扇屋あやかし活劇

桜こう

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十一章

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「この大馬鹿すずめ!!」
 突然の罵声と──ばっち~ん! ──扇子でしたたかに打たれた額の痛みによって、すずめは我に返った。
「いった~い! 今まででいっちばん痛い! 頭砕けるってば!!」
 悶絶するすずめの前に、いつの間にか夢一が立っていた。手に持っているのは、たった今すずめの額を叩いた扇子だろう。
「あんな野郎が、おめえの父親なわけがあるか!」
 その表情は明らかに怒っていて、明らかに呆れていて、どことなく切なげでもあった。
「よく聞け、すずめ」と、夢一はすずめの肩を強く掴んできた。
「てめえの父親はなにをしようとしていた? 世をはかなみ、恨み、妄執に憑りつかれ、己の分身を創り上げたのはたしかだが、それが間違いだったと断じたのも、たしかだ。てめえの父様はその過ちに気づいたんだよ。取り返しの付かねえ過ちを。ひとに仇なす化物を生み出しちまったこと。そしてそれを償おうとしたんだ。だからすべてを投げ捨て、あの魔思を追い続けた。己の人生も、愛する家族も捨てて、いや、捨てざるを得なくて。そして最後は己の命を掛けて、過ちを償おうとした」
 すずめの脳裏に父の最期がよみがえった。血扇けっせんによってすずめたちを守り、そしてすずめの腕の中で事切れた仔弐阿弥。
 すずめに、おまえはひとりではない、自分と、自分が大切だと思う者を信じろ、そう言い遺した父の姿。
「誰だって過ちは犯す。でも大事なのはそのあとだろ。その過ちに対して自分がどう向き合うか。おめえの父親は精一杯やった。誰もができるようなことじゃねえ。娘ならその父親を誇り、その意志を少しでもいいから果たしてやるべきじゃねえのか?」
 その言葉ですずめは気がついた。
 命がけで自分を守ってくれた父に対して、今、自分ができることを、したいことを。
 それは父がなしえなかったこと。その無念を晴らすことだ。
 それはけっしてまがいものの父の甘言に耳を貸すことではない。贋者から父を解放することだ。
「すずめ」
 夢一がすずめの正気を覗き込むように見つめてくる。すずめは双眸に力を込め、頷き返した。
 大丈夫。すずめは父様の娘。もう惑わされません。
 すずめの決意が伝わったのか、夢一が安堵の息をついたときだ。不意に魔思の声が響き渡った。
「邪魔をしたな、扇士。もう一息で、小娘の霊験をも喰らえたものを」
”風戌”と戦いながら、贋仔弐阿弥は憎悪の瞳で夢一を見据えた。夢一がはっとしてすずめを突き飛ばす。
「きゃっ」
 氷上に転がったすずめがわけもわからず顔を上げると、夢一の周囲の氷が割れ、下から突き上がるようにせり上がっていく。それは夢一の周囲を取り囲み、またたく間に氷の檻を完成させた。
「旦那様!」
 氷の檻は夢一を押し潰そうと、ばきばきと音をたて、四方八方からその範囲を狭めていく。逃げる間もなく、その中心に囚われた夢一の姿は、冷たい瓦礫によって埋まっていった。ついには卵形の氷の塊が冷気のもやの中に浮かび上がる。
「そ、そんな……旦那様……」
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