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1.出会い
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今日は大学時代の友人である弘子から久し振りにご飯の誘いがあり、仕事を終わらせ待ち合わせ場所へと向かっていた。
弘子とご飯を食べるなんて久しぶりだ。
弘子がシングルの時にはよく二人で居酒屋をはしごしたものだが結婚しその機会はほとんどなくなった。
「おーお疲れ様」
「よし、行こっか」
店の中に入り弘子が名前を伝えると店員が案内をする。途中食事を終えたカップルの横を通るとき懐かしい香水の香りが鼻につき思わず反応してしまう。
遠ざかる後ろ姿の男は思い描いている人ではない。もしそうだとしても、呼び止めることも出来ない。
「涼香、どした?」
「あ、なんでもない」
弘子の後を追うと大きめのテーブルに案内される。隣の二人掛けの席も空いているのになぜここに案内されたのだろうか。弘子は涼香の表情の変化を捉えて、悪戯がバレたような顔をする。
「バレた? ごめん、でもどうしてもほっとけなくて……」
弘子の言葉で嫌な予感がした。
「お、俺らが先だと思ったけどな」
振り返ると弘子の旦那の遠藤洋介が手をひらひらとさせて近づいてくる。その後ろには同じくスーツ姿の男性がいて涼香と同じような表情で固まっている。
「洋介、お前……これ──」
「騙して悪い、ま、とりあえず座れ、な?」
洋介は本当に悪いと思っていないようだ。眉間にしわを寄せた男性は黙って涼香の向かいの席に座る。涼香と目を合わせないようにやや伏し目がちにテーブルに置かれた皿や箸を見ている。
「さて、揃いましたね。こちら私の大学時代からの親友の木村涼香さん……皆同じ年ね。都内のIT企業に勤めていて──」
弘子が手慣れた見合いの仲人のように涼香を紹介していく。それを微妙な顔で見ながら目の前の男性を盗み見る。
短い髪をセットして爽やかな青年だ。まさに今時の髪型だ。切れ長の瞳に鼻筋の通った顔をしていて外回りが多いのか肌は少し焼けている。
一瞬だけ顔を上げて目が合った。
だが、すぐに逸らさせてしまった。それだけなのになぜだか、この男性は私と似ている……そう思った。
「よし、俺の番だ。こちら同じ職場の浜崎大輝さんで、広告会社にお勤めの二十七歳、高校の時に水泳部に所属しており──」
「その情報はいらないだろ」
大輝はノリノリで紹介をし始めた洋介を黙らせる。呆れた顔で洋介を見ると顔を背けてバレぬように大きく息を吐いた。
浮かない顔の私達を見て隣の遠藤夫婦は嬉しそうに微笑んでいる。
無理やりセッティングされたこの席で私たちは出会った。この時にはお節介な夫婦に付き合わされた不幸な二人ぐらいにしか思わなかった。
その日夫婦から大いに話題を振られ会話を引き出され、無理やりその場をやり過ごしたが、この店を出ればもう話すこともないと思っていたのだから。だが、さすが抜け目ないバカ夫婦だ、帰り際に勝手に私たちの連絡先をメールで送信した。
メールには浜崎大輝 090-XXXX-XXXXとある。あちらの携帯電話には私の名前と電話番号が書かれているのだろう。
大輝が携帯画面を見て目を細めたのが見えた。
涼香は弘子を睨むが敢えて視線を逸らしているようだ。口裏を合わせていたかのような夫婦の素早い仕事に溜め息しか出ない。
大輝は隠すこともせず眉間にしわを寄せ洋介を睨む。そして向かいに座る涼香に申し訳なさそうに頭を下げた。涼香もとりあえず頭を下げるが、それを見た遠藤夫婦は満足げに微笑んでいた。まったく困った二人だ。
食事会はお開きになり駅で解散となった。とりあえず涼香は社交辞令とばかりに今日のお礼と食事に付き合わせて申し訳ない、楽しかったですという旨を送信した。大輝からすぐに返信があった。店での対応からして無視されるかもしれないと思ったが意外にも早かった。
巻き込んでしまい、すみませんでした。
今日はありがとうございました。
巻き込んだ? 巻き込んだのはこちらではないのか?
