いいんだよ

歌華

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次の日は昨日の天気と打って変わってシトシトと小雨が降っていた。
「寝られなかったなぁ」
何を話そうか悩んでおまけに家族へ迷惑掛けていると言う罪悪感から不眠は酷い方向へまた進んだのか?と思うほど眠れなかった。
部屋を出て洗面所に行って顔を洗いに行く。目の下の隈が濃くなっている気がした。こんな顔で人に会うのか?しかも初対面の人に?大丈夫なのか?
「考えても仕方ないことなんだろうけど」
バシャバシャと水で顔を洗うと少しはスッキリしてモヤモヤといていた心がちょっと軽くなったが。すぐ現実には戻ることになるだろうと思う琉生。でも頭がぼんやりしていたがそれは晴れたから、まぁましかって考えることにした。
「琉生、起きた?」
「起きたってか、寝れなくて。起きてたに近いかな?」
杏子が洗面所に顔を出す。
「そっか、大丈夫?駅まで歩いていけそう?タクシー呼ぶ?」
その病院があるのは隣の駅の近くだ電車で行けば歩いていけるし、タクシーより安いが杏子が心配する顔が鏡で見えた。
「大丈夫だよ。体力はまだ自信あるから」
「分かった。辛くなったら言ってね?あ!あと朝ご飯だから来てね?」
「分かった。すぐ行くよ」
ベッドに横にはなっていたので髪が少し飛んでいるのでくしで梳かした。

ダイニングに行くと。ベーコンエッグのベーコンの焦げる美味しそうな匂いに鼻腔をくすぐられる。口の中に涎がいっぱいになり、自分に席に着くと咲愛がご飯山盛りで持ってくる。
「しっかり食べてね?」
「姉ちゃん、寝れてないことを母さんに言うなよ~こんなに食べれるかなぁ?」
「私も山盛りにした」
どや顔する杏子に呆れて
「太るよ?」
「うっ・・・・・・最近ちょっと増えたからなぁ」
「でも姉ちゃん着る服無くなったら俺の着れば良いよ」
琉生の方が男性な分体格も良いため琉生が杏子の服を借りることは出来ないが、杏子が琉生の服を借りるのはボーイッシュってことでいいのでは?と言う琉生の持論だった。
「そうかなぁ?」
「うんうん!」
「じゃあ体型変わったら借ーりよ♪」
この姉弟はと話を聞いていた咲愛は呆れた。まぁそれだけ仲に良い証拠なのかもしれないが。
その後二人は完食して。歯を磨いて家を後にした。そしたらもう一度玄関の開く音がして咲愛が二人が戻ってきたのかと見ると。仕事帰りの昌太郎の姿がそこにあった。
「あなた」
「なんか、近くの路地で杏子と琉生が並んで歩いていたがあの二人はもしかしてサボりなのか?」
心配そうにつ自分も混ざりたがりそうにウキウキしながら咲愛に訊いてくる。
「実はね・・・・・・」

