35 / 40
35.ありがとう
しおりを挟む
今日は涼香が大輝の部屋で料理を作っている。
「あ、おたまが無い? おたまーおたまーおたまー」
「あー、だめだ。じゃがいもが……」
「ん? 醤油、これ濃口だけか? しまったなー……へへ」
大輝は気になってチラチラと横目で見る。台所に見に行きたいし、手伝いたいがさっき涼香から「もう! 座っててよ、大輝くん立ち入り禁止」と言われてしまった。
「あ、しまった……塩忘れてたな、まぁいいやどうにかなるさ──今入れよ」
その後も涼香と料理の戦いは続いている。一生懸命な背中を見ていて嬉しくなる。
涼香ちゃんは料理に遊ばれてるみたいだな……。
大輝は希のことを思い出していた。希みたいに涼香になって欲しいと思っていない。代わりを求めてもないし、二人を比べてどうこういう気もない。二人は別の人間なのだから……。二人とも大切な人だ。
「出来た!」
どうやら完成らしい。
嬉しそうにテーブルに並べていく涼香を見て大輝の心も温かくなる。
「いただきます」
鳥の唐揚げにイカとじゃがいもの煮物にサラダが並ぶ。涼香の大好物ばかりだ。箸を持ち一口食べる。
おぉ!?
「美味しい……美味しいな、コレ」
大輝は目を見開く。かなり美味い……悪戦苦闘していたのが嘘のようだ。大輝は大きな口でそれらを平らげていく。涼香はその様子を微笑みながら見ていた。
視線に気づき大輝が箸を止める。
「うん、どうした?」
「うん? 希さんは料理が上手だったから作るの緊張したけど、良かったなぁって思って」
大輝は涼香にその話をしていたことを思い出した。
どんな気持ちで料理をしていたんだろう。比べられる、そう思っていたんじゃないか……。
大輝は席を立つと涼香を抱きしめる。
「バカ、比べるわけないだろうが……。希は希だし、涼香ちゃんは涼香ちゃんだろう? どちらが良いとか悪いとか……そんなんじゃない……」
「ありがとう。でも比べられるのがイヤだとかじゃないの。私ね希さんが好きなの……大輝くんが話してくれる希さんが……。だから、心配しないで」
涼香は大輝をさらに強く抱きしめた。
「大輝くん、嘘だと思ってんじゃない? 無理させてるとか……」
涼香が胸の中でクスっと笑った。
「じゃあ、私がこうして抱きしめてもらってる時に武人と比べてるとでも思ってる?」
「え? いや、それは──思ってなかったけど……」
まさかの質問に大輝は焦る。そんな事思ってもみなかった。涼香は大輝の頰に触れる。
「比べようがない、でしょ? 私の気持ち、分かった? 大輝くんは大輝くんだから、私は私……それでいいんだよ」
「涼香ちゃん……」
「希さんの分も私が作って大輝くんを太らせてあげる、ふふふ」
涼香は鳥の唐揚げを箸でつまむと大輝の口の中へと放り込んだ。
「……美味しい?」
「……うん、最高」
大輝は涼香の願い通り白飯もお代わりした。美味しいご飯だった。
「やっぱりイカはじゃがいもと食べるのが合うと思うのよね」
「んー、俺は里芋も捨てがたい……」
「なんですと!?……これは私が全部食べるからね! 里芋派め──」
「いや、待て……里芋はイカの旨味を吸ってなかなかいい味が──」
大輝は慌てて大皿を掴む。二人の食卓は賑やかなものになった。
「あ、おたまが無い? おたまーおたまーおたまー」
「あー、だめだ。じゃがいもが……」
「ん? 醤油、これ濃口だけか? しまったなー……へへ」
大輝は気になってチラチラと横目で見る。台所に見に行きたいし、手伝いたいがさっき涼香から「もう! 座っててよ、大輝くん立ち入り禁止」と言われてしまった。
「あ、しまった……塩忘れてたな、まぁいいやどうにかなるさ──今入れよ」
その後も涼香と料理の戦いは続いている。一生懸命な背中を見ていて嬉しくなる。
涼香ちゃんは料理に遊ばれてるみたいだな……。
大輝は希のことを思い出していた。希みたいに涼香になって欲しいと思っていない。代わりを求めてもないし、二人を比べてどうこういう気もない。二人は別の人間なのだから……。二人とも大切な人だ。
「出来た!」
どうやら完成らしい。
嬉しそうにテーブルに並べていく涼香を見て大輝の心も温かくなる。
「いただきます」
鳥の唐揚げにイカとじゃがいもの煮物にサラダが並ぶ。涼香の大好物ばかりだ。箸を持ち一口食べる。
おぉ!?