涼香はそのまま携帯電話をカバンに押し込んだ。
弘子とご飯を食べるなんて久しぶりだ。
弘子がシングルの時にはよく二人で居酒屋をはしごしたものだが結婚しその機会はほとんどなくなった。
「おーお疲れ様」
「よし、行こっか」
店の中に入り弘子が名前を伝えると店員が案内をする。途中食事を終えたカップルの横を通るとき懐かしい香水の香りが鼻につき思わず反応してしまう。
遠ざかる後ろ姿の男は思い描いている人ではない。もしそうだとしても、呼び止めることも出来ない。
「涼香、どした?」
「あ、なんでもない」
弘子の後を追うと大きめのテーブルに案内される。隣の二人掛けの席も空いているのになぜここに案内されたのだろうか。弘子は涼香の表情の変化を捉えて、悪戯がバレたような顔をする。
「バレた? ごめん、でもどうしてもほっとけなくて……」
弘子の言葉で嫌な予感がした。
「お、俺らが先だと思ったけどな」
振り返ると弘子の旦那の遠藤洋介が手をひらひらとさせて近づいてくる。その後ろには同じくスーツ姿の男性がいて涼香と同じような表情で固まっている。
「洋介、お前……これ──」
「騙して悪い、ま、とりあえず座れ、な?」
洋介は本当に悪いと思っていないようだ。眉間にしわを寄せた男性は黙って涼香の向かいの席に座る。涼香と目を合わせないようにやや伏し目がちにテーブルに置かれた皿や箸を見ている。
「さて、揃いましたね。こちら私の大学時代からの親友の木村涼香さん……皆同じ年ね。都内のIT企業に勤めていて──」
弘子が手慣れた見合いの仲人のように涼香を紹介していく。それを微妙な顔で見ながら目の前の男性を盗み見る。
短い髪をセットして爽やかな青年だ。まさに今時の髪型だ。切れ長の瞳に鼻筋の通った顔をしていて外回りが多いのか肌は少し焼けている。
一瞬だけ顔を上げて目が合った。
だが、すぐに逸らさせてしまった。それだけなのになぜだか、この男性は私と似ている……そう思った。
「よし、俺の番だ。こちら同じ職場の浜崎大輝さんで、広告会社にお勤めの二十七歳、高校の時に水泳部に所属しており──」
「その情報はいらないだろ」
大輝はノリノリで紹介をし始めた洋介を黙らせる。呆れた顔で洋介を見ると顔を背けてバレぬように大きく息を吐いた。
浮かない顔の私達を見て隣の遠藤夫婦は嬉しそうに微笑んでいる。
無理やりセッティングされたこの席で私たちは出会った。この時にはお節介な夫婦に付き合わされた不幸な二人ぐらいにしか思わなかった。
その日夫婦から大いに話題を振られ会話を引き出され、無理やりその場をやり過ごしたが、この店を出ればもう話すこともないと思っていたのだから。だが、さすが抜け目ないバカ夫婦だ、帰り際に勝手に私たちの連絡先をメールで送信した。
メールには浜崎大輝 090-XXXX-XXXXとある。あちらの携帯電話には私の名前と電話番号が書かれているのだろう。
大輝が携帯画面を見て目を細めたのが見えた。
涼香は弘子を睨むが敢えて視線を逸らしているようだ。口裏を合わせていたかのような夫婦の素早い仕事に溜め息しか出ない。
大輝は隠すこともせず眉間にしわを寄せ洋介を睨む。そして向かいに座る涼香に申し訳なさそうに頭を下げた。涼香もとりあえず頭を下げるが、それを見た遠藤夫婦は満足げに微笑んでいた。まったく困った二人だ。
食事会はお開きになり駅で解散となった。とりあえず涼香は社交辞令とばかりに今日のお礼と食事に付き合わせて申し訳ない、楽しかったですという旨を送信した。大輝からすぐに返信があった。店での対応からして無視されるかもしれないと思ったが意外にも早かった。
巻き込んでしまい、すみませんでした。
今日はありがとうございました。
巻き込んだ? 巻き込んだのはこちらではないのか?
涼香はそのまま携帯電話をカバンに押し込んだ。
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