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39.愛してる
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「ほう……ほうほう、犯人は……大輝、お前だ!」
洋介がどこかの名探偵のようにスウェット姿で寛ぐ大輝に向かって指を指す。
「は……安易だなお前も……俺は、シロだ──」
大輝が手持ちのカードを中央の山に放り投げる。その瞬間洋介が◯ンクの名画、叫びの男のような顔をする。
洋介は大輝の横でニタっと笑う涼香と目が合うとわなわなと震えだす……。
「き、きき、貴様が犯人かー!!」
洋介は次に涼香を指差した。涼香は満面の笑みでカードを洋介の顔の前に突きつける。
涼香は犯人ではない……ということは……。隣にいる愛する妻に目をやると蔑むような目でこちらを見ている。
「迷宮入りしちゃったね、洋介……」
弘子は中央のカードの山に【犯人】と書かれたかカードを叩きつけた……。その瞬間洋介は持っていた缶ビールを飲み干した。相当悔しそうだ。
「無念……」
大輝がカードを纏め、よく混ざるように半分涼香へと手渡しカードを切り始める。
「俺が涼香に犯人カード渡して、そこから弘子ちゃんに移ったんだよな?」
「ちがうよ、大輝から私、私から一回洋介くんに移ってから弘子だよ。弘子上手かった……大輝に【犯人】移ったように演技してたもん──」
二人が結ばれて数ヶ月が過ぎようとしていた。二人はもう下の名前で呼び合うようになっていた。
金曜日の夜、四人は大輝の部屋で家飲みをしていた。少し前からこうして大輝の部屋で酒を飲みながらカードゲームやボードゲームをするようになった。
初めて遠藤夫妻を招待した時のことを思い出す。洋介は本当に嬉しかったようで、子供の遠足のように指折り数えて楽しみしていたことを二人は弘子から聞いていた。
洋介はカードゲームに負けたというのに本当に楽しそうだ。見ているこちらまで笑ってしまう。夜遅くに二人はほろ酔いで大輝の部屋をあとにした。階段から落ちないかと心配になったが、二人で仲良く手を繋いで帰って行ったので大丈夫だろう。
その夜、涼香は大輝の部屋に泊まった。
最近は週末はこうして大輝の部屋に泊まることが大半だ。最初に感じたこのベッドの香りも今は分からなくなってしまった。自分の匂いしかしない。
愛し合った後……二人はベッドで向かい合っていた。
大輝は涼香の髪を耳にかけてやるとそのピアスを撫でる。涼香の首筋に大輝はキスをする。情事の余韻で涼香の体が跳ねる……。
「なぁ、涼香……」
「ん、どうしたの……?」
「俺たち、ずっとこうしていたいな」
涼香が素足を大輝に絡める。
「毎週こうしていると思うんだけど?」
「…………」
「どうしたの?」
黙ったまま動かない大輝の頰に触れる。大輝は自分の頰に置かれた涼香の手を握りしめる。
「もっと一緒に、いたい。仕事から帰って涼香と一緒に……いたい。こんな事言うのはまだ早いのかもしれないけど、その……一緒に住まないか?」
「一緒に、住む?……ここで?」
「引っ越してもいい。涼香と一緒にいたいんだ。まだ付き合って少ししか経ってないのに、早いとは思うんだけど、でも……会えない時間がもどかしいんだ。涼香がそばにいてくれたらって、ずっと考えてたんだけど……」
「私のことそんなに思ってくれているの……?」
「ああ……愛してる……付き合っているのに、涼香は俺のものなのに、もっと欲しくなるんだ。バカだろ?」
大輝が自分の言っている事に呆れているようだ。そんなことはない。涼香だって、同じ気持ちだった。深い……深い想いだ。
「ねぇ、大輝……私たち初めて会った時、お互い他の人が忘れられなくて苦しんでいたでしょ? 心に刻まれた想いに胸を焦がして、どうしようもなくて……心を痛めてた──」
「…………」
大輝が涼香の頭を撫でる。涼香の瞳からは涙が溢れ落ちている。大輝はそれを指で払ってやる……絶え間なく流れる涙に大輝は顔を歪める。
「それでも、私、大輝の幸せを祈ってたの、ずっと、ずっと思ってた……希さんを求めて泣く大輝を抱きしめながら……ずっと、思ってた」
