嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

文字の大きさ
23 / 71

第二十三話

しおりを挟む
「こんなところがあるんだ……」

 馬車が向かった先は使い魔専門店が集まった地区だった。
 この一画はアニマルストリートと呼ばれているらしい。
 ありとあらゆる動物を扱う店もあれば、鳥の中でもフクロウだけに特化した店などもあった。
 動物たちが時折発する鳴き声が混然と混ざり合い、摩訶不思議な音楽を作り出していた。

「匂いは大丈夫か?」

 エルネスト先生の問いに首を横に振る。
 色々な動物の匂いはするが、スラム街の臭いよりはマシだ。

「希望の使い魔はすでにいるのか? 例えば鳥がいいとか」
「いいえ、まだ決まってません」
「なら色々見ていこう」

 色々な店を見て回りながら、エルネスト先生が説明をしてくれた。
 例えば基本的に身体の大きい動物の方が使い魔にした時に消費する魔力量が多いとか。
 ペットのように一緒に住んで餌などの世話をする魔術師もいれば、野生に放って必要な時だけ呼び戻している魔術師もいるのだとか。

「自然の多いところならばともかく、王都だからな。自分で世話するものと考えた方が良いだろう」

 放し飼いは自然豊かなところで行わないと、契約した使い魔がゴミを漁ったりして問題になるのだという。
 僕も自分の使い魔にひもじい思いをして欲しくないので、もちろん自分で責任持って世話をするつもりだ。

「君の魔力量ならば鷲すら使い魔にできるだろう。選択肢はより取りみどりだ」

 ラットが檻の中でちいちいと鳴き、白いフクロウが眠たげな視線を向ける。
 どんな動物を使い魔にしたらよいのか迷ってしまう。

「みぃ」

 その時、近くからか細い鳴き声がした。
 どこかに猫を扱う店があっただろうか、とキョロキョロしてみるが見当たらない。

「みい……」

 ぽふ、と足元に柔らかいものが寄り掛かった。
 見下ろすと小さな痩せた黒猫がいた。

「どうしたんだい、君」

 抱き上げると、子猫は驚くほど軽かった。
 近くの路地から出てきたようだ。
 路地の向こうを覗き込んでみるが親猫らしき姿は見当たらない。

「ルインハイトくん、それは野良猫だぞ。きちんと使い魔として育てられた動物ではない」
「……それでもいいです、僕、この子を使い魔にします」

 僕は黒猫をぎゅっと抱き締めた。
 腕の中の小さな命は頼りないけれど、確かに感じる体温が生きたいと主張していた。
 この子のことがまるで過去の自分のように感じられたのだ。
 僕の使い魔はもうこの子以外に考えられなかった。

「まったく、君ならばいくらでも立派な使い魔を従えられただろうに、よりにもよって痩せっぽちの野良猫とはな」

 エルネスト先生は呆れたように嘆息する。
 反対されるだろうかと身構えていると、彼はくるりと踵を返す。

「来なさい。獣医がいるのは向こうの方だ」
「え?」
「その子を使い魔にするのであれば、まずは医者に見せなければ」

 彼もこの黒猫を助けようとしてくれているのだということが、彼の背中から伝わってきた。

「先生……!」

 僕は小走りで彼の後を付いていった。
 あの日あの時スラム街で何とか息をしていた僕と出会ったのがお父さんじゃなくてエルネスト先生だったとしても、同じように僕を助けてくれたのかもしれない。
 何となく、そんな風に感じたのだった。

 黒猫を獣医さんに診てもらった結果、特に病気もなくただの栄養失調らしい。生後二、三ヵ月くらいのようで、もう硬い餌を食べられるらしい。ノミなどを取り除く魔術もかけてもらった。

 使い魔を使役する魔術師が多い関係で、王都では様々なペットフードが開発されている。僕は一ヶ月分のキャットフードを購入し、黒猫を家に連れて帰ることにした。
 その他にも猫用のトイレや猫砂など、使い魔の生活を幸せにするためのありとあらゆる品がアニマルストリートで揃った。それら全部を持って帰ることはできないので、うちに配達してもらうことにしてもらった。

 走る馬車の中で、腕の中の黒猫はくるりと不思議そうな目で僕を見上げている。

「もう名前は決めたのか?」

 先生が穏やかな声で尋ねる。
 僕も静かに答えた。

「エトワールにします」
「古代語で『星』か、いい名だな」

 みぁ、と相槌を打つように黒猫が鳴いた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

処理中です...