忘れられたら苦労しない

菅井群青

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38.愛って本当に素敵です

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「ふん、ふふん、ふふん」

「随分ご機嫌だわね」

 洋介は晩御飯の皿を鼻歌交じりで洗っている。シャツを腕まくりして皿を手際よく片付けていくその姿はまるで遊んでいるようだ。

 弘子はソファーに座り書類片手に仕事中だ。その書類には一面英語だらけで洋介にはちんぷんかんぷんだ。

「はい、あったかいお茶」

「あ、ありがとう」

 弘子が受け取り口に含むとほっとした表情を見せる。弘子はキャリアウーマンだ。一人でかなりの金額を動かしているらしい。責任はかなり重大だ。

 こんな、細い体なのに……。
 洋介は弘子の体が心配だった。

 男ばかりの業界の中で必死に戦う弘子をもちろん応援している。だが、時折限界を超えて無理をしている弘子の姿を見ると止めたくなる……。

 弘子が書類を見ながら首をぐるっと回したのを見ると洋介はソファーの後ろに回り弘子の肩を揉む。

「ふふ、お上手ですね、洋介さん」

「お粗末様です、弘子さん」

 俺が出来ることはこんなことぐらいだ、そばにいて、癒して、たまに笑わせて、弘子を休憩させることぐらい、そんなもんだ。うん。

「……ねぇ、あと一時間はかかりそうなのよ、この仕事」

「うん、わかった」

「ご褒美作って」

「そうだな、一時間で終われば、終われば──洋介さんとお風呂券と、洋介さんと濃厚な夜の営み券がゲット!」

「なにそれ……ふぅん……了解」

 弘子は先程よりもすごい勢いで書類を睨みつける。

 なんだ? 性欲というのは時に起爆剤になるらしい。俺は弘子の頭にキスを落とすとそのまま向かいに置かれたソファーに座った。タイムリミットは一時間だが、ご褒美がある時の弘子の集中力は違う。もっと早く終わらせるだろう。

 俺は弘子のビタミン剤兼栄養ドリンクらしい。俺は一人茶を飲むと微笑んだ。

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