御伽の国の聖女様! 婚約破棄するというので、聖女の力で結界を吸収してやりました。精々頑張ってください、私はもふもふと暮らします

地鶏

文字の大きさ
59 / 72
三章 龍の花嫁

87 泣かせます

しおりを挟む
「つ、疲れたのじゃ……」

 バレンタインとやらに連れられてこの国を隅々まで見せられたが、移動は全て飛行によるものだし出会う人物全員にもみくちゃにされるしで大変な目にあったのじゃ。

「いやー、お前めちゃくちゃ構われてたな。頭撫でられすぎてすり減ったんじゃないか?」
「お前呼ばわりするでない! アナスタシア様と呼ぶのじゃ、全く。何度言えばわかるんじゃ」

 こやつ、ちょっと一緒にいたからと言って仲良くなった気でおるのか。

 王族と、仲良くなれるなど、物語の中だけじゃ。王族に友達などおらん。できるはずがない。

「そろそろ日暮れだな。よし、城に戻るぞ」
「嫌なのじゃ。城にはバニラがおるからの」
「バニラ? あぁ、なんか喧嘩したっていう幼馴染のことか?」
「なんで知ってるのじゃ!」

 なんで知ってるのじゃこやつ。

「まぁそれは置いておいて。あのなぁ、そのバニラってやつはきっとお前を心配して言ったんだと私は思うぞ」
「違う。きっとバニラは妾のことが嫌いなのじゃ。だから妾を叩いたりしたのじゃ!」
「……お前なぁ、そのバニラってやつ、悲しんでるぞ?」

 ……一瞬、バニラが悲しそうにしてる顔が思い浮かんだのじゃ。

 ただ、やっぱりバニラが悪いのじゃ。妾は、妾は王族として生きてるだけなのに……。

「仕方ないな、ほれ」
「……なんの真似じゃ?」

 抱きしめられたのじゃ。大した背も変わらんのに……。

「ほら、安心するだろ?」
「やめるのじゃ! 魔族に抱きしめられるなど、父上や兄上がみたらなんて思うか!」

 きっと、妾のことを怒るのじゃ。魔族と仲良くするなと。

「これもだめか。うーん、なかなか難しいな……マーガレットはどうやってアダムのこと育ててるんだ? なんだかんだでアダムもワガママなところあるからな……」

 またぶつぶつ言い始めたのじゃ。誰じゃアダムって。

「もう妾に構わなくていいのじゃ!」
「そうも行かなーー危ない!」
「へ?」

 うわぁ?! 急に押し倒してくるとは、なんて奴……じゃ……?

「うぐ……大丈夫か? 怪我してないな」
「お、お前……血が、血が出てるのじゃ」
「これくらい大丈夫だ」

 大丈夫ではないのじゃ。たくさん、血が出てしまってるのじゃ。

「くそっ、なんでばれたんだよ。このポンコツ魔道具め」

 バレンタインとやらの睨む先にいたのは、勇者なのじゃ。

 なぜ、勇者がここにいるのじゃ? たしか父上の話ではどこか遠くの地で活躍してると言っていたのじゃ。

「先に言っとくが、助けは呼べないぜ。さっさとそこの娘を渡してくれればいいからよ」
「大人しく渡すと思うか? 勇者。マーガレットにボコられたのにまだ懲りてないのか」
「うるせぇよ。さっさと渡せ!」

 勇者とバレンタインが戦い始めたのじゃ。わ、妾はどうすればいいのじゃ。

 なんで勇者がここにいるのじゃ。しかも狙いは妾のようじゃし……ここは逃げるのがよいのじゃ。

「あ、おい! 逃げちゃダメだアナスタシア!」
「なんでじゃ! 妾は逃げるのじゃ!」

 なぜ止めるのじゃバレンタイン……もがっ?!

「はーい、逃げちゃダメですよー。」
「む~~?!」

 喋れないのじゃ! というか身動きが取れないのじゃ!

「くそっ……何人いるんだよ」
「言うわけないだろ。よしお前ら、さっさとずらかるぞ」

 え、もしかして妾このまま攫われる? 嫌じゃ!   攫われた姫はろくな最後にならないのじゃ!

「……待てよ。このまま私が大人しく見逃すとでも思ったのかよ? 私は魔槍姫バレンタインだぞ!」

 おお、バレンタインの周りが魔力で揺らいで見えるのじゃ。か、かなり怖いのじゃ……だが頑張れなのじゃ! このまま妾を助けろなのじゃ!

