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よろしい、ならば戦争ですわ 〜婚約破棄をきっかけに国を潰す決意をした隣国の悪役令嬢はレジスタンスリーダーと幸せな国を作る〜
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今、私が吐いた言葉を聞き入れた彼は、私の予想通りこう言った。
「ルシーナ! キミとの婚約関係は今日限り破棄させてもらうぞッ!」
そう怒鳴り散らすのは、整った顔立ちの王太子殿下であらせられるクラウス殿下。
「それはつまり、私をこの宮廷から追い出す、という意味でよろしいのですね?」
「他にあるまい! 不服があるなら申せ!」
「はい、ではお聞きします。何故私がクラウス様の夜伽について言及したら、私は婚約を破棄されるのですか?」
「当然だ! 前々からキミは私の婚約者という事を盾に、この宮廷内でやりたい放題、わがまま放題していたらしいじゃないか! それを棚に上げて私の夜伽がよろしくない、だと!? よくもそんな事が言えたなッ!」
それは、と私が口を挟む間もなく彼は続ける。
「そもそもキミは私と夜を共にしないではないかッ! 王太子である私に妾の数人など居るのが当たり前だッ!! オレンゲイト家ではそんな事すら学ばせてもらえなかったのか!?」
彼の言う通り、私、ルシーナ・オレンゲイトは王太子殿下の夜伽について彼へと言及した。
彼は私が夜の営みを断り続けるので、他の女と寝るのは当然だと豪語した。
しかし私はまだ15。正式に結婚が認められ、栄誉ある王太子妃となるまでのあと1年は身体を純血な乙女でいなくてはならない。というのが、そもそものこの国の決まりである。
それだけではなく、根本的に私は好きでもない王太子殿下とそういう行為に及びたくはなかったのだ。
なので、王太子殿下が他の妾と夜伽を行なう事について、本音のところ別にどうでもいいのだ。
そうではなくて。
「……いえ、存じておりますわ。ただ私が言っているのはほどほどにしないと」
「ええい! 聞きたくない! もうキミの顔など見たくもないッ! 早々に荷をまとめ、この宮廷から出てゆけッ!!」
顔を真っ赤にしてクラウス殿下は怒鳴り散らした。
「良いのですね? ヒーラーは私しかおりませんが」
「そんな役立たずな魔法なぞ、いらん! 口うるさいだけでなく、私に抱かれもしない女になぞ用はない!」
そこまで言われたら仕方がない。
「かしこまりましたわ。この1年、お世話になりました」
「ふん! 魔法でその顔に焼き印を入れられないだけ、私の慈悲だと思うのだなッ!」
私はペコっと頭を下げて自室へと戻り、宮廷を出る身支度を整えるのだった。
●○●○●
「……ルシーナ様。本当に出て行かれてしまうのですか?」
悲しそうな瞳で私にそう言っているのは、この宮廷で私専属で世話を焼いてくれていたメイドのニーナだ。
「ええ。彼が正式に婚約破棄と申し上げましたので、明後日には出て行きますわ。ニーナには大変お世話になりましたわ」
「そんな……」
――私はこの王都の隣国で、豊かな大地といくつかの人里、そして近隣の山々を領地とするオレンゲイト家の公爵令嬢であった。
元々クラウス王太子のお父上が治めるこの王国と隣国は、長くから敵対国同士であったが、私の国の王が和平条約を申し出て、昨今ようやく敵対関係に終止符を打った。
その証として、この王都に一番近い我がオレンゲイト家の長女であるこの私がクラウス王太子殿下の婚約者として差し出された。つまりはただの政略結婚だ。
我が国の王の勅命を受け、私の父は私に隣国へ嫁げと命じた。私は嫌々だったが、また戦争が再開しても困ると思い、仕方なく自分の思いは封じ込め、渋々クラウス王太子のもとへ嫁ぐ決意を固めた。
しかしこの国の宮廷内はとにかく酷かった。
まず、私が来るまでクラウス王太子殿下の妃の座を狙っていた宮廷貴族の令嬢たちが、日々事ある毎に私へと陰湿な嫌がらせを繰り返す。
「あらぁ? 隣国のオレンゲイトというお家では魔法のお勉強をないがしろにしていたのかしらぁ?」
陰湿な嫌がらせの中でも、魔法に関する事については特に酷かった。
私の国では基本的に魔法は人を癒す為に使い、正式な理由がない限り人を傷つけてはならないとされていた。
だが、この国では魔法とはどれだけ多くの殺傷能力を持っているかでその優位性を誇示するのだという。
更にここでは罪の重さ、軽さに関係なく全ての犯罪者は宮廷内にある、外郭からは決して見ることが叶わないまるで闘技場のような場所で公開処刑されるのだが、その場所で貴族たちは魔法を披露して犯罪者たちを処する。
月に一度、『ジャッジメント』と呼ばれるその日は、多くの宮廷貴族がこの場所に集まる。
その日、貴族たちは女も男も関係なく、無差別に魔法を使って犯罪者たちを好きなようにいたぶる。ちなみにこの処刑は生死を問わず、受刑者たちが死んでしまえばそれまでだし、運良く生き残れば、また次のジャッジメントの日まで牢獄で過ごす事になる。
まさに人道など無いに等しかった。
私はこの謎の行為をおぞましく思い、とてもではないが参加する気にはなれなかった。
参加せずにいると、他の貴族令嬢たちが「貴女は攻撃魔法を扱えないのかしら?」等々の馬鹿にしたような口調で私を乏しめてきたが、それでも私は魔法で人を傷つけるような行為には参加しなかった。
そしてとある日。あまりにその行為の醜悪さに見兼ねて、私は思わずひとりの受刑者のもとへと近寄り『ヒール』の魔法で彼の傷を癒した。
何故彼を助けたのかと言うと、彼の罪はあまりにも軽すぎたからである。
彼は元々この宮廷に仕える兵士の一人だったのだが、ある日、大事な演習にわずかに遅刻してしまった事だけで罪人とされてしまったのだ。
その事を聞き及んだ私は、さすがに彼の罪は軽すぎると騒ぎ立てたのだが、まるで相手にされなかった。
「あ、ありがとう」
その受刑者は私に礼を告げた。そして私のヒールのおかげで彼はその日のジャッジメントをなんとか生き延びたのである。
すると同時に多くの貴族らに叱責、罵倒をもらった。
自分勝手な事をするな、と。
貴族の恥晒しめ、と。
その他にも宮廷内の貴族たちは、誰かが何か不始末を起こすとその者へと攻撃魔法で痛めつけて叱責するというのが当たり前だった。
そしてこの国ではそれが許されるとち狂った法律がまかり通っていたのである。
私はそれに異を唱え続けていたら、いつの間にか私にだけ自分勝手で人に合わせられないワガママな令嬢というレッテルが貼られていた。
「いいかルシーナよ、ここはキミの国じゃない。郷に入りては郷に従えという言葉を知らんのか? あまりにワガママばかりを言うでないぞ」
と、日々クラウス王太子の父上である、国王様にも咎められる始末。
そしてクラウス王太子はといえば、そんな私の事などつゆしらず、女遊びとギャンブルばかりを好み、更には罪人イジメだけに飽き足らず、弱い者イジメが趣味という恐ろしく性格の捻じ曲がった人な上、見た目もその性格の悪さが顔に滲み出ているようで、どうあっても彼を好きにはなれなかった。
●○●○●
「……ですから、クラウス王太子の方から婚約破棄を申し出てくれた事は助かりましたわ」
「でもこのままではルシーナ様のお国とまた戦争が始まってしまうのではありませんか……?」
メイドのニーナが最後の別れの前に、宮廷内の私の部屋で目に涙を浮かべながらそう言った。
「そうかもしれませんわ。だからニーナ、貴女だけでも早めに他国へ逃げてちょうだい。本当にどうなるかわかりませんから」
彼女は貴族ではないが為、その倫理観は至って普通だ。
この国でおかしいの貴族だけである。
だからこそ、長年私の国との争いが絶えなかったのだろうが。
ニーナへと最後の別れを告げていると、不意にコンコン、っと私の部屋をノックする音が響く。
「……? 開いていますわ」
「失礼します」
私が言うと、ひとりの兵士が室内に入ってきた。
「ルシーナ妃殿下」
「私は先程クラウス王太子殿下より、正式に婚約破棄を申し渡されましたので、もう妃殿下ではありませんよ」
「な、なんと。やはりそうだったのですか。道理で先程から宮廷内が騒がしいと……」
「ええ。ところで貴方は?」
「はい。自分はスラッジという名の、しがない一般兵です。この度はルシーナ妃……あ、失敬。ルシーナ様に御礼を申し上げたくて馳せ参じました」
「お礼? 私何かしましたかしら?」
「自分の兄、ヴェイルを助けていただいた事です。青い髪の、三白眼なうえ悪眼の男に覚えはないでしょうか?」
私はすぐにピーンと来た。いつの日か私が一度だけヒールで救った彼の事だ。
彼の目は特徴的で、弟のこの兵士が言う通り、見た目が三白眼なうえ悪眼であり、その人相は一言で言えば「怖い」と言った印象を強く受けさせる。
そしてだからこそ、彼はあのような些細な罪で罪人とされてしまったのだ。
「ええ、よく覚えていますわ」
「その節は我が兄、ヴェイルを庇い立てくださり、まことにありがとうございます。次のジャッジメントの日まで兄が生きていられるのは他でもないルシーナ様のおかげです」
「そう。あの方はヴェイルさん、と仰るのですね」
私は彼のあの顔を思い出す。
彼の目つきは確かに悪い。そのせいで宮廷貴族らに「なんだ貴様のその目は!? 文句でもあるのか!?」と怒鳴られていた事もよく覚えている。
しかし彼の中身は誠実そのものである事を私は知っている。
「でも、私が助けたとはいえ所詮一時凌ぎ。次のジャッジメントの日に、彼が助かる保証はありませんし、その時には私はいませんわ……」
「いえ、それがそうでもないのです。この一ヶ月生き延びられた事に大きな意味がありました」
スラッジが妙な事を言い出す。
「大きな意味?」
「はい。実はここだけの話、あと一週間後にこの国でクーデターが起こります」
「ええ!?」
声を荒げたのはメイドのニーナ。
「この国の王政に長年疑問を持つレジスタンスによる、大規模な破壊活動です。実はそのリーダーが自分の兄であるヴェイルでした。兄は宮廷兵士とレジスタンス活動の二重生活を長年密かに暗躍しておりました」
「そうだったんですの。まあ、当然ですわね。こんな国では」
「はい。この国の執政官から宰相、そして全ての貴族は古来より魔法による繁栄を第一と考えている思想が根強く、魔法に長けていない者は全て悪、とまで豪語する暴論がまかり通っていました」
「ええ、それは私もここで暮らした短い期間でも充分に理解していますわ」
「国民はずっと疲弊しております。加えて、貴族や王族らの気にいらない者は、些細な理由でも犯罪者扱いされ、そしてジャッジメントなどとふざけた名目で彼らの鬱憤ばらしのエサにされる。それを壊すためのクーデターを起こします」
「そのリーダーが貴方の兄であるヴェイルさんだと」
「はい。兄の収監は突然であり、まさかジャッジメントの前日にそんな事になるとは思わず、このまま救えずに何もかも終わってしまうのかと絶望しておりましたが、ルシーナ様が延命させてくださったおかげで、クーデター勃発の日にどさくさに紛れて宮廷に攻め込み兄を救出できます」
「しかしそんな事、いくら王太子から婚約破棄されたとはいえ私になど話すべきではなかったのでは?」
「いえ、むしろルシーナ様には協力を仰ぎたいのです」
「協力?」
「はい。それは――」
●○●○●
「……もし。……もし?」
その日の深夜。
宮廷内、地下牢獄。
ジャッジメントの日が訪れるまで、罪人たちはここに小さく間仕切りされた部屋ごとにそれぞれ収容されている。
私はそこに囚われているヴェイルさんに会いに来ていた。
「貴女は、ルシーナ王太子妃殿下! 何故このような場所に……?」
すぐに私に気づいたヴェイルさんが牢獄の鉄格子越しにいる私へと近寄る。
この宮廷の牢の管理は甘い。見張りの兵士などなく、牢獄は割と誰でも簡単に忍び寄れる。
貴族たちは魔法に長けている事を自信に持ち過ぎている為、賊が侵入してもただちに殺せば良いと高を括っているからだ。
「ヴェイルさん、ジャッジメントの日以来ですわね。弟のスラッジさんからだいたいの事情を聞いておりますわ。貴方にどうしても伝えて欲しい事がある、と」
「スラッジから!? という事はルシーナ王太子妃殿下は……」
「ええ、全て把握しておりますわ。それと私はもう王太子妃ではありませんので」
私は簡単に婚約破棄の経緯を彼に話した。
「私は王太子殿下の事を好きではありませんでしたわ。それでも両国の事を思い、私は出来る限りクラウス王太子殿下に尽くそうと努力致しました。だからこそ彼の夜伽について言及したのです」
「ルシーナ様はさすがです。わざわざ魔力の尽きたクラウス王太子殿下を癒やしていただなんて」
そう。
私がクラウス王太子殿下に夜伽を止めるよう進言したのにはワケがある。
彼に嫉妬したりとか、浮気が許せないとかではなく、彼は魔力を無駄に浪費し続けていたからだった。
夜の営みには、膨大な魔力が動く。
特に殿方は一度精力を使うと大きく魔力を損なってしまう。この国で魔力を誇示するならば、夜の営みはほどほどにすべきだと私は窘めたつもりだった。
だが、彼は聞く耳など持たなかった。
それでも私は彼が翌日魔法を使うような行事ごとがある日は、その晩に可能な限り『ヒール』で身体的疲労を回復させ、魔力の回復も促進させていた。
だが、日に日に彼の夜伽は激しくなり、私の『ヒール』でも全回復が見込めなくなってきたので、このままでは彼はいざという時に魔法がロクに使えなくなるぞ、と注意しようと思ったら癇癪を起こされたというわけだ。
この国と私の国では魔法の形態が大きく違う。
私の国では癒しの魔法が特化している、つまりは守りに強い国。
転じてこの国は攻撃魔法に特化している。