「美味しい……美味しいな、コレ」
大輝は目を見開く。かなり美味い……悪戦苦闘していたのが嘘のようだ。大輝は大きな口でそれらを平らげていく。涼香はその様子を微笑みながら見ていた。
視線に気づき大輝が箸を止める。
「うん、どうした?」
「うん? 希さんは料理が上手だったから作るの緊張したけど、良かったなぁって思って」
大輝は涼香にその話をしていたことを思い出した。
どんな気持ちで料理をしていたんだろう。比べられる、そう思っていたんじゃないか……。
大輝は席を立つと涼香を抱きしめる。
「バカ、比べるわけないだろうが……。希は希だし、涼香ちゃんは涼香ちゃんだろう? どちらが良いとか悪いとか……そんなんじゃない……」
「ありがとう。でも比べられるのがイヤだとかじゃないの。私ね希さんが好きなの……大輝くんが話してくれる希さんが……。だから、心配しないで」
涼香は大輝をさらに強く抱きしめた。
「大輝くん、嘘だと思ってんじゃない? 無理させてるとか……」
涼香が胸の中でクスっと笑った。
「じゃあ、私がこうして抱きしめてもらってる時に武人と比べてるとでも思ってる?」
「え? いや、それは──思ってなかったけど……」
まさかの質問に大輝は焦る。そんな事思ってもみなかった。涼香は大輝の頰に触れる。
「比べようがない、でしょ? 私の気持ち、分かった? 大輝くんは大輝くんだから、私は私……それでいいんだよ」
「涼香ちゃん……」
「希さんの分も私が作って大輝くんを太らせてあげる、ふふふ」
涼香は鳥の唐揚げを箸でつまむと大輝の口の中へと放り込んだ。
「……美味しい?」
「……うん、最高」
大輝は涼香の願い通り白飯もお代わりした。美味しいご飯だった。
「やっぱりイカはじゃがいもと食べるのが合うと思うのよね」
「んー、俺は里芋も捨てがたい……」
「なんですと!?……これは私が全部食べるからね! 里芋派め──」
「いや、待て……里芋はイカの旨味を吸ってなかなかいい味が──」
大輝は慌てて大皿を掴む。二人の食卓は賑やかなものになった。
17
あなたにおすすめの小説
この恋は報われないはずだった
鳥花風星
恋愛
遠野楓(かえで)には密かにずっと憧れている義兄、響(ひびき)がいた。義兄と言っても、高校生の頃に母親の再婚で義兄になり、大学生の頃に離婚して別離した元義兄だ。
楓は職場での辛い恋愛に終止符を打って退職し、心機一転新しく住むはずだったマンションに向かう。だが、不動産屋の手違いで既に住人がおり、しかもその住人がまさかの響だった。行くあてのない楓に、響は当然のように一緒に住む提案をする。
響のその提案によって、報われない恋を封印していた楓の恋心は、また再燃し始める。
「こんなに苦しい思いをするなら、お兄ちゃんになんてなってほしくなかった」
ずっとお互い思い合っているのに、すれ違ったまま離れていた二人。拗らせたままの心の距離が、同居によって急速に縮まっていく。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】没落令嬢の結婚前夜
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢アンジェリーヌは、裕福な家で愛されて育ったが、
十八歳のある日、突如、不幸に見舞われた。
馬車事故で家族を失い、その上、財産の全てを叔父家族に奪われ、
叔父の決めた相手と結婚させられる事になってしまったのだ。
相手は顔に恐ろしい傷を持つ辺境伯___
不幸を嘆くも、生きる為には仕方が無いと諦める。
だが、結婚式の前夜、従兄に襲われそうになり、誤ってテラスから落ちてしまう。
目が覚めると、そこは見知らぬ場所で、見知らぬ少年が覗き込んでいた___
異世界恋愛:短編(全8話)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる