貴族嫌いの伯爵令嬢はただ本を読んでいたいだけのようです 〜魔力無しと嘲笑われた令嬢の生き様〜

ごどめ

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最終章 真相解明編

86話 事情聴取

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「――と、此度の賢人会議にて、そのような大事がありました」

「……そう。それでデレアさん、あなたは私になんの用なの?」

「単刀直入に聞きます。カタリナお母様はデイブ魔導卿……グリエンドール魔導卿とは、いつから繋がっていたのですか?」

「ッ!」

「もうシラを切り続けるのはやめましょうお母様。私はまさにその為に今日帰ってきたのですから」

 私は今、リフェイラ邸、カタリナお母様の私室にて、カタリナお母様と二人きりで話をしている。

 それというのも全ては先日、明らかになった事実の再確認の為であった――。



        ●○●○●

 

「おかえりなさいませ、お姉様ッ!」

 声を張り上げて満面の笑みを浮かべ、リフェイラ邸の私の自室に飛び込んできたのは義理の妹のドリゼラだった。

「あ、ああ。ただいまドリゼラ」

「学院から戻ったらフランが嬉しそうにお姉様が戻ってきてると教えてくれましたから、飛んで来ましたの! んもう、帰ってきてくださるなら事前にご連絡くだされば迎えに行きましたのに!」

 私はリアンナ長官よりようやく休暇をもらえた為、今日リフェイラのお屋敷に帰ってきたのである。

 リフェイラ邸に戻ったのは様々な理由があるが、まずはカタリナお母様から話を聞く為と、先日カイン先生より申し渡された第二回目となる大舞踏会に向けて準備する為だ。

「それでお姉様。例の件はどうなりましたか?」

「そうだな。その件も含めてドリゼラたちには話しておかなければならないな」

 私はドリゼラにフランとマーサ、それにドルバトスを呼んできてもらうよう頼み、皆が部屋に来るのを待った。

 ――そうして彼女らが集まった後、私は先日の賢人会議で起きた事の経緯を簡単に話した。

「……というわけだ」

「それではお姉様、グリエンドール魔導卿という者は本当にガルトラント公国に通じている者らだった、と!?」

 ドリゼラが顔面蒼白に答える。

「ああ。だからこそ今晩、私はお母様には話を聞かなくてはならない。私はその事も含め今日帰ってきたのだからな」

 私は宮廷官としてカタリナお母様に事情聴取しなくてはならない。

 どちらにせよ、王宮での捜査はザイン宰相が投獄された事によって加速度的に進んでいる。遅かれ早かれカタリナお母様もデイブ魔導卿との関係性を調べられる事にはなるだろう。

 その前に私は直接話をしようと決めたのである。

 そして――。



「カタリナお母様の書架の裏より続く地下に、リビアという少女が幽閉されておりますね。その娘からだいたいの事は聞き及んでおります」

「……そう」

 私はカタリナお母様と二人きりとなり、こうして彼女にこれまでの事実について問いただしている。

「これはリフェイラ家の娘として聞いているのではなく、私はいち宮廷官としてカタリナ・リフェイラ様に問うております。今回の件について心当たりのある事を全て話してもらえますね?」

 カタリナお母様は少しだけ憂うような瞳を見せると、小さく溜め息を吐いた。

「……わかったわ。私が知る限りの事を話します」

「お願いしますカタリナお母様」

「私がリビアを匿っているのはグリエンドール魔導卿に指示されたからよ。彼女はもともとガルトラント公国の子爵家の娘だったのだけれど、グリエンドール魔導卿がある日突然この娘を侍女として雇えと命じられたわ」

「グリエンドール魔導卿とはいつからお知り合いに?」

「ドリゼラが産まれるよりも前。ギランを婚約相手として紹介された頃くらいよ。夜会で話すようになって、簡単な仕事を手伝ってくれれば報酬を出す、と言われてからね……」

「金銭に目がくらんだ、と?」

「その通りよ。私の生家であるゾルフォンス家は貴族の癖に金銭的に余裕がなかったの。そんな思いをドリゼラにまでさせたくなかったの」

「……それで、何をしろと言われたのですか?」

「リフェイラのお屋敷に地下室を作れと命じられたわ。特別なね。費用はグリエンドール魔導卿が全て出してくれたわ」

「なるほど。それで秘密裏にあの地下室を造った後、リビアを幽閉したと」

「……そうよ。最初は何の為の部屋かさっぱりわからなかったけれど、後から説明されたわ。それでリビアを事故死に見せかけ、あの部屋に閉じ込めた。全てはあの子を治す為だとグリエンドール魔導卿には言われたわ」

「リビアの魔力変異症を治す為に、彼女を閉じ込めて彼女を実験台にした、と」

「ええ。ただ当然私には魔力変異症なんてものの知識なんてないから、全てグリエンドール魔導卿の指示通りに実験を繰り返していただけだけれどね……」

 そうなるとカタリナお母様はあの子をどう利用したかまでは知らないのか。

「ではリビアを屋敷から連れ出した事はありますか?」

「グリエンドール魔導卿が訪れた時にだけ、ごく稀に彼女を連れ出していたわ」

「あの檻から出しても魔力変異症による被害は起きなかったのですか?」

「ええ。彼女を薬で深く眠らせておいたのよ。詳しくはわからないけれど、あの病は深い眠りにある時だけ周囲への魔力暴走を引き起こさないらしいから」

 となると、薬か何かでリビアを眠らせその間に彼女を悪用していたと考えられるな。

 そして密かにシエル殿下に遭わせ、彼女から魔力変異症を誘発させられた、か。

「……カタリナお母様は主にどのような実験を繰り返していたのですか?」

「正直、本当によくわからないの。ただ、命じられた薬や血液サンプルを利用して、その結果をレポートにまとめていただけ。ただ、それを繰り返し積み重ねる事が彼女を救える唯一の方法なのだと言われたわ」

「それが実は彼女を救う為ではなく、国家を揺るがす為に悪用されていた、という事は知らなかった、と」

「え……? どういう事なのデレアさん……?」

「彼女の魔力変異症は不治の病と言われております。引き起こされれば現代医学では治す手段が見つかっておりません。ただ、誘発させるように他者にも魔力変異症を引き起こさせる方法があります」

「そ、そんなの知らないわ」

「グリエンドール魔導卿はそれを利用し、リビアをとある人物に遭わせ、その者に魔力変異症を引き起こさせました。その人物が誰かおわかりになりますか?」

「い、いいえ……?」

「それがこの国の王太子であるシエル殿下ですよ」

「え、ええ……!?」

 この反応、どうやらカタリナお母様は本当に何も知らないようだな。

「そのせいで殿下は……先日、お亡くなりになりました」

「う、嘘よ!? そんな……あんなに元気そうだった殿下が……」

「あの舞踏会にいた殿下は偽物です。彼はずっと病に伏していました」

「そんな……」

 お母様は愕然とした表情をしてみせた。

「お母様が殿下の髪色の特徴をご存知だったのはグリエンドール魔導卿から教えてもらっていたから、ですよね」

「……ええ。そうよ。先日の大舞踏会が開かれる噂を聞いてからすぐに殿下の情報を集めていたわ。それでグリエンドール魔導卿から色々教えてもらっていたの」

「その時のグリエンドール魔導卿の様子はいかがでしたか?」

「何故そんな事を聞く? と不審そうに言われたわ。それで私は、殿下が出席される大きな舞踏会が近々開かれるからドリゼラを殿下のお眼鏡に適えばと考えていて、と答えたの」

 妙だな。

 このお母様の話の流れだとグリエンドール魔導卿は舞踏会の開催を知らなかったという事になる。

 てっきりヴィンセント・ゴルドールとも繋がりがあったのかと思ったが……。

「グリエンドール魔導卿はしばらく沈黙した後、私に殿下の特徴を教えてくれたわ。ただ、何があっても殿下の特徴や自分との関係性を洩らしてはダメと念を押されたけれど」

 こうなるとヴィンセント・ゴルドールはザイン派ではなかったのだろうか。

 しかしそうなるとヴィンセント卿の狙いは一体どういう事になるんだろうか。

 彼はグラン様とは繋がりが深そうだ。彼に話を聞ければそれが一番だな。

「……わかりました」

 カタリナお母様から聞ける情報はこんなところか。

「……それでデレアさん。私を衛兵に突き出すの?」

「ん? 何故です?」

「私はリビアを違法的に監禁しているし、それに……」

「カタリナお母様は魔力変異症を利用して悪事を働こうと考えていたのですか?」

「違うわ! 私はただドリゼラを……ドリゼラには幸せになってもらいたくてお金や婚約相手を慎重に考えていただけで……!」

「でしょうね。ドリゼラにだけはあなたはとても甘かった」

「……」

 カタリナお母様はバツが悪そうな顔をしている。

「ひとまずこの事は全てまだ胸の内に秘めておいてください。しかるべき判断をくだした後にまたご連絡致しますので」

「ええ、わかりました……」

 こうしてまだいくつかの謎を残し、私はカタリナお母様との事情聴取を終えた。


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