異世界調査員〜世界を破滅させに来ました〜

霜條

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プロローグ

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あぁ、なんで幸せなのだろう
灰色のビルが立ち並ぶこの景色すら、イルミネーションで飾られたようにキラキラと眩しく見える

好きな人と一緒になれるなんて、こんなに素敵なことはあるだろうか
しかもお揃い、ずっと一緒になれる
あなたで満たされたこの想い、その中であなたと溶け合うことができる幸せに感謝します

テレビで流れた速報は、まさにみんなへのメッセージだった
まさかこんなことがあるなんて
食べかけの朝食もそのままに、急いで身支度を整える
嬉しさでいっぱいになった私はあなたの元へ走り出した

家の外にはあの速報を見た人たちが私と同じように駆けていた
そうよね、こんなに嬉しいニュースだもの
いち早く大切な人に伝えたいと思ってしまうのも仕方のないことよ
慌てて走る人たちにぶつかりながらも、あの人の元へと軽やかに駆けていく

あの人の元へ着いたら次はどこへ行こう
使える時間は限られているから予定は慎重に
思い出の場所はたくさんあるけれど、新しい場所へ向かってもいいかもしれない
これから訪れる幸せの時を喜ぶかのように、あちこちからたくさんの音が鳴り響いていた

街も道路も人で溢れている
いままでこの場所にこれだけ人がいたのかと初めて知る
この場にいる人たちもきっと同じ
これから訪れる幸せの瞬間を、どこで迎えるかその場所へ向かっているのだろう
たくさんいる人たちの流れに逆らって私は軽やかに駆けていく

ごきげんよう、さようなら
道行く人たちに祝福と共に挨拶を交わしたくなり、声をかけてみた
だけれどもみんな自分のことに必死で私の声など聞こえないようです
でもいいの
私には私の、あなたにはあなたの幸せがあります
早く自分のために、自分だけの幸せのために駆けつけましょう

目的の場所に着くと、あの人の姿がありました
愛しい人、あなたに会うために生まれ、今日この日のために生きてきたと強く信じています

「おはよう。今日もいい天気だね」

職場がある27階の窓際で、朝のコーヒーを片手に持つあなたが待っていてくれました
あぁ、愛しいあなた、とても会いたかった!
ずっと走りっぱなしで息はあがり、足は棒のように疲労で重くなっている

「うん、とてもいいニュースだよ。これも全部君のおかげ。ーー本当にありがとう」

あの人の後ろの窓から広がるこの街の眺めはいつも通り
始業時間はとっくに過ぎているのに、このフロアには誰もいない
あなたと私の二人だけ
いつもフロアに流れているBGMも今日はお休み
静かな世界で二人きりでいられるこの幸せを、ありがとうと誰かに感謝せずにはいられない

「これでようやく僕も仕事が終わる。今までご苦労さま。どうか君も安らかにーー。さようなら」

 にこりとその女に微笑みかける。長かった勤務もようやく終いだ。
 あと一口で飲み終わるこのコーヒーの味も、もう2度と味わえないと思うと寂しい気持ちになったが、まだ他にも行かねばならない場所はあるため、その感傷もきっとすぐ忘れてしまうだろう。
 最後の一口を煽ると、女は嬉しそうにその場に膝から崩れ落ちた。ーー彼女のおかげで今回も非常にスムーズに仕事が進められた。我らが主に大いなる感謝を。
 手の中にあったカップを離すと、音を立てて割れていく。
 破片が散らばりゴミが増えてしまうが、そんなことはもうこの世界には関係のないことだ。この世界は只今の時刻をもって終了するのだからーー。

「あぁ~、やっと帰れる。今回は隕石追突、かーー。うんうん、なかなかいい終わり方じゃないかな。」

 後ろの窓からいくつもの光の筋が巨大な火球と共に空から大地へと降り注ごうとしているところだった。
 オフィスに立つ男はそとの様子を気に留めた様子もなく、どこからともなく一冊の分厚い羊皮紙の本を取り出すと目の前に浮かせた。
 開かれたページには今回の仕事タスクが並び、すでに終わった項目に斜線が引かれていく。
 全てのタスクに線が引かれると、右下に任務完了の文字が浮かび出たため、帰宅の準備を始めた。ーーと言っても彼の荷物は特になく、必要なのは目の前の本だけ。今までこの世界の存在に擬態していたが、それも必要がなくなったので本来の自分に戻る。
 彼はこの世界を終わらせるために来た天使だった。ーー背中から4対の光の羽が現れ、彼を包むとこの世界から存在が消えていった。

 彼らは世界を終わらせるために派遣された調査員だった。ーー主は大いなる力を持って世界を創造されたが、数多の可能性によって、その世界はいくつもの並行世界を生み出し、果てなき分裂を繰り返した。
 そのままにしても問題はないのだが、あまりにも世界が増えてしまったので、この度整理と仕分けを行うことが天界で決まった。ーー無尽蔵に増えた世界をひとつ消す度、元々あった世界を構築するエネルギーを他へ転用しようとしたのである。
 
 世界を終わらせるためには、その世界からひとりの代表を選出し、代表の心のエネルギーを使って終焉をもたらすことになる。
 
 この度新たな世界にひとりの天使が派遣されることとなるーー。
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