「あーもう、面倒くせぇな! クソ龍、出番だぜ!」
「なぜ貴様の後始末などしなきゃならんのだ……」

 り、龍なのじゃ……妾、終わったのじゃ……。龍なんて御伽話の世界にしか出てこないはずではなかったのか。

「じゃあな! せいぜいその龍と遊んでなよ!」

 うぎゃぁぁぁぁああああ、連れてかれるのじゃ! 助けてなのじゃバニラァァァァァ!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

sideマーガレット

「ん……いま、なにか揺れませんでした?」
「え? 私は感じませんでしたが……」
「いや、確実に何か揺れました」

 アナスタシアさんの件についてどうしようか、みんなで会議をしていると、外から何かしらの揺れを感じました。

 みんなは気づいていませんが、絶対揺れました。

 アナスタシアさんの様子を今すぐ確認しないとです。

 バレンタイン、バレンタイン? 聞こえますか。

 ……返事がありません。嫌な予感が募ります。

 アーさん、聞こえますか? あ、繋がりました。アナスタシアさんと一緒にいるはずのバレンタインと連絡が取れません。護衛の悪魔さんは……やっぱり、連絡がとれませんか。

「会議は中断。緊急事態です、全員アナスタシアさんとバレンタインの捜索を行ってください」

 すぐさま窓から飛び出して一気に上空まで上がります。

「……変なところはありませんね」

 国を見渡しても、異変は感じません。視力を強化してるので見逃してるってことはないはずです。

 次は魔力の捜索です……国中の魔力からバレンタインとアナスタシアさんを探します。

 ……見つけられません。もっと詳しく、もっと細かく魔力を探しましょう。

 ……ん? 1箇所だけ、何の魔力も感じないところがあります。あそこです、絶対にあそこに何かがあります。

「マーガレット! 何があった!」
「緊急事態です。この場所に戦える人を連れて行ってください」
「わかった。マーガレットは?」
「国に伝えます」

 幸いにも上空にいますから。声を大きくする魔法を使って……

「皆さん! 聞こえますか? マーガレットです。緊急事態なので手短に話しますが、敵と思われる存在が侵入している可能性が高いです。避難と警戒をお願いします!」

 本当に手短ですが、この国の人達ならちゃんと伝わるはずです。実際、魔力の動きがすごく活発になってきました。

 よし、私も向かいましょう!

 魔力の感じない場所のすぐ側まで一気に転移します。

「アーさん!」
「マーガレット、結界が貼られていて中の様子がわからん」

 結界? どれどれ、結界は専門分野ですよ。これは……魔道具によるものですね。中の情報を遮断しています。

 あとは外からの侵入を防ぐ作用もありますが……私を抑えられるレベルでは無いですね。

 ということで、ていっ!

「相変わらず無茶苦茶な……む、マーガレット!」
「わかってます! 何してるんですか、フォーレイ!」
「む?! 聖女!」

 結界を破ると、ぼろぼろのバレンタインとフォーレイが戦っています。

 ……この龍は、何してるんですか。私の家族をこんなにぼろぼろにして……許しません。

「大丈夫ですか、バレンタイン?」
「いてて……ちょっと三仙龍はきつかった……」
「遅れてごめんなさい、ここからは任せてくださ
い」
「いや、アナスタシアが攫われた。勇者に」

 勇者に? なるほど、前にラムさんが言っていた龍と族の話は勇者とフォーレイですか。

 ナオキと天使たちに連絡をして急いで追跡を頼みます。

 バレンタインは魔法で傷を治して、アーさんに任せます。

 さて、フォーレイ。覚悟は出来ていますね?

「くっ、ここは逃げーー」
「逃がしません」
「ぬぐぁ?!」

 魔法で拘束します。正確に言えば、魔道具とかの使用を禁止しました。

 あと、物理的にも拘束しましょうか。

「こ、これは……出られん!」
「フォーレイ、覚悟は出来ていますね?」
「お、落ち着け聖女……話を、話をするのだ!」

 話? そんなもの、あなたを泣かしてからでも出来ます。

 それに、昔会った時は人間と話をするのなんて嫌だ、みたいなことを言っていたじゃないですか。

 ぼこぼこにして、アナスタシアさんのことを話してもらいます。

「泣く覚悟は出来ていますね? フォーレイ」
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。