11 / 40
11.溶けていく氷のように
しおりを挟む
今日は久しぶりに四人で飲み会だ。
最近は大輝と一緒に飲んでいたので、別の意味で楽しみだ。集合場所は例の新鮮な魚介類が売りな居酒屋だ。
メニューを開くと横にいた大輝が近づいて覗き込む。肩が当たっている距離だが、抱き合い涙を流した仲だ。すっかり距離感が近くなるのも無理はない。
その様子を向かいに座る遠藤夫妻が見逃すはずがなくニンマリと意地が悪そうな笑みを浮かべているのが見えたが涼香は気付かない事にした。
「じゃ、かんぱーい」
四人はジョッキを傾けて大きな音を響かせた。待ってましたと言わんばかりに口をつけグイグイビールを飲み込んでいく……。
数秒間の静寂後四人はプハーと息を吐き嬉しそうな顔をする。仕事帰りの会社員はみな同じ気持ちなのだろう。まさに──至福。
酒を飲みながら、やはり話題となったのは涼香の恋愛についてだった。弘子はさすがに手放しでは喜べないようだ。あの日の涼香を知っているだけに武人に対して怒りの念がある。それでも、涼香が幸せになれるんならと言ってくれるところが弘子らしい。
「で? 君たちはどんな関係?」
洋介が人差し指で私たちを指しくるくると回す。少しアルコールが回っているのかもしれない。
「「だから、友達だって──」」
涼香と大輝の声が重なる。
弘子が飲んでいたビールを吹き出しかけて笑う。
「やば、シンクロ……」
「まぢ、似た者同士……」
遠藤夫婦の賞賛を受け、私たちは何も言わずに大好きなイカの刺身を口の中に放り込んだ。それから色々な話題が出て話をしていると大輝が急に切り出した。真剣な表情で二人を見る。
「洋介……弘子ちゃんも聞いて欲しいんだけど、いい?」
大輝の声色が変わったのを気づき涼香はあの話をするんだと分かった。
「……洋介、三年前に希と別れた……言ってたろ?」
「ん? ああ……」
大輝はゆっくりと首を縦に振る。大輝の真剣な声色に洋介は酒を置き姿勢を正した。
「希とは……別れていない」
「え? 大輝くんそれどういうこと?」
弘子も話が読めないようで眉間にしわを寄せて前のめりになる。
「……あ……あのさ……」
大輝の声が少し震え出す。テーブルの下で涼香が大輝の手の甲にそっと触れる。大輝の手は冷たく震えていた。涼香はぎゅっと強く握った。自分の力が大輝のものと重なるように。
ちらっと涼香の方を見ると瞬きを繰り返す……大輝は少し笑みを浮かべるとそのまま二人へ視線を戻した。
「希は──死んだんだ。病気で……突然」
二人の表情がみるみる変わっていく。特に洋介は顔色が白くなるのが分かった。アルコールがどこか消えてしまったようだ。何度も口を開くが何も言えずに最終的には唇を噛んだ。
「悪かった……死んだといえば……希が俺の前からいなくなったのを認めてしまいそうで、いや、分かってはいるんだが……その……言えなかった。すまん……」
「お前、それ……」
洋介が瞬きを繰り返している。ショックが大きいらしい。横にいた弘子が洋介の肩を撫でてゆっくりと頷いた。大輝に向かって頭を下げた。
「話してくれてありがとう大輝くん……辛かったわね……本当に……」
弘子は手の甲で浸み出した涙を払う。大輝が泣いていないのに泣くわけにはいかなかった。
「涼香ちゃんに出会って少しずつ話せるようになったんだ……だから、俺たちはそんな関係じゃなくて──」
「しんゆう。心の友って書いて、心友だよ、ね?」
涼香が大輝に微笑むと大輝は涼香の頭の上に手のひらを置いた。ポンッと優しく。
「……悪いな」
「うん」
前に座る夫婦はいつのまにか強い絆で結ばれた二人をじっと見ていた。固まっていた洋介は店員を呼び生を四つ頼む。
「……飲もう。お前らピッチ遅いぞ、早く飲め!」
洋介がいつもの調子で涼香と大輝に話しかける。そこからは洋介の中学時代のおもしろ武勇伝で私たちの席は笑いに包まれた。後ろに座る中年のおじさんも「楽しそうだねぇ」と苦笑いをするほど腹を抱えて笑った。
本当に楽しい飲みの席だった。
最近は大輝と一緒に飲んでいたので、別の意味で楽しみだ。集合場所は例の新鮮な魚介類が売りな居酒屋だ。
メニューを開くと横にいた大輝が近づいて覗き込む。肩が当たっている距離だが、抱き合い涙を流した仲だ。すっかり距離感が近くなるのも無理はない。
その様子を向かいに座る遠藤夫妻が見逃すはずがなくニンマリと意地が悪そうな笑みを浮かべているのが見えたが涼香は気付かない事にした。
「じゃ、かんぱーい」
四人はジョッキを傾けて大きな音を響かせた。待ってましたと言わんばかりに口をつけグイグイビールを飲み込んでいく……。
数秒間の静寂後四人はプハーと息を吐き嬉しそうな顔をする。仕事帰りの会社員はみな同じ気持ちなのだろう。まさに──至福。
