾つも折れ目が入っていたがきれいに伸ばされていた。
 牧田は布を掛け直すと物置から出た。

「……クソッ」

 胸が苦しい。悲しみを、悔しさを布で閉じ込めていていたらしい。その片鱗を垣間見て牧田は目頭が熱くなるのを必死で堪えた。

 どうにかバスタオルを見つけて結衣をぐるぐる巻きにするとベッドに運んだ。このまま帰るわけにもいかずお粥を作り目が覚めるのを待つことにした。冷蔵庫を失敬するとえのき茸がセンターに置かれていて思わず吹き出す。えのき茸愛を語っていたのは本当だったらしい。

「どれだけ好きなんだ?」

 目を覚ました先輩は俺を見つけると固まっていた。ぐるぐる巻きにしてしまった事は申し訳ないが、看病したことがないのでやり方が分からなかった。ただ、巻きつける時に色々なところに触れてしまったことは許して欲しい。

 お粥をきれいに食べていつのまにか先輩は眠りについた。そっと頰に触れると随分熱が下がったようだ。眠ったはずの先輩の目尻から涙が落ちてきたので、親指で拭ってやると少し微笑んだように見えた。
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