35 / 36
番外編
命日の日
しおりを挟む
俺はずっとこの日が来ると憂鬱になる。五年前の十一月十七日……俺の愛しい人が旅立った。
今年も花を持ち結衣が眠る墓場と向かう。皆この日は仕事にならないのが分かっているのでいつも休みになる。
礼服に身を包み暮石の前で手を合わせる。線香の匂いが立ち込めると結衣が死んだのだと俺に知らせる。
「……結衣」
何年か経つと思いは風化すると、誰が言い出した? いつか忘れられると、誰が言ったんだ?
そんなの嘘だ。それはきっとその人を心に刻む力加減を間違っただけだ。俺の心はまだ変わらない。
その日も例年通り家に帰ると買いだめした酒を浴びるように飲む。いつも酒がないと寝付けないが、結衣の命日は違う。体の血液が酒になりそうだ。
どうか、このまま俺の脳を溶かしてほしい……。
結衣、どうして俺を残して行ったんだ? 俺はなぜ……生き残ってしまったんだ。
トントントントントントン、トン──
遠ざかる意識の向こうにノックの音が聞こえた。久しぶりに聴く音だ。
「はい……」
ドアの向こうに愛おしい人が立っていた。
「こんな日に会いにきてもらえるなんて……俺もついてるな」
ああ、嬉しい、抱きしめたい。なのに分厚いガラスに邪魔をされる。ガラスに置いた手に結衣が手を合わせる。過去の結衣がしてくれたみたいに指を折る。結衣の顔がカッと赤くなるのが見えた気がした。
「君はこのあと旅立ってしまう……だから……俺が生かされたのは君を助ける役目があると思うんだ……死なないで、結衣、お願いだから」
言葉は全て◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$になって消えていく。クソ神さま、命日ぐらい大目に見ろよ。
いつのまにか俺はドアの前で寝ていた。結衣がそばにいてくれたからだろう、初めて命日の次の日に浮腫んだ顔で出勤せずに済んだ。
まだ、助かるかもしれない──。
クソ神さまとの戦いは続いている。
今年も花を持ち結衣が眠る墓場と向かう。皆この日は仕事にならないのが分かっているのでいつも休みになる。
礼服に身を包み暮石の前で手を合わせる。線香の匂いが立ち込めると結衣が死んだのだと俺に知らせる。
「……結衣」
何年か経つと思いは風化すると、誰が言い出した? いつか忘れられると、誰が言ったんだ?
そんなの嘘だ。それはきっとその人を心に刻む力加減を間違っただけだ。俺の心はまだ変わらない。
その日も例年通り家に帰ると買いだめした酒を浴びるように飲む。いつも酒がないと寝付けないが、結衣の命日は違う。体の血液が酒になりそうだ。
どうか、このまま俺の脳を溶かしてほしい……。
結衣、どうして俺を残して行ったんだ? 俺はなぜ……生き残ってしまったんだ。
トントントントントントン、トン──
遠ざかる意識の向こうにノックの音が聞こえた。久しぶりに聴く音だ。
「はい……」
ドアの向こうに愛おしい人が立っていた。
「こんな日に会いにきてもらえるなんて……俺もついてるな」
ああ、嬉しい、抱きしめたい。なのに分厚いガラスに邪魔をされる。ガラスに置いた手に結衣が手を合わせる。過去の結衣がしてくれたみたいに指を折る。結衣の顔がカッと赤くなるのが見えた気がした。
「君はこのあと旅立ってしまう……だから……俺が生かされたのは君を助ける役目があると思うんだ……死なないで、結衣、お願いだから」
言葉は全て◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$になって消えていく。クソ神さま、命日ぐらい大目に見ろよ。
いつのまにか俺はドアの前で寝ていた。結衣がそばにいてくれたからだろう、初めて命日の次の日に浮腫んだ顔で出勤せずに済んだ。
まだ、助かるかもしれない──。
クソ神さまとの戦いは続いている。
10
あなたにおすすめの小説
丘の上の王様とお妃様
よしき
恋愛
木崎珠子(35才)は、大学を卒業後、帝国財閥の子会社に勤めていた、ごくごく平凡なOLだった。しかし、同じ職場の彼に二股をかけられ、職場にも居づらくなり、あげくに両親が交通事故でいっぺんに他界。結局会社を退職し、両親がやっていた喫茶店「坂の上」を引き継ごうと、地元へ帰ってくる。喫茶店の仕事は、会社務めに比べると、珠子にはなんとなくあっているようで...ご近所さんを相手にユルくやっていた。そんな珠子が地元へ戻ってから半年ほどして、喫茶店「坂の上」の隣にある、通称「お化け屋敷」と呼ばれる大豪邸に、帝国財閥の偉い人が越してくると話題になる。珠子は、「別の世界の人間」だからと、あまり意識をしていなかったのだか...
