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1章
1話
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突然だが僕は人にあまり言えない秘密がある。魔法が使えるのだ。
もう少し詳しく説明するならば、いわゆる時間停止魔法ってやつだ。急に何を言い出したと思われるかもしれない。でも本当に使えるのだ。
「まもなく、1番線に―」
危ない、そう思った瞬間に僕の体は動き出していた。人混みでホームから押し出された一人の少女が線路に落ちていくところに向かって、止まれ、と心の中で叫ぶ。
空中浮遊している少女を地面に引きずり戻し、ホームの端でない適当なところに立たせる。
動け―
そう念じると、人の群れと電車は何事もなかったかのように動き出した。少女は少し困惑しているようだった。急がないと、と僕も来た電車に乗った。
僕が急いでいたのはほかでもない、信州カシオペアの撮影のためである。信州カシオペアというのは一言で言うと珍しい電車の一種だ。関東の大勢の撮り鉄が限られた駅あるいは沿線撮影地に集結するため、早めの時間に行っておかないとキャパが無くなるのだ。
「南浦和~、南浦和~。お出口は―」
着いた。
良かった、まだ5人ぐらいしかいない。
集団にこんちゃー、と挨拶をし、鞄から機材を取り出し空模様を見て軽く設定を組む。試しに2,3枚撮ってみてまぁこんなものか、と重い機材をレンズフードを下にして一旦地面に置く。
自分がいる側のホームの接近が鳴ったので黄線まで下がったが、1人ぎりぎりになっても下がらないガキがいたので、あまり早い時間から危ないことをしていると駅員が注意しにくるから下がっておけと軽く声をかけた。
到着した電車のドアが開き、階段のある方ではなく駅の先頭に向かってくる人が何人かいた。おそらく同業だろう。そのとき僕は思わず自分の目を疑った。
今朝の少女がその中に居たからだ。
ただでさえ撮り鉄をする女は珍しいというのに、それが今朝助けた少女だと言うのか。やはり女の鉄は珍しいからか、おい見ろよ、あれ女子鉄じゃね?などと2,3人が言っているがそんなことは僕にはどうでも良かった。なんか、とにかくただただ衝撃だった。
「こんにちは」
少女は小さく礼をした。朝はよく見なかったが、端正な顔立ちだった。
真っ直ぐで艶やかな黒髪が風に揺れる。
合皮のショルダーバッグから機材が取り出された。
下手すれば僕のより重いんじゃなかろうかという機材を彼女は慣れた手つきで組み立てる。少女は僕のすぐ後ろに立ち、2,3枚試し撮りした後こんなもんか、と機材を地面に置いた。
「どこから来られたんですか?」
少女が口を開いた。僕は話しかけられると思っていなかったので少し動揺した。
「僕ですか?高尾ですけど」
「え、うそ、同じだ。えーすごいこんな偶然ってあるんだー」
いやまぁ知ってたけど。その喉元まで出かけた言葉を飲み込む。彼女は見た目からは少し想像のつかないハイテンションできゃっきゃと騒ぐ。こんな偶然ってあるんだー、ってそりゃこっちの台詞だよ。
「あのー一応公共の場だしもうちょい静かに、ね?」
「あっごめんなさい」
「いや気にしないで」
「でも高尾の方に住んでるんだったらわざわざこっちの方まで来なくてももうちょっと選択肢あったんじゃないですか?それは私もそうなんですけど」
「えでも鳥沢-猿橋とか絶対露出持たなくない?」
「あー確かに。えっじゃあ稲荷山行こうとかは?」
「いや僕は明日も学校なんで……あなたこそどうしてここに?」
「あー私?うち門限19時なんですよー……」
「あーそりゃ辛いわな。強く生きて……てか門限19時って何年生?中1とか?」
「中3です……来年から20時に延びます……お兄さんは何年生なんですか?」
「僕は高1だけど」
「じゃあ1個上かー。」
突然少女から手が伸びてきてむぎゅ、と頬をつままれた。
「あのー、何?痛いから離してくれる?」
「私お兄さんと絶対どっかで会ったことある気がするんですよ。思い出そうとしてるんです」
少女の感覚は確かに正しい。だが能力のことはなるべく人にはバレたくない。
「き、気のせいじゃないかなー?だって君みたいな特徴的な子が撮影地に居たら流石に忘れないと思うし……」
