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第一部 リューナジア城編
第四十四話 皇帝の休日 ①
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服がその人間の身分を決めるとはよく言ったものだ。
見よ、私が王冠とマントを脱ぎ捨てれば私が皇帝であると気づく者など誰もいない。
皆が皆、"余"の顔が彫られたリューン硬貨を持ち歩いているというのに。
まあそのおかげで私はこうして時折城下町を秘密裏に散策することを楽しめるのだ。
臣民たちの忘れっぽさには感謝しなければならない。
私は苦悩に苛まれていた。
苦悩の種は様々だが、取り分け悩ましいのが後継者問題だった。
どいつもこいつも、まともな後継者がいない。
第一皇子と第二皇子は互いに相争い、相手を上回ることしか考えていない。
あれでは勝った方を皇帝にした所で臣民の事を考えていない支配者が出来上がるだけだ。
第三皇子には覇気が足りない。
あれが皇帝になれば周辺諸国に舐められ、下手すれば我が国は併呑されるだろう。
第四皇子? 論外だ。
そして第五皇子は……あれは皇帝になるべきではない。
誰を後継ぎにしたところでこの国に明るい未来はありそうになかった。
私は一体どこで間違えてしまったというのか。
そんなこんなで諸々のことが嫌になってしまった私は小汚いおっさんの身なりをし、お忍びで城下街に下りてきたのだった。
さてどの酒場を目指そうか、と考えあぐねていたその時だった。
不安げに佇む金髪碧眼の少女が一人、目に入った。
「カレ……リーナ……?」
その瞬間、かつての四人目の妻の顔が脳裏を過った。
美しく病弱だった私の四人目の妻、カレリーナ。
私はカレリーナのことが心配で、皇帝としての激務の合間を縫って頻繁に彼女に会いに行っていた。
そして彼女の望む物はなんでも与えた。
しかしそれは他の妻たちの目には依怙贔屓に映ったらしい。
カレリーナは他の妻たちにいびられるようになった。
そしてカレリーナは息子を産んで死んだ。
私はいびられていた心労のせいだと思っている。
身体の弱いカレリーナがそんな心労に晒されながら生きられる筈がなかったのだ。
私はカレリーナのただ一人の忘れ形見であるカレンに同じようになって欲しくなかった。
カレンが他の皇子たちにいびられるようなことになれば、カレリーナと同じ未来を辿るだろう。
だから私は決意した。
私は一度もカレンに近づかないようにしようと。
カレンは私の知らぬところで幸せに過ごしてくれればいい。
ついでに他の皇子たちにもカレンの存在を報せぬようにした。
ただ第四皇子にだけは取り調べの時にカレンが生きて産まれたという情報が漏れてしまった。
まあ奴はそれから暫く離宮にいたから多分問題はないだろう。
目の前の少女があまりにもカレリーナと似ていたものだから、つい彼女とカレンのことを思い出してしまった。
でもカレリーナとは瞳の色が違う。
ああ、そういえばカレンは今頃あの少女と同じ年頃だろうか。
少女の周囲に保護者らしき人間は見当たらない。
もしかしたら迷子かもしれない。
私はあくまでも善良な市民の振りをしてその少女に話しかけることにした。
「やあお嬢さん、どうしたのかな? おじさんに助けになれることはあるかな?」
金髪の少女は涙目で私を見上げた。
「おにーちゃんとはぐれちゃったの……」
「そうかそうか。じゃあおじさんと一緒にお兄ちゃんを探そうか。お嬢さん、名前はなんて言うんだい?」
少女はぐしぐしと目元を拭うと、にこっと笑った。
「――――あのね、僕カレンって言うの!」
見よ、私が王冠とマントを脱ぎ捨てれば私が皇帝であると気づく者など誰もいない。
皆が皆、"余"の顔が彫られたリューン硬貨を持ち歩いているというのに。
まあそのおかげで私はこうして時折城下町を秘密裏に散策することを楽しめるのだ。
臣民たちの忘れっぽさには感謝しなければならない。
私は苦悩に苛まれていた。
苦悩の種は様々だが、取り分け悩ましいのが後継者問題だった。
どいつもこいつも、まともな後継者がいない。
第一皇子と第二皇子は互いに相争い、相手を上回ることしか考えていない。
あれでは勝った方を皇帝にした所で臣民の事を考えていない支配者が出来上がるだけだ。
第三皇子には覇気が足りない。
あれが皇帝になれば周辺諸国に舐められ、下手すれば我が国は併呑されるだろう。
第四皇子? 論外だ。
そして第五皇子は……あれは皇帝になるべきではない。
誰を後継ぎにしたところでこの国に明るい未来はありそうになかった。
私は一体どこで間違えてしまったというのか。
そんなこんなで諸々のことが嫌になってしまった私は小汚いおっさんの身なりをし、お忍びで城下街に下りてきたのだった。
さてどの酒場を目指そうか、と考えあぐねていたその時だった。
不安げに佇む金髪碧眼の少女が一人、目に入った。
「カレ……リーナ……?」
その瞬間、かつての四人目の妻の顔が脳裏を過った。
美しく病弱だった私の四人目の妻、カレリーナ。
私はカレリーナのことが心配で、皇帝としての激務の合間を縫って頻繁に彼女に会いに行っていた。
そして彼女の望む物はなんでも与えた。
しかしそれは他の妻たちの目には依怙贔屓に映ったらしい。
カレリーナは他の妻たちにいびられるようになった。
そしてカレリーナは息子を産んで死んだ。
私はいびられていた心労のせいだと思っている。
身体の弱いカレリーナがそんな心労に晒されながら生きられる筈がなかったのだ。
私はカレリーナのただ一人の忘れ形見であるカレンに同じようになって欲しくなかった。
カレンが他の皇子たちにいびられるようなことになれば、カレリーナと同じ未来を辿るだろう。
だから私は決意した。
私は一度もカレンに近づかないようにしようと。
カレンは私の知らぬところで幸せに過ごしてくれればいい。
ついでに他の皇子たちにもカレンの存在を報せぬようにした。
ただ第四皇子にだけは取り調べの時にカレンが生きて産まれたという情報が漏れてしまった。
まあ奴はそれから暫く離宮にいたから多分問題はないだろう。
目の前の少女があまりにもカレリーナと似ていたものだから、つい彼女とカレンのことを思い出してしまった。
でもカレリーナとは瞳の色が違う。
ああ、そういえばカレンは今頃あの少女と同じ年頃だろうか。
少女の周囲に保護者らしき人間は見当たらない。
もしかしたら迷子かもしれない。
私はあくまでも善良な市民の振りをしてその少女に話しかけることにした。
「やあお嬢さん、どうしたのかな? おじさんに助けになれることはあるかな?」
金髪の少女は涙目で私を見上げた。
「おにーちゃんとはぐれちゃったの……」
「そうかそうか。じゃあおじさんと一緒にお兄ちゃんを探そうか。お嬢さん、名前はなんて言うんだい?」
少女はぐしぐしと目元を拭うと、にこっと笑った。
「――――あのね、僕カレンって言うの!」
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