「お化け屋敷」の噂からひと月後。いつもは見ない紳士が、喫茶「坂の上」によってきて。そこから始まる現代シンデレラ物語
18年愛
俊凛美流人《とし・りびると》
恋愛
声を失った青年と、かつてその声に恋をしたはずなのに、心をなくしてしまった女性。
18年前、東京駅で出会ったふたりは、いつしかすれ違い、それぞれ別の道を選んだ。
そして時を経て再び交わるその瞬間、止まっていた運命が静かに動き出す。
失われた言葉。思い出せない記憶。
それでも、胸の奥ではずっと──あの声を待ち続けていた。
音楽、記憶、そして“声”をめぐる物語が始まる。
ここに、記憶に埋もれた愛が、もう一度“声”としてよみがえる。
54話で完結しました!
王の側室の秘密
MayonakaTsuki
恋愛
アルドリアはこれまでになく不安定だった。
民は飢え、畑はまだ戦争の傷跡から回復しておらず、玉座はこれまで以上に遠く感じられる。
私はアラリック、王太子。
そして父王マグナスが、すべてを変える決断を下すのを見てきた。
だが、彼を最も揺さぶったのはリヤンナ・ヴェイラだった――欲望と勇気の囁きと共に現れ、瞬く間に王国の中心となった側室。
陰謀、秘密、そして誰にも予想できなかった情熱の中で、私は悟った。
権力も、血筋も、忠誠も、心の欲望を縛るには足りないのだと。
もしあなたが、欲望と野心が王をどこまで導くのかを知りたいのなら――
これは必ず知るべき物語である。
白椿の咲く日~遠い日の約束
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がいた。
稚子と話をしているうちに、真由子は雪江と白椿に何か関係があることに気がつき……
大人の恋物語です。
不遇の花詠み仙女は後宮の華となる
松藤かるり
恋愛
髙の山奥にある華仙一族の隠れ里に住むは、華仙術に秀でた者の証として花痣を持ち生まれた娘、華仙紅妍。
花痣を理由に虐げられる生活を送っていた紅妍だが、そこにやってきたのは髙の第四皇子、秀礼だった。
姉の代わりになった紅妍は秀礼と共に山を下りるが、連れて行かれたのは死してなお生に縋る鬼霊が巣くう宮城だった。
宮城に連れてこられた理由、それは帝を苦しめる禍を解き放つこと。
秀礼の依頼を受けた紅妍だが簡単には終わらず、後宮には様々な事件が起きる。
花が詠みあげる記憶を拾う『花詠み』と、鬼霊の魂を花に渡して祓う『花渡し』。
二つの華仙術を武器に、妃となった紅妍が謎を解き明かす。
・全6章+閑話2 13万字見込み
・一日3回更新(9時、15時、21時) 2月15日9時更新分で完結予定
***
・華仙紅妍(かせんこうけん)
主人公。花痣を持つ華仙術師。
ある事情から華仙の名を捨て華紅妍と名乗り、冬花宮に住む華妃となる。
・英秀礼(えいしゅうれい)
髙の第四皇子。璋貴妃の子。震礼宮を与えられている。
・蘇清益(そ しんえき)
震礼宮付きの宦官。藍玉の伯父。
・蘇藍玉(そ らんぎょく)
冬花宮 宮女長。清益の姪。
・英融勒(えい ゆうろく)
髙の第二皇子。永貴妃の子。最禮宮を与えられている。
・辛琳琳(しん りんりん)
辛皇后の姪。秀礼を慕っている。
imitation
優未
恋愛
商才に恵まれ貴族の仲間入りを果たした男爵家の娘ミクリィは、家の財産目当ての婚約の申し込みにうんざりしている。上手い断り文句はないかと考え、女性人気1番の侯爵令息アスターに思いを寄せているという噂を流すことにした。身分の違いから絶対に手の届かない存在だから絶好のカモフラージュになる。そう思っていたところ、件の侯爵令息から声をかけられて…
簒奪女王と隔絶の果て
紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。
ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。
※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる