13 / 106
第一部
組長の見合い
しおりを挟む
「はぁ?」
組長は清々しい朝を迎え屋敷で朝食をとっていた。そこへ爺がニヤニヤしながらやってきたのだが……。
まぁなんというか……◯◯の星とかの親父の気持ちがわかる。今すぐテーブルをひっくり返しこの素晴らしい朝を台無しにしたい。
「ふむ、やる気でうれしいのう」
「俺のどこ見てほざいてやがる。メガネ買ってやろうか」
目の前には清純そうな女が着物を着てポーズをとっている。いわゆる見合い写真だ。
「どうしてもと頼まれてしまってな……どうやら街で見かけたお前に心奪われたらしい」
「そいつにも買ってやらねぇとな」
どこでどうなってこのお嬢さんが切れ味鋭いヤクザの俺に心惹かれるのかさっぱりわからない。
パタンと見合い写真を畳むと爺に突き返す。
「俺は見合いはいい。他を当たってくれ」
「親父さんは明徳会の次期会長じゃ、断れんわい」
龍晶会と肩を並べるほど規模がでかい。向こうの親としては娘のこともあるがこれを好機ととらえたのだろう。
「やってらんねぇな……」
組長は食事の途中だが席を立つ。見合い話を持ってこられたのは今回が初めてじゃない。今回もいつものようにすっぽかすだけだ。
「すっぽかすと……どうなるかわかっとるな?着物を着た女性を長く待たせたら──」
こちらを振り返らない爺の背中から恐ろしいほどの怒気を感じる。年齢を重ねて小さくなったはずの爺の背中が大きく見える。こういうときの爺はマジだ。一度爺のお気に入りの盆栽をハート型に切り込んだ時を思い出す。
「……チッ」
組長は大きな足音を立てて部屋を出ていった。
◇
おかしい。
いつもの時間になっても組長が現れない。チラチラと時計を見る幸を光田が目で追う。
「何かあったのかしら」
「さぁ? まぁ、大丈夫ですよ──」
光田はヤクザの割に正直な男だ。幸と目を合わせようとしない。
「キツネちゃん、なんか隠してるでしょ」
「まさか!いや、俺正直、誠実、努力の男です!」
確定だ。いつから光田は大企業に勤め出したのか。
なかなか吐かない光田に幸はため息をつく。仕方がない……素早くポケットから携帯電話を取り出すと自撮りモードにして光田の顔に近づき素早く写真を撮る。その様子を見ていた光田がぽかんと口を開けている。
「……これで取引ね」
「先生、組長に似てきましたね……」
以前あまりに暇だったので町田と携帯電話でカメラのきせかえを利用してかわいいクマに変身したのだが、そのあと組長とも一緒に撮った際に町田と撮った画像が見つかり組長が拗ねた。
その日町田は壁をみつめながら鼻をすすっていた。光田が諦めたように話し始めた。
「俺が言ったのは内緒ですよ! その……今日組長は──お見合いです」
「……え?……あ、そうなんだ……」
予想を反する答えだった。
いや、別にいいんだけどね? 別に恋人同士じゃないし。ただ、ただなんかチクリとどこかが痛いだけ。
ドアが叩かれる音がした。
この音はきっと組長だ。どんな顔をして会おうかと考えていたが、ドアを開けた瞬間そんなことはすっかりと忘れてしまった。
「こんにちは」
「……こんにちは……」
ドアを開けるとピンクの花柄の着物を着た黒髪の可憐そうな少女と横には黒の高級スーツで決めた組長が仲良く立っていた。
組長は清々しい朝を迎え屋敷で朝食をとっていた。そこへ爺がニヤニヤしながらやってきたのだが……。
まぁなんというか……◯◯の星とかの親父の気持ちがわかる。今すぐテーブルをひっくり返しこの素晴らしい朝を台無しにしたい。
「ふむ、やる気でうれしいのう」
「俺のどこ見てほざいてやがる。メガネ買ってやろうか」
目の前には清純そうな女が着物を着てポーズをとっている。いわゆる見合い写真だ。
「どうしてもと頼まれてしまってな……どうやら街で見かけたお前に心奪われたらしい」
「そいつにも買ってやらねぇとな」
どこでどうなってこのお嬢さんが切れ味鋭いヤクザの俺に心惹かれるのかさっぱりわからない。
パタンと見合い写真を畳むと爺に突き返す。
「俺は見合いはいい。他を当たってくれ」
「親父さんは明徳会の次期会長じゃ、断れんわい」
龍晶会と肩を並べるほど規模がでかい。向こうの親としては娘のこともあるがこれを好機ととらえたのだろう。
「やってらんねぇな……」
組長は食事の途中だが席を立つ。見合い話を持ってこられたのは今回が初めてじゃない。今回もいつものようにすっぽかすだけだ。
「すっぽかすと……どうなるかわかっとるな?着物を着た女性を長く待たせたら──」
こちらを振り返らない爺の背中から恐ろしいほどの怒気を感じる。年齢を重ねて小さくなったはずの爺の背中が大きく見える。こういうときの爺はマジだ。一度爺のお気に入りの盆栽をハート型に切り込んだ時を思い出す。
「……チッ」
組長は大きな足音を立てて部屋を出ていった。
◇
おかしい。
いつもの時間になっても組長が現れない。チラチラと時計を見る幸を光田が目で追う。
「何かあったのかしら」
「さぁ? まぁ、大丈夫ですよ──」
光田はヤクザの割に正直な男だ。幸と目を合わせようとしない。
「キツネちゃん、なんか隠してるでしょ」
「まさか!いや、俺正直、誠実、努力の男です!」
確定だ。いつから光田は大企業に勤め出したのか。
なかなか吐かない光田に幸はため息をつく。仕方がない……素早くポケットから携帯電話を取り出すと自撮りモードにして光田の顔に近づき素早く写真を撮る。その様子を見ていた光田がぽかんと口を開けている。
「……これで取引ね」
「先生、組長に似てきましたね……」
以前あまりに暇だったので町田と携帯電話でカメラのきせかえを利用してかわいいクマに変身したのだが、そのあと組長とも一緒に撮った際に町田と撮った画像が見つかり組長が拗ねた。
その日町田は壁をみつめながら鼻をすすっていた。光田が諦めたように話し始めた。
「俺が言ったのは内緒ですよ! その……今日組長は──お見合いです」
「……え?……あ、そうなんだ……」
予想を反する答えだった。
いや、別にいいんだけどね? 別に恋人同士じゃないし。ただ、ただなんかチクリとどこかが痛いだけ。
ドアが叩かれる音がした。
この音はきっと組長だ。どんな顔をして会おうかと考えていたが、ドアを開けた瞬間そんなことはすっかりと忘れてしまった。
「こんにちは」
「……こんにちは……」
ドアを開けるとピンクの花柄の着物を着た黒髪の可憐そうな少女と横には黒の高級スーツで決めた組長が仲良く立っていた。
21
あなたにおすすめの小説
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ヤクザの組長は随分と暇らしい
海野 月
恋愛
キャバクラでバイトするリカ
店に来たヤクザの組長である中井律希のテーブルにつかされた
目当ての女の接客じゃないことに面倒くさそうな態度だったこの男。それがどうして――
「リカちゃん。俺の女になって」
初めての彼氏がヤクザなんて絶対にごめんだ!
汚い手も使いながらあの手この手で迫ってくる中井を躱し、平和な日常を取り戻そうとあがくストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる