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第一部
ケンカ
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いつも通りの時間に院のドアがノックされる。
開くといつものように、いつものように──?
「ど、どうしたん、ですか?」
ドアの向こうには口角が切れ、明らかに喧嘩をした後であろう組長と、同じく服に泥がついた町田と、眼の下が腫れ上がっている光田が怒気を纏って立ちすくんでいる。
組長は殴り足りなかったのか拳を手で包み撫でている。
「ちょっとしたケンカだ」
幸は救急箱を持って三人をベッドに座らせる。組長が一番軽症なようだ。幸は光田の顔を覗き目に傷が無いか確認すると手際よく消毒していく。さすがに今日ばかりは組長も何も言わずに幸のする事を黙って見ている。町田の肘や手を治療してやると二人はお礼を言いそのまま待合室のソファーへと移動する。
「お待たせしました……あの、腰とかは大丈夫ですか? 口以外に痛い所は?」
痛々しい口角のあざに触れると組長の顔が歪む、口の中が切れているのかもしれない。これは後回しだ。
幸が倉庫へ行き包帯を取りに行くと組長が大きく息を吐き前髪を掻き上げた。いつも後ろに流してある前髪も今は額に落ちている。相当激しくやりあったのだろう。
「先生、すまない……こんな手当までさせることになっちまって」
「ふ、何言ってるんです? これでも医療従事者の端くれです。それに、組長の主治医ですから」
幸の言葉に目をパチクリとさせた組長が「そうだったな、俺のだったな」と嬉しそうに笑う。
組長が幸の腰に手を回そうとすると幸はすごい剣幕でその手を叩く。
「……ッテェ、なんだよ」
「……キスしないでくださいね。血はダメです。この仕事は血液感染に敏感なんです」
「俺、変なものは持ってねぇぞ」
「それでもダメです! いいですね?」
幸にビシッと指を指されると組長はあまりの剣幕に押し黙った。黙々と消毒液で傷を消毒していく幸を悲しい目でみつめる組長はコンビニ前で繋がれる飼い主を待つ犬のようだった。待合で待つ二人は思わず顔を見合わせて笑った。こんな可愛い組長は他所では見れない。
組長が町田へと目をやるといつものように顎でドアの方角をしゃくる。それを合図に町田は光田に声をかけドアへと向かう。
先生、はやく「よし」っていってやらないと忠犬も狼になっちまうぜ。
町田は痛む肘を手で押さえつつドアを開けて出て行った。
「先生、何があったのか聞かないのか?」
「ケンカでしょ」
「……怖いか?」
「そう、ですね。私と組長さんたちは住む世界が違いますから仕方ありませんよ」
幸は自分で言って悲しかった。実際そうなのだが、どこか寂しさを覚えた。最初は早く元の院に戻りたいと思っていたのに……。
目の前に座る組長を見る幸を捉えているがその瞳はどこを見ているのだろうか。焦点が合っていない。
「先生……じっとしていてくれ」
「く、組長……キスは──」
「しない、口には……」
ベッドに腰掛けていた組長はそのまま幸を足の間に引き寄せ抱きしめた。ゆっくりした動きなのに握る肩に感じる握力はずっと強い。幸の胸に顔を埋めすうっと呼吸するとゆっくり吐き出す。幸の香りでいっぱいだ。
頬をこすりつけ、目の前にある白い首に口付けて少し吸うと幸の肩がすこし揺れた。赤く残った痕に舌を出し周りをなぞると幸は声にならない声を出す。次はねっとりと首に舌を沿わせながら啄むキスを繰り返す。
ゆっくりと幸の体を解放すると耳まで真っ赤にして抗議の声をあげようとするがうまく出ないようだ。
「な、ななな、だ、く、」
「足りねぇか……」
「い、言ってない!」
「先生、手当てのお礼にエロい下着やるよ。おっぱいはCだろ」
先程顔を埋めた時に確かめられたのだと分かり一気に体温が上がる。
「こ、この、この……色ボケ野郎! 今すぐ帰ってください!」
組長はすっかりエネルギー補給できたようでご機嫌で院を後にした。腰の治療をすっかり忘れてしまっていたことに気づいたのは随分経ってからだった。
開くといつものように、いつものように──?