***

二人で隣駅に着いて。病院の目の前に立つ。正直杏子は琉生が人混みに混ざっていくたび顔色がどんどん悪くなり、じわりと汗をかいているのを見過ごさなかった。人混みもダメなんだろうと思った。
「琉生、大丈夫?」
「大丈夫」
カタカタと身震いしている琉生を見ると心配で心が痛んだ。代われるものなら代わってあげたかった。自分が辛い方がどんなによかっただろう?琉生がこんなに悩んで、苦しんで、辛い思いをするのは杏子は堪えられなかった。
「濡れるし、入ろうか?」
「うん」
か細い声で返事をして一歩踏み出すと自動ドアが開き二人を招き入れた。
「あの、予約した。夏目琉生の姉ですけど」
「新患ですね。こちらの問診票を記入してください」
受付の事務員から問診票を受け取り琉生に渡す。
「記入が終わりましたら、受付に持ってきてくださいね」
その穏やかな表情と声色に先の脂汗が徐々に引いて体の震えも治まっていく琉生に杏子が声を掛ける。
「琉生、あっちの人いない席行こうか?」
「う、うん」
席へうながし背中に手を当ててさする。顔色は先程よりかは良いけどまだ良いわけではない。
「姉ちゃん、俺おかしいかな・・・・・・?」
「!」
問診票を淡々と書いているが声は震えている。あぁ琉生は今こんなにも悩んでいたんだ。震えるほど涙が滲むほど怖かったんだ。普通の考えが出来なくなるのが怖かったんだ。
「大丈夫、琉生がおかしいんじゃない。琉生を守れなかった周りの環境がおかしいんだよ?」
「ぅ、うん・・・・・・」
ぁあ・・・・・・自分より体格も良いし背も高い琉生が小さな子供のような気がした。
そう言えば琉生は小さい頃から優しく優柔不断なところがあって自分が護ってあげないとと何度も思った。佑樹と言う親友が出来て手を離れたと思った。手を離してしまったんだ。
「書き終わりました」
琉生が問診票を事務に渡してくる。
「呼ばれるまで、座って待っていてくださいね」
「はい」
琉生が杏子の隣に戻ってくる。
「琉生?」
「姉ちゃん。俺病気ならちゃんと善くなるように頑張るから、見捨てないで」

そっかこの子は捨てられるのが怖いんだ。家族じゃないと思われるのが怖いんだ。

杏子が隣に座っている琉生の手を握る。
「琉生は世界でたった一人の私の弟だよ?見捨てたりしない、大丈夫。琉生がちゃんと居るなら、私はこの手を放したりしないから」
「ごめん」
「謝らない。家族なら誰でもこうする。母さんでも父さんでも」
「ありがと、ごめん」
何度も何度も謝る。なにも悪いことなんかしていないのに、まるで自分が存在することがダメな気分な様で謝ることしかない様子だった。杏子は「大丈夫、大丈夫だから」と言ってずっと寄り添った。

「夏目琉生さん。第一診察室へどうぞ」
看護師が待ち合いに出てきて呼ぶ。
「琉生。行こう?」
「うん」
杏子がゆっくり立ち上がる琉生はそれに合わせて深呼吸して立ち上がり、重い足取りだがゆっくり歩いて診察室に向かった。

***

「夏目琉生くんだね。私は畑澤はたざわと言います。よろしくね」
そこに居たのは白髪混じりで温厚そうな中年男性が椅子に座っていた琉生が診察室に入って行くと男性の向かい側の席に座るように促され、琉生は促されるまま席に着く。杏子も琉生の隣に準備されていた椅子へ着席した。
「琉生くん。ありがとう、私に会いに来てくれて。君が一歩を踏み出してお姉さんに相談したから私は琉生くんに会うことが出来ました。ありがとう」
大きく分厚い手が琉生の手を包んだ。
「一つ一つで良い、話せるところから話してみて?」
「はい」
振る声で、少しずつ話せる所から言葉をつむいだ。

辛かった。どうしようもなかった。自分ではなにも出来なかった。もう限界なんだ。

そう伝えた。涙が溢れて、感情がもうなにか分からなかった。
「頑張ったね。琉生くん、これからは一人で抱えなくて良いからね?私もお姉さんも居る。大丈夫。この世で一人きりなんてことは無いんだ」
「はい」
「畑澤先生。琉生は大丈夫ですか?なにか病気なんですか?」
「琉生くん。大丈夫かな?」
「分かることなら、教えてください」
畑澤が真剣な言葉に代わり
「まだよく診てみなければはっきりとした診断は出来かねますがそれでも聞きますか?」
「大丈夫です!」
「統合失調症という病気だと思います。精神疾患は沢山の症状から診断しますが、幻覚症状が強く出ている傾向にあるので一番先にくる病名はそれになりますね。帰りに病気の紹介のパンフレット持たせるので帰ったら親御さんとちゃんと読んでください。不眠が続いている様なので今日は寝れる薬と幻覚症状に効果のある薬をとりあえず二週間分処方しますね?二週間したらもう一度来て下さいね」
そして畑澤はもう一度琉生の手をガッシリ握ると。
「もぅ今より悪くなることはないです。最低までなったなら後は上がるだけなので一緒に上にゆっくり行きましょうね」
「はい」
「お大事に」