だが、私はこの国で過ごすうちに見えてきてしまったのだ。この国の弱点が。
「攻撃魔法に溺れ、弱者を救うどころか虐げるようなこの国の内政にはもはや未来はありません。私はこの国を潰す決意を決めました。潰す方法はこれまで難しかったのですが、それもヴェイルさんたちレジスタンスの協力のもとに、簡単に制圧できるとわかりました」
「つまりは外と中から同時にこの国を叩くと?」
「ええ、単純にはそうですが、あくまで私の国を囮とします。この国を変えるのは他でもない、貴方ですわ、ヴェイルさん」
スラッジの提案と私の考え。
それは私の国を囮として、レジスタンスの行動を成功させる事。
我が国が動けばこの国の戦力はそちらに向く。あとはレジスタンスたちが王の首を取れば良いのだ。
「だから、ヴェイルさん。貴方はこのままこの牢でその日まで過ごされてください。私は当日、貴方を解放する為にまたここに訪れます」
「良いのですか? ルシーナ様。本当にそのような……」
「ええ。それにこの国を変えるには貴方のような方が上に立たなくては駄目ですから」
ヴェイルさんが罪人となったのにはワケがある。
私はその一部始終を見ていた。
彼が演習に遅れた理由。それは、街中で大人に虐められていた子供を助けていたからだ。
この国で宮廷の兵士がそんな真似をするなど珍しいと思っていたので、よく覚えていたのである。
「それにヴェイルさん。貴方、本当は剣だけでなく魔法も相当な腕前ですわよね」
「見抜かれておりましたか」
彼の身体からは溢れんばかりの魔力がみなぎっているのが私にはわかった。私の国は癒しの魔法は長けているのだが、それは他者の身体の具合を見る魔法に特化しているとも言えた。
だからこそヴェイルさんというこの人が、体内に膨大な魔力を秘めている事もすぐわかった。
「私は元々この国の貴族の家系でした。ですが、我が一族はこの国の思想とは真逆の考えゆえに、迫害を受け続け、ついには幼い私と弟を残し、皆、殺され没落してしまいました。ですが私は、魔法という物は魔法が使えない弱き者の為にあるべきだと思っているのですッ!」
彼の瞳には燃えたぎる使命のようなものすら感じさせられた。
「ええ、私もそう思います。ですから、クーデターの当日には、私は貴方の傍におりますわ」
「ルシーナ様が?」
「ええ。貴方ほどの戦士が傷を癒し続け、倒される事なく孤軍奮闘を続ければ、間違いなくこの国の手強い貴族たちをも皆打ち倒せるでしょうから。私が貴方の命を守るヒーラーとなりましょう」
「でもそんな……ルシーナ様をそんな危険な目に遭わせるわけには」
「良いのです。どのみちこのままではこの国と我が国はまた無駄な血が流れてしまう。この国は変えなければならないのです。それに……」
「それに?」
「……な、なんでもないですわ」
と、言って私は顔を背けた。
ハッキリ言って、私は一目惚れしていたのだ。
今ではなく、街中で彼を見た時から。
私は実は、ギャップ萌えなのである。
一見粗暴そうな顔つきの割に、見た目とは裏腹なその優しさから溢れ出る彼のギャップにすっかりやられてしまっていた。
まさに王太子殿下とは真逆なのだ。
彼の目つきはハッキリ言って悪い。しかし私はそういう悪そうな雰囲気の殿方が好みでもあるうえ、その見た目とは裏腹な性格。
そんな彼に心奪われ始めていた。
私は昔から天邪鬼なのだ。
「そんなわけですので、決行日まで私は色々やる事を済ませますわ。貴方は……えい」
と言って私はニコっと笑って彼にヒールをかけた。
「ここで英気を養ってお待ちになってくださいませ」
●○●○●
レジスタンスによるクーデターはあと一週間後。
それまでに私がやるべき事はまず、クラウス王太子殿下を脅しておく事。
「ル、ルシーナ……キミは一体何を言っているんだ!?」
「ですから、最後のお別れに、せめてもの慈悲をかけに来たのです。これでも短かったとはいえ、クラウス王太子殿下にはお世話になりましたから」
「こ、この国の法律を見直せ、だと!? 馬鹿な事をッ! 意味がわからない!」
「罪人をいたぶる事をやめ、罪人にも人としての弁明余地を与え、罪の重さを常識的に判断し、無闇ぞんざいに扱わない。これがそんなに難しい事ですか?」
「当たり前だ! それにそんな事をしたら、誰をいたぶって楽しめば良いのだ!?」
「そうですか、わかりました。それでは宣戦布告させてもらいますわ」
「なに?」
「私は明後日、国に帰ります。この国の西にある我が国へと。帰国後、すぐに我が王へとこの国の内政事情を申告し、ただちに戦争を再開させます」
「ははッ! そんな事をしてみろ。攻撃魔法をロクに使えないキミの国など、あっという間に滅ぶぞ」
「さあ、それはどうでしょうか。どちらにしても私は最後の慈悲としてお話ししたまでですので。それでは失礼いたします」
私は頭を下げて、そしてクラウス王太子とは本当に最後の別れを告げた。
これでこの国は我が国からの攻撃だけに警戒を高めるだろう。
あとは――。
●○●○●
時は過ぎ去り一週間後。
予告通り我が国はクラウス王太子殿下の国へ攻め入る準備を行ない、宣戦布告をしたのち、ついに戦争の火蓋が切られた。
そして同時に王都内でもレジスタンスらによる同時多発テロも勃発。レジスタンスたちはあのヴェイルさんの仲間だという事もあり、民間人には極力被害の及ばない様に都の重要拠点を次々と押さえていき、そして主力部隊はなだれ込むように宮廷へと突撃。
そのごたごたに私も入り混じり、ヴェイルさんらが囚われていた牢獄を破壊し、罪の軽すぎる罪人たちを全て解放するまでとんとん拍子に事は運んだ。
そして――。
「動くなッ!!」
クラウス王太子殿下が叫ぶ。
「それ以上私に近寄ってみろ! この女の命はないと思えッ!」
そう言ってクラウス王太子殿下は右手の平を、メイドのニーナへと向けた。
私とヴェイルさんがついに宮廷の王室でクラウス王太子殿下と彼の両親、つまり王と王妃たちを追い詰めると、彼は最後の抵抗か、宮廷お抱えで私専属のメイドだったニーナを人質にした。
ニーナときたら、戦争と内紛が起きるからあれほど逃げなさいと何度も言ったのに「私もルシーナ様を手伝いたい」なんて言って頑なに宮廷から逃げ出さないからこんな事に……。
「ルシーナ様ぁッ! 私の事など気にせず、どうかあなた方の目的成功を優先させてください!」
「ええい! 黙れ女中の分際でッ!」
「キャアアァァァアッ!」
クラウス王太子殿下は怒りに任せ、その手の平から火炎系魔法でニーナの腕を攻撃した。
魔法は直撃ではないものの、やはりさすがの威力を誇っているようで、ニーナの右腕は大火傷を負っている。
「やめろクラウス殿下!」
ヴェイルさんが叫ぶ。
「やめるのは貴様たちだ。ルシーナ、キミは前々から考え方がおかしいと思っていたが、まさかレジスタンスのメンバーだとはな。なんという卑劣な女だ」
