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7.大輝の過去
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今から五年前俺と希は出会った。
当時俺は趣味で休日にフットサルをしていた。そこにたまたま運動不足の解消で何となく参加した希と出会った。
俺たちはチームメイトとして出会い、いつしか惹かれ合い恋人同士になった。希は茶色のショートカットで笑うとえくぼができる小柄な女の子だった。私服はシンプルで黒の服を着ていることが多かった。白い肌に黒い服が映えて美容師に間違われる事も多かったらしい。
俺たちはよく一緒に出かけた。
春は少し遠出して川沿いの桜を見に行き、桜の木の下で手を繋いで春の風を楽しんだ。
夏は肌の弱い希でも楽しめるように川遊びに行った。川底がコケで滑りやすくなっていて、二人で支えあいながら歩いた。結局滑って全身ずぶ濡れになった。大笑いしながら水を掛け合い翌日二人とも風邪をひいた。
秋はなぜかハロウィンパーティをしようとした。たった二人なのに。
案の定トイレットペーパーを巻きつけた訳の分からない塊が俺を出迎えてくれた。
冬はクリスマス前に喧嘩をした。
クリスマスの日に俺は希の好きなケーキに指輪を持ってアパートの前まで行った。俺の姿を見ると泣きながら抱きつき、そのあと泣いたまま指輪をつけケーキを頬張る姿が愛おしかった。
希と出会えて俺は楽しかった。幸せだった。
希は笑顔の絶えないやつで俺を楽しませてくれた。絶対に希と結婚するんだと周りに吹聴するぐらいに惚れていた。
希と出会って二年ほどしたある日、希が仕事先で倒れたと連絡が入った。仕事中だったとは思うが俺は上司に家族が倒れたといい会社を飛び出した。
希は家族だ。もう、俺の家族なんだ。
タクシーで言われた病院へ向かう。病室の前で希の母親が泣き崩れている姿があった。
ざわつく胸を落ち着かせようとシャツをきつく握る。その手が病室に近づこうとすると震え出した。
なんだ?
どうした?
怖くてその場から動けなくなった。そんな俺を見つけた希の父親が俺の方へ歩み寄り何も言わずに肩を掴んだ。何度も何度も掴み、父親は俺の顔を見れなくなって俯き咽び泣いた。
ゆっくりと俺は希の父親の肩に触れ、掴む手を離させる……そのまま希の母親の横を通り抜け病室へと入る。
そこには希がいた。病室で静かに寝ているようだった。
もう病院のスタッフは処置をせず少し離れたとこで見守っている。その目は悲しさを押し殺したようで病室は異様な空気が支配していた。
「希……?」
ベッドに近づくと希が一瞬笑った気がした。頰に触れると少し温かい気がしたが次に希の白い手に触れるとなぜか信じられないほど冷たかった……。
「……残念です──」
誰が言ったか分からない声が俺の耳に届いた。
肌の白い希がより一層白く見える……。俺は希の小さな肩を抱きしめた。瞳が見たい、声が聞きたい。
「希、俺だ、大輝だ……起きろ、なぁ、希?」
希は何も言わない。
笑ってくれ
触れてくれ
名前を呼んでくれ
涙が止まらなくなる。希がいなくなってしまう。俺のそばから、俺の前から……そんなことがあるのか。
「う……う、なんだよ、ふざけんな……希! 起きろ!! 希!」
希の胸元に俺の涙が落ちる。
俺の声を聞いていた希の母親が大きな声で鳴き始めた。同じように希の名を呼び泣いていた。
その後いつのまにか希の母親と隣り合わせで病院の廊下に座っていた。
希の母親とは何回も会っている。希を家に送っていき晩御飯を一緒に頂いて帰ったりしていた。
「……だいちゃん、ごめんね。あの子脳に爆弾があったんだってそれが破裂しちゃったんだって……健康に産んであげれれば……」
「お母さん、は、悪くない……何も、悪くないです」
「ごめんね……」
希の母親はそのまま謝り続けた。まるで俺が希かのように……。
葬式の日はよく覚えていない。
ただ、頭を下げられれば頭を下げ、声をかけられれば「ありがとうございます」と返していた。
最後の別れの時、俺は花を置き希の頰にキスをした。
希は──死んだ。
そう思った時にこれは夢なのかと思った。もしくは、希と一緒にいた時間が夢だったのか。葬式の次の日俺はいつものように会社に出勤した。おかしな感覚だった。どこか夢の世界にいるようだった。
思い出の多いフットサルはやめた。
会社の同僚には希が亡くなったことは言わなかった。二ヶ月ほどたった頃飲みの席で揶揄われた時に別れたことだけを伝えると意外そうな顔をしていただけだった。
俺はどんな顔をしていたか分からないが、それ以上皆詮索しなかった。それがありがたかった。
希がいない世界に俺は生きていくことになった。希が残してくれた幸せと愛の形跡を感じながら。
