扇屋あやかし活劇

桜こう

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十一章

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 とこしえの生?
”自分の姿に似せた……いや、その記憶も感情も自分と同様の魔思を創造することで、たとえ己の体が滅したとしても、その心をとこしえに残そうとした”
 なにを言ってるの……そんなことって……。
 すずめはうまく言葉が出てこない。信じられない。頭が回らない。
 ただ、そんなかすみ掛かった思考でようやく思えたのは、父の望みが一種の不老不死だということ。そしてその行為の善し悪しが、自分には判然としないことだった。
”あれだけ霊扇絵師として名を馳せたにも関わらず、表舞台で己の絵が認められないことに仔弐阿弥は絶望し、世を恨みもした”
 世を恨む? 父様が? あの優しい父様が?
”道理だ、すずめ。誰がそれを責められよう。己が認められないのは今の世が間違っているから。己の作品を理解できない世が悪い。仔弐阿弥はそう思いはじめた”
 嘘……そんなの……。
”今の世が悪いのなら、己が認められる世が来るまで待てばいい。それまで生き続ければいい。そう願った仔弐阿弥は、己の分身……そう、永遠に生きるもうひとりの自分を創造することにした”
 それは……でもそれは……正しいの?
”無論だ。とこしえの生によってとこしえに絵が描ける。とこしえに生き、そしてなにより、すずめ、とこしえにおまえとともに生きられる”
 わたしと?
 不意に寂しさが募り、心に冷たい風を吹かせた。父が死んだ喪失の穴を埋めようと、声が届いてくる。
”そうして仔弐阿弥のすべてを託され、生み出されたのがこのわたしだ”
 自分の思い出の中の父と、今、視線の先にいる父が重なっていった。父が亡くなったなんて悪い夢にしか思えなくなってくる。
 そうだ、本当に夢幻ゆめまぼろしだったのかもしれない。
 そんな甘美な夢想に反発するように、頭の片隅に痛みが走った。が、軽く頭を振れば、それも消え去った。残ったものは幸せな親への情だ。それを向ける相手がいることがうれしくてしかたない。
”すずめ、だからわたしは、仔弐阿弥の夢を、わたしなりの手段で叶えようと思うのだ”
 父様の夢?
”己を認めてくれる世を待ち続けること。しかしわたしは待とうとは思わぬ。いつ来るとも知れぬ世を気長に待つなど無駄だとは思わぬか?”
 その口調は心地よい強さで、すずめに語りかけてくる。その響きに身を委ねれば、父に抱かれるような安心感に包まれた。
”わたしはね、すずめ。己の望む世を待つのではなく、この世をわたしの望むべくものへ創り変えることを決めたのだ”
 この世を創り変える……。そんなことができるの? 父様。
”できる”
 声が誇らしげに笑った。
”霊扇氷申の圧倒的な力と、そしてすずめ、わたしに匹敵するほどの霊験を持つおまえがいてくれれば”
 わたし?
”おいで”
 その声に、すずめは一歩、二歩と歩き出していた。
”そうだ、すずめ”
 でも、いいのかしら……わたしには大切なひとたちが……。
 しかし父の声がその”大切なひとたち”の姿を掻き消していく。
”今の世を壊し、そして新たに創り上げよう”
 大好きな父様と一緒に……?
”ああ、共に行こう”
 父様がわたしを必要と言ってくれている。父様とともに歩くことができる。
 それは愛しい父の願いであり、同時にすずめの願いでもあったはずだ。
”すずめ”
 思い出とうつつの境を越えた響きに、すずめはとろんとした目で、ゆっくりと頷いていた。
「……は……い……」
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