***

診察室を出て看護師が傍にくると
「こちらが統合失調症のパンフレットになります。」
渡されたパンフレットを見ると『統合失調症っどんな病気?』と書かれたイラスト付きのパンフレットを受け取った。そして二人で待合室でそのパンフレットに軽く目を通した。更にスマートフォンで『統合失調症』と検索もしてみる。するとやはり幻覚症状や被害妄想、気分障害など沢山の症状が出てきた。
「難しい病気なのかな?」
「でも発病率は結構あるんだね」
昨今では躁鬱などの気分障害を始め色々な精神疾患を持っていてそれでも社会復帰したり、薬を服薬しながらなんとか生きている人の方が多いのかもしれないと何となく理解した。なにせこの病院にも結構若い世代の人もちらほら見える。
「夏目琉生さん」
受付から呼ばれて杏子が支払いを済ませ、処方箋しょほうせんを貰う
「今日はお薬の処方もあるので薬局で貰ってくださいね」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
二人がその場を離れて出入り口の方へ向かう。琉生は少しスッキリしたような表情だった。自分は病気だったんだ。自分というものが急におかしくなったんじゃなく自分がそう成らざるを得なかっただけなんだ。
「姉ちゃん」
「なに?」
「俺、ちゃんと薬飲んで居れば学校にも戻れる気がするよ」
「無理はしないことだよ?」
「わかっているよ」
そのまま病院の目の前にある薬局で薬を貰おうと思い琉生が処方箋持ち杏子と道路を渡り薬局へ入る。
杏子も琉生も今まで薬局のお世話にあまりならなかったため。久しく入る薬局はとても涼しく居心地のよさを少し覚えて心の中で苦笑いをした。午前中に降っていた小雨はほぼ止んでムシムシと蒸れる暑さがじわりと肌に張り付いた。もう梅雨の時期なのか最近は寒かったり暑かったり気圧の変化に頭痛がしたりと忙しく体にはとても負荷がかかっている気がした。
「夏目琉生さん」
「あ!はい」
「今日は食後の統合失調症の幻覚止めのお薬と寝る前の眠りを助けるお薬が二週間分出てます」
薬を受けとり家路に着こうとしたが、どうもお腹が減って時計を見る。時間は午後の一時を指そうとしていた。
「琉生、お腹空かない?」
「空いた」
「なんか食べちゃおっか?」
杏子が提案したが今日は病院代と薬代を支払わせてしまったので琉生は心が痛んだ。琉生も今はちょっと金欠で財布が少し寂しいので使いたくはない。
「こら!お金の心配は大人のすること!」
「でも・・・・・・」
「私も食べたいから付き合いなさい!」
杏子の圧で琉生が折れる
「じゃあ安いので」
「パスタ食べるか!」
確か近くに安いイタリアンの店があって買い物に来たついでに寄ったりしていたことがあったなって思い出し杏子と琉生がそちらの繁華街の方へ歩みを進めた。

***

家に着いてドアを開ける。
「ただいま」
「ただいまぁ~」
二人が入ってくるとダダダダッと昌太郎が走ってくる音がして玄関で靴を脱いで居た二人と鉢合わせになる。
「どうしたの?父さん?」
「琉生!ごめん!」
「は?なにが?」
「俺が琉生の話を聞いていればよかっただろう?俺は仕事の忙しさに家庭を疎かにしてしまっていた!本当にごめん!」
琉生をぎゅう!っと体格で勝る昌太郎が抱き締めてくる。
「苦しい!苦しいって」
背中をバシバシ叩くと昌太郎が慌てて放れる。昔から感情移入がしやすいがあるから、話をしてわずらわせる事もないかな?と思ったがやはり同じ屋根の下に居るのだから情報の共有は必要不可欠なのだなと少し哀感あいかんを覚えた。知られたくなかったのだ。出来れば隠して置きたかった。自分のせいで昌太郎や咲愛が変わってしまうのは嫌だったんだ。
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