忘れられたら苦労しない

菅井群青

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34.日々を

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「……これ、欲しいな……良くない?」

「なぁ、家庭で白髪葱使う事ってそんなにないだろ……ラーメン屋じゃないしな」

 大輝と涼香は駅ビルの中の雑貨店で買い物デート中だ。いつも会うのは夜で、しかも居酒屋で飲んでいるのでこうして二人で手を繋ぎ歩くのは新鮮だ。
 大輝に購入を反対された涼香は渋々台所便利グッズを商品棚へと戻す。

「じゃあ……これとか──」

 涼香が手にしたのは人参しりしり用のピーラーだ。色々あるかもしれないが大輝はそれを黙って取ると商品棚に戻した。涼香はぷうっと頬を膨らませる。

 可愛い……。

 大輝は片手でその頬を摘み空気を抜いてやる。涼香の唇が小鳥のようになる……人目がなければそのままキスをしたい。

 互いにこうして過ごすと新しい発見が色々ある。二人の共有する時間が多くなればなるほど気持ちがどんどん積もっていく。

 涼香は疲れてくると炭酸が飲みたくなる。

 大輝は雑貨でも洋服でもグレーのばかりを手に取る。

 涼香は便利グッズと書かれたものに惹かれる。

 大輝は実はチョコレートが好き。

 涼香はゲームセンターのレーシングゲームが得意。隠れゲーマーだ。

 大輝は負けず嫌いで何回も涼香に勝負を挑む。

 手を握っていると、涼香は大輝の小指だけを握る。まるで子供のように。

 大輝が涼香に微笑みかけると涼香も柔らかく微笑み返す。思い出の粒が少しずつ透明な瓶に落とされていく。

 二人はゆっくりと歩いていく。 



 その後ろ姿を一人の男性が見ていた。二人の仲睦まじい様子に自然と笑みがこぼれた。

「おい、タケ、置いてくぞ」

「あぁ、今行く」

 武人は友人の後を追う。友人は武人の顔を見て後ろを振り返る。

「なんだ? 知り合いか?」

「あぁ、ちょっとな……」

 武人の言葉に友人は肩をすくめる。何かを感じ取ったように武人の肩を組むと微笑んだ。

「逆方向に来ちゃったから、諦めろ……。俺たちは行列のできるトンカツでも食いに行くべ、な?」

 武人は笑いながら友人の頭を横に押し、突き放す。

「そんなんだからメタボまっしぐらなんだよ、お前は」

 武人は嬉しそうに歩き出した。



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