「ええ! とんでもない悪人だわ! やはり隣国からの和平の申し出など受けるべきではありませんでした!」
王と王妃が私を憎々しげに罵倒する。
「ルシーナ、私は非常に悲しい。キミがそこまで哀れな女だとは思わなかった。それほど私に婚約破棄された事が気に入らなかったのか?」
「……」
私は黙り込んで彼らを睨め付ける。
「……馬鹿な息子にしてに愚かな王と王妃、か。見下げ果てたものだな」
ヴェイルさんが鋭い視線で彼らを睨む。三白眼に悪眼の彼が怒った表情はもはや悪魔そのもの。
はあ……。なんて……なんてカッコいいのかしら……。
こんな時なのに、そんな彼の顔に私はときめいてしまっている。私ったら、本当に強面が好きだったみたいだと自分でも驚かされる。
「……っく! な、なんという恐ろしき形相。このような平和な国でクーデターを起こすだけはあるな。まさに悪魔の所業! 貴様のような奴だけは生かしてはおけん!」
クラウス王太子殿下が叫んだ。
「父上! 母上! このメイドを人質に!」
そう言ってクラウス王太子殿下はニーナを王と王妃の方へと突き飛ばす。
「動くんじゃないぞ。ルシーナ? 貴様たちが動けばこの女中はすぐにあの世行きだ。我が父と母の攻撃魔法の威力、知らぬわけではあるまい?」
確かに彼の言う通り、王と王妃の魔力ならニーナなど一瞬で消し炭に変えてしまうだろう。
「そして安心しろ。貴様たちはこの私自らが殺処分してやる。貴様らが大人しく殺されるのであれば、この女中の命だけは助けてやろう」
「……」
私たちは黙り込んだ。
「さあ! 我が最大級の火炎魔法で貴様たちは仲良くあの世で我に懺悔せよ! アルティメットフレアーーッ!」
クラウス王太子殿下の両手から、この世で最大級と呼ばれるほどの大火炎魔法が私とヴェイルさんに向かって放たれる。
これがクラウス王太子殿下の最大魔法。この魔法の威力だけは本当に彼の事を認めざるを得ない。
そしてその炎はたったの一瞬で私たちを包み込む。
「ルシーナ様ぁーッ!!」
ニーナの絶叫が響き渡る。
「はーっはっはっはッ! 馬鹿な女と罪人だ! 私に勝てるとでも思ったのか!? 愚かな者どもめッ! ひゃーっはっはっはっはっはっはっは……」
直後。
「は……がッ!?」
クラウス王太子の腹部は剣にてひと突きにされ、
「がふッ! ば、馬鹿……な……」
口から大量に吐血する。
「……貴様の非道と馬鹿笑いには心底呆れ果てた。あの世で懺悔するのは、貴様だクラウスッ!!」
そう怒りを露わにし、剣を突き立てていたのは炎に包まれたはずのヴェイルさん。
そして。
「う、動……けん!?」
「ど、どうなっているの……!?」
王と王妃が身体を硬直させ、その場で身動き取れずにいた。
「ヒーラーを舐めてもらっては困りますわ。ヒールがただの回復魔法としか認識していなかった時点で貴方がたの国は滅びる運命でしたのよ」
「ど……どういう……!?」
「冥土の土産にお教えしますわ。ヒールとはもちろん対象者の傷を癒すのだけれど、それは対象者の自己治癒能力を増幅させるもの。つまり、身体に対して様々な働きをかける魔法なんですのよ。それは熟練すれば、対象者の身体を如何様にもコントロールすることすらできるという事でもありますの。貴方がたには、神経系麻痺という予備効果を付与したヒールを掛けて差し上げたんですわ」
「そ、そんな魔法、聞いた事もない……ッ」
「そうでしょうねえ。攻撃魔法が正義だとしか思ってこなかった貴方がたからすれば」
私はほくそ笑んで、彼らを見下ろす。
これまで他者を散々に虐め抜いてきた者らにはお似合いの末路である。
「ルシーナ様! 一体どうやってクラウス王太子殿下のアルティメットフレアから耐えられたのですか!?」
ニーナが走り寄って私へと尋ねた。
「アルティメットフレアは必殺級の火炎魔法。さすがの私たちもまともにアレを受けたら回復の余地すらなく灰と化していましたわ。けれど、クラウス王太子殿下はアルティメットフレアを使っておりませんの」
「え? それって?」
「彼がアルティメットフレアだと思い込んで放ったのは、ただの一般火炎魔法。もう彼にはアルティメットフレアを呼び出せるほどの魔力なんてとっくになかったんですの」
「あ! もしかして夜伽の……?」
「ええ、そうですわ。私が散々に注意してあげたのに、きっと昨晩も随分楽しまれたんでしょう。おかげでさっきの魔法はゴミみたいな威力でしたもの」
とは言ってもそれでもニーナにはそれなりの火傷を負わせているので、やはりクラウス王太子殿下のポテンシャルは高かったと認めざるを得ない。
なんにせよこうして、私とヴェイルさんはこの国の王政を無事破壊し、クーデターは見事に成功せしめたのである。
●○●○●
――数年後。
クラウス王太子殿下の父上が治めていたこの国は、一度崩壊し、そしてヴェイルさんが新たな王となり、本当に秩序ある素晴らしい国へと急成長を遂げた。
この国が生まれ変わったことにより、私の国とも友好条約を結び、長きに渡る国同士のいがみあいは終止符を打ったのである。
そして。
「ヴェイルさん! ヴェイルさん! 私のお腹に耳を当ててくださいまし!」
「ふむ?」
ヴェイルさんは私に言われるがまま、膨らんだお腹にそっと耳を当てる。
「……おお! 凄く元気に暴れているな!」
「ええ。さすがはヴェイルさんの子ですわ。私のお腹の中ですでに元気いっぱいですもの」
「何を言ってるんだルシーナ。おてんばなのはキミ譲りさ」
私たちはあの戦火の後、すぐに交際を始め、あっという間に深い恋仲に陥った。
ヴェイルさんは見た目がこんなだから、なかなか女性と縁がなかったそうで、私が口説いたら一瞬で落ちたのである。
「……それにしても本当に私なんかと結婚して幸せなのか? ルシーナ」
と、いつもいつも彼は口癖のように言うのだが、実際のところ彼はめちゃくちゃに女子にモテる。
ただ、距離を置かれていたのは彼が女子に対して「私に構うとロクな事がないぞ」と、まるで脅すかのような顔つきだったが為に、縁がないように思い込んでいるだけだった。
事実、王都内の民衆からのヴェイルさんの人気はものすごく高い。
いつの日か妙な女が彼を私から奪わないようにする為に、
「そうですわ。ヴェイルさんには私以外の女子なんて、怖がって寄ってきませんもの。だから、絶対に浮気なんかしたら許しませんわよ?」
と、わざと言う。
すると彼は、
「ははは、何を言ってるんだルシーナ。私に寄って来てくれる女性なんてキミだけしかいないし、私はキミ以外の女性を愛する事は生涯かけてもないよ。この愛はキミだけにしか捧げないと、この命に代えても誓おう」
と、本気で答えてくれるのである。
私は毎回それが聞きたくてつい、いじわるをしてしまう。
そしてそれを聞いて、心を温めてもらい、そしてお決まりのように優しいキスを交わすのだ。
彼の治めるこの国は世界でも最大級に発展していき、私とヴェイルさんは生涯、幸せにこの国で暮らした。