「ど、どうしたん、ですか?」
ドアの向こうには口角が切れ、明らかに喧嘩をした後であろう組長と、同じく服に泥がついた町田と、眼の下が腫れ上がっている光田が怒気を纏って立ちすくんでいる。
組長は殴り足りなかったのか拳を手で包み撫でている。
「ちょっとしたケンカだ」
幸は救急箱を持って三人をベッドに座らせる。組長が一番軽症なようだ。幸は光田の顔を覗き目に傷が無いか確認すると手際よく消毒していく。さすがに今日ばかりは組長も何も言わずに幸のする事を黙って見ている。町田の肘や手を治療してやると二人はお礼を言いそのまま待合室のソファーへと移動する。
「お待たせしました……あの、腰とかは大丈夫ですか? 口以外に痛い所は?」
痛々しい口角のあざに触れると組長の顔が歪む、口の中が切れているのかもしれない。これは後回しだ。
幸が倉庫へ行き包帯を取りに行くと組長が大きく息を吐き前髪を掻き上げた。いつも後ろに流してある前髪も今は額に落ちている。相当激しくやりあったのだろう。
「先生、すまない……こんな手当までさせることになっちまって」
「ふ、何言ってるんです? これでも医療従事者の端くれです。それに、組長の主治医ですから」
幸の言葉に目をパチクリとさせた組長が「そうだったな、俺のだったな」と嬉しそうに笑う。
組長が幸の腰に手を回そうとすると幸はすごい剣幕でその手を叩く。
「……ッテェ、なんだよ」
「……キスしないでくださいね。血はダメです。この仕事は血液感染に敏感なんです」
「俺、変なものは持ってねぇぞ」
「それでもダメです! いいですね?」
幸にビシッと指を指されると組長はあまりの剣幕に押し黙った。黙々と消毒液で傷を消毒していく幸を悲しい目でみつめる組長はコンビニ前で繋がれる飼い主を待つ犬のようだった。待合で待つ二人は思わず顔を見合わせて笑った。こんな可愛い組長は他所では見れない。
組長が町田へと目をやるといつものように顎でドアの方角をしゃくる。それを合図に町田は光田に声をかけドアへと向かう。
先生、はやく「よし」っていってやらないと忠犬も狼になっちまうぜ。
町田は痛む肘を手で押さえつつドアを開けて出て行った。
「先生、何があったのか聞かないのか?」
「ケンカでしょ」
「……怖いか?」
「そう、ですね。私と組長さんたちは住む世界が違いますから仕方ありませんよ」
幸は自分で言って悲しかった。実際そうなのだが、どこか寂しさを覚えた。最初は早く元の院に戻りたいと思っていたのに……。
目の前に座る組長を見る幸を捉えているがその瞳はどこを見ているのだろうか。焦点が合っていない。
「先生……じっとしていてくれ」
「く、組長……キスは──」
「しない、口には……」
ベッドに腰掛けていた組長はそのまま幸を足の間に引き寄せ抱きしめた。ゆっくりした動きなのに握る肩に感じる握力はずっと強い。幸の胸に顔を埋めすうっと呼吸するとゆっくり吐き出す。幸の香りでいっぱいだ。
頬をこすりつけ、目の前にある白い首に口付けて少し吸うと幸の肩がすこし揺れた。赤く残った痕に舌を出し周りをなぞると幸は声にならない声を出す。次はねっとりと首に舌を沿わせながら啄むキスを繰り返す。
ゆっくりと幸の体を解放すると耳まで真っ赤にして抗議の声をあげようとするがうまく出ないようだ。
「な、ななな、だ、く、」
「足りねぇか……」
「い、言ってない!」
「先生、手当てのお礼にエロい下着やるよ。おっぱいはCだろ」
先程顔を埋めた時に確かめられたのだと分かり一気に体温が上がる。
「こ、この、この……色ボケ野郎! 今すぐ帰ってください!」
組長はすっかりエネルギー補給できたようでご機嫌で院を後にした。腰の治療をすっかり忘れてしまっていたことに気づいたのは随分経ってからだった。
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