裏稼業最強の貴族令嬢は、初めての暗殺失敗から全てを奪われるようです。 〜魔力値ぶっ壊れ令嬢は恋愛経験値だけゼロだった件〜

ごどめ

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68話 千年前の夢

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 久々に夢を見た。

「ルミア、それはなんだ?」

 その声を聞き、その顔を見て、ヴァンのことを夢見たのかと最初はそう思った。
 けれど、違う。
 似ている彼は、これは、この景色は、千年前の、あの日――。

「ナーヴァ! 今日は随分早くきてくれたのね」

「お前に一秒でも早く会いたくてな。ところでそれは一体何をしているんだ?」

「これは記憶の宝珠と言って、思い出を映像として記録させる宝石よ。それに今、あなたとの思い出を刻み込んでるの」

「へえ。やはり魔族の技術はすごいな。人間世界じゃまだ満足に魔法すら扱えないのに、魔族の魔道具は本当に驚かされるものばかりだ」

「ふふふ、人間からしたらそうよね」

 この記憶は千年前のあの日の記憶。
 私が魔女王ルミアだった頃の記憶。

「俺との思い出を記録してくれているのか」

「ええ。この宝珠に記憶された思い出は記憶した者の魔力にしか反応しないから、私がいなければ決して誰にも再生することはできないわ」

「お前がいてくれれば俺も見れるのか?」

「ええ、そうよ。見てみる?」

 そうして私は記憶の宝珠を再生してみせた。
 ナーヴァは二人の思い出を見て、それは嬉しそうにしてくれていた。

「一番古い記憶はどれだ?」

「これかしらね。懐かしいわ。これは二年前、あなたが私を殺しにきた時の記憶だわ」

「ああ……俺が人間の代表としてお前を討ちに来た時か」

「本当に驚かされたわ。人間でこんなにも強い男がいるなんてね」

「俺はお前と直接出会う前から、お前のことだけを研究し続けていたからな」

「どうやって?」

「遠くから見ていただけさ。何日も何日も。それでお前のことを調べて理解して倒そうと思った」

「そうだったんだ。だから私の攻撃をあんなにもいとも容易く回避していたのね」

「……あの時から俺はすでにお前に恋していた。お前のことを知れば知るほど、お前への魅力も同時に知っていったからな」

「びっくりしたわよ。私を打ち負かしたと同時にあなたが発した言葉は。俺の妻になれ、だったんですもの」

「魔族は力社会だと聞いていたから、実力でねじ伏せれば俺の言うことを聞くかと思った」

「それは間違いないけれど、私がはっきり断ったらどうするつもりだったの?」

「そうしたら大人しく帰っていたさ。お前の怪我と体力が戻るまでな」

「私が回復するまで?」

「そうだ。そしてお前が全快したらまた戦いを挑んだ。負けず嫌いなお前のことだ。俺の挑戦なら何度でも受けただろう? そして負かすたびに口説こうと思っていた」

「呆れた人ね」

「仕方がないだろう。俺はもうそれぐらい、とっくにお前に惚れていたんだからな」

「うふふ。嬉しいわ」

「それでその宝珠、どうするんだ?」

「この近くにユグドラシルの木があるのを知っているかしら?」

「ああ、大精霊が宿るあの大木のことか」

「そう。ユグドラシルの木の根本にこれを埋めるつもり。もちろん私だけしか見つけられない魔力の膜に包んでね」

「何故だ?」

「いつか、あなたと長く何年も過ごしたその先で、掘り起こしにくる為よ」

「それには何の意味があるんだ?」

「うふふ。ユグドラシルの木には大精霊が宿ると言われているって言ってたわよね。そのせいかわからないけれど、ユグドラシルの木の近くで埋められた魔道具はその魔力を栄養源として更に進化して成長するの」

「進化……? 魔道具が、か?」

「ええ、そうよ。記憶の宝珠はね、進化すると記憶した思い出をより鮮明に再生してくれるの。それにね……」

「それに?」

「……これは、内緒」

「なんだよルミア。もったいぶらずに教えてくれよ」

「だーめ。あなたは知らなくていいことよ」

 ユグドラシルの木によって進化した記憶の宝珠はどうなるか。
 それはその時の記憶だけに留まらず、想いを、心を、感情を伝えることができるようになる。
 成長した宝珠を再生した時、その場面での私の感情や気持ちも音声として伝えられるようになるのだ。
 つまりこれは私の保険。

 私がいつまでも彼を好きだという想いがきちんと言葉にして伝えられなかった時の為の、情けない保険だ。

 もし何年も経ってもまだ想いが告げられなかったその時はここにこよう。
 私はそう考えたのだ。

 そうか、ようやく思い出した。

 私が初めてヴァンに千年大樹に連れてきてもらった時に感じたあの懐かしさはこれだったんだ。

「ナーヴァ、以前にも言ったことがあるけれど、私以外の女なんかに浮気したら絶対に許さないわよ?」

「馬鹿なことを。俺がそんなことをすると思うか?」

「私知ってるのよ。あなたが人間の女たちから凄く凄く慕われていること。使い魔たちにあなたの人間界での生活を見張らせてたからね」

「ははは! 俺も結構アレだが、ルミア、お前も大概だな」

「当たり前でしょ。あなたは私が何十年も生きてきた中で初めて認めた異性なんだから」

「見張るのは構わないが、罪のない女性たちを傷つけるのはやめてくれよ」

「わかってるわよ。あなたと約束したものね。もう人間には手を出さないって」

「ああ。それを理由に我らが王もお前たち魔族の国へ攻め入ることを思いとどまってくれたのだからな。それよりルミア、お前の方こそ俺以外の男に惚れるんじゃないぞ?」

「そんなこと、例え嘘であってもありえないわよ。万が一あったら、私は自分で自分を呪うわ」

「それを聞いて安心した」

 改めてルミアの想いの強さには驚かされた。彼女は本当にナーヴァを心の底から愛していたのね。

 それにしても記憶の宝珠、もしまだあの場所にあるのだとしたら……。

 後で機会がある時に、探してみよう。
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