余談だが、ニーナはどんな縁なのか、ヴェイルさんの弟であるスラッジさんといつの間にか結ばれていたのだった。
「ルシーナ! キミとの婚約関係は今日限り破棄させてもらうぞッ!」
そう怒鳴り散らすのは、整った顔立ちの王太子殿下であらせられるクラウス殿下。
「それはつまり、私をこの宮廷から追い出す、という意味でよろしいのですね?」
「他にあるまい! 不服があるなら申せ!」
「はい、ではお聞きします。何故私がクラウス様の夜伽について言及したら、私は婚約を破棄されるのですか?」
「当然だ! 前々からキミは私の婚約者という事を盾に、この宮廷内でやりたい放題、わがまま放題していたらしいじゃないか! それを棚に上げて私の夜伽がよろしくない、だと!? よくもそんな事が言えたなッ!」
それは、と私が口を挟む間もなく彼は続ける。
「そもそもキミは私と夜を共にしないではないかッ! 王太子である私に妾の数人など居るのが当たり前だッ!! オレンゲイト家ではそんな事すら学ばせてもらえなかったのか!?」
彼の言う通り、私、ルシーナ・オレンゲイトは王太子殿下の夜伽について彼へと言及した。
彼は私が夜の営みを断り続けるので、他の女と寝るのは当然だと豪語した。
しかし私はまだ15。正式に結婚が認められ、栄誉ある王太子妃となるまでのあと1年は身体を純血な乙女でいなくてはならない。というのが、そもそものこの国の決まりである。
それだけではなく、根本的に私は好きでもない王太子殿下とそういう行為に及びたくはなかったのだ。
なので、王太子殿下が他の妾と夜伽を行なう事について、本音のところ別にどうでもいいのだ。
そうではなくて。
「……いえ、存じておりますわ。ただ私が言っているのはほどほどにしないと」
「ええい! 聞きたくない! もうキミの顔など見たくもないッ! 早々に荷をまとめ、この宮廷から出てゆけッ!!」
顔を真っ赤にしてクラウス殿下は怒鳴り散らした。
「良いのですね? ヒーラーは私しかおりませんが」
「そんな役立たずな魔法なぞ、いらん! 口うるさいだけでなく、私に抱かれもしない女になぞ用はない!」
そこまで言われたら仕方がない。
「かしこまりましたわ。この1年、お世話になりました」
「ふん! 魔法でその顔に焼き印を入れられないだけ、私の慈悲だと思うのだなッ!」
私はペコっと頭を下げて自室へと戻り、宮廷を出る身支度を整えるのだった。
●○●○●
「……ルシーナ様。本当に出て行かれてしまうのですか?」
悲しそうな瞳で私にそう言っているのは、この宮廷で私専属で世話を焼いてくれていたメイドのニーナだ。
「ええ。彼が正式に婚約破棄と申し上げましたので、明後日には出て行きますわ。ニーナには大変お世話になりましたわ」
「そんな……」
――私はこの王都の隣国で、豊かな大地といくつかの人里、そして近隣の山々を領地とするオレンゲイト家の公爵令嬢であった。
元々クラウス王太子のお父上が治めるこの王国と隣国は、長くから敵対国同士であったが、私の国の王が和平条約を申し出て、昨今ようやく敵対関係に終止符を打った。
その証として、この王都に一番近い我がオレンゲイト家の長女であるこの私がクラウス王太子殿下の婚約者として差し出された。つまりはただの政略結婚だ。
我が国の王の勅命を受け、私の父は私に隣国へ嫁げと命じた。私は嫌々だったが、また戦争が再開しても困ると思い、仕方なく自分の思いは封じ込め、渋々クラウス王太子のもとへ嫁ぐ決意を固めた。
しかしこの国の宮廷内はとにかく酷かった。
まず、私が来るまでクラウス王太子殿下の妃の座を狙っていた宮廷貴族の令嬢たちが、日々事ある毎に私へと陰湿な嫌がらせを繰り返す。
「あらぁ? 隣国のオレンゲイトというお家では魔法のお勉強をないがしろにしていたのかしらぁ?」
陰湿な嫌がらせの中でも、魔法に関する事については特に酷かった。
私の国では基本的に魔法は人を癒す為に使い、正式な理由がない限り人を傷つけてはならないとされていた。
だが、この国では魔法とはどれだけ多くの殺傷能力を持っているかでその優位性を誇示するのだという。
更にここでは罪の重さ、軽さに関係なく全ての犯罪者は宮廷内にある、外郭からは決して見ることが叶わないまるで闘技場のような場所で公開処刑されるのだが、その場所で貴族たちは魔法を披露して犯罪者たちを処する。
月に一度、『ジャッジメント』と呼ばれるその日は、多くの宮廷貴族がこの場所に集まる。
その日、貴族たちは女も男も関係なく、無差別に魔法を使って犯罪者たちを好きなようにいたぶる。ちなみにこの処刑は生死を問わず、受刑者たちが死んでしまえばそれまでだし、運良く生き残れば、また次のジャッジメントの日まで牢獄で過ごす事になる。
まさに人道など無いに等しかった。
私はこの謎の行為をおぞましく思い、とてもではないが参加する気にはなれなかった。
参加せずにいると、他の貴族令嬢たちが「貴女は攻撃魔法を扱えないのかしら?」等々の馬鹿にしたような口調で私を乏しめてきたが、それでも私は魔法で人を傷つけるような行為には参加しなかった。
そしてとある日。あまりにその行為の醜悪さに見兼ねて、私は思わずひとりの受刑者のもとへと近寄り『ヒール』の魔法で彼の傷を癒した。
何故彼を助けたのかと言うと、彼の罪はあまりにも軽すぎたからである。
彼は元々この宮廷に仕える兵士の一人だったのだが、ある日、大事な演習にわずかに遅刻してしまった事だけで罪人とされてしまったのだ。
その事を聞き及んだ私は、さすがに彼の罪は軽すぎると騒ぎ立てたのだが、まるで相手にされなかった。
「あ、ありがとう」
その受刑者は私に礼を告げた。そして私のヒールのおかげで彼はその日のジャッジメントをなんとか生き延びたのである。
すると同時に多くの貴族らに叱責、罵倒をもらった。
自分勝手な事をするな、と。
貴族の恥晒しめ、と。
その他にも宮廷内の貴族たちは、誰かが何か不始末を起こすとその者へと攻撃魔法で痛めつけて叱責するというのが当たり前だった。
そしてこの国ではそれが許されるとち狂った法律がまかり通っていたのである。
私はそれに異を唱え続けていたら、いつの間にか私にだけ自分勝手で人に合わせられないワガママな令嬢というレッテルが貼られていた。
「いいかルシーナよ、ここはキミの国じゃない。郷に入りては郷に従えという言葉を知らんのか? あまりにワガママばかりを言うでないぞ」
と、日々クラウス王太子の父上である、国王様にも咎められる始末。
そしてクラウス王太子はといえば、そんな私の事などつゆしらず、女遊びとギャンブルばかりを好み、更には罪人イジメだけに飽き足らず、弱い者イジメが趣味という恐ろしく性格の捻じ曲がった人な上、見た目もその性格の悪さが顔に滲み出ているようで、どうあっても彼を好きにはなれなかった。
●○●○●