「いやそうじゃなくて……いややっぱり思い出せない、良いや、忘れてください」
「なんやねん……」
もう少し詳しく説明するならば、いわゆる時間停止魔法ってやつだ。急に何を言い出したと思われるかもしれない。でも本当に使えるのだ。
「まもなく、1番線に―」
危ない、そう思った瞬間に僕の体は動き出していた。人混みでホームから押し出された一人の少女が線路に落ちていくところに向かって、止まれ、と心の中で叫ぶ。
空中浮遊している少女を地面に引きずり戻し、ホームの端でない適当なところに立たせる。
動け―
そう念じると、人の群れと電車は何事もなかったかのように動き出した。少女は少し困惑しているようだった。急がないと、と僕も来た電車に乗った。
僕が急いでいたのはほかでもない、信州カシオペアの撮影のためである。信州カシオペアというのは一言で言うと珍しい電車の一種だ。関東の大勢の撮り鉄が限られた駅あるいは沿線撮影地に集結するため、早めの時間に行っておかないとキャパが無くなるのだ。
「南浦和~、南浦和~。お出口は―」
着いた。
良かった、まだ5人ぐらいしかいない。
集団にこんちゃー、と挨拶をし、鞄から機材を取り出し空模様を見て軽く設定を組む。試しに2,3枚撮ってみてまぁこんなものか、と重い機材をレンズフードを下にして一旦地面に置く。
自分がいる側のホームの接近が鳴ったので黄線まで下がったが、1人ぎりぎりになっても下がらないガキがいたので、あまり早い時間から危ないことをしていると駅員が注意しにくるから下がっておけと軽く声をかけた。
到着した電車のドアが開き、階段のある方ではなく駅の先頭に向かってくる人が何人かいた。おそらく同業だろう。そのとき僕は思わず自分の目を疑った。
今朝の少女がその中に居たからだ。
ただでさえ撮り鉄をする女は珍しいというのに、それが今朝助けた少女だと言うのか。やはり女の鉄は珍しいからか、おい見ろよ、あれ女子鉄じゃね?などと2,3人が言っているがそんなことは僕にはどうでも良かった。なんか、とにかくただただ衝撃だった。
「こんにちは」
少女は小さく礼をした。朝はよく見なかったが、端正な顔立ちだった。
真っ直ぐで艶やかな黒髪が風に揺れる。
合皮のショルダーバッグから機材が取り出された。
下手すれば僕のより重いんじゃなかろうかという機材を彼女は慣れた手つきで組み立てる。少女は僕のすぐ後ろに立ち、2,3枚試し撮りした後こんなもんか、と機材を地面に置いた。
「どこから来られたんですか?」
少女が口を開いた。僕は話しかけられると思っていなかったので少し動揺した。
「僕ですか?高尾ですけど」
「え、うそ、同じだ。えーすごいこんな偶然ってあるんだー」
いやまぁ知ってたけど。その喉元まで出かけた言葉を飲み込む。彼女は見た目からは少し想像のつかないハイテンションできゃっきゃと騒ぐ。こんな偶然ってあるんだー、ってそりゃこっちの台詞だよ。
「あのー一応公共の場だしもうちょい静かに、ね?」
「あっごめんなさい」
「いや気にしないで」
「でも高尾の方に住んでるんだったらわざわざこっちの方まで来なくてももうちょっと選択肢あったんじゃないですか?それは私もそうなんですけど」
「えでも鳥沢-猿橋とか絶対露出持たなくない?」
「あー確かに。えっじゃあ稲荷山行こうとかは?」
「いや僕は明日も学校なんで……あなたこそどうしてここに?」
「あー私?うち門限19時なんですよー……」
「あーそりゃ辛いわな。強く生きて……てか門限19時って何年生?中1とか?」
「中3です……来年から20時に延びます……お兄さんは何年生なんですか?」
「僕は高1だけど」
「じゃあ1個上かー。」
突然少女から手が伸びてきてむぎゅ、と頬をつままれた。
「あのー、何?痛いから離してくれる?」
「私お兄さんと絶対どっかで会ったことある気がするんですよ。思い出そうとしてるんです」
少女の感覚は確かに正しい。だが能力のことはなるべく人にはバレたくない。
「き、気のせいじゃないかなー?だって君みたいな特徴的な子が撮影地に居たら流石に忘れないと思うし……」
「いやそうじゃなくて……いややっぱり思い出せない、良いや、忘れてください」
「なんやねん……」
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