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第二十三話

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「こんなところがあるんだ……」

 馬車が向かった先は使い魔専門店が集まった地区だった。
 この一画はアニマルストリートと呼ばれているらしい。
 ありとあらゆる動物を扱う店もあれば、鳥の中でもフクロウだけに特化した店などもあった。
 動物たちが時折発する鳴き声が混然と混ざり合い、摩訶不思議な音楽を作り出していた。

「匂いは大丈夫か?」

 エルネスト先生の問いに首を横に振る。
 色々な動物の匂いはするが、スラム街の臭いよりはマシだ。

「希望の使い魔はすでにいるのか? 例えば鳥がいいとか」
「いいえ、まだ決まってません」
「なら色々見ていこう」

 色々な店を見て回りながら、エルネスト先生が説明をしてくれた。
 例えば基本的に身体の大きい動物の方が使い魔にした時に消費する魔力量が多いとか。
 ペットのように一緒に住んで餌などの世話をする魔術師もいれば、野生に放って必要な時だけ呼び戻している魔術師もいるのだとか。

「自然の多いところならばともかく、王都だからな。自分で世話するものと考えた方が良いだろう」

 放し飼いは自然豊かなところで行わないと、契約した使い魔がゴミを漁ったりして問題になるのだという。
 僕も自分の使い魔にひもじい思いをして欲しくないので、もちろん自分で責任持って世話をするつもりだ。

「君の魔力量ならば鷲すら使い魔にできるだろう。選択肢はより取りみどりだ」

 ラットが檻の中でちいちいと鳴き、白いフクロウが眠たげな視線を向ける。
 どんな動物を使い魔にしたらよいのか迷ってしまう。

「みぃ」

 その時、近くからか細い鳴き声がした。
 どこかに猫を扱う店があっただろうか、とキョロキョロしてみるが見当たらない。

「みい……」

 ぽふ、と足元に柔らかいものが寄り掛かった。
 見下ろすと小さな痩せた黒猫がいた。

「どうしたんだい、君」

 抱き上げると、子猫は驚くほど軽かった。
 近くの路地から出てきたようだ。
 路地の向こうを覗き込んでみるが親猫らしき姿は見当たらない。

「ルインハイトくん、それは野良猫だぞ。きちんと使い魔として育てられた動物ではない」
「……それでもいいです、僕、この子を使い魔にします」

 僕は黒猫をぎゅっと抱き締めた。
 腕の中の小さな命は頼りないけれど、確かに感じる体温が生きたいと主張していた。
 この子のことがまるで過去の自分のように感じられたのだ。
 僕の使い魔はもうこの子以外に考えられなかった。

「まったく、君ならばいくらでも立派な使い魔を従えられただろうに、よりにもよって痩せっぽちの野良猫とはな」

 エルネスト先生は呆れたように嘆息する。
 反対されるだろうかと身構えていると、彼はくるりと踵を返す。

「来なさい。獣医がいるのは向こうの方だ」
「え?」
「その子を使い魔にするのであれば、まずは医者に見せなければ」

 彼もこの黒猫を助けようとしてくれているのだということが、彼の背中から伝わってきた。

「先生……!」

 僕は小走りで彼の後を付いていった。
 あの日あの時スラム街で何とか息をしていた僕と出会ったのがお父さんじゃなくてエルネスト先生だったとしても、同じように僕を助けてくれたのかもしれない。
 何となく、そんな風に感じたのだった。

 黒猫を獣医さんに診てもらった結果、特に病気もなくただの栄養失調らしい。生後二、三ヵ月くらいのようで、もう硬い餌を食べられるらしい。ノミなどを取り除く魔術もかけてもらった。

 使い魔を使役する魔術師が多い関係で、王都では様々なペットフードが開発されている。僕は一ヶ月分のキャットフードを購入し、黒猫を家に連れて帰ることにした。
 その他にも猫用のトイレや猫砂など、使い魔の生活を幸せにするためのありとあらゆる品がアニマルストリートで揃った。それら全部を持って帰ることはできないので、うちに配達してもらうことにしてもらった。

 走る馬車の中で、腕の中の黒猫はくるりと不思議そうな目で僕を見上げている。

「もう名前は決めたのか?」

 先生が穏やかな声で尋ねる。
 僕も静かに答えた。

「エトワールにします」
「古代語で『星』か、いい名だな」

 みぁ、と相槌を打つように黒猫が鳴いた。
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