「……ですから、クラウス王太子の方から婚約破棄を申し出てくれた事は助かりましたわ」
「でもこのままではルシーナ様のお国とまた戦争が始まってしまうのではありませんか……?」
メイドのニーナが最後の別れの前に、宮廷内の私の部屋で目に涙を浮かべながらそう言った。
「そうかもしれませんわ。だからニーナ、貴女だけでも早めに他国へ逃げてちょうだい。本当にどうなるかわかりませんから」
彼女は貴族ではないが為、その倫理観は至って普通だ。
この国でおかしいの貴族だけである。
だからこそ、長年私の国との争いが絶えなかったのだろうが。
ニーナへと最後の別れを告げていると、不意にコンコン、っと私の部屋をノックする音が響く。
「……? 開いていますわ」
「失礼します」
私が言うと、ひとりの兵士が室内に入ってきた。
「ルシーナ妃殿下」
「私は先程クラウス王太子殿下より、正式に婚約破棄を申し渡されましたので、もう妃殿下ではありませんよ」
「な、なんと。やはりそうだったのですか。道理で先程から宮廷内が騒がしいと……」
「ええ。ところで貴方は?」
「はい。自分はスラッジという名の、しがない一般兵です。この度はルシーナ妃……あ、失敬。ルシーナ様に御礼を申し上げたくて馳せ参じました」
「お礼? 私何かしましたかしら?」
「自分の兄、ヴェイルを助けていただいた事です。青い髪の、三白眼なうえ悪眼の男に覚えはないでしょうか?」
私はすぐにピーンと来た。いつの日か私が一度だけヒールで救った彼の事だ。
彼の目は特徴的で、弟のこの兵士が言う通り、見た目が三白眼なうえ悪眼であり、その人相は一言で言えば「怖い」と言った印象を強く受けさせる。
そしてだからこそ、彼はあのような些細な罪で罪人とされてしまったのだ。
「ええ、よく覚えていますわ」
「その節は我が兄、ヴェイルを庇い立てくださり、まことにありがとうございます。次のジャッジメントの日まで兄が生きていられるのは他でもないルシーナ様のおかげです」
「そう。あの方はヴェイルさん、と仰るのですね」
私は彼のあの顔を思い出す。
彼の目つきは確かに悪い。そのせいで宮廷貴族らに「なんだ貴様のその目は!? 文句でもあるのか!?」と怒鳴られていた事もよく覚えている。
しかし彼の中身は誠実そのものである事を私は知っている。
「でも、私が助けたとはいえ所詮一時凌ぎ。次のジャッジメントの日に、彼が助かる保証はありませんし、その時には私はいませんわ……」
「いえ、それがそうでもないのです。この一ヶ月生き延びられた事に大きな意味がありました」
スラッジが妙な事を言い出す。
「大きな意味?」
「はい。実はここだけの話、あと一週間後にこの国でクーデターが起こります」
「ええ!?」
声を荒げたのはメイドのニーナ。
「この国の王政に長年疑問を持つレジスタンスによる、大規模な破壊活動です。実はそのリーダーが自分の兄であるヴェイルでした。兄は宮廷兵士とレジスタンス活動の二重生活を長年密かに暗躍しておりました」
「そうだったんですの。まあ、当然ですわね。こんな国では」
「はい。この国の執政官から宰相、そして全ての貴族は古来より魔法による繁栄を第一と考えている思想が根強く、魔法に長けていない者は全て悪、とまで豪語する暴論がまかり通っていました」
「ええ、それは私もここで暮らした短い期間でも充分に理解していますわ」
「国民はずっと疲弊しております。加えて、貴族や王族らの気にいらない者は、些細な理由でも犯罪者扱いされ、そしてジャッジメントなどとふざけた名目で彼らの鬱憤ばらしのエサにされる。それを壊すためのクーデターを起こします」
「そのリーダーが貴方の兄であるヴェイルさんだと」
「はい。兄の収監は突然であり、まさかジャッジメントの前日にそんな事になるとは思わず、このまま救えずに何もかも終わってしまうのかと絶望しておりましたが、ルシーナ様が延命させてくださったおかげで、クーデター勃発の日にどさくさに紛れて宮廷に攻め込み兄を救出できます」
「しかしそんな事、いくら王太子から婚約破棄されたとはいえ私になど話すべきではなかったのでは?」
「いえ、むしろルシーナ様には協力を仰ぎたいのです」
「協力?」
「はい。それは――」
●○●○●
「……もし。……もし?」
その日の深夜。
宮廷内、地下牢獄。
ジャッジメントの日が訪れるまで、罪人たちはここに小さく間仕切りされた部屋ごとにそれぞれ収容されている。
私はそこに囚われているヴェイルさんに会いに来ていた。
「貴女は、ルシーナ王太子妃殿下! 何故このような場所に……?」
すぐに私に気づいたヴェイルさんが牢獄の鉄格子越しにいる私へと近寄る。
この宮廷の牢の管理は甘い。見張りの兵士などなく、牢獄は割と誰でも簡単に忍び寄れる。
貴族たちは魔法に長けている事を自信に持ち過ぎている為、賊が侵入してもただちに殺せば良いと高を括っているからだ。
「ヴェイルさん、ジャッジメントの日以来ですわね。弟のスラッジさんからだいたいの事情を聞いておりますわ。貴方にどうしても伝えて欲しい事がある、と」
「スラッジから!? という事はルシーナ王太子妃殿下は……」
「ええ、全て把握しておりますわ。それと私はもう王太子妃ではありませんので」
私は簡単に婚約破棄の経緯を彼に話した。
「私は王太子殿下の事を好きではありませんでしたわ。それでも両国の事を思い、私は出来る限りクラウス王太子殿下に尽くそうと努力致しました。だからこそ彼の夜伽について言及したのです」
「ルシーナ様はさすがです。わざわざ魔力の尽きたクラウス王太子殿下を癒やしていただなんて」
そう。
私がクラウス王太子殿下に夜伽を止めるよう進言したのにはワケがある。
彼に嫉妬したりとか、浮気が許せないとかではなく、彼は魔力を無駄に浪費し続けていたからだった。
夜の営みには、膨大な魔力が動く。
特に殿方は一度精力を使うと大きく魔力を損なってしまう。この国で魔力を誇示するならば、夜の営みはほどほどにすべきだと私は窘めたつもりだった。
だが、彼は聞く耳など持たなかった。
それでも私は彼が翌日魔法を使うような行事ごとがある日は、その晩に可能な限り『ヒール』で身体的疲労を回復させ、魔力の回復も促進させていた。
だが、日に日に彼の夜伽は激しくなり、私の『ヒール』でも全回復が見込めなくなってきたので、このままでは彼はいざという時に魔法がロクに使えなくなるぞ、と注意しようと思ったら癇癪を起こされたというわけだ。
この国と私の国では魔法の形態が大きく違う。
私の国では癒しの魔法が特化している、つまりは守りに強い国。
転じてこの国は攻撃魔法に特化している。
だが、私はこの国で過ごすうちに見えてきてしまったのだ。この国の弱点が。
「攻撃魔法に溺れ、弱者を救うどころか虐げるようなこの国の内政にはもはや未来はありません。私はこの国を潰す決意を決めました。潰す方法はこれまで難しかったのですが、それもヴェイルさんたちレジスタンスの協力のもとに、簡単に制圧できるとわかりました」
