KNOCK

菅井群青

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番外編

命日の日

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 俺はずっとこの日が来ると憂鬱になる。五年前の十一月十七日……俺の愛しい人が旅立った。

 今年も花を持ち結衣が眠る墓場と向かう。皆この日は仕事にならないのが分かっているのでいつも休みになる。
 礼服に身を包み暮石の前で手を合わせる。線香の匂いが立ち込めると結衣が死んだのだと俺に知らせる。

「……結衣」

 何年か経つと思いは風化すると、誰が言い出した? いつか忘れられると、誰が言ったんだ?

 そんなの嘘だ。それはきっとその人を心に刻む力加減を間違っただけだ。俺の心はまだ変わらない。

 その日も例年通り家に帰ると買いだめした酒を浴びるように飲む。いつも酒がないと寝付けないが、結衣の命日は違う。体の血液が酒になりそうだ。

 どうか、このまま俺の脳を溶かしてほしい……。

 結衣、どうして俺を残して行ったんだ? 俺はなぜ……生き残ってしまったんだ。

 トントントントントントン、トン──

 遠ざかる意識の向こうにノックの音が聞こえた。久しぶりに聴く音だ。

「はい……」

 ドアの向こうに愛おしい人が立っていた。

「こんな日に会いにきてもらえるなんて……俺もついてるな」

 ああ、嬉しい、抱きしめたい。なのに分厚いガラスに邪魔をされる。ガラスに置いた手に結衣が手を合わせる。過去の結衣がしてくれたみたいに指を折る。結衣の顔がカッと赤くなるのが見えた気がした。

「君はこのあと旅立ってしまう……だから……俺が生かされたのは君を助ける役目があると思うんだ……死なないで、結衣、お願いだから」

 言葉は全て◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$になって消えていく。クソ神さま、命日ぐらい大目に見ろよ。

 いつのまにか俺はドアの前で寝ていた。結衣がそばにいてくれたからだろう、初めて命日の次の日に浮腫んだ顔で出勤せずに済んだ。

 まだ、助かるかもしれない──。

 クソ神さまとの戦いは続いている。
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