あれから三年……まだ俺の中に希はいる。
当時俺は趣味で休日にフットサルをしていた。そこにたまたま運動不足の解消で何となく参加した希と出会った。
俺たちはチームメイトとして出会い、いつしか惹かれ合い恋人同士になった。希は茶色のショートカットで笑うとえくぼができる小柄な女の子だった。私服はシンプルで黒の服を着ていることが多かった。白い肌に黒い服が映えて美容師に間違われる事も多かったらしい。
俺たちはよく一緒に出かけた。
春は少し遠出して川沿いの桜を見に行き、桜の木の下で手を繋いで春の風を楽しんだ。
夏は肌の弱い希でも楽しめるように川遊びに行った。川底がコケで滑りやすくなっていて、二人で支えあいながら歩いた。結局滑って全身ずぶ濡れになった。大笑いしながら水を掛け合い翌日二人とも風邪をひいた。
秋はなぜかハロウィンパーティをしようとした。たった二人なのに。
案の定トイレットペーパーを巻きつけた訳の分からない塊が俺を出迎えてくれた。
冬はクリスマス前に喧嘩をした。
クリスマスの日に俺は希の好きなケーキに指輪を持ってアパートの前まで行った。俺の姿を見ると泣きながら抱きつき、そのあと泣いたまま指輪をつけケーキを頬張る姿が愛おしかった。
希と出会えて俺は楽しかった。幸せだった。
希は笑顔の絶えないやつで俺を楽しませてくれた。絶対に希と結婚するんだと周りに吹聴するぐらいに惚れていた。
希と出会って二年ほどしたある日、希が仕事先で倒れたと連絡が入った。仕事中だったとは思うが俺は上司に家族が倒れたといい会社を飛び出した。
希は家族だ。もう、俺の家族なんだ。
タクシーで言われた病院へ向かう。病室の前で希の母親が泣き崩れている姿があった。
ざわつく胸を落ち着かせようとシャツをきつく握る。その手が病室に近づこうとすると震え出した。
なんだ?
どうした?
怖くてその場から動けなくなった。そんな俺を見つけた希の父親が俺の方へ歩み寄り何も言わずに肩を掴んだ。何度も何度も掴み、父親は俺の顔を見れなくなって俯き咽び泣いた。
ゆっくりと俺は希の父親の肩に触れ、掴む手を離させる……そのまま希の母親の横を通り抜け病室へと入る。
そこには希がいた。病室で静かに寝ているようだった。
もう病院のスタッフは処置をせず少し離れたとこで見守っている。その目は悲しさを押し殺したようで病室は異様な空気が支配していた。
「希……?」
ベッドに近づくと希が一瞬笑った気がした。頰に触れると少し温かい気がしたが次に希の白い手に触れるとなぜか信じられないほど冷たかった……。
「……残念です──」
誰が言ったか分からない声が俺の耳に届いた。
肌の白い希がより一層白く見える……。俺は希の小さな肩を抱きしめた。瞳が見たい、声が聞きたい。
「希、俺だ、大輝だ……起きろ、なぁ、希?」
希は何も言わない。
笑ってくれ
触れてくれ
名前を呼んでくれ
涙が止まらなくなる。希がいなくなってしまう。俺のそばから、俺の前から……そんなことがあるのか。
「う……う、なんだよ、ふざけんな……希! 起きろ!! 希!」
希の胸元に俺の涙が落ちる。
俺の声を聞いていた希の母親が大きな声で鳴き始めた。同じように希の名を呼び泣いていた。
その後いつのまにか希の母親と隣り合わせで病院の廊下に座っていた。
希の母親とは何回も会っている。希を家に送っていき晩御飯を一緒に頂いて帰ったりしていた。
「……だいちゃん、ごめんね。あの子脳に爆弾があったんだってそれが破裂しちゃったんだって……健康に産んであげれれば……」
「お母さん、は、悪くない……何も、悪くないです」
「ごめんね……」
希の母親はそのまま謝り続けた。まるで俺が希かのように……。
葬式の日はよく覚えていない。
ただ、頭を下げられれば頭を下げ、声をかけられれば「ありがとうございます」と返していた。
最後の別れの時、俺は花を置き希の頰にキスをした。
希は──死んだ。
そう思った時にこれは夢なのかと思った。もしくは、希と一緒にいた時間が夢だったのか。葬式の次の日俺はいつものように会社に出勤した。おかしな感覚だった。どこか夢の世界にいるようだった。
思い出の多いフットサルはやめた。
会社の同僚には希が亡くなったことは言わなかった。二ヶ月ほどたった頃飲みの席で揶揄われた時に別れたことだけを伝えると意外そうな顔をしていただけだった。
俺はどんな顔をしていたか分からないが、それ以上皆詮索しなかった。それがありがたかった。
希がいない世界に俺は生きていくことになった。希が残してくれた幸せと愛の形跡を感じながら。
あれから三年……まだ俺の中に希はいる。
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