「つまりは外と中から同時にこの国を叩くと?」
「ええ、単純にはそうですが、あくまで私の国を囮とします。この国を変えるのは他でもない、貴方ですわ、ヴェイルさん」
スラッジの提案と私の考え。
それは私の国を囮として、レジスタンスの行動を成功させる事。
我が国が動けばこの国の戦力はそちらに向く。あとはレジスタンスたちが王の首を取れば良いのだ。
「だから、ヴェイルさん。貴方はこのままこの牢でその日まで過ごされてください。私は当日、貴方を解放する為にまたここに訪れます」
「良いのですか? ルシーナ様。本当にそのような……」
「ええ。それにこの国を変えるには貴方のような方が上に立たなくては駄目ですから」
ヴェイルさんが罪人となったのにはワケがある。
私はその一部始終を見ていた。
彼が演習に遅れた理由。それは、街中で大人に虐められていた子供を助けていたからだ。
この国で宮廷の兵士がそんな真似をするなど珍しいと思っていたので、よく覚えていたのである。
「それにヴェイルさん。貴方、本当は剣だけでなく魔法も相当な腕前ですわよね」
「見抜かれておりましたか」
彼の身体からは溢れんばかりの魔力がみなぎっているのが私にはわかった。私の国は癒しの魔法は長けているのだが、それは他者の身体の具合を見る魔法に特化しているとも言えた。
だからこそヴェイルさんというこの人が、体内に膨大な魔力を秘めている事もすぐわかった。
「私は元々この国の貴族の家系でした。ですが、我が一族はこの国の思想とは真逆の考えゆえに、迫害を受け続け、ついには幼い私と弟を残し、皆、殺され没落してしまいました。ですが私は、魔法という物は魔法が使えない弱き者の為にあるべきだと思っているのですッ!」
彼の瞳には燃えたぎる使命のようなものすら感じさせられた。
「ええ、私もそう思います。ですから、クーデターの当日には、私は貴方の傍におりますわ」
「ルシーナ様が?」
「ええ。貴方ほどの戦士が傷を癒し続け、倒される事なく孤軍奮闘を続ければ、間違いなくこの国の手強い貴族たちをも皆打ち倒せるでしょうから。私が貴方の命を守るヒーラーとなりましょう」
「でもそんな……ルシーナ様をそんな危険な目に遭わせるわけには」
「良いのです。どのみちこのままではこの国と我が国はまた無駄な血が流れてしまう。この国は変えなければならないのです。それに……」
「それに?」
「……な、なんでもないですわ」
と、言って私は顔を背けた。
ハッキリ言って、私は一目惚れしていたのだ。
今ではなく、街中で彼を見た時から。
私は実は、ギャップ萌えなのである。
一見粗暴そうな顔つきの割に、見た目とは裏腹なその優しさから溢れ出る彼のギャップにすっかりやられてしまっていた。
まさに王太子殿下とは真逆なのだ。
彼の目つきはハッキリ言って悪い。しかし私はそういう悪そうな雰囲気の殿方が好みでもあるうえ、その見た目とは裏腹な性格。
そんな彼に心奪われ始めていた。
私は昔から天邪鬼なのだ。
「そんなわけですので、決行日まで私は色々やる事を済ませますわ。貴方は……えい」
と言って私はニコっと笑って彼にヒールをかけた。
「ここで英気を養ってお待ちになってくださいませ」
●○●○●
レジスタンスによるクーデターはあと一週間後。
それまでに私がやるべき事はまず、クラウス王太子殿下を脅しておく事。
「ル、ルシーナ……キミは一体何を言っているんだ!?」
「ですから、最後のお別れに、せめてもの慈悲をかけに来たのです。これでも短かったとはいえ、クラウス王太子殿下にはお世話になりましたから」
「こ、この国の法律を見直せ、だと!? 馬鹿な事をッ! 意味がわからない!」
「罪人をいたぶる事をやめ、罪人にも人としての弁明余地を与え、罪の重さを常識的に判断し、無闇ぞんざいに扱わない。これがそんなに難しい事ですか?」
「当たり前だ! それにそんな事をしたら、誰をいたぶって楽しめば良いのだ!?」
「そうですか、わかりました。それでは宣戦布告させてもらいますわ」
「なに?」
「私は明後日、国に帰ります。この国の西にある我が国へと。帰国後、すぐに我が王へとこの国の内政事情を申告し、ただちに戦争を再開させます」
「ははッ! そんな事をしてみろ。攻撃魔法をロクに使えないキミの国など、あっという間に滅ぶぞ」
「さあ、それはどうでしょうか。どちらにしても私は最後の慈悲としてお話ししたまでですので。それでは失礼いたします」
私は頭を下げて、そしてクラウス王太子とは本当に最後の別れを告げた。
これでこの国は我が国からの攻撃だけに警戒を高めるだろう。
あとは――。
●○●○●
時は過ぎ去り一週間後。
予告通り我が国はクラウス王太子殿下の国へ攻め入る準備を行ない、宣戦布告をしたのち、ついに戦争の火蓋が切られた。
そして同時に王都内でもレジスタンスらによる同時多発テロも勃発。レジスタンスたちはあのヴェイルさんの仲間だという事もあり、民間人には極力被害の及ばない様に都の重要拠点を次々と押さえていき、そして主力部隊はなだれ込むように宮廷へと突撃。
そのごたごたに私も入り混じり、ヴェイルさんらが囚われていた牢獄を破壊し、罪の軽すぎる罪人たちを全て解放するまでとんとん拍子に事は運んだ。
そして――。
「動くなッ!!」
クラウス王太子殿下が叫ぶ。
「それ以上私に近寄ってみろ! この女の命はないと思えッ!」
そう言ってクラウス王太子殿下は右手の平を、メイドのニーナへと向けた。
私とヴェイルさんがついに宮廷の王室でクラウス王太子殿下と彼の両親、つまり王と王妃たちを追い詰めると、彼は最後の抵抗か、宮廷お抱えで私専属のメイドだったニーナを人質にした。
ニーナときたら、戦争と内紛が起きるからあれほど逃げなさいと何度も言ったのに「私もルシーナ様を手伝いたい」なんて言って頑なに宮廷から逃げ出さないからこんな事に……。
「ルシーナ様ぁッ! 私の事など気にせず、どうかあなた方の目的成功を優先させてください!」
「ええい! 黙れ女中の分際でッ!」
「キャアアァァァアッ!」
クラウス王太子殿下は怒りに任せ、その手の平から火炎系魔法でニーナの腕を攻撃した。
魔法は直撃ではないものの、やはりさすがの威力を誇っているようで、ニーナの右腕は大火傷を負っている。
「やめろクラウス殿下!」
ヴェイルさんが叫ぶ。
「やめるのは貴様たちだ。ルシーナ、キミは前々から考え方がおかしいと思っていたが、まさかレジスタンスのメンバーだとはな。なんという卑劣な女だ」
「ええ! とんでもない悪人だわ! やはり隣国からの和平の申し出など受けるべきではありませんでした!」
王と王妃が私を憎々しげに罵倒する。
「ルシーナ、私は非常に悲しい。キミがそこまで哀れな女だとは思わなかった。それほど私に婚約破棄された事が気に入らなかったのか?」
「……」
