嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

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第五十三話

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「フフッ、この白い肌を蹂躙するのはさぞ甘美でしょうね」

 魔導工学者が嫌らしい笑みを浮かべて僕の身体を上から下まで視線で舐め回す。
 こんな男なんかに身体を触られたくなんかない。

 愛しい人にすら触れられたことがないのに。
 彼の顔がふっと思い浮かび、眦から涙が零れそうになる。

 いっそこの男に触れられる前に舌を噛み切ろうかと考えたその時だった。

 バギャンッ。

 何かが勢いよく吹き飛ぶ音がした。
 吹っ飛ばされてきた物を見て、この部屋のドアが吹き飛ばされたのだと理解できた。

「助けに来たぞ、ルインハイト……ッ!!」

 部屋に飛び込んで来たのは褐色肌の賢者様――――エルネスト先生だった。
 一瞬、自分に都合のいい幻ではないかと思った。
 彼のことを思い浮かべた途端、彼が助けに来てくれるなんて。

 だが幻ではない。
 安堵に心が緩み、涙が溢れ出てくる。
 本当に彼が僕を助けに来てくれたのだ。

「せ、先生……っ!」

 彼は僕の姿を発見する。
 僕が全裸で縛り付けられているのを見て、彼は鬼のような形相になった。

「貴様……」

 近くにいる魔導工学者を睨み付ける。
 視線だけで人を呪い殺せるなら魔導工学者は即死していただろうと思えるような視線だった。

「な、何故この場所が分かった……ッ!?」

 さっきまでの余裕綽々の口調もどこへやら、魔導工学者は冷や汗をだらだら流して慌てている。

「シャーッ!!」

 位置が低くて見えないが、鳴き声からエトワールも一緒にいることが分かった。きっとエトワールがエルネスト先生を連れてきてくれたのだ。

「そんなことはどうでもいい、貴様ルインハイトに何をした……ッ!」

 エルネスト先生の声は怒りで震えていた。

「く……っ!」

 魔導工学者が懐から何かを取り出す。
 僕の位置からは奴が何を取り出したのか見えた。
 弾丸の代わりに魔力を籠められる魔導工学銃だ。

「先生、危ない……ッ!」
「はッ!」

 先生が手をかざす。
 すると、炎の玉が放たれた。
 炎の玉は魔導工学者の身体に当たると爆発し、炎が奴の身体を舐める。

「ぐわああああッ!?」

 奴は銃を放つ隙もなく、床の上をのたうち回る。
 それから、奴の身体を何かが包み込んで捕らえたようだ。
 台の上に縛り付けられている僕の位置からは何が起こっているのかはっきりとは分からない。

「貴様の身柄は呼んでおいた騎士団に回収させることにする。それまでそこでじっとしているといい」
「ンぐぐ……ッ!!」

 魔導工学者は口まで塞がれているのか、苦悶の声だけが聞こえてくる。

「ルインハイトくん……っ!」

 エルネスト先生が僕を見下ろす。

「待ってろ、今この機械を外す」

 彼は手短に言うと僕の視界から見えない場所に移動する。
 それからバキッ、バキッと何かを壊す音が響く。
 どうやら手錠が壊されたようだ。
 それから彼は僕の足を固定していた金属も壊した。
 高濃度に圧縮された彼の魔力が僕の足を傷つけないように金属だけを震わせて破壊したのが見えた。

「先せ……っ」

 僕は起き上がろうとしたが、ふらりと身体が傾いで起き上がれない。
 魔力を吸われた影響だろうか。

「待っていたまえ」

 先生は僕の裸の上にふわりと白い布を被せてくれた。
 それから僕を抱き上げようと身体にそっと触れる。

「……ッ」

 彼の手だと分かっているのに、肌に触れた他人の感触にビクリと震えてしまった。
 エルネスト先生は歯噛みする。
 彼は憎悪を込めて床に転がっている男を睨んだ。

 それでも男をどうにかするよりも僕を救い出す方が先決だと判断したのか、僕の身体を抱き上げる。
 そしてこの研究所からゆっくりと移動した。

「みゃお」

 エルネスト先生の肩に登ったエトワールが心配そうに僕を見下ろしている。僕は思念で彼に「ありがとう」と伝えた。

「ルインハイトくん、すまない……。もっと早く助けたかった」

 彼の指が僕の頬を伝った涙の痕を優しくなぞる。

「大丈夫です、先生は充分間に合いました。まだ何もされてなかったです」
「それでも、こんなに怖い思い自体させたくはなかった」

 エルネスト先生は後悔した顔をしているが、僕は彼が助けに来てくれてすごく安心したのだ。
 彼の身体に体重を預け、安堵を噛み締めた。
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