「俺も、そうだよ……俺はいいから、涼香が幸せになればって思ってた……」
「私たち……きっと運命だったんだと思う……こうして出会って、心を通わせて傷を癒して……抱き合って──今一緒にいることが」
涼香が大輝の唇にキスをする。
「大輝、愛してる──そばにいさせてくれて、ありがとう。これからも、そばにいるから……約束するから、一緒にいよう……」
大輝は涙をこらえきれない。
愛おしい人が抱きしめてくれる。そばにいる……。
一瞬にして希を、愛を失った大輝は涼香の言葉が胸に刺さった。隣にいる……その大きさを噛み締めていた。普通なら、そのまま感謝して抱きしめるだろうが、大輝は心の奥の透明な箱に涼香の言葉が染み込んでいくのを感じた。
泣きたくないのに、涙が──。
涼香はそれが分かったようで大輝の頭を抱えて髪を撫でた。
「大丈夫、大丈夫」
しばらくして涼香の胸の中で泣いていたはずの大輝が溜息をつく。申し訳なさそうに微笑んだ。
「涼香、ごめん……愛してる……」
「う、うん……私も愛してるよ?」
涼香がキョトンとした顔で大輝を見つめる。
「愛しすぎて……もう一回抱きたいんだけどいいかな?」
涼香は呆気に取られていたが吹き出すと大輝の肩に触れる。
「もう、しょうがないね……」
そう言いながらも涼香は笑っていた。二人は体を起こすとベッドの上で見つめ合う……。大輝はゆっくりと涼香にキスをする。
ゆっくりと、甘い、甘いキスを……。
二人は離れると目を合わせて微笑んだ。
忘れられる想いならとっくに忘れている。想いを忘れられないのなら、忘れなくていい。想いを拒んで抗おうとしても……もっと深く刻まれるのだから。
愛は簡単なものじゃない。
時が過ぎた時、その忘れられない思い出をどうするかは人それぞれだ。
全てを包んでくれる人が現れる人。
いい人が現れまた恋に落ちる人。
忘れられなくて、一人で思い出の中に生きる人。
忘れたふりをする人。
色々な人がいるけれど、正解なんてない。
だけれど、人間は愛した記憶と愛された記憶を忘れないのは、きっと……またいつか誰かを同じように、それ以上に……愛せるためだと、信じている。
END
洋介がどこかの名探偵のようにスウェット姿で寛ぐ大輝に向かって指を指す。
「は……安易だなお前も……俺は、シロだ──」
大輝が手持ちのカードを中央の山に放り投げる。その瞬間洋介が◯ンクの名画、叫びの男のような顔をする。
洋介は大輝の横でニタっと笑う涼香と目が合うとわなわなと震えだす……。
「き、きき、貴様が犯人かー!!」
洋介は次に涼香を指差した。涼香は満面の笑みでカードを洋介の顔の前に突きつける。
涼香は犯人ではない……ということは……。隣にいる愛する妻に目をやると蔑むような目でこちらを見ている。
「迷宮入りしちゃったね、洋介……」
弘子は中央のカードの山に【犯人】と書かれたかカードを叩きつけた……。その瞬間洋介は持っていた缶ビールを飲み干した。相当悔しそうだ。
「無念……」
大輝がカードを纏め、よく混ざるように半分涼香へと手渡しカードを切り始める。
「俺が涼香に犯人カード渡して、そこから弘子ちゃんに移ったんだよな?」
「ちがうよ、大輝から私、私から一回洋介くんに移ってから弘子だよ。弘子上手かった……大輝に【犯人】移ったように演技してたもん──」
二人が結ばれて数ヶ月が過ぎようとしていた。二人はもう下の名前で呼び合うようになっていた。
金曜日の夜、四人は大輝の部屋で家飲みをしていた。少し前からこうして大輝の部屋で酒を飲みながらカードゲームやボードゲームをするようになった。
初めて遠藤夫妻を招待した時のことを思い出す。洋介は本当に嬉しかったようで、子供の遠足のように指折り数えて楽しみしていたことを二人は弘子から聞いていた。
洋介はカードゲームに負けたというのに本当に楽しそうだ。見ているこちらまで笑ってしまう。夜遅くに二人はほろ酔いで大輝の部屋をあとにした。階段から落ちないかと心配になったが、二人で仲良く手を繋いで帰って行ったので大丈夫だろう。
その夜、涼香は大輝の部屋に泊まった。