私は黙り込んで彼らを睨め付ける。
「……馬鹿な息子にしてに愚かな王と王妃、か。見下げ果てたものだな」
ヴェイルさんが鋭い視線で彼らを睨む。三白眼に悪眼の彼が怒った表情はもはや悪魔そのもの。
はあ……。なんて……なんてカッコいいのかしら……。
こんな時なのに、そんな彼の顔に私はときめいてしまっている。私ったら、本当に強面が好きだったみたいだと自分でも驚かされる。
「……っく! な、なんという恐ろしき形相。このような平和な国でクーデターを起こすだけはあるな。まさに悪魔の所業! 貴様のような奴だけは生かしてはおけん!」
クラウス王太子殿下が叫んだ。
「父上! 母上! このメイドを人質に!」
そう言ってクラウス王太子殿下はニーナを王と王妃の方へと突き飛ばす。
「動くんじゃないぞ。ルシーナ? 貴様たちが動けばこの女中はすぐにあの世行きだ。我が父と母の攻撃魔法の威力、知らぬわけではあるまい?」
確かに彼の言う通り、王と王妃の魔力ならニーナなど一瞬で消し炭に変えてしまうだろう。
「そして安心しろ。貴様たちはこの私自らが殺処分してやる。貴様らが大人しく殺されるのであれば、この女中の命だけは助けてやろう」
「……」
私たちは黙り込んだ。
「さあ! 我が最大級の火炎魔法で貴様たちは仲良くあの世で我に懺悔せよ! アルティメットフレアーーッ!」
クラウス王太子殿下の両手から、この世で最大級と呼ばれるほどの大火炎魔法が私とヴェイルさんに向かって放たれる。
これがクラウス王太子殿下の最大魔法。この魔法の威力だけは本当に彼の事を認めざるを得ない。
そしてその炎はたったの一瞬で私たちを包み込む。
「ルシーナ様ぁーッ!!」
ニーナの絶叫が響き渡る。
「はーっはっはっはッ! 馬鹿な女と罪人だ! 私に勝てるとでも思ったのか!? 愚かな者どもめッ! ひゃーっはっはっはっはっはっはっは……」
直後。
「は……がッ!?」
クラウス王太子の腹部は剣にてひと突きにされ、
「がふッ! ば、馬鹿……な……」
口から大量に吐血する。
「……貴様の非道と馬鹿笑いには心底呆れ果てた。あの世で懺悔するのは、貴様だクラウスッ!!」
そう怒りを露わにし、剣を突き立てていたのは炎に包まれたはずのヴェイルさん。
そして。
「う、動……けん!?」
「ど、どうなっているの……!?」
王と王妃が身体を硬直させ、その場で身動き取れずにいた。
「ヒーラーを舐めてもらっては困りますわ。ヒールがただの回復魔法としか認識していなかった時点で貴方がたの国は滅びる運命でしたのよ」
「ど……どういう……!?」
「冥土の土産にお教えしますわ。ヒールとはもちろん対象者の傷を癒すのだけれど、それは対象者の自己治癒能力を増幅させるもの。つまり、身体に対して様々な働きをかける魔法なんですのよ。それは熟練すれば、対象者の身体を如何様にもコントロールすることすらできるという事でもありますの。貴方がたには、神経系麻痺という予備効果を付与したヒールを掛けて差し上げたんですわ」
「そ、そんな魔法、聞いた事もない……ッ」
「そうでしょうねえ。攻撃魔法が正義だとしか思ってこなかった貴方がたからすれば」
私はほくそ笑んで、彼らを見下ろす。
これまで他者を散々に虐め抜いてきた者らにはお似合いの末路である。
「ルシーナ様! 一体どうやってクラウス王太子殿下のアルティメットフレアから耐えられたのですか!?」
ニーナが走り寄って私へと尋ねた。
「アルティメットフレアは必殺級の火炎魔法。さすがの私たちもまともにアレを受けたら回復の余地すらなく灰と化していましたわ。けれど、クラウス王太子殿下はアルティメットフレアを使っておりませんの」
「え? それって?」
「彼がアルティメットフレアだと思い込んで放ったのは、ただの一般火炎魔法。もう彼にはアルティメットフレアを呼び出せるほどの魔力なんてとっくになかったんですの」
「あ! もしかして夜伽の……?」
「ええ、そうですわ。私が散々に注意してあげたのに、きっと昨晩も随分楽しまれたんでしょう。おかげでさっきの魔法はゴミみたいな威力でしたもの」
とは言ってもそれでもニーナにはそれなりの火傷を負わせているので、やはりクラウス王太子殿下のポテンシャルは高かったと認めざるを得ない。
なんにせよこうして、私とヴェイルさんはこの国の王政を無事破壊し、クーデターは見事に成功せしめたのである。
●○●○●
――数年後。
クラウス王太子殿下の父上が治めていたこの国は、一度崩壊し、そしてヴェイルさんが新たな王となり、本当に秩序ある素晴らしい国へと急成長を遂げた。
この国が生まれ変わったことにより、私の国とも友好条約を結び、長きに渡る国同士のいがみあいは終止符を打ったのである。
そして。
「ヴェイルさん! ヴェイルさん! 私のお腹に耳を当ててくださいまし!」
「ふむ?」
ヴェイルさんは私に言われるがまま、膨らんだお腹にそっと耳を当てる。
「……おお! 凄く元気に暴れているな!」
「ええ。さすがはヴェイルさんの子ですわ。私のお腹の中ですでに元気いっぱいですもの」
「何を言ってるんだルシーナ。おてんばなのはキミ譲りさ」
私たちはあの戦火の後、すぐに交際を始め、あっという間に深い恋仲に陥った。
ヴェイルさんは見た目がこんなだから、なかなか女性と縁がなかったそうで、私が口説いたら一瞬で落ちたのである。
「……それにしても本当に私なんかと結婚して幸せなのか? ルシーナ」
と、いつもいつも彼は口癖のように言うのだが、実際のところ彼はめちゃくちゃに女子にモテる。
ただ、距離を置かれていたのは彼が女子に対して「私に構うとロクな事がないぞ」と、まるで脅すかのような顔つきだったが為に、縁がないように思い込んでいるだけだった。
事実、王都内の民衆からのヴェイルさんの人気はものすごく高い。
いつの日か妙な女が彼を私から奪わないようにする為に、
「そうですわ。ヴェイルさんには私以外の女子なんて、怖がって寄ってきませんもの。だから、絶対に浮気なんかしたら許しませんわよ?」
と、わざと言う。
すると彼は、
「ははは、何を言ってるんだルシーナ。私に寄って来てくれる女性なんてキミだけしかいないし、私はキミ以外の女性を愛する事は生涯かけてもないよ。この愛はキミだけにしか捧げないと、この命に代えても誓おう」
と、本気で答えてくれるのである。
私は毎回それが聞きたくてつい、いじわるをしてしまう。
そしてそれを聞いて、心を温めてもらい、そしてお決まりのように優しいキスを交わすのだ。
彼の治めるこの国は世界でも最大級に発展していき、私とヴェイルさんは生涯、幸せにこの国で暮らした。
余談だが、ニーナはどんな縁なのか、ヴェイルさんの弟であるスラッジさんといつの間にか結ばれていたのだった。
応援ありがとうございます!
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