「聖女よ!お前を追放する!理由は雨女だから!」 ~ 水の聖女と蒸気の鉄人 ~

ダイスケ

文字の大きさ
54 / 58

第54話 神様たちの盲点

しおりを挟む
「なにか・・・なにかがあるはずだ・・・もっと探せ!」

 王子は制圧した水の神殿を兵士達に徹底的に捜索させていました。
 軍事力が低下した今の王国では正面から「魔女を討つ」ことはできないことは、さすがの王子も理解していたからです。

 特に念入りに探させたのは聖女の記録です。
 聖女が神殿を退去させられた際に多くの資料が持ち出されましたが、聖女がどんな記録にアクセスしたのかは神殿の図書館や記録室に残されています。

「あの魔女が何を見て、何を知ったのか。とにかく何でも良いから探すのだ!」

 王子の甲高い叫び声が、荒された神殿の高い天井に響きます。

 ◇  ◇  ◇  ◇

 王子の王国での奮闘などつゆ知らず。
 あたし達は神殿で決起集会を行っていました。

「羊の毛を蒸気で洗う蒸気機関の機械を作って銀貨と金貨でポケットが破れるぐらい一杯にする計画」のキックオフです!

「社長はあなたですよ、リリア」

「あ、あたしですか?」

「あなた以外に誰がやれるのですか?」

 聖女様に言われて、あたしは計画の参加者の面子を見渡しました。
 あたし。聖女様。土地神様。御柱様。以上4名?

「たしかに・・・」

 人の比率が少なすぎるのです。
 神様に代表をやっていただくわけにはいきません。

「それでは社長から一言どうぞ」

「ドウゾ」

「は、はい!」

 えーと、えーと社長って資本家ですよね。ブルジョワジーってどんなこと言えばいいんでしたっけ・・・うーん、たしか織物工場で働いてた友達から聞いた印象は、こんな感じ!

 すーっと深く息を吸って、思い切り胸を張って、と。

「ぐっへっへっへ。働け働け!働かんやつは昼飯抜きだ!」

「「・・・」」

 あ、あれ?反応が薄い!

「・・・すみません、ちょっと社長って何をしたらいいかわからなくて・・・」

「ワカル」

「理解シタ」

 わかられてしまいました。

「やっぱり聖女様が社長やってくださいよう!あたしには無理です!」

「わたしは聖職者ですから、俗界で利益を貪る表看板になるわけにはいきません」

 裏で利益を貪る黒幕になるってことですね、知ってます。

「うー・・・やります。頑張ります」

「よろしい」

 金貨と銀貨でポケットを一杯にする資本家階級を目指して、あたしは頑張ります!

 ◇  ◇  ◇  ◇

「そういうわけで、おじさん、ちょっと羊の毛を洗ってみませんか?」

「うーむ?こんな樽で洗えるのかね?」

「お野菜は洗えました!」

「お野菜・・・」

 そうなのです。

 聖女様が考案し御柱様が設計した、私製洗濯樽試作3号機は聖女様が暇に任せて神殿内に植えたので使用に収穫が追い付かず、倉庫に山と積まれたお野菜を片端から洗うというとても過酷な試験を乗り越えて、いざ実践の場に臨もうとしているのです!

「なんか、樽から白い煙があがっとるけど」

「小さくても魔導蒸気機関内蔵ですからね!」

「はあー。そりゃ大したもんだ。ちょっとおっかないのう」

「大丈夫、危険はないですよ!」

 ちなみに1号機は蒸気圧力が高すぎたせいか爆散し、2号機は回転が速すぎたせいか樽が脱落してお野菜ごと100フィート近く転がっていきましたが。

 今回は大丈夫なはずです!

「でこぼこした塊芋の土と一緒に皮もきれいに剥けて、おまけにお湯と蒸気で美味しい感じに茹でられる優れものです!」

 ふんす、と胸を張って説明します。なにしろ、この洗濯樽は画期的な発明で自信作なのですから!

 ところが、羊飼いのおじさんは困惑した表情で、おずおずと言ったのです。

「その・・・言いにくいことなんじゃが」

「はい」

「もう普通に塊芋を茹でる機械として売ったらいいんじゃないのかね・・・」

「あっ」

 あたしの金銀じゃらじゃら資本家生活は、走り出す前につまずきを余儀なくされたのです。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 めげている場合ではありません。
 社長には社員を率いていく義務があります。

 羊飼いのおじさんの的確なアドバイスを受けて、あたしは幹部を集めて緊急の経営会議を開くことにしました。

「えー。先日のことですが、あたしが羊毛洗濯のテストを頼んだ羊飼いのおじさんから、私製試作蒸気洗濯樽三号機、通称三ちゃんは羊の毛を洗うよりも野菜を洗うのに向いているのではないか、という真にもっともな指摘をいただきまして、今回の会議を開くことにしたものです。社員の皆さんは社長のあたしに遠慮せず活発な意見交換をお願いします」

 経営会議の参加者は聖女様、御柱様、土地神様。
 よく考えると、神様かそれに近い人しかいませんね。

「野菜を洗うのに機械が向いている・・・盲点でしたわ」

「タシカニ」

「ヤサイ オイシイ」

 よくよく考えると、あたし以外に野菜を洗ったり家事をきりもりした経験をもつ人?がいないのです。
 聖女様のお世話はあたしがやいておりますし、御柱様と土地神様は水と石炭か泥炭があればご機嫌です。

 つまり「野菜を洗ったり皮を剥いたりするのが面倒くさい」というニーズがないんですね。

「それで、皮を剥いて茹でた塊芋は市場で売れますの?」

 などと、雲の上の人は言うのです。

「売れますとも!だってすぐに料理できるじゃないですか!」

「ですが、お家に持って帰って料理するなら保存できないと困るでしょう?」

 なるほど。さすが聖女様はお金持ちの発想ですね。

「聖女様、ほとんどの市民は食料を貯めこんでおけるほどお金もないし、家も大きくないんです。それに家には小さな台所しかありません。火をおこすのも、おこした火を保ち続けるのも薪が要りますから、あらかじめ調理の手間を省いてくれる総菜があれば、とても助かるんです」

「なるほど・・・」

 あたしも王都の屋根裏に住んでいたころは、部屋で料理はほとんどしませんでした。
 朝方に大家さんが大量に沸かしたお湯を少しもらってお茶を淹れたくらいです。

「塊芋かあ・・・」

 塊芋と鱈を蒸かして油で揚げたら、きっと美味しいのです。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

処理中です...