虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青

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第一部

告白

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 今日も組長が上半身裸で治療を受けている。この背中の青龍も見慣れてきて、逆にないとさみしいと思えるほど愛着が出てきた。

 腰の深いところに鍼を進めていくと組長の声が曇る。

「あ、あぁ、キッツ……んぁ」

「桃色吐息はやめようか、ん?」 

 今日も絶賛お色気ムンムンだ。

「ってか……激しく抽送してるな。ストロークが深いな……」

「……抽送じゃなくて楺捏じゅうねつっていう手技ね」

 組長はさらりと四千年以上続く鍼の歴史を汚す。

「久し振りだから、固い、だろ?」

「まぁまぁですね」

「先生──突っ込んでくれよ」

「ツッコミ? それともリアルに鍼を突っ込む?」
 

 組長は嬉しそうに笑っている。クククっと声を出して笑うときは上機嫌だ。

 ガチャン

 治療終了の合図だ。
 鍼道具をシャーレに置く金属音が聞こえると、それを合図に組長が体を起こす。シャツを羽織ると組長は突然幸の腕を取る。
 心配そうに顔を覗き幸の額に手を当てる。どことなく幸の雰囲気が違う気がして心配になったようだ。

 組長の壊れ物を触れるような優しい指の感触に……一気に胸が跳ねた。心臓の音が組長に聞かれないか心配になる。

「先生、どした?」

「べ、べつに? どうもしてないけど……」

 幸の目は泳ぎ、組長から目をそらしてしまう。
 組長を意識しているのをバレるのだけは避けたい。

「先生、こっち向いてください……」

 顔を背けたまま動こうとしない幸の頰を包み込むと前を向けさせる。もう少しで唇同士が当たりそうだ。もうお互いの瞳しか見えない。

 嘘だろ、なんて顔してんだよ、先生──

 顔を真っ赤にさせた先生の瞳はじっと組長の目と唇を捉えて離さない……。
 組長はその瞳の奥に欲望の熱を見た気がした。

──先生が、欲しい……

 思わず幸の唇に噛み付いた。
 舌を入れ、幸の口の中に眠る熱い舌を求めて口の中を追い求める。深く、角度を変えていく。
 幸が息継ぎのために開けた口は組長に利用され当初の目的を忘れさせた。呆気なく口内を食べ尽くされ野獣のような口付けに翻弄される。

「あ、んぁ──」

「ん、せん、せ」

 自分のものとは思えないほど熱のこもった声に羞恥で赤くなる。
 組長はひとしきり堪能した後幸の耳元で「感じた?……」と囁いた。背中や腰に回された腕は強く、崩れそうになる身体を支えてくれた。

「……わ、わたし、」

「間違ってない、先生も感じてたはずだ。俺、先生に恋をしてる。それに、先生も……それに似た眼をしてた──」

 幸の顔が沸騰したように赤くなる。呼吸が苦しくて瞳が濡れ揺れている。

「好きだ……先生──」

 組長は幸の唇に優しくキスをした。深くない、ふわっと心が包まれるような痺れるキス……

「わ、私は──その……」
「分かってる。今はそれでいい……いつか──」

 俺のものになってくれればそれでいい

 幸に聞こえるように囁いたその言葉に涙が出そうだ。ヤクザで強引で、軟禁されて今も自由もないのに、住む世界も、何もかもが違う人なのに……どうして拒絶できないのだろう。どうしてこんなにも胸が焦がれるのだろう。

「さて、おい、帰るぞ」
「はい」

 外にいた町田と光田に声をかけると組長は帰っていった。

 好きだ……先生──

 組長の声は少し震えていた。それがずっと耳から離れなかった。
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