忘れられたら苦労しない

菅井群青

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33.恋情と友情

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「は?」
「え?」

 遠藤夫妻が同じように大根キムチを取り皿へと落とす。双子のような動きに思わず笑ってしまう。涼香が横にいる大輝に目をやると、はにかんだ笑顔を見せる。

「大輝、お前──なんて……」

「いや、だから、俺たち……付き合ってます」

 もう一度ゆっくりと言葉を紡ぐと、洋介も弘子もあんぐりと口が開いている。
 二人は無言で抱き合いぎゅっと抱きしめ合う。悶絶しているのだろう……遠藤夫婦は声にならない声を上げる。

 しばらくして弘子が涼香の方へと歩み寄り熱い抱擁する。それを見た洋介が立ち上がったところで大輝が「いや、俺はいい……」と洋介を止める。それでも洋介は聞こえないふりをして俺の元へとやってくると隣の女子たちに負けないような熱い抱擁をした。

「おい、もういいってば……暑苦しい! 野郎で抱き合うのはごめんだ。おい! 聞いてんのか洋介──」

 洋介は泣いていた。
 初めて見た、洋介が泣いている。俺には見えないが鼻をすすり、曇った声が聞こえた。

「良かったな……大輝、良かった良かった……」

「洋介……」

 明るくていつも楽しげな男の涙は思いのほか心にくる。ただ、付き合ったと報告しただけなのに……ただ、それだけなのに俺たちのために泣いてくれている。それが、嬉しい。

 隣を見ると弘子ちゃんも泣いている。涼香も同じように泣いている。

 なんだ? 涙涙だ……。

 おめでとう、乾杯! やったな! ようやくか!

 そう言われて終わるとばかり思っていたのだが、この二人には随分と心配をかけさせてしまったようだ。俺は洋介の肩を叩く。涙がつられて出てしまわぬ様に洋介から視線を外す。

「これからだって。色々とありがとな」

「……おう、とりあえずお前ここ奢れ」

「……は?」

 隣の弘子は抱擁が終わり目尻をぬぐいながら席へと戻っている。

「嬉しいわ、大輝くんの奢りだなんて……洋介、あんた確か胃薬持ってたわよね? 私にちょうだい」

 夫婦は胃薬を口に含むと湯飲みの茶を飲み干した。本気だ、この似た者夫婦……胃袋の崩壊を恐れていない。

「よし、飲むか……」

 大輝は諦めたように笑うとビールを傾けた。涼香も楽しそうに体を左右に揺らしながらジョッキを傾けた。

「えーでは、浜崎大輝くんと木村涼香さんの交際を祝いましょう、カンパーイ!!」

 洋介がとんでもない音量で乾杯の音頭をとる。隣にいた会社員もつられてグラスを持ち上げて祝ってくれた。

 幸せだった。みんな笑顔で酒を飲んだ。洋介や弘子の友情に胸が熱くなった。大輝や涼香の愛おしい思いに胸が焦がれた。

 こんなに幸せを感じながら酒を飲める日が来るなんてあの時は思えなかった。

 酒を飲む理由が、変わった。

 希……俺、幸せだ。だから、もう心配すんな。いい人たちに囲まれて、俺はもう大丈夫だから。

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