最近は週末はこうして大輝の部屋に泊まることが大半だ。最初に感じたこのベッドの香りも今は分からなくなってしまった。自分の匂いしかしない。
愛し合った後……二人はベッドで向かい合っていた。
大輝は涼香の髪を耳にかけてやるとそのピアスを撫でる。涼香の首筋に大輝はキスをする。情事の余韻で涼香の体が跳ねる……。
「なぁ、涼香……」
「ん、どうしたの……?」
「俺たち、ずっとこうしていたいな」
涼香が素足を大輝に絡める。
「毎週こうしていると思うんだけど?」
「…………」
「どうしたの?」
黙ったまま動かない大輝の頰に触れる。大輝は自分の頰に置かれた涼香の手を握りしめる。
「もっと一緒に、いたい。仕事から帰って涼香と一緒に……いたい。こんな事言うのはまだ早いのかもしれないけど、その……一緒に住まないか?」
「一緒に、住む?……ここで?」
「引っ越してもいい。涼香と一緒にいたいんだ。まだ付き合って少ししか経ってないのに、早いとは思うんだけど、でも……会えない時間がもどかしいんだ。涼香がそばにいてくれたらって、ずっと考えてたんだけど……」
「私のことそんなに思ってくれているの……?」
「ああ……愛してる……付き合っているのに、涼香は俺のものなのに、もっと欲しくなるんだ。バカだろ?」
大輝が自分の言っている事に呆れているようだ。そんなことはない。涼香だって、同じ気持ちだった。深い……深い想いだ。
「ねぇ、大輝……私たち初めて会った時、お互い他の人が忘れられなくて苦しんでいたでしょ? 心に刻まれた想いに胸を焦がして、どうしようもなくて……心を痛めてた──」
「…………」
大輝が涼香の頭を撫でる。涼香の瞳からは涙が溢れ落ちている。大輝はそれを指で払ってやる……絶え間なく流れる涙に大輝は顔を歪める。
「それでも、私、大輝の幸せを祈ってたの、ずっと、ずっと思ってた……希さんを求めて泣く大輝を抱きしめながら……ずっと、思ってた」
「俺も、そうだよ……俺はいいから、涼香が幸せになればって思ってた……」
「私たち……きっと運命だったんだと思う……こうして出会って、心を通わせて傷を癒して……抱き合って──今一緒にいることが」
涼香が大輝の唇にキスをする。
「大輝、愛してる──そばにいさせてくれて、ありがとう。これからも、そばにいるから……約束するから、一緒にいよう……」
大輝は涙をこらえきれない。
愛おしい人が抱きしめてくれる。そばにいる……。
一瞬にして希を、愛を失った大輝は涼香の言葉が胸に刺さった。隣にいる……その大きさを噛み締めていた。普通なら、そのまま感謝して抱きしめるだろうが、大輝は心の奥の透明な箱に涼香の言葉が染み込んでいくのを感じた。
泣きたくないのに、涙が──。
涼香はそれが分かったようで大輝の頭を抱えて髪を撫でた。
「大丈夫、大丈夫」
しばらくして涼香の胸の中で泣いていたはずの大輝が溜息をつく。申し訳なさそうに微笑んだ。
「涼香、ごめん……愛してる……」
「う、うん……私も愛してるよ?」
涼香がキョトンとした顔で大輝を見つめる。
「愛しすぎて……もう一回抱きたいんだけどいいかな?」
涼香は呆気に取られていたが吹き出すと大輝の肩に触れる。
「もう、しょうがないね……」
そう言いながらも涼香は笑っていた。二人は体を起こすとベッドの上で見つめ合う……。大輝はゆっくりと涼香にキスをする。
ゆっくりと、甘い、甘いキスを……。
二人は離れると目を合わせて微笑んだ。
忘れられる想いならとっくに忘れている。想いを忘れられないのなら、忘れなくていい。想いを拒んで抗おうとしても……もっと深く刻まれるのだから。
愛は簡単なものじゃない。
時が過ぎた時、その忘れられない思い出をどうするかは人それぞれだ。
全てを包んでくれる人が現れる人。
いい人が現れまた恋に落ちる人。
忘れられなくて、一人で思い出の中に生きる人。
忘れたふりをする人。
色々な人がいるけれど、正解なんてない。
だけれど、人間は愛した記憶と愛された記憶を忘れないのは、きっと……またいつか誰かを同じように、それ以上に……愛せるためだと、信じている。
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