酒を飲みながら、やはり話題となったのは涼香の恋愛についてだった。弘子はさすがに手放しでは喜べないようだ。あの日の涼香を知っているだけに武人に対して怒りの念がある。それでも、涼香が幸せになれるんならと言ってくれるところが弘子らしい。
「で? 君たちはどんな関係?」
洋介が人差し指で私たちを指しくるくると回す。少しアルコールが回っているのかもしれない。
「「だから、友達だって──」」
涼香と大輝の声が重なる。
弘子が飲んでいたビールを吹き出しかけて笑う。
「やば、シンクロ……」
「まぢ、似た者同士……」
遠藤夫婦の賞賛を受け、私たちは何も言わずに大好きなイカの刺身を口の中に放り込んだ。それから色々な話題が出て話をしていると大輝が急に切り出した。真剣な表情で二人を見る。
「洋介……弘子ちゃんも聞いて欲しいんだけど、いい?」
大輝の声色が変わったのを気づき涼香はあの話をするんだと分かった。
「……洋介、三年前に希と別れた……言ってたろ?」
「ん? ああ……」
大輝はゆっくりと首を縦に振る。大輝の真剣な声色に洋介は酒を置き姿勢を正した。
「希とは……別れていない」
「え? 大輝くんそれどういうこと?」
弘子も話が読めないようで眉間にしわを寄せて前のめりになる。
「……あ……あのさ……」
大輝の声が少し震え出す。テーブルの下で涼香が大輝の手の甲にそっと触れる。大輝の手は冷たく震えていた。涼香はぎゅっと強く握った。自分の力が大輝のものと重なるように。
ちらっと涼香の方を見ると瞬きを繰り返す……大輝は少し笑みを浮かべるとそのまま二人へ視線を戻した。
「希は──死んだんだ。病気で……突然」
二人の表情がみるみる変わっていく。特に洋介は顔色が白くなるのが分かった。アルコールがどこか消えてしまったようだ。何度も口を開くが何も言えずに最終的には唇を噛んだ。
「悪かった……死んだといえば……希が俺の前からいなくなったのを認めてしまいそうで、いや、分かってはいるんだが……その……言えなかった。すまん……」
「お前、それ……」
洋介が瞬きを繰り返している。ショックが大きいらしい。横にいた弘子が洋介の肩を撫でてゆっくりと頷いた。大輝に向かって頭を下げた。
「話してくれてありがとう大輝くん……辛かったわね……本当に……」
弘子は手の甲で浸み出した涙を払う。大輝が泣いていないのに泣くわけにはいかなかった。
「涼香ちゃんに出会って少しずつ話せるようになったんだ……だから、俺たちはそんな関係じゃなくて──」
「しんゆう。心の友って書いて、心友だよ、ね?」
涼香が大輝に微笑むと大輝は涼香の頭の上に手のひらを置いた。ポンッと優しく。
「……悪いな」
「うん」
前に座る夫婦はいつのまにか強い絆で結ばれた二人をじっと見ていた。固まっていた洋介は店員を呼び生を四つ頼む。
「……飲もう。お前らピッチ遅いぞ、早く飲め!」
洋介がいつもの調子で涼香と大輝に話しかける。そこからは洋介の中学時代のおもしろ武勇伝で私たちの席は笑いに包まれた。後ろに座る中年のおじさんも「楽しそうだねぇ」と苦笑いをするほど腹を抱えて笑った。
本当に楽しい飲みの席だった。
12
あなたにおすすめの小説
旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。
海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。
「君を愛する気はない」
そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。
[登場人物]
レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。
×
セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
走馬灯に君はいない
優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。
笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。
恋人の気持ちを試す方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
死んだふりをしたら、即恋人に逃げられました。
ベルタは恋人の素性をほとんど知らぬまま二年の月日を過ごしていた。自分の事が本当に好きなのか不安を抱えていたある日、友人の助言により恋人の気持ちを試す事を決意する。しかしそれは最愛の恋人との別れへと続いていた。
登場人物
ベルタ 宿屋で働く平民
ニルス・パイン・ヘイデンスタム 城勤めの貴族
カミラ オーア歌劇団の団員
クヌート オーア歌劇団の団長でカミラの夫
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる